OPEN SPACE:民間による宇宙旅行船開発(官から民への担い手交替)
        (エアワールド2007年10月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年10月号」をお買い求めください

◎夢から現実へ

 1865年から1870年にジュール・ベルヌが執筆した「月世界旅行(Le Voyage dans la lune)」を初めとし、様々なSF小説やSF映画などを通じて宇宙旅行は人間の夢として描かれてきた。長年にわたり宇宙飛行は過酷な訓練に耐えうる特別な人々だけに許される活動だったが、2001年4月に史上初の民間宇宙旅行を米国人のデニス・チトー氏が成し遂げたことで、宇宙飛行に対する認識が大きく変わった。チトー氏が体験した宇宙旅行はソユーズで打上げ・帰還を行い、国際宇宙ステーションに5日間滞在するという内容であった。約22億円という高額の費用、半年にわたる訓練など、一般人にとっては未だハードルの高いものであるが、宇宙旅行を夢から現実に引き寄せた影響は大きかった。高度100kmのサブオービタル飛行では、4分から5分の間、無重力状態を味わいながら丸い地球を自分の目で見るという生涯忘れられない体験を低価格(数千万円代)で体験することが可能な時があと2年で到来するところまで来ている。

 現在数十種のサブオービタル機が開発されているが、実運用が近いと言われている機体はロケットプレーンのXP、ヴァージンギャラクティックのヴァージンスペースシップ、Xコアのジーラスの3機である。それでは、以下に各社が開発している機体の特徴について解説することとする。

◎単段式水平離着陸型 ロケットプレーンXP

 ロケットプレーンXPの原型は1990年初めから半ばにかけて空軍が研究を進めていたブラックコルト及びそれを大型化したブラックホースであると言われている。ブラックコルトはマーティン・マリエッタ(現在のロッキード・マーティン)が、ブラックホースはWJシェーファー・アソシエイツとコンセプチュアル・リサーチが契約者としてスタディを実施した。

 ブラックコルトは、低い費用で低軌道への衛星打ち上げを行うシステムの開発を目標としたプロジェクトである。そのフライトプロファイルは、ジェットエンジンとロケットエンジンの二種のエンジンを搭載したジェット機が通常の滑走路から離陸し、空中にて専用のタンカーから酸化剤である液体酸素の補給を受け、ロケットエンジンを用いてさらに上昇し、ペイロード(衛星)を放出する、放出された衛星に取り付けられた固体モーターが衛星を所定の軌道に投入する、というものである。一方、ブラックホースは酸化剤補給後自ら低軌道まで到達する能力の開発を目標としていた。これらのコンセプトに共通していたキー技術はAPT(Aerial Propellant Transfer)と呼ばれる空中における推薬の充填であった。

     
ブラックコルト(出典: www.risacher.org)


ブラックホース(出典: www.risacher.org/)

 最近の言葉で言えば、ブラックコルトはサブオービタル機、ブラックホースはオービタル機を目指していたのである。ブラックホースを将来システムとするならば、ブラックコルトは既存の技術を用いて安価な低軌道打上げを早期に実現すると共に、ブラックホースの開発に役立つ技術実証や経験を蓄積するプロジェクトと位置付けることができる。

 ブラックコルトの実用機「パスファインダー」を民間主導で開発する母体として、1996年にパイオニア・ロケットプレーン社が設立された。当時は1990年代後半にイリジウムやグローバルスターといった世界規模の移動体衛星通信システムが相次いで構築され、それらの代替機打上げ需要或いは他のシステムを配備するための打上げ需要が2000年以降に継続すると予測されていた。そのためこの時期は、低軌道への衛星打上げ市場をターゲットとした打上げシステムを民間主導で開発する動きが一気に活性化した時でもあった。当時は、パイオニア・ロケットプレーンを初めとし、キスラー・エアロスペース、ケリー・スペース&テクノロジー、ロータリー・ロケット等のベンチャー企業が再使用型打上げ機(RLV)の開発を競っていた。


各社のRLV
(左から、パイオニア・ロケットプレーンのパスファインダー、キスラー・エアロスペースのK-1、ケリー・スペース&テクノロジーのアストロライナー、ロータリー・ロケットのロトン)(出典: www.rocketplane.com

