次世代主幹技術の確立(エコミカルスペースへの対応)
  (エアワールド200
7年2月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年2月号」をお買い求めください

 本稿では、海外の動向を踏まえながら世界から遅れつつある日本の現状を分析し、今後の方針を考察してみたい。

◎低コスト・産業型宇宙システム時代の到来

 JAXAが最近提案している宇宙システムは、「大・中・小の打上システム」や「大型衛星志向」が続いている。過去の誌面で述べたように、「大・中・小の打上システム」はすべて世界的に通用しない戦略であることが分かったが、最近発表された衛星の小型化についても、大型衛星を分割して小型化する方針のため、次世代技術には対応するつもりはないようで、実態は80年代〜90年代の旧式宇宙技術を守ろうとする方針であることが分かった。またJAXA筑波内(旧NASDA)では、JAXA規格(NASDA規格)が世界で通用しない可能性から、JAXA規格そのものを見直そうとする動きがあるが、その基準の見直しは欧米の企画基準の書類を購入し、そのまま利用するか多少変更するような形態を進めているため、大学生の研究レベルに大量時間・人的リソースかけている状況だそうだ。

一方、欧米露では80年〜90年代のシステムを維持するやり方にはこだわらず、ロケットや衛星をエコノミカル(経済的)する方法を模索し続けている。このエコノミカルとは「コストと目的とミッションの能力が合うもの」という定義で行われている。これは民間の宇宙参入が始まり、公的支出(国家宇宙予算)の限界がいずれやってくることを想定し、その時代に宇宙メーカーを対応させるための方策だ。その実例がアメリカの即応型宇宙政策で実施されているTACSATやFALCON計画や、NASAのCOTS(Commercial Orbital Transportation Services:商業軌道輸送サービス)であり、欧州で進められている小型衛星開発(MIRIADE衛星バスやTOPSATなど)や小型ロケット開発(ESL/ESLM計画)だ。これら開発の背景には、宇宙途上国の急激な追い上げもあるようで、「80年〜90年代の旧式技術を維持していたら、宇宙途上国に簡単に抜かれる可能性が高まっている」からだそうだ。このため、打上システムから衛星システムまでエコノミカルにする必要性に迫られている。


COTS/K-1ロケット(出典:Rocketplane Kistler)                 MYRIAD衛星バス(出典:EADS)

◎イスラエルの商用地球観測衛星EROS-B1

 宇宙途上国の中で最も先進的と見られているのがイスラエルだ。イスラエルは小国ではあるが技術力が非常に高い事で知られ、地球観測衛星においてはアメリカやロシアに匹敵する技術力を持っている。その例が地球観測衛星のEROSだ。このEROSはイギリスの小型高機能地球観測衛星TOPSAT(125kg重量・2.5m解像度)よりは大型だが、光学センサーを軽量化させたEROS-B1(350kg重量・0.7m解像度)を開発、2006年にロシアのSTART-1にて打上げ、ImageSat International社が商業画像販売を開始している。このEROS-B1は前作のEROS-A(2000年12月打上)と比較して重量は多少増加したが解像度は82cmから70cmと向上し、設計寿命も6年から10年と長寿命化させている。これは同等クラスとも言える、アメリカのイコノス(726kg重量・1m解像度)やクイックバード(1000kg、0.8m解像度)を凌ぐスペックだ。このイスラエルが先進的な商用地球観測衛星を打上げているため、この搭載センサーを開発したEL-OP社へ韓国がコンタクトし、技術移転を依頼、韓国はこのセンサーをKOMPSAT-2へ搭載し、高解像度地球観測衛星を手に入れた。つまり、イスラエルは「名を取るより実を取る戦略」を選択し、韓国は「名を取る戦略」をしたと言える。また、KOMPSAT-2の撮像画像を販売すべく、韓国は世界的に有名な商用衛星画像販売会社であるフランスのスポットイメージ社と契約を交わし、画像販売をする予定だ。このように韓国は戦略的に衛星画像を販売している。

しかし、このKOMPSAT-2は1つの問題を抱えている。この衛星はロシアのロコットで打上げたが、打上げ時の契約で「軍事には使わない」ことを条件に打上げたため、軍事利用に制限がかかっている。このため、北朝鮮が2006年10月に核実験を行ったが、核実験時に衛星が北朝鮮上空を通過したにもかかわらず、撮影すれば軍事利用していると指摘されるため、「通過時は別の場所を撮像していた」と韓国政府は公的に発表している。恐らく、撮像していたものと推測されるが真実は不明だ。このように打上げ時の制約で利用が制限される状況は良いとは言い難い。他国から干渉を一切受けない打上げ手段は重要であり、日本の固体ロケット技術(液体ロケットは100%国産化が達成されておらず、未だに干渉を受けている)は重要であるという認識を韓国の事例から日本は知るべきだろう。

◎EROSとALOSのミッションコスト比較

話は外れたが、イスラエルのELOS地球観測衛星技術は非常に高く、すでに商業的な技術移転をはじめている。これら技術が韓国に加えて宇宙途上国に移植されれば、低い投資で高解像度地球観測衛星が手に入る時代がやってきているのだ。このため、宇宙先進国では既存の技術水準を上げるべく、コストパフォーマンスを意識した技術開発を行っている。例えばフランスでは、イスラエルへコンタクトし、高解像度の地球観測センサー技術を学ぶと同時にフランスが持つ小型衛星技術や電気推進技術をイスラエルへ提供し、イスラエル・フランス共同開発の地球観測衛星VENµS (Vegetation and Environment monitoring on a New Micro-Satellite)を開発中だ。互いの持つ利点を用いて弱点・欠点を克服すべく手を結んでいる。


仏・イスラエル衛星VENµS(出典:IAI)                韓国KOMPSAT-2(出典:KARI) 

