新世代・将来宇宙システム展開(2030年のスペースシステム)
        (エアワールド2008年2月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年2月号」をお買い求めください


 本稿では、新たに入った情報を整理しながら、将来日本が進むべき宇宙活動及びJAXA組織改定後の体制を考えてみたい。

◎周回型衛星ニーズの拡大

<産地監視・資源管理>

 先の誌面で述べたが、民間企業が地球観測データを購入する動きは加速している。特に水や食物関連企業が注目しており、水資源探査や穀物産地移動の対応として利用されている。例えば、今年は猛暑と台風直撃のため米の収穫が悪いそうだ。地球温暖化により南部の亜熱帯化も加わって収穫が悪くなりつつある。品種改良による対応も限界に達しつつあるとの話もある。よって将来の米最適産地が北海道になるのでは?と本気で議論されている。先進国の中で最も食料自給率の低い日本が、地球温暖化と地球人口増加により食糧不足が危惧される中、将来は輸入価格高騰となり産地移動も重なって日本の食生活が変化して経済活動及び外交環境が変化する可能性は十分考えられる。産地移動を考えれば、宮崎では亜熱帯化によりバナナの名産地となるかもしれない。青森リンゴからミカン名産地となるかもしれない。米は北海道へ行きジャガイモはカムチャッカ半島へ産地移動する可能性も十分考えられる。つまり地域経済から食生活まで大きな影響を及ぼすのだ。

また農業は気候との戦いでもあり、日本は今後、食糧不足・産地移動時代に備えて産地監視衛星が必要になるだろう。国内の発育状況監視をはじめ、海外の農場データも取得して食料の安定確保へ向けて外交的・経済的活動を展開する必要がある。しかし問題もある。産地監視衛星としてALOSや情報収集衛星(IGS)では大型過ぎ・コスト高であり、食糧安全保障の観点で見ればコンセプトが悪い。別の次元で考える必要がある。

海の世界でも衛星データ利用の拡大は進んでいる。日本のある漁協では、海外から衛星データを購入、「海水温度データ」と「プランクトン分布データ」をベースに魚群が集まる海域を特定、そこに網を張り、効率の良い漁業活動を行っている。魚群探知機の時代から衛星データを併用する時代へと拡大しているのだ。これは海外でも当たり前となっており、海洋資源を巡って今後は熾烈な競争が繰り広げられる可能性もある。これら次元でも、漁獲資源監視によって秩序ある海洋資源確保へ向けて国際的な宇宙同盟の枠組みが必要となるかもしれない。国際衛星技術トレンドからみても、世界から嘲笑されないためにも、今後はALOSやIGSではなく、1000kg以下で製造する必要があるだろう。

 
海面温度(NOAA)         日本の温度変化(環境庁)

<店舗出店>

 また、地理情報における利用拡大も進んでいる。ある大手スーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、地球観測画像と不動産登記情報等を加えた地理情報システム(GIS:Geographic Information System)により、出店を判断している。各社が独自に持つ情報には、出店付近の人口や競合店舗情報、交通量データ、地権者データなどがあり、これらデータをもとに、スーパーやコンビニは直接、地権者へ交渉して土地を購入、新規出店を迅速に展開している。これら衛星データ情報等を提供しているのは株式会社パスコであり、ドイツの合成開口レーダ衛星TerraSARを使用している。このTerraSAR製造・打上には、穀物・運輸・地理情報関連企業が出資しているそうだ。筆者の知人が聞いた話では、大手スーパー企業では、将来的にコストが合えば衛星を単独保有することも検討しているそうだ。JAXAのような観測データも悪いうえにコスト高の衛星は論外だが、SSTLらが開発するASTRO-SARのような衛星をさらに低コスト化したものであれば、検討対象とするそうだ。逆にALOSのような合成開口レーダーはコスト高で話にならないそうだ。

  
コスト高JAXA-ALOS/だいち(JAXA)        日本企業も出資した独TERRASAR-X(astrium)