 しかしながら、衛星の配備及び端末の市場展開の遅れ、地上の携帯電話網の急速な発達などの要因が重なり、低軌道周回方衛星をコンステレーションとして運用する移動体衛星通信事業は困難に直面し、1998年8月にイリジウムが米連邦破産法第11条に基づく保護を申請するに至った。同業者であるグローバルスターも2003年7月に同じ道を辿ることになったが、90年代終わりには経営不振がすでに問題視されていたと伝えられている。これら周回型衛星を用いた事業の不振・失敗によって低軌道への衛星打上げ需要は大幅に下方修正され、RLV開発企業は機体開発の継続・延期・中止の判断を迫られることとなった。

 パイオニア・ロケットプレーンも低軌道への衛星打上げを市場として狙っていたが、90年代終わりには、ターゲットとして宇宙旅行を主、衛星打上げを副とする大胆な決断を下した。2001年同社は社名をロケットプレーン(米オクラホマ州オクラホマ)に変更し、ブラックコルト及びパスファインダーの設計思想を継ぐ実用機「ロケットプレーンXP」の開発を進めた。

 ブラックコルトは、ギャレットF125ターボファンジェットエンジンを2基、ロシア製NK-31ロケットエンジン(推薬はLOX/RPを使用)1基を搭載し、最高速度マッハ12、到達高度150kmを性能目標としていた。最高高度付近でStar 48V上段ロケットを用いて衛星を所定の軌道へと投入する。一方、パスファインダーはロケットエンジンとしてRD-120(推薬はLOX/RPを使用)1基を、上段ロケットはFastracエンジン1基を搭載した仕様となり、低軌道(高度200km、傾斜角35°)に2,000kg、極軌道(高度200km、傾斜角90°)に1,700kgの打上げ能力を目標としていた。

 現在開発中のロケットプレーンXPはボンバルディアのリアジェット25を改造したものを機体として使用している。ジェットエンジンはオリジナルのGE製CJ-610ターボジェットエンジンを胴体後部に取り付けている。CJ-610エンジンは、軍用のJ85エンジンからアフターバーナー機能を省いた民事バージョンである。亜音速及び超音速域での操縦性を高めるため、三角翼及びV字型尾翼を採用した。ノーズコーン及び三角翼のリーディングエッジ(前縁部)にはチタンが用いられており、地球帰還時に生じる300℃の熱に耐えうる設計となっている。ロケットエンジンとしては、ポラリス・プロパルジョン製のAR-36(推薬はLOX/Pを使用)を1基装備している。機体後部にロケットエンジン及び複合材料製推薬タンクが必要となるため、胴体は20インチ延長されている。胴体の半分強がこれらロケットエンジン関係のハードウェアで占められている。また、計12基のスラスタを用いて弾道飛行中の姿勢制御を行う。搭乗者の生命維持システムも装備される。


ロケットプレーンXP完成予想図(出典: www.rocketplane.com)


ロケットプレーンXPのカット図(出典:www.popsci.com)

 ロケットプレーンXPの搭乗員は、操縦士1名、乗客3名の計4名である。宇宙旅行のフライトプロファイルは次のとおりである。乗客を乗せたロケットプレーンXPは離陸後15分かけて高度約12km(4万フィート)までジェットエンジンまで上昇する。その後ロケットエンジンを点火して垂直上昇へと移るが、乗客は70秒間の3〜4G飛行を体験することとなる。高度45kmに到達するとロケットエンジンの燃焼を停止、この後弾道飛行(最高高度約100km)に入り、乗客は3〜4分の無重力状態及び絶景を楽しむことが出来る。地球への帰還時に再び3〜4Gを体験し、地上へと戻ってくる。離陸から着陸までの時間は約1時間と想定されている。機体は整備され、3〜5日後に再び飛行することが可能となる。

 当面ロケットプレーンXPがターゲットとする市場が宇宙旅行であることは間違いない。開発及び運航認可が順調に進めば、2009年には運航を開始する予定である。宇宙旅行が宇宙輸送需要の増大をもたらす市場として期待されているとは言え、それに依存したビジネスプランでは不確実性が高い。そこで、ロケットプレーンXPのその他の市場として考えられているのが微小重力実験、及び衛星打上げである。今までは微小重力実験成果を回収する安価な手段がなかったし、実験機会そのものも極めて少なかった。XPを使えば3〜4分の微小重力時間を、今までと比較して安価に得られるようになるため、自費での実験を控えてきた民間企業や研究所が本格的に利用を始めるようになると期待されている。また、上段ロケットとしての機能を有する推進システムを別途装備すれば、ブラックコルトやパスファインダーの主目的であった、安価な低軌道への衛星打上げも実現可能と考えられている。この推進システムの候補として、北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)の下で北海道大学が研究開発を進めているCAMUI型ハイブリッドロケットがあげられている。