 一方、日本のJAXAの地球観測衛星であるALOS(だいち)はEROS-B1とほぼ同時期に打上げたが、その技術や戦略性は高いとは言い難い。技術的に見れば、解像度はEROS-B1の0.7mに対し、ALOSは2.5mと悪い。対する観測幅はEROSの11kmに対し、ALOSは35kmと広い。つまりEROSと比較すると「ボケた写真になるが幅広く撮像できる」仕様なのだ。さらにALOSは合成開口レーダーを搭載し、雲で地表が見えないときでも撮像できる能力を有している。このアドバンテージは大きいと言えるかもしれない。しかしよくよく考えてみれば、衛星1機にセンサーをいくつも取り付ける戦略は、同時期に複数のセンサーで同時観測が出来るメリットがあるぐらいで、衛星は大型化するためマニューバー(軌道・姿勢変更)が悪くなり、製造に時間がかかり、製造コストも上昇、ADEOS-1やADEOS-2のように太陽電池系統の不具合1つで全て観測中止という手痛い事態を招く危険性がある。しかも設計寿命についても大型であるため長寿命化に手間がかかり、長寿命設計すればコスト増を招き、「目的・費用・効果のバランス」が悪化する。EROS-B1は衛星製造費・打上げ費・打上げ保険料コミコミで$110mil(約127億円)という高いコストバランスで実現した。JAXAのALOSミッションコストが300億円であることを考えれば、(衛星製造費120億円、打上げ費180億円)観測幅が狭くても、時間をかけて撮像すれば高解像度の世界地図はできるはずで、JAXA戦略は低いと言えるだろう。

 

画像出典:IAI、imagesat、JAXA

 また、打上げ手段もコストが高過ぎる。ミッションコストを国際水準で比較すれば、JAXAは数倍かけている。例えば、欧州の気象機関(EUMETSAT)が2006年10月に打上げた周回型気象衛星MetOpはALOSと同様の4000kgと同じだ。衛星建造費が同じであったとしても、MetOp打上げコストはSOYUZ(35〜40億円)を使用しているため、H-2Aコストの半値以下だ。欧州の気象機関ならばフランスのアリアン5を使用すべきだが、ミッションコストを考えればSOYUZが有利なのだ。このように、欧州ではミッションコストを追求すればエコノミカルな打上げシステムを使用するのは当然だ。またそれに危機感を抱いたフランスは、アリアンの小型化を計画する一方でイタリアのVEGAで使用されているP80ロケットモーターなどを使用した、小型ロケット開発(ESL/ESLM計画)を推進している。つまり、エコノミカルランチャーの開発に着手しているのだ。しかし、日本では相変わらず「ロシアのロケットは、人件費を無視した販売価格のため、価格はいずれ上昇する」という言い訳をしてエコノミカルなランチャーを本格検討せず、国際動向を無視した高コスト打上げ体制を正当化しようとしている。このままで、日本の宇宙産業が世界に通じずに朽ち果ててしまう可能性が高い。

画像出典:IAI、JAXA、PUSKOVIE


◎地球観測センサーの次世代化

また、残念ながらJAXA地球観測衛星レベルの低さは小学生も気付いているようだ。JAXAはALOS(だいち)を利用した「だいちに写ろうキャンペーン」を実施したそうだ。これは、日本の小学校の校庭に児童が描いた文字をALOSが撮像するという企画だ。企画自体はすばらしいと言えるが、撮像した画像がテレビに流れたところ「日本の人工衛星ってこんなにボケているんだ!!日本の衛星って大した事ないんだね」と小学生が叫んでいた。北朝鮮のミサイル実験により、お茶の間に商業地球観測衛星の画像が流れるようになり、その一般常識化された画像の解像度から見れば、ALOSの解像度の悪さは一目瞭然なのだ。正直にものを言う小学生に苦笑せざるを得ない。

また、ALOSの光学センサー開発会社は、日本の宇宙予算で開発された技術を販売すべく営業活動をしたところ、「このセンサー技術は、すでに時代遅れで買う対象にはならない」と購入をきっぱり断られたそうだ。80年代〜90年代の技術の延長で作られたALOS光学センサーは、次世代技術ベースで打上げられたEROSやTOPSATとの観測データと比較すれば、その差は歴然で誰にでも分かる。だからといって、ALOS光学センサーのメーカーへ日本が最新の技術をリリース依頼しても、輸出許可が出ることはないだろう。小型高性能センサー技術のレベルは日本(JAXA)はすでに取り残されている状況だ。

◎JAXA衛星開発方針と現状は?

しかしJAXAは小型地球観測衛星について「小型化すれば性能が低下する」と周囲に説明し、大型衛星を正当化しようと説明をしている。この「性能が落ちる」という定義は、恐らく「観測幅が狭くなり、広い地域を撮像できなくなる」・「搭載センサー数が減ったため、観測ができなくなる」という意味ならば、時間をかけて撮像すれば良く、観測もコンステレーション化すればいいため問題ない。合成開口レーダー(SAR)衛星も高出力な電力が必要と言うが、すでに海外では電子部品を次世代化させて小型で低電力のSAR衛星がデビューしている。ミッション要求によって最適な解像度があるため、すべて地球観測衛星をTACSATやTOPSATレベルにしろとは言わないが、すでに小型衛星は「安かろう・悪かろう」の時代解釈ではない。小型でもコストが高いものは存在するが、「目的・費用・効果のバランス」がしっかりなされて製造されているのだ。宇宙技術は高度で判り難いことをいいことに、“世界の現実”を受け入れずに大型衛星を正当化しようと説明するJAXA衛星戦略は非常に問題があるといえるだろう。「静止衛星以外の周回型衛星は、小型高機能化が世界のトレンド」なのだ。

また、大型静止衛星も高信頼性が要求されるが、80年代〜90年代の技術の延長で高信頼性の静止衛星を製造してはコストがかかる挙句に開発速度も遅くなり、技術が陳腐化するため、静止衛星製造大手のEADS-Astrium社はMIRIADEなどの小型衛星技術を使って次世代技術を追求し、それらノウハウを大型衛星へフィードバックして先進的な高信頼の大型静止衛星を製造すると発表した。つまり、大型静止衛星開発を直接せずにコストパフォーマンスを追及する方針を掲げたのだ。