<マスメディア、衛星保有の動き>

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マスメディアがEROS-C型購入の動き(IAI)


<密輸・密入国・海賊監視>

 また、衛星利用は新たな局面を迎えている。それは、密輸・密入国監視だ。2006年11月、末端価格にして500億円を超える麻薬を輸送していた船舶がコスタリカ沖で拿捕された。驚くことにこの船舶、麻薬密輸組織の自作潜水艦だったのだ。水深2mまで潜水可能なため、船舶レーダーでは探知困難、夜間に潜水航行されれば発見は不可能と言われている。今回の逮捕は呼吸用の3本の管が海面へ突出しているのが当局に発見されたと言われている。また麻薬密輸には、大型船舶の船底に別の水没式貨物船を取り付けて輸送するやり方や、飛行機からパラシュート落下させる方式、はたまた国境付近で小型ロケットの弾頭へ入れて打上、隣国へ撃ち込んで密輸する方法まで、実に巧妙な手口による密輸事例が公表されている。船舶レーダーで探知できない今、これら対策としてハイパー・スペクトルセンサーの使用が検討されているそうだ。より細かなスペクトル・データをもとに、より高度な探知が可能になるそうだ。一部の国では、航空機へ搭載して密輸・密入国監視に使用されているそうだ。


潜水艇による麻薬密輸(時事通信)                    アフガニスタンの麻薬栽培(SSTL)

 一方、麻薬の原料植物“ケシ”などの自然植物は従来の衛星で探索可能だ。SSTLではアフガニスタンでケシを栽培する分布図を公開している。これは従来のマルチスペクトルカメラで撮像可能だ。しかし、自然界では存在しない合成麻薬は複数の植物や化学薬品を組み合わせているため、マルチスペクトルカメラでは発見困難と言われている。だが、その合成麻薬の原材料発見にハイパー・スペクトラルセンサーを利用する動きがあるそうだ。

 また、海賊問題も無視できない領域へ達しつつある。「海賊なんて映画の世界(パイレーツ・オブ・カリビアン等)であって現実ではない」と考える読者もいるかもしれないが、そうではない。国際商業会議所国際海事局によると海賊船による船舶の攻撃は、年10%超の高い伸び率で増加していると発表され、公海上の治安維持は緊急課題となっている。実際に日本の商船も攻撃・乗っ取りに遭っており、保険会社の損失額増加および経済活動の障害が顕在化しつつあるそうだ。このため、無人ロボット船による監視・防御システムが開発されている。既存の警戒船舶では量的・コスト的に対処不可能になりつつある現状を打破する体制を目指しているそうだ。これは、衛星データをもとに、海賊船の特定や通報による情報を元に、ロボット船が急行するシステムだそうで、人命損失を抑えてコスト低減を図るコンセプトだそうだ。

 今後、無人航空機・無人監視船と衛星らの組合せによる、栽培・密輸・密入国・海賊監視ホイッスル・システムが構築されるだろう。

◎静止衛星の技術トレンドも変化

 以上、従来の通信衛星や気象・地球観測衛星の分野ではなく、別の分野で新たに衛星需要が生まれている。だが現状は、トータルコストが高いために普及しておらず、当面は普及段階へ達するまでのデスバレー現象が続くと見られ、アメリカ、欧州を中心に積極的な衛星の小型・軽量化追求及びモジュール・ユニット衛星の開発が“コストを意識”して進められるだろう。「低コスト化は業界が伸び悩む」という論理で着手を拒む企業・組織はいずれ国際的にオーソライズされない状況へと追い込まれ、淘汰される可能性が高い。

 また、静止衛星における大型化偏重主義にも変化の兆しが見えつつある。従来の静止衛星は最大クラスで6000kg以上あるが、機能分散型衛星が将来的に検討されていることは、過去の誌面で述べた。低軌道にて衛星同士がモジュール交換実験に成功したOrbital Expressミッションによって、燃料補給技術と部品交換技術が確立されたことから、衛星運用企業である中東のアラブサットは、今後調達する衛星へ燃料補給ブローブを標準装備すると公式発表している。つまり、「完全使い捨て衛星」から「衛星を再使用(延命)する」方向へシフトしている。


