日本次世代宇宙戦略ビジョン(従来技術から離脱とスペースイノベーションへの転換)
  (エアワールド200
7年3月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年3月号」をお買い求めください

 約1年にわたり、次世代宇宙戦略として国際動向を紹介しながら、世界第2位の宇宙予算を誇る日本(JAXA)が国際的に賞賛されない背景や解決案を検討してきた。一部の宇宙科学分野はトップレベルにあるものの、液体ロケットは日米宇宙協定から様々な制約がかけられている上に技術戦略も低下し、世界に誇れる独力固体ロケット技術も優位性が低下する次期固体計画が示され、衛星も次世代路線に乗り遅れて在来技術の在庫放出状態で衛星開発が行われている。本稿では新世代へ対応するために1990年後半から続く“失われた10年“を取り戻すべく、今後の戦略方針を検討したい。

◎世界は「Small is Beautiful」、JAXAは「Large is Beautiful」「在来技術の在庫放出状態」

 世界の衛星開発動向は機能最適化・小型化が進んでいる。これは既存の衛星搭載機器が小型・軽量化できるようになってきた事と、炭化ケイ素系を含む次世代半導体やマイクロスラスター、リチウムイオンバッテリ及び電気推進等が登場した事により、「小型でも一流衛星が出来る」ようになってきた。日本以外の宇宙先進国では「Small is Beautiful(小型はすばらしい)」という合言葉が生まれている。これは“1つの世代変化”と言えるだろう。過去の宇宙先進国は、打上げ能力を上げること事がすばらしく、「Large is Beautiful(大型はすばらしい)」というスローガンで打上手段と衛星の大型化を進めてきた。
 しかし国家宇宙開発は税金を使用しているため他国との「国力消耗戦」である一方、国威発揚という政治的プロパガンダによって宇宙予算増額を推し進める方法に限界が出てきた。また大型静止通信衛星は地上の光ファイバー通信の登場により製造ニーズが減少、災害時以外の固定通信は地上通信網で十分なため、衛星放送と移動体通信への活路しか需要がなくなり、今後多くても年間20〜25機程度の需要しか見込めないと言われ、大手5大衛星メーカー(Boeing、Lockheed Martin、Space System/Loral、EADS-Astrium、Alcatel-Alenia Space)は戦略変更が求められた。しかも大型静止衛星は10年寿命だったのものが、次世代技術の登場により15年寿命のものが生まれ、最新のBoeing Satellite System社が製造するモバイル静止通信衛星は18年と長寿命化している。ライフサイクルが延長した事により年間製造基数がさらに減少する可能性が発生、実質的な5大メーカーの過当競争が始まっている。将来的には大手5社が3、4社に淘汰されるとの指摘もある。
 このためヨーロッパ大手のEADS-Astriumは大型衛星ばかりの受注・開発では生き残れないと判断、フランス宇宙機関CNESの小型衛星振興策のもと小型衛星バスMYRIADEを開発、最先端技術を1機15milユーロ(22.5億円)以下で実証、「最先端技術の追求」・「開発期間の短縮化」・「技術者雇用確保」を進めて「大型衛星開発・製造」へフィードバックさせる戦略を発表した。これは理に適った戦略だろう。技術的にも次世代技術の登場により、「大型化せずともそれなりの性能が出せる」という考えが広がり、「予算をかけずに驚くべき成果を出す事がふさわしい」という認識の元、「Small is Beautiful」という合言葉が生まれているのだ。しかし日本は、国際動向を読み間違え、さらにここ10年間にH-2が2回打上失敗し、H-2AとM-Vも1回づつ打上げが失敗、世論の大批判を浴びて萎縮してしまい、既存ロケット打上再開だけに注力し、衛星は「在来技術の在庫放出状態」となった。一部では“このままではいけない”と改革の声は上がったが、その声はJAXA上層部や宇宙開発委員会では受け入れられなかった。そして次世代動向を“精査”せずにもはや過去の戦略である「Large is Beautiful」路線を走りつづけている。H-2Bがその典型例だろう。国際動向を見ればH-2Bは時代遅れコンセプトであることは自明の理である。そしてJAXA(旧NASDA)は、近年ではETS-8やALOSという90年代の宇宙バブル時代で作り上げた在来技術の在庫放出状態となり、JAXA開発衛星は一流ではなくなった。

150kg衛星バス、MYRIADEの実績と計画一覧表(画像出典:CNES、EO)

 ALOS衛星は下図へ示すように、世界的に高く評価されているEROS-Bからすれば、技術水準が旧式で陳腐化している。一方、ETS-8もJAXAは「世界最大級の衛星」とホームページで主張するものの重量は世界最大級とは言えず、IPSTARという重量6500kg以上のものが“商業ベース”で打上げられている実情からすれば大げさ過ぎる。しかも、ETS-8(きく8号)は、大型展開アンテナを大々的に発表しているが、TRW(現ノースロップグラマン)のメッシュアンテナと比較すれば構造が複雑過ぎで、恐らくコストも高く、今後その開発した技術が商業的に成功するかは不安だ。ETS-8は商用通信放送衛星と競合する分野であり、ETS-8のメッシュアンテナを評価するならば現行商用静止衛星で採用されているTRW(現ノースロップグラマン)社のアンテナをベンチマークとして価格的・性能的に優位であるか判断し、開発が妥当であったか評価する必要があるだろう。このような評価をしなければ、単なる「競争力のつかない技術開発」となってしまうからだ。また、「移動体からの通信を目指して」と言うが、商業ベースですでに移動体通信衛星は何機も打上げられておりサービス運用されている。よってETS-8を官需衛星で打上げる意義はもうない。ETS-8は当初1999年に打上げ予定であったが、もしこの時期に打上げられていれば先進性は認められたが、2007年1月から見れば、いまさら打上げても世界は高い評価をしないだろう。

ALOSとEROS-Bの比較結果

(画像出典:IAI、JAXA、PUSKOVIE)


INMARSAT-W(EADS)                 きく8号(JAXA)