 これには、ALOSの実績が物語っているのではないか?実のところ、ALOS(だいち)地球観測衛星の画像は、国際災害チャーターでも使用されている。これは災害時、直近の衛星画像を無料で相互供与するシステムで、各国の撮像した画像が被災国へ供給されるシステムだ。災害における国際貢献では非常にすばらしいスキームであり、JAXAはADEOS打上げ時から検討を重ねていた。しかし。ADEOSとADEOS-IIは2基とも電力供給系の不具合で双方とも1年もたずに運用中止。海外から預かったセンサーまで観測不能にしてしまった。しかし新たなALOS打上げをきっかけに国際災害チャーターへ加盟、画像提供を行っている。そして、ALOS打上げ後の2006年2月に発生したフィリピン/レイテ島の大規模な地滑り事故では、国際災害チャーターとしてALOSが画像提供した。ここまではすばらしいと言えるだろう。しかし、実態は「画像提供が加盟国の中で一番遅かった」のだ。実のところALOSは回帰日数が46日であり、同じ地域の撮像に時間がかかるのだ。通常は衛星をマニューバーさせて1日1回の撮像が可能だが、ALOSは衛星が大型過ぎて、マニューバー(姿勢変化)が小型地球観測衛星と比較して悪く、“小回り”がきかないのだ。被災国にとって見れば、「今ごろ頂いても、他からたくさん情報をもらっているのですが、、、、」と言うのが本音だろう。他国より予算をかけて提供速度(レスポンス)が遅いのでは意味がない。被災国の気持ちを思うなら今後の衛星開発では反面教師とすべきだろう。そういう意味でも即応型宇宙技術というのは国際競争力ある技術だと考えさせられる。

今後は機能最適・コストバランス追求型の時代に対応すべく、“安くするための努力”が必要だ。これが出来ない組織は国際市場でついて行けずに脱落・淘汰されてしまうだろう。このため、80年代や90年代の技術体制を維持しようとするJAXA戦略では日本の宇宙産業が国際競争で脱落してしまう可能性が高く、国民の税金を浪費し続ける官需依存体質となってしまう。よって、先月号で述べたJAXA宇宙基幹システム本部の組織解体に加えて衛星開発体制も抜本的な見直しが必要だろう。

◎次世代の主幹打上げ技術の旗手

 今後の打上げ手段は既存の打上げシステムより価格低下を目的として開発が進むだろう。しかもやみ雲な開発ではコストがかかってしまうため、次世代の技術を計画的に取り入れて段階的な積上げ方式で発展していくものと考えられる。では、現在のロケット価格低下を狙うならば何が必要か?それを考えると、希少材料の採用を軽減し、工作法を見直す事に加えて、全段使い捨てのロケットを“一部再使用化する”ことだ。ロケットを使い捨てではなく、再使用化することはロケット打上げ価格低減につながるという考えは以前からある論理だ。しかし、技術が追いつかない事情も存在する。ロケットを再使用する場合、固体ロケットはスペースシャトルのSRBがあるが、海上回収した後は洗浄し、品質検査を終えて再組立し燃料を注入する体制を当時のサイオコール社が進め、当初の予定に反してコストが下がらなかった。しかも次世代材料が後に登場したことから、使い捨ての方が安上がりだったという説まで出たそうだ。また、スペースシャトルのメインエンジンもメンテナンスが大変で、エンジンの配管に亀裂が入る問題などを抱え、なかなか再使用システムはコストが下がらず使い捨ての方が安上がりという論理が日本では大勢を占めている。

 しかし、2006年10月、コンセプト研究で有名なアメリカのSPACEWORKS社が新たな打上げシステムを発表した。


ARES(出典:SPACEWORKS)

 このコンセプトはARESと呼ばれている。しかし、NASAが進めている有人宇宙船のARES計画ではない。SPACEWORKS社はこのARESをAffordable REsponsive Spacelift Hybrid Operational System(低価格即応型ロケット、ハイブリッド運用システム)と呼称している。では、このコンセプトを見て見よう。

 まず、目を引くのは有翼無人機だろう。ARESは3段式の構成になっており、1段目は再使用ブースター(=有翼無人機)で、2段目以降が使い捨てロケットである。つまり、フライバックブースターとスペースプレーン(宇宙往還機)の中間みたいなものだろう。この機体のエンジンは新規開発としているが、燃料系は液体酸素/ケロシンとしており、RD-180技術を応用すると発表している。このRD-180はロッキードマーチン社のアトラス-Vロケットで使用されている一方、日本のGXロケットの第一段目にも採用されているエンジンだ。技術の基本はロシアであり、その技術をアメリカが導入、ロッキードマーチン社がアトラスロケットへ採用している背景がある。実のところRD-180は、再使用エンジンとして非常に有望であることが判明している。再使用エンジンの技術として重要なのは、再着火技術は当然と言えるが、何と言っても長時間燃焼できることだ。現在のロケットエンジンは数十分の燃焼でお役ゴメンとなり投棄される。しかし再使用エンジンは数時間の燃焼が要求されるため、既存のエンジンの設計を変更しなければならない。だがRD-180は再使用エンジンとして必要な長時間燃焼に耐えられる素地があるそうだ。このため、このエンジン技術をフライバックブースターとして使用できる目処がついたそうで、SPACEWORKS社はRD-180エンジンを改造して3個ノズルとしたフライバックブースターを提案している。RD-180の長時間燃焼能力の如何によるが、このフライバックブースターはオーバーホール(大規模メンテナンス)無しで、数回飛行できるコンセプトを考えているそうだ。RD-180派生型を100回ではなく数回で使い捨てするだけでも打上げコストは下がるという、スペースシャトルとは違った論理だ。また有翼無人機(フライバックブースター)の燃料タンクはGFRP、胴体はアルミで構成、燃焼終了後は胴体先端に取り付けてあるターボジェトエンジンが点火し、無人航空機となり地上へ着陸・再使用するとしている。