通信ビーム変換機能付衛星WGS(Boeing)

 静止衛星の運用終了原因を分析すると、全体システムが順調でも残存燃料を理由に廃棄処分となった衛星が意外にもあるそうだ。また、搭載電池・太陽電池の劣化などもあり、「これさえ交換(補充)できれば、100億円の衛星をもっと使えるのに、、、」と断腸の思いで衛星廃棄した例も少なくない。これら実情およびニーズとOrbital Expressの成功により、静止衛星メーカーはモジュール交換可能なシステム設計を検討しはじめている。聞くところによれば、今後は機能分散やユニット・モジュール型衛星時代を見越して、大型偏重主義ではなく、電源系、アンテナ系、燃料系が軌道上でユニット交換できる仕様を検討しているそうだ。つまり、使い捨てが前提だった衛星が、「劣化・消耗しやすいものはモジュール交換」する発想が生まれている。

 また、時代が変われば通信需要も変化する。通信放送衛星は、打上げ時に通信可能領域を固定して打上げているが、将来的には通信可能領域を変化できる可変ビーム技術を応用させて、必要な領域に必要な通信需要を供給できる衛星を検討するそうだ。例えば、日本の通信需要が減少し、中国・台湾・フィリピンの通信需要が拡大すれば、通信ビームをそちらへ振り分ける仕様が検討されている。先日、ボーイング社が打上げたWideband Gapfiller Satellite (WGS) がその技術実証だそうだ。ニーズに応じて通信ビーム量を変化できる衛星は今後、主流となるかもしれない。

◎民生品による革新的衛星の可能性も

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ハイパー・スペクトラルセンサーシステム「アグリビュー」(株式会社サタケ)

◎新たな宇宙技術を追求するために

 このような民生技術の宇宙進出は、既存宇宙技術の淘汰が始まることを意味する。既存宇宙企業は戦略の転換を否応なく進めざるを得なくなるのだ。そのステップとして小型衛星技術の追求は必須となるのだが、既存衛星企業にとって好都合な情報が入ってきた。

 そもそも衛星とは、限られた空間で纏め上げる必要がある。また、国際動向からモジュール&ユニット型衛星のコンセプトが主流になると考えられている。これら時代へ備えて、海外ではキューブサットというナノ衛星開発に力を入れているが、その本質には“RFタグ、携帯電話、キューブサット”がキーとなる情報が入ってきた。宇宙関係者ならばキューブサットは衛星としての最小機能単位として見ているが、携帯電話も機能という次元で見れば太陽電池はついていないが「音声やデータを双方向通信する機能」という点で機能は同じであり、限られたスペースにシステムが小型コンパクトで纏められている。またRFタグも周波帯によっては100mまで双方向通信が可能である。

 宇宙は特殊環境のため「自分たちは特別な存在だ」と宇宙関係者は思いがちだが、設計コンセプトという次元で見れば、限られたスペースに機能を押し込んで、纏め上げるという点で「RFタグ、携帯電話、キューブサット」は同じなのだ。これは一部の宇宙先進国ではすでに認識されており、「RFタグ(小)、携帯電話(中)、キューブサット(大)」は技術をモジュール交換できる存在であると定義され、宇宙に限らず“これが21世紀の産業革命のベースとなる”と考えられているそうだ。確かに一般で使われている携帯電話関連技術をキューブサットへ導入したら、低コストで飛躍的機能強化ができるかもしれない。また、「RFタグ(小)、携帯電話(中)、キューブサット(大)」も相互に技術をモジュール交換できる存在にもなり得る。機能向上が図れれば、$10mil(約12億円)ミッションや$1mil(約1.2億円)ミッションが実現できるかもしれないそうだ。


RFタグ(Pacific Northwest National Lab)     携帯電話(日東造機)                  キューブサット(calpoly)