 90年代の構想段階からスタディや要素技術の開発を空軍との契約の下で進めてきたとは言え、XP機体の開発費のほとんどを市場から調達することに成功し、会社の存続を危ぶまれるようなことなく、2009年に初飛行を行うところまで来たことは驚嘆に値する。なぜなら、ロケットプレーンと同時期にRLVの開発を競っていた会社の中で、現在実用機の開発にメドを付けることが出来ているのはキスラーのK-1だけである。もっとも、2006年にロケットプレーンがキスラーの買収に成功したため、事実上ロケットプレーンが有人・無人を含めたRLVのリーダー的存在となっていることは確かである。

◎二段式水平離着陸型 ヴァージンスペースシップ

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ホワイトナイト&スペースシップワン(出典:www.scaled.com)

スペースシップワンの打上げに必要な要素
(左:酸化剤タンクとハイブリッドモーター、中央:ホワイトナイト(奥)とスペースシップワン(手前)、右:移動式ミッションコントロールセンター)
(出典:www.scaled.com)


飛行中のホワイトナイト、コクピット、前から見たホワイトナイト(出典:www.scaled.com)


スペースシップワン(出典:www.scaled.com)


       全体システム想像図        ヴァージンスペースシップ(スペースシップツー)
(出典:www.virgingalactic.com)


ヴァージンスペースシップのフライトプロファイル
出典:http://www.virgingalactic.com/

◎単段式水平離着陸型 ジーラス

 垂直離着陸型RLVを開発していたロータリー・ロケットが1990年代末に倒産した際、同社のエンジニア4名はXコア(XCOR)と称する会社を新設し有人ロケットの開発を進めた。Xコアが目指したのはサブオービタル機であるジーラス(XERUS)である。ジーラスはロケットプレーンXPと同様の水平離着陸・単段式ロケットで、全長12.5m、翼幅8mの機体にパイロット1名、乗客1名の2名が搭乗する。飛行時間は1時間とのことなので、無重力状態は2〜3分得られるものと推測される。液体酸素とケロシンを推薬とするエンジンを4基クラスター化して搭載する。最高到達高度は100kmである。ジーラスのミッションは、微小重力実験、宇宙旅行、そして超小型衛星打上げの3つである。


ジーラス(出典:xcor)

 Xコアはその設立以来、賭けに近い開発を行うことは絶対せずに、コツコツと開発・試験を繰り返しながら技術を積み重ね、自信がついた段階で公表するというスタイルを貫いてきた。そこでジーラスの開発へと取り掛かる前にエンジン技術を開発しリスク低減を図ることとした。そのプログラムがEZロケットである。

 スケールド・コンポジット社長のバート・ルタンが1980年代に設計したLong EZ小型飛行機をベースにしてEZロケットは開発されている。Long EZは全長5m、翼幅8m、全高2.4mの小型プロペラ機である。下図のように、Long EZの複座に液体酸素タンクを、機体下部にイソプロピルアルコール燃料タンクを、機体後部にプロペラエンジンの変わりに小型エンジン2基を搭載したものがEZロケットである。

 
Long EZ(左)とEZロケット(右)(出典:xcor)

 EZロケットは2000年に初飛行に成功して以来、同社の所在地であるモハベを含めて26回の試験飛行に成功している。Xプライズの成功後、Xプライズ財団は民間企業主導の宇宙機開発を促進するため、Xプライズカップを毎年開催すると発表している。その年によってチャレンジするテーマが異なるが、2005年のXプライズカップでは大観衆の目前でEZロケットのデモフライトが行われた。


XプライズカップにおけるEZロケットのデモフライト(出典:xcor)

 Xプライズ財団創始者のピーター・ディアマンデスは、宇宙活動をさらに一般人にとって身近なものとする企画として、2000年にロケット・レーシング・リーグを打ち出した。ロケット・レーシング・リーグは米国で有名なカーレースであるNASCARをヒントに考案されたもので、EZロケットをベースにしたレーシング機「Mark-1 Xレーサー」を駆って空中にセットされたコースを周回して速さを競うという歴史上初のロケットによるレースである。