 だからといってまた「世界最高性能の静止衛星を製造する」という戦略は、「Large is Beautiful」路線の延長行為であり、“宇宙開発が国力消耗戦である事”と“大型静止開発中心では次世代技術に乗り遅れる事”を考えれば、正しい戦略とは言い難い。しかしJAXAはこの「Large is Beautiful」路線を変更するつもりはなく、ロケットも含めて在来技術延長路線で実質計画を立てているため、現状のJAXA戦略が実現する頃には世界との技術・戦略的な差は歴然となり、膨大な国家予算を費やした上で日本の宇宙産業はJAXAと共に朽ち果ててしまうだろう。よってJAXA(旧NASDA)主導開発体制は産業戦略的に国益に適っているとは言えず、時代遅れの宇宙活動に拍車がかかる行為と同じため、機能を解体・分割して別の次元でやり直す必要がある。

◎即応型宇宙政策の目的

 では、もう一度アメリカが進める即応型宇宙政策を見てみよう。即応型宇宙政策は、UAV(無人機)と従来型衛星システムのもつ“双方が持つ良い能力”をコンビネーション(組合・配合)させるコンセプトで考えられている。例えば、UAV(無人機)は特定域を常時飛行するため、衛星と比較して「低コストで構築・運用でき、使用しない時期は整備保管できる上に、搭載機器は容易に変更可能」であるものの「衛星のように広域・複数域へのミッション対応は不可能で、妨害に遭いやすい」問題がある。一方衛星はUAVと比較して「衛星群を組めば世界中(広域)をカバーでき、UAVでは行けない領域もカバーでき、妨害も受け難い」ものの「コストがかかり、製造に時間を要し、新規技術はすぐに実証できない」という長所と短所が存在する。つまりUAVと衛星も長短が必ず存在するというわけだ。このUAVと従来衛星システムの持つ欠点を克服しようとする政策が即応宇宙政策なのだ。


即応型宇宙政策(出典:Responsive Space Conference)

 そしてこの政策に基づいて製造されているのがTACSATである。TACSATの目指すところは、従来衛星の問題点であった「製造に時間がかかり過ぎて高コスト」という衛星特有の弱点を「量産・短期製造・低&中コスト」化させて克服し、リーズナブルな調達価格で政府が買い上げつつ、コストが低下したことで新たな需要開拓と商業利用促進をさせるコンセプトである。
 具体的にTACSAT-2では、高解像度の地球観測カメラを既存メーカーへ見積りしたところ$10mil(12億円)と言われたため、天体望遠鏡製造企業へ協力を依頼したところ光学望遠鏡だけで$20000(2400万円)で製造し、その他CCDセンサーやデータ処理システムなどを組み合わせて$2mil(2億4千万円)で製造している。つまり既存メーカーの5分の1の価格でTACSAT-2光学システムが出来たのだ。そして2006年12月16日に打上げ成功した。これには驚かざるを得ない。真の意味で“宇宙利用拡大策”と言えるだろう。パソコンまで普及するとは思わないが、「誰でもランチ、誰でも利用」できる環境を目指すのが即応型宇宙政策と言えないだろうか?2006年9月にTACSATの商業化が国際会議で発表された事実と、この技術がもつ潜在的価値を見れば、即応型宇宙政策・戦略・技術を“軍事だから見なくていい”という安易な考え方は正確な視点とは言えない。


TACSAT-2を搭載したMinotaur-1       TACSAT-2(出典:USAF/NASA)

◎大手衛星メーカーが淘汰される可能性

 よって即応型宇宙技術が将来的に普及すれば、既存の宇宙メーカーが淘汰される可能性が高いと言える。JAXAが続けている80年代や90年代というレガシー(遺産)技術では、メーカーが生き残れないのだ。一方欧州宇宙企業はすぐに反応し、TACSATを発表した技術者へ対し、「アメリカと欧州との間で協調開発ができないのか?」とアライアンスを国際会議場で提案していたそうだ。欧州でも次世代や新世代を意識した小型衛星を開発しているが、TACSATのような「メーカー育成」と「徹底した規格化」は進めていない。フランスCNESとEADS-Astriumが開発したMYRIADEやAlcatalが開発したPROTEUSがそれに近いと言えるが、まだまだ欧州各国は独自に自国技術を磨いている段階であり、このままでは差をつけられてしまうと考えているようだ。
 このレガシー技術が淘汰されてしまう可能性が高まった背景には、1990年代後半に登場した格安ICBM派生型ロケットの登場があると考えられる。このLow-Costランチャーの登場により、従来よりも低価格で衛星が打上げられる環境が出来上がったため、キューブサットを含む小型衛星が打上げられるようになった。「安くならなければ新たな利用者は現れない」という論理がICBM派生型ロケットの登場で実現し、衛星打上げの敷居が下がったのである。周波数申請などの面倒は存在するが、少なくとも1990年代から見れば、衛星を製造する企業・大学・組織は圧倒的に増えたと断言できる。そしてこのニューカマーは予算も重量も大きくない衛星しか製造できないため、性能を上げるべく、民生技術や独自のコンセプトを取り入れて技術力向上に努めている状況だ。これら向上により、小型でも従来衛星性能に追いつける高機能衛星が次第に世に出つつある。
このニューカマーの動きを察知したアメリカは、既存技術や企業が淘汰される可能性を予見し、宇宙技術者の雇用維持と技術水準の維持・向上を目的としてTACSATや低価格小型衛星打上げロケット(FALCON)開発という即応型宇宙政策を考えたのではないか?そして大手衛星メーカー技術者をエンジニアリング会社へ移動させて別の次元で衛星を作る体制を構築していたのではないか?TACSATを製造する企業へ聞いたところ、大手衛星メーカー出身技術者が多くいるそうだ。もし、そのような戦略で宇宙活動が行われているのならばその“先見の明”は見習うべきである。「常に時代の先を予見して行動する」という戦略性のある企業育成&自国技術向上を進めるアメリカやフランスを日本は参考にすべきだと考えられないだろうか?