 次に使い捨てロケットの方だが、SPACWORKS社では、何とSPACEX社のFALCONロケットエンジンを採用している。恐らくこれは、エンジン価格によるものだろう。SPACEX社のFALCONロケットは、現在のところアメリカで最安ロケットエンジンといえる。この即応型宇宙政策によって開発された格安エンジンが次世代ロケットの旗手となろうとしている。つまり1段目搭載の再使用エンジンは技術基盤が確立したものでガッチリと固め、2段目以降の使い捨てロケットはコストを追求して作られたエンジンを採用する方針なのだ。即応型宇宙開発の技術がこのような形で派生している事には驚きだ。しかし日本では即応型宇宙技術は「軍事だから関係ない」と見ないようにしているが、その技術がもつ潜在性や波及性に注目すべきで、次世代技術にチャレンジせずに保守的な戦略を言い続ければ宇宙産業が崩壊してしまうだろう。現に2006年9月の学会会場で、何と即応型衛星のTACSATが商業化を発表した。つまり、1週間で衛星を製造し、打上げるサービスが商業ベースで展開するのだ。小型衛星技術が大型へフィードバックできると発表したEADS-ASTRIUM社の発表を合わせれば、ますます日本の衛星メーカーの競争力が心配されるところだ。

この将来に繋がる技術として「低価格液体エンジンを開発したSPACEX社」と「開発させたDARPA-FALCON計画」は、エコノミカルエンジン開発の重要性や必要性を再認識させられる。このステップアップ的な戦略思想と、コンセプト研究をしているSPACEWORKS社の存在は、アメリカ国内の宇宙業界へ強烈なインパクトを与えているだろう。宇宙を政治ではなく、純粋に技術として「今ある技術をできるだけ改造せず、かつ段階的に発展させる方法で次世代コンセプトを提案する」SPACEWORKS社的な組織は日本でも必要ではないか?しかしJAXA宇宙基幹システム本部や宇宙開発委員会が、“技術”ではなく比較的“政治的”に物事を進める戦略体制では、何時までたっても日本のロケット技術が世界に通じないのでは?と考えてしまうのは考え過ぎだろうか?

 以上、ARESは「今ある技術の中で使えるモノを適材適所へ採用し、イノベーティブ(革新的)なコンセプトを提案する方法」の例として注目すべきであり、“何でもかんでもゼロから作ろうとする”やり方はリスク&コストが膨大にかかってしまうため、良い方法ではないと考えさせられる。恐らく、H-2Aロケットの増強型で検討されていたLRB(液体ロケットブースター)は使い捨てではなく、再使用するための開発を段階的に今後しなければ、コスト的・コンセプト的に負けしてしまうだろう。

また、ARESはエコノミカルな打上げ手段を狙う1つの方法論であるが、この他にも過去の誌面で紹介した「Low-Costランチャー動向」や「デルタ、アトラスの即応打上化によるコスト低減やステージの共通化」がエコノミカルランチャー開発の動向である。


ARESの緒元(出典:SPACEWORKS)

◎各国が空中発射ロケット開発に着手しているのはなぜか?

 また最近では各国が空中発射ロケットを開発している。これは、宇宙往還機のために必要な技術を空中発射ロケット開発・取得できる事と、エコノミカル打上システムとして有望だからだ。特にF-15とMig-31の空中発射ロケットシステムは、マイクロ衛星打上げロケットとして最も低価格で打上げる方法として見られている。これに対抗するかのように2006年10月には、国際宇宙会議でフランスが空中発射ロケット計画を公式発表している。

 空中発射ロケットは、既存のロケット技術に加えて、新たに開発しなければならない技術がある。それは

・ 点火技術(どのタイミングで点火するのか?)

・ 分離機構や放出機構

・ 超音速で分離する場合は空気力学を熟慮


の3つである。他にも追跡管制技術もあるが、空中発射ロケットの重要な技術としては以上2〜3点がある。これら技術はフライバックブースターの基本技術に派生し、フライバックブースターの技術は再使用技術や新世代技術が組合わさって宇宙往還機(スペースプレーン)へと派生する。つまり、「エコノミカル&世の中で必要とされるスペースプレーンやフライバックブースターの技術開発」として空中発射ロケットは必要な存在と位置付けているのだ。


F-15空中発射ロケット(出典:Boeing)           「ISHIM」(出典:www.astro.cz/)  

 このため、分離機構とロケットエンジン点火のタイミングに関する技術を空中発射ロケット開発で確立し、フライバックブースターへフィードバックする戦略として空中発射ロケットを開発する位置付けでは非常に戦略的だろう。当然ながらエコノミカルな打上げ手段として利用する事も前提にしている。

 以上、宇宙往還機(スペースプレーン)やフライバックブースター開発をするならば、段階的に技術を積上げるため、空中発射ロケットを開発したり、無人機の研究をしたり、長時間燃焼(再使用)が可能なロケットエンジンを開発したり、宇宙往還機時代へ向けてパルスジェット等を開発する必要性があるだろう。これら戦略的観点で空中発射ロケットやフライバックブースターやスペースプレーン開発のロードマップを作るコンセプト研究が日本にも必要であり、これら可能性を検討するSPACEWORKS社的なものが内閣府宇宙戦略会議などに期待するところだ。政治的な介入や技術暴走及び企業の利権争いで方針を決めるのではなく、日本の技術や宇宙産業をどう伸ばしていくのかを検討してもらいたいものだ。

◎日本の再使用エンジン開発の可能性

 以上から、日本は再使用エンジンの開発を進めるべきだと考えられる。調べてみると、アリアン5で使用されている液体酸素/液体水素エンジンのバルカンエンジンが再使用エンジンとして開発に着手しているそうだ。また、ボーイング社のデルタWロケットで使用されているRS-68エンジン(液体酸素/液体水素)も再使用化へむけて着手しているそうだ。RS-68エンジンは、プラット&ホイットニー・ロケットダイン社で開発が進められ、バルカンエンジンもフランスのスネクマ社をはじめVOLVOなど関連企業で開始しているそうだ。