 Xレーサーのエンジンとしては、酸化剤は同じ液体酸素を使うが、燃料をアルコールからケロシンに変更したXR-4K14を用いる。乾燥重量は約680kg(1,500lb)、搭載する推薬も同じ680kg(1,500lb)であり、離陸時重量は1360kg(3,000lb)となる。Xレーサーの最高速度は時速約450km(時速280マイル)とされているが、これはエンジンの推力による最高速度ではなく、機体(airframe)の安全性を確保するための制約によって決められたものであるとXコアは説明している。


XR-4K14(出典:xcor)     Mark-1 Xレーサーのイメージ図(出典:xcor)

 Xレーサーは無毒性推薬を使っているため、地上での取り扱いがある程度容易であるが、大きな問題はロケット・レーシング・リーグから課されたピットストップにおける燃料補給時間10分以内(5分以内が好ましい)という要求である。EZロケットでは次の飛行までの整備時間として最低2時間から3時間かかり、液体酸素の注入で30分から45分は要していた。Xコアではここ数年にわたり液体酸素の補給時間をどうやって短くするか検討を行ってきた。その結果、2005年の時点で113kg(250lb)の液体酸素を50秒で注入するところまで早めることができたという。

 また、ベースとなるEZ機体が加圧タンクに対応した設計になっていないため、Xレーサーは燃料を送るためにポンプを用いる必要があった。加圧タンクと同じ速度で燃料のケロシンを送るためにはターボポンプを必要としたが、コスト的にターボポンプは却下されたという。Xコアは独自に開発した複数のリスタートに対応できるピストンポンプを開発し、対応しようとしている。


Xコアの3シリンダーピストンポンプ(出典:http://www.xcor.com)

 飛行コースはピットインの間に8周から9周できるような長さで考えられている。この間、エンジンをオンにしてブーストかけている時間は3分30秒程度、エンジンをオフにして滑空している時間が約15分とのことである。

◎単段式水平離着陸型 EADSアストリウム

 6月13日に欧州大手宇宙メーカーのEADSアストリウムは自社がここ2年かけて検討を進めてきた宇宙旅行用サブオービタル機のコンセプトを発表し、投資家に対し出資の呼びかけを行った。

 同社が描くサブオービタル機は推進システムとして、ジェットエンジン2基とロケットエンジン1基を装備している。この点ではロケットプレーンXPと類似しているが、ロケットエンジンの推薬が液体酸素とメタンという組み合わせであること、機体に比して大きな翼が機体最後部に近いところに取り付けられていること、ノーズ直後にかナード翼が取り付けられていることが主な違いである。

 パイロット1名と乗客4名の計5人乗りの機体は、最高到達高度100km前後で約3分の無重力状態を体験することができる。窓はヴァージンギャラクティックのように胴体の左右及び天井に複数設けられている。すべて複合材料製の機体は完全再使用可能だが、ターボジェットエンジンは30飛行後毎に交換するシナリオである。



EADSアストリウムの宇宙旅行用機体(出典:EADSアストリウム)

◎米政府から見た民間企業による宇宙旅行用機体の開発

 宇宙旅行用機体の開発は、民間が一般人を対象とした事業を成功させるために行っているものと理解するのは容易である。しかし、実際には、ロケットエンジンの貸与、国際宇宙ステーションへの輸送需要データの提供、休眠状態の空軍基地の利用など、連邦及び州のレベルで政府が宇宙旅行事業の実現を支援している。特定の民間企業を政府が直接助成することは違法であるが、宇宙輸送技術の開発によって政府が直接恩恵を受けるのならば問題にならない。

 宇宙輸送のコスト及び信頼性を飛躍的に高めるためには、ロケットを航空機のように運用できるものとすることが不可欠である。つまり現在の主流である使い捨てから完全再使用へと進化することである。しかし、その途中には、構造重量の大幅な軽量化、何度も再着火可能なエンジン、短期間で整備可能な機体設計など、数多くの技術的ハードルが存在する。そのため、一足飛びに理想とする完全再使用型宇宙輸送機へと進むことはできず、いくつか段階を踏んで徐々に再使用型へと近づいてゆくアプローチを採ることになる。