ICBM派生型ロケットの登場でニューカマーが登場(ESA)

 対する日本は“遅れ過ぎ”と言える。フランスやアメリカのように自国の宇宙企業が淘汰されないよう“競争力のつく技術開発”を進めているのに対し、日本の宇宙政策は国際動向を読み間違えて「Large is Beautiful路線」&「競争力のつかない技術開発」を取りつづけている。結果、技術開発と称して過去の遺物であるレガシー衛星しか開発していない。宇宙科学分野はまだトップレベルで踏ん張っているといえるが、予算的・組織的に大規模の旧NASDA側の戦略は小型高機能衛星時代に乗り遅れたと言えるだろう。詳細は後述するが、このまま国際動向を読み間違えて戦略変更をしないJAXA主導の宇宙体制を続ければ、日本の大手衛星メーカーは次世代化された技術について行けずに“なぎ倒しに遭遇する”か“先進的な海外メーカーの旧式を購入させられるだけ”の製造体制となる可能性が高く、将来的に生き残れなくなってしまうだろう。
よって今後は国際基準に基づいて“国際市場競争力のない技術開発”は中止し、宇宙産業が崩壊しないよう施策を実施すべきだ。では、具体的に方針を提案してみたい。

◎小型衛星振興策は火急的な課題

 まず、小型衛星の戦略的・潜在的価値は上記で述べた通りだが、最近は小型衛星が重要と認識している人が増えてきたが、どのような開発形態があるのかを理解している人は少ない。海外動向を見れば、小型衛星開発の流れは3つの流れがあると考えている。それは
  @ MEMSや革新的技術など、ニューカマーが新規技術を開発する流れ
  A ビジネスやミッションコンセプトを出して開発する流れ
  B 既存衛星メーカーの技術維持&強化・競争力強化・雇用対策として開発する流れ

があると考えている。では、世界潮流からの日本が脱落するのを防ぐために、小型衛星開発の方法論を検証してみたい。

  @ニューカマーが開発する流れ
まず、MEMSや革新的技術を開発する流れについては、キューブサット、大学衛星、宇宙部品メーカーなどが挙げられる。例えば、最近発売された任天堂「Wii」のゲームコントローラには小型の3軸加速度センサーが電子チップとして内蔵されている。この加速度センサーの重量は5g以下、価格は500円以下と言われ、メーカーはAnalog Devices, Inc.と伊仏STMicroelectronics社製という報道がある。
この加速度センサーを海外宇宙機関が宇宙環境で使用できるか試験したところ、なんと合格してしまったそうだ。宇宙加速度センサーと言えば、数百万円だったのが民生品を流用すれば数百円で使用できるとの試験結果が出た事で、早速自国の大学衛星へ使ってみるよう打診したそうだ。近い将来、Wiiリモコンと同等クラスの加速度センサーが宇宙部品として普及してくる可能性があるかもしれない。


Wiiリモコン(出典:任天堂)

 このように国際競争力ある部品企業を見つけ出して、産業振興の一環で大学や新規参入の小型衛星へ搭載して宇宙実証させる体制があれば、宇宙利用拡大と産業育成の観点からすばらしいのではないか?世界市場へ対応できる“匠の技術”をもった日本企業は多くいるはずだ。これら企業を“JAXA認定”という国際市場では通用しない認定を与えるのではなく、別の次元で「捜索・採用・搭載・実証・営業展開」まで一貫した支援で宇宙企業を育成させる体制が宇宙コンポーネントメーカー育成には必要だろう。宇宙実証のない部品は国際市場では相手にされない。ましてやJAXA認定を出されるよりも早く宇宙実証した方が国際市場での説得性・信頼性は高いと言える。そういう意味でJAXAか開催した産学官連携シンポジウムを見れば、まだまだ戦略不足といえるだろう。宇宙部品企業がなぜJAXA認定(NASDA認定)を嫌がっているのか?撤退していくのか?の本質を見抜けていないのではないか?彼らはJAXAと取引しても国際市場へ出られるわけでもなく、数もさばけない上に自己負担額が多いため、メリットがないのだ。この現実を受け入れるべきだろう。いくら「イノベーション」という流行の言葉を使ってシンポジウムを開催しても、戦略が不十分ならば真の意味で産学官連携にはならない。つまり、JAXA的な方法では宇宙部品メーカーは育たないのだ。よって“別の次元で宇宙部品メーカーを「捜索・採用・搭載・実証・営業展開」させる一貫した支援体制が必要”であり、その一方でコンポーネントを採用してくれる大学衛星や小型衛星開発企業及び大手衛星メーカーへ補助金を出す体制でニューカマーを育成する支援策があれば理想だ。ポイントは新しい技術を見極める目をもつ人材を揃える事ができるか?であろう。また育ちそうな企業は宇宙ソーシャルネットワークサービスを展開する“Spacealumni(宇宙SNSサイト)”(http://www.spacealumni.com)のように、安全保障上問題のないメンバーで情報共有する方法も考えられる。
 航空機産業は部品メーカーが育ったことで国際市場へ対応できる体制となっている実情を見れば、輸入品で実績さえ挙げられないJAXA(旧NASDA)技術実証衛星開発体制では、宇宙産業発展に貢献しているとは言えず、日本の宇宙部品産業は育たない状況が続いてしまう。よって世界潮流からの脱落を防ぐべく、新規参入企業とチャレンジングカンパニーにチャンスを与えるべく、振興策を実施すべきだ。

  Aビジネスやミッションコンセプトを出して開発する流れ
 次に、ビジネスの可能性として開発する流れもある。最近、ビール会社のハイネケンがRFIDタグ(無線電子タグ)と衛星を組み合わせた物流管理システム構築案を発表した。当然ながら電子タグはUHF帯でも100mまでしか通信できないため、電子タグと衛星を直接リンクさせる事は出来ないが、船舶や航空機、倉庫にある商品が何時何処にどの位存在するのかを“正確”に把握できれば、認証手続きの観点で物流上発生する膨大な書類作成を大幅に削減でき、省力化・コスト削減に繋がるため、衛星を使ってハイネケンビールの物流管理をやろうとする研究がスタートしている。参加している企業はIBM、海運大手のマークス、空陸運大手のUPS、アムステルダム大学などだ。衛星製造費用よりも物流コスト削減費用が上回るのならば、新たなビジネスコンセプトとして衛星需要が発生するかもしれない。以上ビジネスコンセプトとしてもし需要が生まれれば、買う側は安くていいものを要求するため、当然ながらTACSAT、PROTEUS、MYRIADE、TOPSAT、EROSなど高機能衛星をやっている欧米企業は競争力が高い。