 今後は即応型宇宙政策のように、ショートスパン、ショートレンジの二ア・スペース(低高度宇宙)ミッションの需用が大きくなると見込まれているそうだ。この時代に備えて、新たな需要開拓をすべく国内宇宙企業を育成する戦略が必要であると、一部宇宙先進国が行動を起こしているそうだ。この潮流に携帯電話を製造している日本大手宇宙メーカー(電気メーカー)は乗るべきだろう。既存の静止通信衛星市場は旧NASDA戦略が乏しく敗北したが、別の次元で逆転できるチャンスは十分にある。これは既存技術路線のJAXAではなく、内閣府宇宙戦略本部や経済産業省が育成戦略を立てるべきなのかもしれない。「RFタグ(小)、携帯電話(中)、キューブサット(大)」技術が“21世紀の産業革命のベース”というのがキーワードだ。

◎需要見込みのない技術開発はゆるされない時代へ

 これら産業革命のベース技術を地道に育て上げる一方で、既存衛星メーカーによる凋落した技術遅延衛星を是正し、戦略的な国際貢献衛星コンセプトを打ち出すべきだろう。HTVを転用した地球観測衛星を展開するというコンセプトが考えられているが、技術的知見を生かすことは否定しないが、「コストに見合った知見を流用して、世に送り出す」という点で評価をすれば不合格だ。そうではなく、先の産地移動監視衛星に加え、バイオ・ガソリンと耕作を監視するバイオG衛星やCO2排出を監視するCO2監視衛星なども日本が小型・低コストで国際監視として提供、バイオ・ガソリンのために森林伐採する“本末転倒”の行為などを予防する戦略等も考えられる。また、先の麻薬製造国を、衛星データと耕作技術の提供により、小麦・米・トウモロコシなどの穀物輸出国へと転換させて国際経済の枠組みに入れたりする戦略も、日本が国際的地位を築くことができる。

 日本は抑止効果として地球平和を守る衛星網を構築、ホワイトバード衛星(人類平和維持衛星郡)を打ち出すコンセプトがあってもいいかもしれない。日本が国際的に存在感ある地位を築くのであれば、軍事装備の強化ではなく上記のようなホワイトバード衛星構想の方が評価を得られるかもしれない。人口減による将来的な国力衰退時代を想定して、宇宙も新たな体制を構築したほうが、宇宙技術者の雇用を守れる可能性も高いのだ。

 もしくは民間によるプラベート衛星が21世紀の人類生存を託す可能性も考えられる。企業利用の衛星情報には国際活用義務(情報提供義務)を課す必要があるかもしれない。その対価として政府がプライベート衛星へ出資する枠組みも考えられる。衛星の計画・製造・打上・運用の全てを官(JAXA)が全て実施しなくとも、上記コンセプトは低コストでデータ収集可能になるかもしれない。

 つまり、宇宙利用、衛星調達の形態が変化しつつある国際動向を我々は感じ取る必要があるのだ。宇宙基本法を単なる“軍事利用が広がる”という短絡的な考えでミッションを提案してはならない。

 だが、JAXA衛星は相変わらず大型偏重&高コスト主義を貫いているようだ。新聞報道では、きく8号の送信機が機能せず、大容量通信が実現できなかった問題の原因究明や反省会を実施せずに、今度は30mアンテナ級の超大型衛星を開発する案を発表している。月探査衛星「かぐや」も、ハイビジョンカメラで国民受けする綺麗な画像を公表したが、中国の月探査衛星「嫦娥1号」は、月の3次元地図を作成するカメラを搭載、欧州ESAは日本ではなく中国と月着陸船開発で協力する方針を発表した。「綺麗な月面画像」より「月着陸船を降ろす地形図」の利用価値が高いのだ。中国より2倍以上の時間とミッションコスト(衛星とロケット費用)をかけて打上げたJAXA月探査衛星「かぐや」の現実がここにある。WINDS(きずな)も打上げる意義が非常に低い。離島通信問題解消ならば、民間の高速通信衛星を利用したほうが安上がりだ。二酸化炭素(CO2)監視衛星GOSATも目的・費用・効果のバランスが悪く、大型でセンサーも輸入品、国際比較しても敗北している。準天頂衛星も同様だ。最新の国際動向と照らし合わせれば、JAXA衛星の時代遅れは明らかだが、JAXAは海外最新衛星の都合の悪いものを意図的に無視している。