 またロシアはエネルギア社やクルニチェフ社が双方とも再使用エンジン開発に目処をつけてフライバックブースター開発を開始している。その土台となるロケットはアンガラであり、最初は使捨ロケットとして運用しながら将来的にフライバックブースターを組み込む方向で進めている。このコンセプトは以前から発表されていたが予算不足で開発が進まなかった。しかし最新のニュースではロシアがイギリス・ドイツ・フランスへ投資を呼びかけ、イギリスが手を挙げたそうだ。アンガラは“液体廉価ロケットの最高峰といわれているプロトン”の後釜と言われ、プロトン価格(約40億円)よりも安い打上げ価格を公示している。しかも第2段目にRD-180を採用している。このため、アメリカのデルタやアトラスロケットもさらなるコンセプト変更を検討しなければならない状況下に置かれているそうだ。フライバックブースターとしてのバイカル開発の土壌が整いつつある。


露アンガラとバイカル(MATI) 

そしてドイツが研究しているSARTのフライバックブースターはRD-180を前提にしているそうだ。つまり、ロシア・アメリカ・ドイツの連合が出来上がりつつある。他にも様々な案が出ているが、RD-180が有力にしているとの情報がある。


独SART(DLR)

 このRD-180はGXロケットも採用しているので、IHIにとっては、絶好のチャンスとなるかもしれない。ロッキードマーチン社と共同でフライバックブースターを開発すれば、ロシア・アメリカ・ドイツ・日本のフライバックブースター連合が出来上がるかもしれない。各国がエンジンを共通化・量産して独自のLVSへ組み込めば、コストが下がり競争力が上がる戦略性だってある。これは自動車の世界ではよく行われている。大手自動車メーカー同士、エンジンやパーツを共通化してやりくりしている例は多々ある。これが宇宙の世界でも起きるということだ。IHIが進めるGXロケットは1段目が輸入ロケットだ。泥臭くても“名より実を取る戦略”で自国にあるものとないものを組み合わせて攻める発想は、ビジネスの世界では当たり前だろう。先月号で提案した新型GX(=ATLAS-J)ように、将来のアライアンス路線に乗るため、アッパーステージに加えて、RD-180エンジン利用のコンセプトを考え、米露独日アライアンスを組み上げれば、アリアンスペース社と台頭になれる路線だって考えられる。JAXAとのLNGエンジン技術開発は将来に繋がる可能性は否定できないため、次世代LVS技術として研究継続し、他方で徹底したアライアンス路線でパーツ輸出できる体制を作れば国際市場へ出られる可能性もあるのだ。GXが5年遅れるとSPACNEWSで報道されている現状を見れば、現状のコンセプトを無理に継続するよりも、“名より実を取る戦略”へ方針転換することは悪くない選択だ。


GX(出典:GX)                    ATLAS-J(出典:ILS)

 以上の現状からすれば、日本のLE-7エンジンは完全に出遅れた事になる。これからの時代を考えれば、LE-7をクラスター化して“使い捨てエンジン”を開発していては、時代遅れどころか時代外れになるかもしれない。H-2Bが出来上がる頃には次世代コンセプトがどんどん発表されているだろう。宇宙予算が少ないならば効果的ではないH-2B開発は至急中止し、次世代の技術をねらうべく、再使用エンジンを開発すべきだろう。もしくな、MB-XXの開発ラインを通じて、プラット&ホイットニー・ロケットダイン社で開発する方法も考えられる。日本の液体ロケットエンジンの技術水準が失われていないのであるならば、実行は可能だろう。

    

露エネルギア(エネルギア)       米ARES(SPACEWORKS)

◎追跡・管制システムは可搬式でエコノミカルなものが登場

 また、ロケット打上げに付随して、追跡管制システムも次世代化が進んでいる。NASAでは、1958年に稼動を開始した宇宙追跡局網(DSN)が老朽化し、今後のニーズに対応するには1億ドル(約120億円)の改修が必要だという報道が流れた。NASAの宇宙追跡網はカリフォルニア州ゴールドストーン、スペインのマドリード、オーストラリアのキャンベラから構成されている。この3ヶ所の追跡管制局は、日本の“はやぶさ”がピンチに陥った際にNASA-JPLがISASへ追跡局網のリソースを利用させてくれた経緯もあり、アメリカに限らず各国が利用している。しかし老朽化が進み、今後のニーズに対応できないという問題が指摘されている。

 これら旧世代の追跡・管制システムは、深宇宙探査機であるならば、微弱な電波を捉えるため、大型のパラボラアンテナが必要だが、それ以外の“ロケット打上げ時の追跡・管制システム”や“周回衛星のダウンリンク”などは可搬式が主流になってくるようだ。聞くところによれば、「今後は様々な打上げ手段が登場したり、衛星データをどこからでもダウンリンクしたりアップリンクできるニーズに対応するため、可搬式追跡・管制システムが主流となる」そうで、固定式の追跡管制システムは今後姿を消していくそうだ。つまり地上システムの次世代化が進んでいる。


可搬式追尾レーダー                    可搬式光学追跡センサー(出典:AIAA)

 可搬式追跡・管制システムは、土地を占有する必要がないため、使用しない時期は公園や牧草地などとして誰もが使用でき、現状の地上追跡システムのように固定資産がかからないメリットがある。また、複数のロケット打上げに対応できるため、どこの射場から打上げても追跡管制装置は道路を走行できるので、様々な場所に展開できる。つまり、デリバリーランチ(配達打上)システムとして最も適しているのだ。例えば、商船会社の船舶をチャーターし、甲板上に置いておくだけで、海上発射システムや空中発射システムの追跡管制にも使用することが出来る。これらモバイル追跡管制システムは今後主流となるだろう。そのステップの次には空中管制機の時代がやってくるかもしれない。すでにイスラエルでは、ビジネスジェットの「ガルフストリーム機」を改造して、移動式の追跡・管制機を開発・運用している。水平尾翼に追跡装置が装着されているそうだ。恐らくイスラエルが開発しているF-15ベースの空中発射ロケットの空中追跡・管制機として使用するのだろう。また、アメリカでも過去の誌面で紹介したようにFIREBIRD-IIと呼ばれる空中管制機がフライトしている。今後、このような追跡管制システムが普及するかもしれない。