  
ハイネケンビール(ハイネケン)                   電子タグ(RFID.com)

 以上のビジネスコンセプトを立案して開発する体制が必要ではないか?例えば、上記のハイネケンのように、モノ運びの分野において通関や書類作成などのコスト削減できるような、競合する産業界の中で1歩リードできる戦略を企画・立案したコンセプトを売り込む発想が考えられないか?北海道衛星も農作物の発育状況をデータ提供するサービスで展開するコンセプトで開発すべく投資先を探している。このような、コンセプト提案型衛星開発ができる体制が必要ではないか?大型静止通信放送衛星は、購入先が絞り込まれているが、ハイネケンのような新コンセプト提案型衛星の顧客層は幅が広いと言える。コンセプト次第で市場が開けるのだ。このような可能性のあるコンセプト型衛星へ支援策を実施する事は、宇宙利用時代には必須であろう。このような活動をしている日本企業や組織体を作り上げ、支援することが、真の意味で産学官連携と言えるのではないだろうか?ハイネケン衛星を手本に考えれば、日本にはこのようなコンセプター育成が必要だろう。

  B既存衛星メーカーが開発する流れ
 最後に既存衛星メーカーの小型衛星開発だろう。80年代〜90年代の技術の延長線上では、これからの時代は生き残れない。この過去の遺産技術であるレガシー衛星を日本で評価すればETS-8やALOSが当てはまるが、両衛星は輸入品が非常に多く技術水準もすでに陳腐化しており、商業市場では生き残れない技術試験衛星だ。今後も同様のレガシー衛星開発路線を取り続ければ、日本の大手衛星メーカーは海外の旧式パーツ購入メーカーと化してしまい、競争力のつかない技術開発衛星を永遠開発しつづける体制となってしまう。しかしJAXAは過去の問題を是正する動きは見せていない。真の意味で国内大手衛星メーカーを育成するならば、EADS-Astriumのように、大型静止衛星の技術と技術者維持をするために、次世代技術へ対応した小型衛星を開発・実証し、そのノウハウを大型へフィードバックさせる体制が必要ではないか?実のところ、大手衛星メーカーのエンジニアは、経験値を上げるべく小型衛星の製造を熱望する声が聞かれる。大型衛星は製造に5年〜10年かかるので、できる頃には経験の積んでいないエンジニアが出世して指導的立場になってしまい、ろくに経験値のないエンジニアが上司となっても部下からの求心力・人望が得られないという苦い実情が存在する。しかも現場からはモノ作りをしたい、小型衛星を作りたいという声が存在する。現場からの声は注目すべきだろう。その意味でも大手衛星メーカーの小型衛星開発は必要だと考えている。逆に上記の小型衛星が推進できない企業は、いずれ国際競争力のつかないメーカーとなる可能性があるため、「国民の税金を投じて産業育成すべき企業」には当てはまらないと考えられ、支援を続けるべきどうか決断しなければならないのではないか?
 以上、小型衛星開発の目的は大きく分けて3つの流れがあると考えられる。そもそも小型衛星は従来の大型衛星開発よりも予算がかからないため、日本として十分実行可能であると言えるだろう。これに加えて大型ロケット開発国も小型衛星打上げロケット「Smallランチャー」を開発、ICBM派生型ロケットへ対抗しようとしている。日本でもランチャーと衛星システムのコスト削減は急務だろう。
 今後は「業界スタンダードを握ることができる衛星開発へ宇宙予算を投じるべき」であり、“短・中・長期的に競争力のつかない技術開発”へは宇宙予算を投じる必要がないため、将来的に構築されるであろう内閣府宇宙戦略会議で開発の中立的評価・監査を行う体制が望まれる。

小型衛星開発国と企業動向(出典:タイ、バンコク大学)

 

  
      NASA,Smallランチャー戦略(NASA)      搭載アダプター(CNES/NASA)

◎ロケット開発への提言

 現在、日本が保有・開発・計画中の衛星打上LVSは、H-2A、M-V、GX、H-2B、次期固体計画(Solid-X)があるが、これらの技術動向や実情は過去の誌面で紹介した。国際基準とJAXAロケット戦略と宇宙開発委員会が審議している内容からすれば、日本は次世代動向から完全に乗り遅れているのが実態だ。モノによっては時代遅れではなく時代外れのコンセプトまで進められている。この現状から日本が失われた10年を取り戻すために、組織体制を見直して出直す必要があると考えている。では日本が今後すべき対策を考えたい。

@ H-2AはJAXA仕様から国際仕様へ転換、射場民営化

 H-2Aは素材ベースで7割以上が輸入品であり、日米宇宙協定の関係からタンク容量に制限が加えられている上に、旧式パーツを使用しているため、部品枯渇が見込まれている。また、射場システムも旧式でコスト高であり、人員かけ過ぎで打上システムの即応化も達成できていないため、このままH-2Aを国際市場へ出しても成功は見込めない。最近H-2Aの仕様を絞り込んで民営化する発表がなされたが、中身は全く民営化されていない。打上げ価格を削減して70億円としているが、これは“H-2A本体のみ“の価格であって、発射台の整備、組立て棟の管理費、ロケットと衛星接合作業費、打上作業費やそれに付随する人件費はすべて国民の税金で負担してくれというのが実態だ。現状のH-2A打上げ費用がすべてコミコミで200億円程度なので、もしこのまま民営化すれば、国側は100億円以上の赤字を抱える事になる。納税者としてみれば、受け入れられる提案なのか?日米宇宙協定を改訂しなければ、発射台の更新やバルブ部品の更新が困難である事と、世界がアッパーステージを追及する時代から見てもタンク容量制限の影響で開発ができない。つまり日米宇宙協定の改訂は必須・急務なのだ。
また、種子島射場システムを民営化が必要だ。種子島射場システム維持には膨大な宇宙予算が投じられており、国際市場を意識すればコスト削減が急務である。よって、日米宇宙協定改訂に加えて将来の宇宙利用時代を見据えた民間ベースの運営体制が必要になるだろう。フランスもすでに民営化を果たしている。


種子島射場のコスト削減は急務(daviddarling.info)