 過去の失敗を教訓とせず、世界動向も把握・分析せず、コストも異常な宇宙システムをJAXAはまだ開発すると発表しており改革は全く進んでいない。このままでは、JAXAが開発する通信放送衛星、周回衛星、測位衛星が1周遅れ、いや2周遅れのランナーと陥る可能性が高い。JAXAや通信放送衛星を開発するメーカーらは、国際的技術トレンドを見誤らないようにする必要がある。
 
 今後は、上記のように宇宙利用環境が変化し、需要見込みのない技術開発はゆるされない時代がやってくるだろう。低軌道衛星はユニット・モジュール化と低コスト化が進み、それら確立された技術が静止衛星へフィードバックされる時代が長期的にやってくることは国際動向が証明しつつある。いずれ宇宙も官から民中心へ移行する時代になることも考えれば、JAXA組織の解体・スリム化と内閣府宇宙戦略本部の徹底した戦略研究が今後必要になるだろう。


           故障・機能せず「きく8号」     打上意義が低い「きずな」   センサー輸入品の「GOSAT」 
(画像出典:JAXA)

◎打上げ手段も変化へ

 そして、打上げ手段も世代交代が進みつつある。欧米露ではTSTO(Two Stage to Orbit: 2段式宇宙輸送機)へ向けた技術開発が進んでいるが、宇宙先進各国では「短期的、中期的、長期的」ランチャー戦略を立て、今ある技術や将来達成しなければならない技術に対し、優先度を意識してロードマップを描いた技術開発を実施している。

 また今後の宇宙における官需比率は、低下するだろう。ある海外の宇宙関連研究所では、2030年には国家宇宙予算における官需比率は30%、残りの70%は民間資本で成り立つ時代が来ると予測している。しかもこの官需30%のうち、「軍事関係が80%、宇宙探査は20%」になると予測され、商用通信衛星に加えて“打上手段”及び“周回地球観測衛星”なども民間主導開発・調達になると予測している。かつて、自動車開発や航空機開発が国家予算中心で行われてきた時代から、民間出資比率が上昇したように、宇宙にも同様な時代がやっていることを想定している。つまり、JAXAのような国家宇宙組織は、規模縮小が要求される時代がやってくるのことを意味し、上記で示したように、私企業(プライベート)衛星時代が到来すると予測している。

 これらプライベート衛星時代を見据えて、ランチャーも新たな戦略を考えなければならない。今後は、H-2AやH-2Bのような国威発揚型・コスト高・混載システム不適合型のロケットは姿を消していくのではないか?と考えている。どんなに、先代の成果がすばらしく、国家予算をかけても、戦略や技術継承を間違えれば消え去る運命となり、少なくともランチャーはプライベート衛星時代へも対応したコンセプトが必要になる。

◎TSTOまでの技術蓄積へ向けて

 プライベート衛星時代に対応するには、打上げ手段の劇的なコストダウンを目指さねばならない。この劇的なコストダウンを実現するには、ドラスティックな打上げ手段の見直しが必要になる。例えば、SPACEXのFALCON-1ロケットの液体エンジンは、希少材料を可能な限り使用せずにLE7のようなポンプフィードではなく、比較的技術ハードルの低い圧力フィードを利用してエンジン単体のコストを可能な限りダウンさせるチャレンジだと考えている。また、Minotaurのような固体ロケットは、既存モータをモジュールとして組み合わせ、バリエーションを揃えて幅広い打上げレンジ幅を構築する発想だろう。そして民間が開発するサブオービタル機も、技術はTSTOへ結びつくコンセプトで、既存航空機技術を用いながら再使用型ロケットの技術を追求するコンセプトだろう。官であれ、民であれ、近年のランチャー開発は明らかに技術偏重主義ではなくコスト・技術・タイムスパンを意識した開発が行われていると考えられないか?