イスラエル空中管制機                 Firebird-II(出典:AIRLINERS.NET)

◎打上システムの次世代化と日米宇宙協定改訂の必要性

 宇宙誌SPACENEWS/2006年10月30日号では「GXロケット開発を中止すべきだ」という論説が発表された。GXロケットに搭載するRD-180の性能は、H-2Aと同等性能かそれ以上を有するために“競合する”と分析、5年遅れでもやる価値があるのか?と指摘し、「GXをやめたほうが(予算不足の)日本にとって円滑な宇宙活動ができるだろう」と締めくくっている。つまりコンセプトがもう古く、今ごろ作って市場へ投入しても日本国内では競合ロケットが存在し、国際市場でも不安が残るとしている。日本では殆ど報じられないが「GXロケットはコンセプトを変えなければ生き残れない」と誰もが見ているのだ。航空業界では「ビジネス投入のタイミングが合わない」としてFEDEX社がエアバス社A380-800F貨物機の発注をやめ、ボーイング社のB-777貨物機へ乗り換えた。ビジネスの世界では技術開発よりも市場投入のタイミングが特に要求され、時期を逸すれば顧客は去ってしまうそうだ。確かにそうだろう。GXをこのまま続けたら技術を提供しているアメリカのメーカーからも「自社の技術ブランド・イメージが落ちる」とみられ、ますます日本の宇宙技術力は国際競争力を失う。その解決案として先月号で示したアライアンス路線転換型の新型GX(ATLAS-J)がベストだと考えている。


SPACENEWSの論説(SPACENWES)

 しかしGXロケットにおいての問題は、“開発遅延”や“H-2Aと競合しないためのJAXA方便”だけでなく、打上げシステム自身も陳腐化している。下図は1999年に発表されたGXロケットの打上システムだ。このコンセプトによると、ロケットの組立ては横倒しで行う水平ラック方式を採用している。この技術はロシアのものを取り入れたもので、H-2Aのような大型の組立棟を建設する必要がないため経済的だ。しかし、トラックにロケットを搭載し、発射台で直立させる方式は、すでにSPACEX社のファルコンロケットやロケットプレーン・キスラー社のK-1ロケット及びマイクロコズム社のFALCON/Congerで取り入れられている。これに対しGXロケットも移動式のものを用いているが、車両が特殊車両でつくられている。これを2004年に発表されたFALCON/Congerロケットコンセプトと比較すると、発射台の横に移動式トラックが乗り付けて、ロケットの架台ごと差し込む方式であり、GX発射システムはコスト的・コンセプト的に一世代古くなってしまったようだ。コストが安くかつ運用上も汎用性を有しているものがすでに登場・普及しており、GXのコンセプトの特徴は失われた。GXは2005年に実用化していれば、まだ先進性は主張できたかもしれないが、いまさらこのシステムを導入しても、先進性は失われている可能性が高い。一方、移動式打上管制システムは今後の主流になると断言できるが、発射台システムは投入時期を逸してしまったのだ。


1999年発表のGX打上システム(出典:NASDA-HP)

 さらに日米宇宙協定の問題がある。日米宇宙協定では、移動式打上方式は実質禁止されている。本来の日米宇宙協定は、日本が弾道ミサイルを開発しないように、当時の技術として危険視されていた「移動式のロケット打上げ方式を開発させない」主旨が盛り込まれていた。もし日本が開発すれば、日米宇宙協定違反となりロケットのパーツ供給がストップされる厳しい約束事が両国間で取り決められている。


          2004年発表FALCON/Conger(出典:AIAA)                 FALCON-1(出典:SPACEX)

  ころが移動式打上げ方式は、FALCONやCongerや空中発射ロケット“ペガサス”やスペースシップワン宇宙船などの商業ロケットでは採用され、格安打上げ方式として利用されている。つまり70年代や80年代当時の解釈が通じなくなっているのだ。しかし、協定自身が存在するため、古い協定にしばられて格安の移動打上げ方式は日本が開発できない事情が存在する。ただ、すべて雁字搦めという訳ではない。日本は1970年と80年に協定改訂を申し出て米国と交渉し、当時禁止されていたアポジモーターなどの国産化の合意をしている。つまり日米交渉すれば変えられるのだ。

 しかし、1990年以降は、日米宇宙協定の改訂は行われていない。協定自身が古いことを理解しているのにも関わらず、また時代が変化して当時の解釈が世の中で通じなくなっているにも関わらず、“解釈の変更”という矛盾が生じるやり方で日米宇宙協定が今まで続けられてきた。日本の宇宙産業が国際的に通じるためには、今こそ宇宙協定の全面改訂が必要だと考えている。H-2Aロケット2段目の燃料タンクの容量は“多弾頭ミサイル化する危険性から容量制限がかけられている”のが実情だ。国外の液体ロケットがアッパーステージを開発するためにタンク容量を増加させている実情を比較すれば、当時の取り決めは国際的に通じないため、時代のギャップを埋める必要性は自明の理であり、日米宇宙協定の改訂は明らかに必要だろう。

◎GXの可能性を考えるならば

 国際アライアンス時代に対応したGXロケットを目指すのであれば、GXロケットの2段目はLNGエンジンに執着せず、ロッキードマーチン社アトラスVロケットのセントウルの小型版をアライアンス前提として目指すべきだろう。詳細は先月号でも話したが、ロッキードマーチン社が発表している資料は、セントウル技術はアッパーステージの共通化に加えて、月着陸船、火星帰還用、宇宙ガソリンスタンド(地球・月・火星)、地球帰還用へ派生できるコンセプトを発表した。そしてセントウルタンク形状も“エンジン数”と“セグメント量”を変化させて共通性のあるバリエーション豊かな“新世代セントウル”を発表した。そしてアトラス5ロケット自身も標準型からヘビー級まで共通性のあるコンセプトをまとめている。これらコンセプト力の強いアトラスロケットの連合の“常に小型の部分”を新生GX(=Atlas-J)が担当する戦略は、ロッキードマーチン社とIHIにとってメリットがあるはずだ。