 また日米協定を改訂しても技術的問題は存在する。ボーイングはRS-68を、アリアンスペースはVALCAINE-2を開発し、一時期リードした日本の液体酸素/液体水素エンジンは追い抜かれてしまっている。今後は再使用化を含めてレベルアップできるかの踏ん張り所であるが、当面はLE-7Aの「性能向上・コストダウン・量産化・希少材料使用を軽減」すべきだろう。そして2段目エンジンはLE-5から国際市場対応型のMB-XXを採用し、国側は日米宇宙協定改訂によってタンク容量制限の解除を申請して国際仕様型のH-2C(commercial)を開発すべきだろう。また、需要が国内で見込めないのであれば、デルタ・アトラスファミリーとしてラインナップに入るべく、基本形態改修(モディフィカル)してソフト・打上システムのデルタW系化をし、シングルアッパーステージ化などをして国際仕様へ対応すべきだと考えられる。H-2Aを近代化改修して規格をあわせれば、DELTA-Wの小型版ができるかもしれない。また、日本の加工技術を生かして、DELTA-Wのコストダウン貢献をする方法も考えられる。かつて三菱重工は、DELTA-IIIロケットで燃料タンク輸出の道を拓いた実績がある。技術ももとを正せばDELTA-Mから育ったのであれば、アライアンス路線を狙うべきだと考えられる。JAXA宇宙基幹システム本部の現状戦略よりは国際市場へ対応できる戦略と言える。


H-2Aロケット国際仕様化への道(画像出典:JAXA、Boeing)

AH-2Bは時代外れコンセプトでありナンセンス

 次にコンセプト不足のH-2Bだ。H-2BはJAXAがH-2A部品を共通化して能力を引き上げるという都合のいい説明をしているが、コンセプトは時代外れだ。下図を見てみよう。


90年代〜現在のアメリカロケット戦略(出典:NASA)

 これはNASAが発表した大型液体ロケット戦略であるが、当時アメリカが保有する液体ロケットは「DELTA-II、DELTA-III、Titan-II、Titan-IV-B、Atlas-IIとAtlas-III」であったが、これを収斂し「DELTA-II、DELTA-IV、Atlas-V」と大きく分けて3種類に絞り込んだ。しかも注目すべきは液体ロケットの使用されるエンジンがDelta-IIは生産終了しているので別として、1段目エンジンはRS-68とRD-180だけとなり、2段目エンジンはRL-10シリーズへと収斂されている。1999年当時からみれば、液体ロケットはかなり整理統合されたことになる。この背景には

という考えがあり、「ロケットはすべて政府お抱えにはしない方針が良い」、「メーカー側は政府以外にも需要創出を目指して自立しなさい」というスタンスを示している。
 では、H-2AとH-2Bを見てみよう。JAXAは両者の部品共通化を主張しているが、最も製造コストへ影響を及ぼし、技術の中枢部とも言える第一段エンジンは共通化されていない。しかもLE-7A自体が過去の弱点を克服すべきなのが、根本的問題を解決せずに共通化に繋がらないH-2B用のクラスター型エンジンであるLE-7Cを進めている。宇宙予算が世界ナンバーワンのアメリカでさえエンジン共通化を進めているのに、日本(JAXA)はH-2AとH-2Bはエンジンが違うのだ。これを隠した上で“部品共通化”とJAXAは唱えている。

 これはナンセンスだ。ロケットメーカーからのエンジニアからも同様な声が上がっている。また、自前の有人宇宙活動として必要と主張しているものの、エンジン燃焼ソフトベースも輸入品であり、自律したロケットにもならない。H-2Aの民営化も打上げれば国が100億円以上の赤字を背負わなければならない要求をしている事情を見れば、まずH-2Bをやる前に「日米宇宙協定の改訂」、「射場システムの更新とコストダウン及び民営化」をH-2Aへ対して実施することが急務であり、これを最低限やらなければ民営化など無理だ。

 つまりJAXAは根本的な問題を解決せずにナンセンスなH-2Bを推進している。またJAXAはH-2Bを「HTV打ち上げ用」と主張しているが、そもそもHTVのためにロケットを新規開発するのはナンセンスだ。国際価格・技術的にすばらしいものを作るのなら検討の余地はまだあるが、大型液体廉価ロケットの「プロトン」価格を下回れず、アッパーステージ時代に対応できず、日本一国で維持するには大型過ぎてコスト高のH-2Bを国民の税金で開発する説得性は見られない。よって“H-2Bはコンセプト不足”であり、中止すべき計画だ。@項のH-2CとDELTAとのアライアンスを目指して「日米宇宙協定改訂」と「H-2A射場システムの更新とコストダウン&民営化」をまず実施すべきだ。

B有人宇宙システムは国際協調開発が前提

 人類がいずれ宇宙空間へ進出する時代がやってくる。その時代へ向けて有人宇宙開発をする必要性には賛同するが、それには前提条件がある。それは、有人宇宙開発は膨大な予算がかかるため「国際アライアンスが前提」であるということだ。ヨーロッパでは、アリアンロケット射場に有人宇宙ロケットの「SOYUZ」を誘致、有翼宇宙船「クリッパー」の共同開発を露欧米で構築する動きがある。アメリカも2006年後半にクリッパーの現地調査を終え、レンタル導入の検討をしているそうだ。日本もこの流れに遅れるべきではないと考えられるが、今後日本では消費税アップや社会保険料増額の導入によって国民生活がキツくなり、宇宙予算増額は見込めず、失敗すれば猛烈な批判を伴う。そうした中で“ゼロから有人宇宙開発”を行えば、膨大な税金が消費されることとなる。

 しかも、JAXA(旧NASDA)職員の人件費が異常に高いことも問題だ。JAXAの中で最も職員数の多い旧NASDA職員の給与水準は国家公務員の給与水準より非常に高く、「異常とも言える諸手当が多い」ため、「NASA宇宙予算の10分の1」の日本宇宙予算で「給与水準はNASAの2倍」という矛盾が存在する。1000万円以上の給与所得者がゴロゴロいるとの話も聞く。(捕捉説明:公的に発表されているJAXA給与値は、給与水準の低い宇宙組織(ISASなど)も混ぜて平均化、公表している。よって旧NASDAの給与水準の実態が公表されているわけではない。このカラクリを把握しておく必要があります。一般から見れば、考えられない手当ても支給されている。他の独立行政法人職員からも、旧NASDAの給与水準は極めて異常だとの意見も聞かれます) 