 アメリカ政府の宇宙輸送機開発は、NASAが再使用型、DODが使い捨て型という役割分担で進められてきた。残念ながら再使用型ロケットで技術実証段階まで進んだプロジェクトは一つも無く、皆そこに至る前に技術的問題などを理由に中止されている。スペースシャトル以来、実はNASAは輸送機開発に成功していない。

 ロケットプレーンXP、ヴァージンスペースシップ等は宇宙旅行用の機体であると宣伝されているものの、アメリカ政府から見ればそれらは完全再使用型へと向かう宇宙輸送機開発ロードマップの一部を構成していることになる。ビジネスジェットにロケットエンジンを取り付けたサブオービタル機はロードマップの最初の一歩として位置づけることができる。ロケットエンジンの再使用、ブースターのフライバックに必要な基礎技術、早いターンアラウンドを可能とする設計・運用など、機体の開発及び運用を通じて多くの経験を取得することができるからだ。政府が税金を投じてわざわざ開発プロジェクトを立てなくても、民間企業が独自に進める開発及び運用を通じて再使用型宇宙輸送の能力を徐々に確立できるのであれば、これが宇宙輸送機の最も望ましい開発形態となるであろう。民間企業ではリスクが高すぎて手を出すことができない技術、10年超という先を見越した先端技術などの開発に政府予算を重点的に投じることが可能となる。これにより、国として安全保障、外交、経済などに重要な将来の技術的優位性を確保することができるのである。

◎RVTの勘違い

 残念ながら日本では独自の宇宙輸送機を開発している民間企業は存在しない。開発能力のある企業はリスクフリーの政府研究開発に甘んじているのが実態である。国の宇宙輸送機開発は、使い捨てロケットであるH-IIAの運用、そしてHTVを打ち上げるためにわざわざ開発されると言われているH-IIBへの予算付け、一度始めたら止められないという政府事業の最も悪い点が露見しているGXの開発に大半のリソースを費やしており、将来を見据えた再使用型ロケットの研究は細々と行っているに過ぎない。JAXAでは宇宙科学研究本部が中心となりRVT-9と称する垂直離着陸再使用型宇宙輸送機の技術開発を進めている。

 RVT-9はあくまでも技術実証機だが、将来的には垂直離着陸型の宇宙旅行用機体へと発展させたい意向があるようだ。筆者が驚いたのは2006年のXプライズカップにRVTチームがチーム・ジャパンの一員として参加していたことである。同イベントのメイン企画は垂直離着陸機用のコンペティションであり、RVT-9がその対象となることは理解できる。しかし、Xプライズの精神は「機体の開発には、政府の資金を用いず、民間企業の自助努力で行う。」にあることを忘れてはならない。Xプライズカップの主役は、宇宙機開発を民間資金で実施している宇宙ベンチャー企業である。RVTはJAXAが開発している機体であること考えれば、XプライズカップへのRVTチームの参加は違和感を覚えざるを得ない。資金調達を含め様々な苦労を経験している宇宙ベンチャーと、与えられた予算を使って開発を進めている政府機関が同じ土俵に立つことはできない。正直機体を持ち込まなかっただけ良かったと思う。もしデモフライトをやろうものなら、仮にも日本を代表する宇宙機関が開発しているのだから成功して当たり前、失敗したら笑いものになるだけである。結果がどのようになっても得することは無い。


RVT(Reusable Rocket Vehicle Test)  出典:JAXA

◎おわりに

 政府しか出来なかった宇宙活動、特に有人宇宙輸送を民間企業が提供できる時代はそう遠くない。米国を筆頭に、政府と民間企業の関係は従来の発注者と受注者という関係から大きく変わりつつある。2010年過ぎには低軌道への有人宇宙輸送は民間からそのサービスを購入するようになる。そんな時代に日本政府の宇宙活動はどう様変わりしているのであろうか。米企業が有人輸送サービスを商業的に提供している時代に、CAPABILITYを確立することが重要であるという大義名分を以ってJAXAが有人宇宙輸送機を開発することを正当化するのは極めて難しいはずである。

 輸送コストを下げることは政府としても多くの恩恵を得るのだから、予算を使ってその技術開発を行うことに問題はない。しかし、現在の使い捨てから完全再使用に至るまでのロードマップが存在しないまま、垂直離着陸形式に決め打ちしていることに疑問を抱かざるを得ない。どのようなステップを踏んで開発して行くのか、その中で民間企業とどのような関係を構築するのか、早急に検討されることを望む。


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