     セントウル技術の派生(出典AIAA)                 共通・拡張性のあるタンク(出典AIAA)

  
        アトラス5の共通化コンセプト(出典AIAA)       アトラス5ヘビー型(出典AIAA)

 またロッキードマーチン社は有人宇宙航行システムについて、下図のようなスキームを発表している。有人機はNASAのARES-1で打上げ、セントウル技術を派生した宇宙航行用システムはアトラス5ヘビー級で打上げ、軌道上でドッキングする。そして燃料についてはアトラスやデルタ、CongerやPerigine(空中発射システム)で補給する。このコンセプトで月や火星の有人探査を実現しようという壮大なコンセプトまで発表している。日本が有人宇宙活動をするならば、この連合(アライアンス)へ加わる方法も考えられないか?

基本は企業間で開発を行い、日米宇宙協定などの改訂は国家同士で進めれば、効率の良い開発が可能になるだろう。宇宙ステーションのように国家宇宙機関同士で進めると、開発遅延に予算超過に陥る体質が発生し、技術ではなく政治的介入で惨澹たる結果となる可能性が高い。このため、海外では効率的ロケット開発をすすめるため、民間企業主体で開発が行われている。アライアンス路線へIHIはシフトすべきだろう。


有人宇宙船の燃料と人員輸送のスキーム(出典AIAA)

 だからといってGX開発遅延の根源であるLNGエンジン技術を捨てるのは“もったいない”かもしれない。LNGエンジンはフライバックブースターや宇宙航行用に使える可能性があるからだ。よってGXは“アライアンス路線(ATLAS-J)”と“LNG独自開発路線”の2正面開発方式ですすめれば、かなり将来が開ける。そしてH-2AのLE-7エンジンはアリアン5(バルカン)やデルタ(RS-68)のように再使用化へ向けて開発を進め、将来はLE-7再使用次世代型とLNGエンジンのどちらかでフライバックブースターをやる方式も国内として残る。これら方針でLE-7やLNGエンジンの再使用化開発が不可能ならば、海外との差が歴然となるため、維持する必要がなくなる可能性が出てくるため、LE-7とLNG技術を日本として放棄すべきか判断する時が来てしまうだろう。

◎失われた10年を如何に取り戻すか?

日本の宇宙技術低迷は平成不況期(1990〜2000年)の技術戦略や技術動向を読み間違えた事が問題だと考えている。具体的には「旧ソ連技術の取込み」、「宇宙システムの小型高性能化」、「打ち上げ技術の変化」、「市場変化(公共→公共&商業)」、「有人までのフルラインナップ宇宙は連合時代(アライアンス)」であり、この考えが宇宙先進国では理解されているが、世界第2位の宇宙予算を持つ日本がこれを読み間違えたのに問題がある。

どんなに過去資金をかけても次世代技術が登場することは避けられず、技術的に残るロケットと残らないロケットが今後出てくる。海外ではエコノミカルなロケットが開発され、経済性を無視したロケット開発が許されなくなっている。だからといって古いものをそのまま打上げても誰も評価しない。次世代システムに否応なく対応しなければならない時代がやってきているのだ。技術の次世代化について行かずに過去の延長線上で対応しようとするJAXA宇宙基幹システム本部の戦略では、日本の宇宙産業が崩壊するだろう。H-2Aの後継機であるH-2B、及びGXや次期固体ロケット計画は、すべて在来技術の延長線上で対応しているコンセプトだと分析され、海外の宇宙エンジニアは日本人よりも日本のロケット戦略を低く評価しているようだ。すでにJAXA宇宙基幹システム本部はロケット開発機関として戦略・能力不足であり、もはや失格と言えるかもしれない。M5ロケット運用中止問題においても、コスト見積・中止説明の曖昧さ・代替案の不透明さ・技術的見通しの甘さ・技術維持にならないSRB-Aの利用(製造インフラが外国企業)という問題点の多い主張をした。次期固体ロケットの開発費は100億円以内に収める重要性を主張しているが、このコストにJAXA職員の人件費は一切含まれていない事実は発表されていない。開発関連メーカーからは、「JAXA宇宙基幹システム本部(旧NASDA)の技術(SRB-A)を使うことが実質的な前提条件となっている。例えSRB-Aが使えなくても使う提案を出さないといけない」という、技術的ではなく政治的にSRB-A使用を提案しなければならないそうだ。この間違った開発を進めているJAXA宇宙基幹システム本部は、「宇宙科学研究所の固体ロケットを抹殺できれば戦略はどうでもよく、日本ロケット技術を産業化させるコンセプトを考えていない」のではないか?そしてGXロケットもLNGエンジン開発が遅延し、輸入品で構成されているならば、上記のような連合(アライアンス)路線戦略を考えても良いはずだ。だがSPACEWORKS社のコンセプトのように航空と宇宙の技術が融合する時代がやってきているのも関わらず、JAXAは宇宙と航空を切離す体制で開発体制を進め、旧NASDA以外の組織へは、高コスト体質を蔓延させて懐柔させようとしている。つまりこれからの時代に必要な要素を一切取り入れない保身的なロケット開発体制を進めているのだ。

 以上のようなロケット開発の実情をみれば、失われた10年を取り戻すため、日本の宇宙開発体制は“迅速かつ効果的なシステム”へ乗り換えなければならないのではないか?