 そして、打上げ方式もコストダウンのため、簡易化追求が進んでいる。地上打上型ロケットは今後、航空機搭載ロケットよりも大型にするか、コストが圧倒的に有利でなければ生き残れないかもしれない。なぜなら、TSTOへのステップアップへと繋がる空中発射ロケットは、宇宙先進国が有望視しているからだ。ロシアでは、インドネシアからAn-124大型輸送機からロケットを打上げる計画を進めており、インドネシア側も公式に認めている。ロケットエンジンは実績のあるSOYUZのRD-0124エンジンや、K-1やTAURUS-2で採用されているNK-33(NK-43)を使用している。現在の空中発射ロケットはアメリカのPEGASUSしかないが、近未来的には戦闘機ベースや大型輸送機ベースのものが開発・検討されている。これら事例は過去の誌面で述べたが、打ち上げ母機のロケット搭載トレンドは下表となる。

空中発射ロケット搭載トレンド

 空中発射ロケットの打上げ方式は、過去の試験で「懸架式、背負い式、空中給油式、牽引式、パラシュート放出式」があることを述べた。この技術トレンドを調査すると、空中給油式は、高速航空機や貨物航空機がロケット搭載後に離陸して上空で給油する方法は現行技術で可能であるが、発射母機ではなくロケット側の燃料供給は液体酸素を供給するため、危険を伴う。また現行の空中給油機は速度がマッハ1以下なので、給油段階に上空10km、マッハ1以下で飛翔していることは打上効率上よくない、もしくはスペースプレーンのようなコンセプトがまだ実用化していないため、戦闘機のように打上げ後に給油してから打上体制へと移行するコンセプトは存在するが、宇宙往還機のように空中給油式によるシステムは主流とはなっていない。

 次に牽引式だが、戦闘機を牽引・離陸させる実験はアメリカで行われたが、本格的な開発には至っておらず、コンセプト止まりとなっている。Kelly Spaceという民間企業がAstrolinerというSSTO(Single Stage to Orbit: 単段式宇宙輸送機)を目指して出資を募っているが、主流になりつつある戦闘機ベースのエアランチと比べ、技術的リスクが多いことと開発費も膨らむことから、知見の積み重ねが得られた段階で再浮上してくる可能性があるだろう。

 一方、懸架式、背負い式、パラシュート放出式は実用済みもしくは開発段階にあると言える。懸架式は胴体懸架、翼懸架があるがペガサスで実証済み、パラシュート放出式はミニットマン弾道ミサイル打上ではあるが実証済みで、Airlaunch LLCがQuickreachロケットで開発中、ロシアもエアランチ社が開発設計着手した。背負い式は研究・開発段階にあるようだ。背負い式は、将来のTSTOへ向けた分離技術実験が含まれるので実証価値は高いと見られる。



◎空中発射システムのトレンド(母機)

 打上げ方式が絞り込まれる一方で、空中発射母機と打上げ方式による組合せトレンドがあるようだ。高速航空機(戦闘機)ベースのものは、懸架式による打上が短期的主流であり、中期的スパンでは背負い式が登場するだろう。その一方、大型航空機に搭載するランチャーと打上げ方式は様々な案が検討されている。母機と発射方式による組合せとランチャー動向一覧を示す。

空中発射ロケット基礎研究案(高速航空機を除く)