 有人宇宙開発には多額の国家予算・人員がかかることを考えれば、この時点で国民負担額はかなりのものとなる。また、GX計画の予算超過、国際宇宙ステーション計画の予算超過に加え、過去の宇宙計画はことごとく予算超過になっている事実を見れば、有人宇宙開発における予算超過は必ず発生する。そして金額規模から見ても一省庁が決断できる予算規模でもない現実が存在する。

 以上から、有人宇宙開発は国際協調開発を前提とすべきだろう。日本独自の“日の丸有人宇宙船”を見たい気持ちがあるが、目標にかかる“コストの現実”を見れば、受け入れ難い。恐らく、有人宇宙船を一国で開発できる経済力・技術力・推進力を有する国はアメリカ・ロシア・中国ぐらいだろう。インドも今後の経済発展で可能性はあるが、ヨーロッパや日本は国際協調路線がベストであり、経済的負担の観点で妥当だ。NASA-COTSのような、官民協力ですすめる方法も考えられるが、民間側資本の出元が社会的に許容されるべき人物及び組織である必要があり、問題のある資本の受け入れはふさわしくない。
 またJAXA筑波宇宙センターはアジア随一の宇宙飛行士育成センターになれる可能性には気付いていないようだ。JAXAには宇宙飛行士養成棟や宇宙飛行士訓練用の大型プールなどがあり、これら施設をもっと有効活用すべきとは考えられないか?日本がアジアにおけるナショナルプレステージを確立するならば、NASA仕様とも言える大規模な宇宙飛行士養成施設を国内だけに限らず、アジア・オセアニア諸国らへ施設を開放し、国際交流を通じて宇宙飛行士を育成、「宇宙飛行士養成大国」とするやり方も考えられないか?
 以上を踏まえて有人宇宙船開発戦略の策定を進める必要がある。単なる宇宙エンジニアによる技術開発暴走主義ではなく、国家予算(税金)を投じるのであれば、コスト的・技術的・政策的・地勢的に理に適った方法論を模索すべきだろう。

CHTVは国際市場では敗退が見込まれるため中止

 国際宇宙ステーションへ物資輸送を行う予定のHTVであるが、NASAのCOTS(Commercial Orbital Transportation Services:商業軌道輸送サービス)計画によって民間企業である“SPACEX社のFALCON-9”や“ロケットプレーンキスラー社のK-1”が宇宙物資輸送システムとして開発中である実情と、現状の国際宇宙ステーション(ISS)への輸送単価比較からすれば、HTVを製造する意義は失われた。総合科学技術会議でもHTVは「計画そのものを見直すべき」という答申がなされている。
 HTVは使い捨てで無人仕様であるにも関わらず、異常な価格高で製造されており、輸送単価も競合他者と比較して高い。国際競争入札で敗退したとの情報もある。しかも構造体の設計はドイツが設計しているとのことで、高コストで外国企業が設計・製造している。国民の税金であることを考えれば、継続すべき計画とは言えず中止すべきだ。


国際市場では高コストのHTV(JAXA)

D次期固体は国際市場を意識してSRB-A利用はやめ、最終段液体

 2006年8月、JAXAはM-V運用中止を発表、固体ロケット技術を維持するために低コストの次期固体計画を発表した。しかし内容は、コスト見積・中止説明の曖昧さ・代替案の不透明さ・技術的見通しの甘さ・技術維持にならないSRB-Aの利用(製造インフラが外国企業)という問題点の多い方針を示している。
一方、JAXAが参考にしたと思われるスペースシャトルSRBを流用したNASAのARES-1は、2006年11月にSRB流用の無理が露呈、設計し直しが発表された。一部マスコミが指摘していた「SRB流用によるコスト削減論理が崩壊する」という話が本当だったのだ。一方、日本はかつて失敗した「J-1」の問題を繰り返さない主張をして、次期固体はSRB-A流用によるH-2Aとの部品共通化を主張しているが、すでに現場ではSRB-A流用による共通化は無理との意見が大勢を占め、M-V中止時に主張した論理が崩壊しつつある。

 固体ロケットは日本が唯一100%国産化できる素地をもつロケットだ。液体ロケットはソフトウェアが海外の大型液体ロケットのものをパッケージとして輸入・改造使用しており、許可がないと打上げられない。固体を失えば国際的ロケットの地位は落ちる。しかしJAXAはSRB-Aの製造インフラが実質外国企業でソフトも外国製である事実を隠し、SRB-Aを流用した失敗作J-1の再来を進めている。固体を育てた宇宙科学研究本部の方に固体ロケット技術があるにも関わらず、魑魅魍魎な計画を掲げて実質的な宇宙研とM-V潰しと科学衛星計画を遅延させた責任は追求すべきかもしれない。

 固体は文部省、液体は科学技術省という負の遺産を抱え、これだけの事実がある中でSRB-A流用を唱えるならば、JAXAの能力的限界があると結論付けられる。以上、「SRB-A流用はダメで技術維持にはならない」、「ヨーロッパやアメリカの固体ロケットは最終段液体」、「液体ロケットよりも部品点数が桁違いに少ないため、固体ロケットは価格的に優位」、「低公害性を目指すべく、低融点推薬や低毒性開発が進められている」という事実を踏まえて次期固体計画は「SRB-A利用は中止し、国際市場価格を意識して最終段液体を考慮した計画」が前提条件になるだろう。結論を言えば、M-Vベースでロコット(ROCKOT)を目指すべきだ。日本ならば不可能ではない。


M-V(ISAS)            ROCKOT(Eurockot)          Minotaur発射台(OSC)