◎日本には復活できる土台があるはず

 QロケットとNロケットの存在を皆さんはご存知だろうか?これは1960年代に日本が検討及び開発したロケットで、Nロケットは直径2.8mの3段式固体ロケット、Qロケットは1段目と2段目が固体で3段目が液体、4段目が固体(キックステージ)というコンセプトだった。NロケットはM5の直径が2.5mである事を考えれば、1960年代当時としては材料工学とシステムがついていかず飛躍し過ぎた発想だった。このためサイズを1回り小さくしたQロケットとなっている。これらのコンセプトは、海外の宇宙機関にとっては衝撃的な内容だったため、日本の技術力向上を抑えこむため海外からの技術導入進める導火線にもなったと考えられる。しかし、Qロケットのコンセプトは、今ではアメリカやヨーロッパが中小型ロケットとして注目しているコンセプトであり、再注目されているのだ。このQロケットは宇宙研の固体ロケット技術とNASDAが開発していた液体ロケット技術を組み合わせる発想で「目的・費用・効果のバランス」に優れたコンセプトだった。しかしQロケットは液体ロケットエンジンの燃焼系ソフトウェア開発に問題を抱えていた。それはアメリカのTRW社がアポロ計画で開発したソフトが高度で、その技術に三菱TRW社がついていけなかったそうだ。このため、今でも液体エンジンソフトは海外企業のものを購入して一部書き換えて使用しているため国産化されておらず、ソフトウェアが日本液体ロケットの“アキレス腱”となっている。

Qロケットは三菱TRW社の開発能力と分離機構の問題が解決できず、爆発事故が発生、それと同時期にアメリカからの技術導入と旧文部省と旧科学技術庁の“タテ割り行政”が入り、“固体は文部省”で独自開発、“液体は科学技術庁で輸入体制と独自開発(固体ブースターも輸入)”となった。つまり、Qロケットで見れば、技術ベースでは固体と液体は融合していたのに、整合性の関係から官庁が2つに分けたのだ。それは技術的に正しい政策ではないことは読者の皆さんにはもう分かるだろう。そして現在では文部科学省となってはいるが、固体と液体が融合するどころか人的・予算的に大規模の旧科学技術庁(旧NASDA)が人的・予算的に小規模の固体ロケット(M5)の抹殺に走り、旧科学技術庁が管理した液体ロケットは国際的に通用しない高コストでレベル低下が進む開発を推し進めている。つまり“官庁が液体と固体を2つに分けた体質がロケット開発の足かせ”となってしまい、現在の我々の“負の遺産”として君臨し続けている。JAXAが発表した次期固体ロケット計画を見れば明らかだろう。国際情勢からみれば最終段液体が顧客サービスの観点で必然にも関わらず、最終段は固体で行くとJAXAは発表している。官庁の足かせで“固体は固体のみで構成”という世界では非常識的な流れを継続しようとする体質が文部科学省とJAXAになっても続いている。また文部科学省にある宇宙開発委員会も高給委員を抱えながらも独自調査能力を有さず、もはや旧文部省と旧科学技術庁の“整合性をつける委員会”としてしか機能せず、国益で考えれば機能していないようだ。この流れは国際的に通じず、日本の宇宙技術を真の意味で発展させるならば“間違った固体・液体技術政策”をここで断ち切らなければならない。

これら観点から旧NASDAの流れでロケット開発が実質的に進められているJAXA宇宙基幹システム本部は解体し、今となっては足かせとなっている“文部科学省管理下のロケット開発体制”と“審査・監査組織として機能していない宇宙開発委員会”を是正し、別の次元でロケット開発をしなければ、世界第2位の宇宙予算を持つ日本が世界から賞賛される日が来ないだろう。具体的には、旧NASDAや旧ISASという次元でロケット考える人は、発想力に限界があるため、次世代の若手へ道を譲り、SPACEWORKS社的なコンセプトが提案できる自由度をもったロケット開発組織を構築するため、宇宙基本法によって将来的に構築される内閣府宇宙戦略会議の内部にロケット戦略組織を設け、過去の負の遺産を排除した体制でロケット開発方針が示されるべきだ。日本が再浮上するには必要な方策だろう。

◎まとめ

 衛星は次世代技術を取り入れて小型高機能化が進み、それら技術が大型衛星へフィードバックする方針を欧州大手衛星メーカーが発表している。ロケットもエコノミカルなものを目標として“コストを意識して安くするための努力”が行われ、そうした土台のなかでスペースプレーン(宇宙往還機)へ繋がる空中発射ロケットやフライバックブースターなどが開発着手され、次世代技術を段階的に取り入れた戦略が行われている。しかし日本は基幹技術と称して世界に通用しない次元でH-2B・GX・次期固体ロケット開発が行われており、国際情勢へ対応した宇宙戦略の変革が急務だろう。これは、1970年代からの技術導入時代の終焉を見据えて

・ 技術導入LVSから国際基準LVSへの転換

・ 国産LVS(学術・固体)から産業LVSへの転換

・ 宇宙システムの商業市場進出(小型衛星時代への対応)

・ エコノミカル(LOW-COST)宇宙システムの構築(LVS・衛星他)


を考える必要がある。これら実現のために先月号で紹介したH-2Cや新型GX(ATLAS-J)をコンセプト変化させ、エコノミカルランチャーとして国産固体ロケット技術を発展させ、国際市場で戦えるLVS戦略が必要だろう。またアンカーテナンシー論(政府買取保証制度)を唱えるならば、“価格的・技術的・戦略的に世界へと通用するロケットを開発する事が前提条件”となる認識が必要だ。この前提条件無しにアンカーテナンシーの導入を進めれば、官需依存体質を増大させて国際市場へ出られないロケットを継続させる方針と等しいため、企業がぬるま湯に浸って国民の税金を浪費する体質が継続されることになる。世界に通用せずコスト高なものを国民の税金で保証する理由はないのではないか?よって、宇宙産業を発展させるのであれば、新規参入(携帯・デジカメ等)者による市場活性によって技術水準の高性能化を図り、国際市場対応・製品化での宇宙産業の国際化を図る体制が必要だろう。「誰でもランチ・誰でも衛星を使える環境コンセプト」が宇宙利用時代には不可欠だろう。

宇宙基本法が国会で提出されようとしている。日本の宇宙体制が岐路に立たされている中、宇宙産業化・利用時代へ向けた抜本的な改革体制づくりが望まれるだろう。


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