EGXはATLAS-Jへ

 2006年には、LNGエンジン開発遅延が発表され、予算超過の上にサービス開始が5年も遅れるという発表がなされたGXロケット計画は、総額600億円近い費用がかかると見込まれている。従来の計画が実現する頃には、射場システムや仕様が陳腐化している可能性が高く、海外宇宙誌からも計画そのものを中止すべきとの論説が発表されている。この袋小路を打破し、世界を驚かせてGXロケットが国際市場へ出るためには、部品輸入先のロッキードマーチン社とアライアンスを組むことだ。現在ロッキードマーチン社はATLAS-Vロケットを運用中だが、GXはこのロケットよりも一回り小さい。よって、LNGエンジンは研究継続し、2段目エンジンはGX開発元のIHI(石川島播磨重工業)がかつてライセンス製造したRL-10エンジンシリーズをライセンス生産するか輸入し、ノーズフェアリングは国際市場を見越してAtlas-Vと共通化できる仕様で作り、フェアリング寸法はロッキード社と協議の上で決定する方式で進めた新型GX、いや通称ATLAS-Jとして仕様変更すべきだ。

 GXの国内需要はH-2Aと競合し、その事実を隠すため打ち上げ能力を下げた仕様をJAXAはしているが、この方便は国際的に通用しない。製造元のブランドイメージを悪くする行為かもしれない。ATLASロケットは仕様が違えども、累積ベースで100機以上が連続打上げ成功している事実を見れば、信頼性が非常に高く、有人宇宙船を搭載できる素地を有するロケットだ。実際ATLAS-Vに有人カプセルを搭載する計画も存在する。また、ATLAS-VやGXはRD-180という共通エンジンを使用し、そのエンジンはフライバックブースターとしてロシア、アメリカ、ドイツで研究が進められている。いずれRD-180ベースのアライアンスの可能性があるならば、GXで同エンジンを抱える日本はこの連合へ参加して国際協調路線でフライバックブースターや有人宇宙船を開発する道が考えられる。ゼロから有人宇宙船を開発するよりも戦略的でコストもかからない方法論の1つであり、これは日本として考えるべき方策かもしれない。

 以上はあくまで新型GX(ATLAS-J)の将来性考えたが、当面の課題は既存GX計画を抜本的に見直す必要がある。GX計画の元はJ-1計画失敗から立ち上がり、J-1改、J-2、GXと歴史があまりすばらしい背景を持たない。過去のしがらみを脱出し、「国際市場で勝つイノベーション戦略」として立ち直る戦略が必要だ。このほうがIHIや輸入元のロッキードマーチン社へとってメリットある戦略だ。当然、筆者らの提案を上回る戦略を宇宙開発委員会やメーカーらが提案できるのならばそれを推進すべきだが、少なくとも現行GX計画を推進するよりは、関係者が有益性を得る戦略だと考えている。


ATLAS-Vの有人宇宙船搭載計画(出典:Lockheed Martin Corporation)

       
 GX(出典:GX)                      ATLAS-Vとのアライアンス(出典:ILS、e.gibbs)

FISSのモジュールが打上げられない場合はプロトンにて打上げ

 国際宇宙ステーション計画では、日本が担当するモジュールが打ち上がらない可能性が存在する。実際、日本が担当していた生命科学実験施設“セントリフュージ”の打上げ中止が決定された。さらにはJEMそのものも打上がらない可能性も出てきている。これは、スペースシャトルが“2010年までに運用終了”すると発表、それ以前に中止する可能性もあり、どの位打ち上がるかは、現存するスペースシャトルのオービター3基(アトランティス、エンデバー、ディスカバリー)のオペレーション次第という問題がある。実際何回打上げられるかは分からない状況下でNASAは優先順位の高いものから打上げており、日本が製造したJEM(きぼう)の打上までに、スペースシャトルが引退してしまう可能性は十分に考えられる。このままでは開発・製造に10年、地上保管して10年の“きぼう”が打ち上がらないという事態に成りかねず、エンジニアの苦労は水の泡、1兆円以上かけた宇宙モジュールが博物館入りしてしまう事態となる。この最悪の事態は避けねばならず、リスク管理の観点から、別の打上手段で対応する方法を模索すべだ。JEMが打上げられるロケットを探すと、アメリカのTitan-4BとロシアのProtonが考えられる。しかしTitan-4Bは引退が決定し、整備保管してある状態であるが、軍用として使用されているため、利用困難な可能性がある。一方、Protonは宇宙ステーション「ザーリャ」を打上げた実績があり、“きぼう”の仕様を変更して打上げることは不可能ではない。“きぼう”の構造がProtonの打上げ環境に耐えられない可能性が指摘されているが、すでに“きぼう”が打ち上がらない話が現実味を増す実情を鑑みれば、日本としては検討すべき事項であると考えている。

◎失われた10年、失いつつある5年

 JAXAや宇宙開発委員会は、ここ10年レガシー・ランチャー打上げだけを推進し、その間に世界は戦略変更を実施、大型爆走路線を変更してロケットや衛星は「機能最適コスト重視型へシフト」した。しかし日本は80年代90年代の技術路線を延長する方式で宇宙開発を進め、世界動向を精査せずにほぼ無為無策の戦略を続けている。世界は日本を「宇宙予算は世界第2位、実力は世界第5位」と評価しているそうだ。平成不況期から10年、これ以上堕落しないためにも今後の「5年間の短期戦略」と「2025年までの宇宙戦略策定」が日本再浮上のラストチャンスだと考えている。この時期を逃せば、日本は世界競争から完全に脱落し、ロケットも衛星もろくなものが出来ない事態となる。ではどうすれば良いか?宇宙予算を増額すればよいのか?そう簡単ではない。宇宙予算増額云々を主張する前に、宇宙組織そのものを再構築する必要がある。

◎組織再構築の必要性

日本の袋小路を打開するためには、JAXA暴走主義の宇宙開発体制を是正し、以下の項目が戦略的に重要であろう。

@国際基準のLVSシステム再構築・・・・・・・・・・・・・・・・・・大型はアライアンス、中小型は国際基準・国際標準
A小型衛星時代への対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日本版商業衛星(JACSAT)の育成
B産業再編・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・新規参入による宇宙産業の再編
C有人宇宙戦略の策定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コストミニマムも意識した国民が許容できる戦略
D宇宙利用産業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・準天頂・モルニヤ軌道の自国利用システム化
E宇宙外交の転換・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・米国主体主義から国際アライアンスへの対応
Fエアランチ・フライバックブースター・RV技術確立・・・・・新世代技術の確立

 当然ながら、宇宙科学分野は世界トップレベルにあるため、戦略変更を行う必要はない。宇宙科学研究本部は、「目的・コスト・効果のバランス」が優れており、世界的にも評価は高く、宇宙WEBサイトでもISASを賞賛する記事が書かれている。
http://www.spacedaily.com/reports/Japan_Home_Away_From_Home_For_NASA_Marshall_Astrophysicist_Supporting_Hinode_999.html

 しかし、その他の分野は徹底した組織再構築が急務だ。宇宙基本法が議論されているが、それだけでは不十分だ。筆者らが提案するならば、今後は宇宙利用時代を意識して、技術開発主体の文部科学省主導は止めるべきだろう。宇宙先進国の中で科学技術系官庁が宇宙のリーダーシップをしている国は日本ぐらいだ。他では商務省系や国防省系など、宇宙利用を前提とした官庁が主導権を握っている。よって文部科学省主体のJAXAは機能分割し、
・ 公共宇宙利用機構(総務省)
・ 宇宙航空開発機構(経済産業省)
・ 宇宙戦略政策機構(内閣府)

と機能再編する必要があるではないか?宇宙利用時代がやってくる時代を鑑みれば、いつまでも“競争力のつかない技術開発”を進める文部科学省の体制は許されないだろう。宇宙戦略を策定する宇宙開発委員会は、独自調査能力を有しておらずJAXA監査機関として機能不全状態であり、「液体は科学技術省、固体は文部省」という負の遺産継承体制を進めている実情と、GX計画も将来性が見込めないにも関わらず効果的な計画変更をせずに容認している実情を見れば機能解体し、“既存体制を継承しない体制”で内閣府を中心に再構築すればよい。
 宇宙利用時代を見据えれば、国際競争力のない技術は開発する意味がない。ETS-8やALOSがその典型例だろう。世界第2位の宇宙予算を保有して旧NASDAが膨大な宇宙予算を投じ、日本の宇宙産業が国際的な地位をろくに築くことができなかった現実と、宇宙先進国では科学技術系官庁が主導権を握っていない事実と、技術国際市場を意識した技術開発体制が必要であることを考えれば、JAXA技術開発部門は経済産業省主体の技術開発体制へ再編する必要がある。ここで競争力のつかない技術開発は整理・統合すべきだろう。
 また、従来の気象衛星などは国民生活へ影響のある上にナショナルプレステージとして外交にも影響を及ぼすため、内閣府に近い総務省が管轄し、公共宇宙システムの基盤維持へ努めてはどうか?準天頂軌道やモルニヤ軌道もアジア・オセアニアへナショナルプレステージを確保できる分野である戦略性も認識すべきだろう。また総務省は衛星にとって重要な、「通信の周波数を管轄」する部署であるため、大学や企業の周波数配分など重要な組織だ。公共宇宙活動を行う上で内閣府とも近いため、文部科学省よりも適任だ。また、宇宙科学研究本部は優れた組織であるため、日本の宇宙頭脳中枢とも言える。最先端研究をしている言わばNASA-JPL的な組織であるとも言える。よって独自の宇宙活動を実施しつつ、宇宙探査は宇宙科学研究本部と国立天文台の一部と共同で“宇宙探査研究機構(J-JPL)”を構築し、内閣府に設置してはどうか?費用対効果が優れ、先端技術を最も研究できる組織を内閣府の下に置くことは世界へのサプライズ戦略でもある。

◎まとめ

 くどいようだが、JAXA(旧NASDA)はここ10年、過去の遺物であるレガシー技術のみを打上げてきただけの組織だ。衛星は宇宙バブル時代に製造した在来技術の在庫放出状態となり、このままでは日本の宇宙産業が次世代・新世代について行けずに淘汰される可能性が高い。国家宇宙開発は「Small is Beautiful」へと考えがシフトし、コストパフォーマンスを意識した開発が行われている。またニューカマーの登場により、既存宇宙企業が彼らの追い上げに遭い、淘汰される可能性から、宇宙先進国は技術的・価格的に優位に立てる小型衛星開発を推進、「目的・費用・効果」を追求するようになっている。この時代から見れば、日本としても小型衛星推進は急務であり、ニューカマーから既存企業を対象にMEMSや革新的技術を有する部品から衛星まで育て上げる戦略と支援策が必要だろう。それと同時に即応型宇宙政策の技術的・商業的・利用的効果の本質を見抜く必要がある。
 H-2Aは順調に見えるが、「日米宇宙協定改訂」と「射場民営化とコストダウン」と「エンジン更新」という戦略転換をしなければいずれ朽ち果てるだろう。H-2Bは計画そのものがナンセンスである。GXも同様であり、ATLAS-Jへの戦略変更が生き残る道だ。次期固体は国際市場価格を目指して国産技術発展をベースに進めるべきであり、SRB-A流用はナンセンスで最終段液体が国際基準だ。
 次世代宇宙戦略シリーズを通じてJAXAや宇宙開発委員会が国際基準から逸脱し、機能していない実情を説明した。日本の宇宙開発が世界第2位の予算を持ちながら世界から賞賛されない実情を読者のみなさんにはお分かりいただけただろうか?「M-Vを止めるぐらいなのだから、すごい計画が考えられているのだろ?」と海外から言われると、ため息が出てしまうが、世界は「日本がどのような宇宙戦略で出直してくるのか?」を注意深く見守っている。日本が再浮上するためには、機能しない組織は解体し、再構築する必要がある。今月号は1年分の総集編としてまとめたが、読者の皆さんにも日本の宇宙活動が過渡期にある実情を知り、効果的改革の必要性があることを理解していただけば、これに越した事はない。次回からは別のスタンスで宇宙動向を探りたいと思う。

ーーーーーーーーーーロケット開発への提言ーーーーーーーーーーーーーー
@H-2AはJAXA仕様から国際仕様へ転換、射場民営化

AH-2Bは時代外れコンセプトでありナンセンス

B有人宇宙システムは国際協調開発が前提

CHTVは国際市場では敗退が見込まれるため中止

D次期固体は国際市場を意識してSRB-A利用はやめ、最終段液体

EGXはATLAS-Jへ

FISS(国際宇宙ステーション)の日本モジュールが打上げられない場合はプロトンにて打上げ
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