 2007年現在では、ペガサスが唯一実用化されており、L-1011母機による懸架式(胴体懸架)とNB-52母機による懸架式(翼懸架)が実用化されている。ペガサスロケットは衛星打上げに加えて超音速機実験X-43にて使用されている。近年はL-1011なしでも打上げ可能なコンセプトが開発中だそうだ。それはC-17Aによるパラシュート放出落下方式だ。打ち上げ能力は低下する可能性が高いが、打上げコストは下がるそうだ。確かにL-1011のような専用母機ではなく、汎用可能なC-17Aが母機ならば打上コストが削減可能だ。また新型ペガサスの完成までの暫定措置としてL-1011機体老朽化と部品確保の観点からモハベ砂漠にL-1011の部品取り機とバックアップ機をスタンバイしているそうだ。そして将来的にはL-1011の同型形状のMD-11も計画している。これはペガサス以外の複数ランチャーを空中発射できる仕様が検討されている。将来的にはペガサスの大型化やminotaur-1の空中発射ロケット化及び民間ロケット搭載も検討されているのだろう。

母機一覧

 その一方、QuichReachロケットの例があるように、貨物輸送機から放出落下式として、C-17A、C-5A、An-124輸送機を次期母機としたランチャーが検討・開発されている。このうちC-17A母機は軍事輸送機として開発されたが、An-124のように民間機バージョンも発表されている。その型式はBC-17であり、軍事系のシステムを外したバージョンなのだろう。将来の放出落下式打ち上げが盛んになった場合に備えて、現在は製造ラインを維持する資金が投入されているそうだ。恐らく、コスト低減を意識した汎用性のある貨物母機(C-5、C-17、An-124)による放出落下式打ち上げが、懸架式の次の世代(次期型)として登場する可能性が高いだろう。その次期型の成果がよければ、さらに次の世代(発展型)として背負式が登場するのではないか?

また、2003年よりNASAが導入したB-52Hは、エアランチ母機以外にも高速実証用やその他様々な試験へ利用される予定だ。このB-52Hは、NASAでは3代目の母機で、

・ NB-52A(X-15A)・・・1957〜1967年(愛称)ライトスペース

・ NB-52B(X-23A)・・・1959〜2006年(愛称)エアボーンリサーチ

・ NB-52H(X-48)・・・2003〜(愛称)エアボーンリサーチII


という歴史を重ねている。最新情報では環境対応も含めてエンジン換装も計画されており、NB-52Hは試験母機兼混同搭載母機として利用が検討されているそうだ。


NASA-B-52H及びエンジン換装計画(NASA)

 そしてボーイング社とオービタルサイエンス社では、このNB-52Hにロケット2基を翼懸架させ、さらにロケット4基を胴体懸架させた合計6基搭載ランチャーシステムを計画、周回環境観測衛星・周回情報収集衛星等6基を一気に打ち上げするそうだ。地球観測衛星は数が勝負で打上コスト削減も必要、という「ニーズと目標」を既存航空機とランチャーで勝負するコンセプトを立てている。恐らくロケットは固体だろう。

空中発射ロケットの傾向予測

◎空中発射システムのトレンド(ランチャー)

 また、母機の絞込みに加えて液体・固体ランチャーも検討されている。表では開発段階・研究段階を含めたものであるが、ロシアは液体ベース、アメリカは固体・液体とバリエーションを揃えたコンセプトを考えているようだ。

 少し詳しく見てみよう。ロシアのランチャーはZENITやSOYUZロケットという信頼性実証された既存液体エンジンおよび、信頼性が確立されつつあるNK-33ベースのNK-43Mエンジンが利用されている。固体ロケットのように扱いが容易なコンセプトではなく、液体ベースで打ち上げ能力も比較的高いロケットを目指しているようだ。

 一方、アメリカはあらゆる「液体・固体・液体+固体ロケット」と「打上方式」の組合せを検討している。まず、液体エンジンはNK-33、RD-180、RL-10、RS-68、MERLIN、KESTREL、新規開発(プロパン+液酸)などが検討対象として挙がっている。これはDELTA、ATLAS、FALCON-1ロケットや開発が停滞しているK-1や新規開発決定したTAURUS-IIという、信頼性が実証された、もしくはされつつあるエンジンをベースに考えられている。

 そして固体ロケットもVEGAで採用されているP80に加え、SR-19、Castor120、ORION38、ORION50モータの組合せが検討されている。これはTAURUS、Minoatur、Pegasusという固体ランチャーで実証したもので進められており、既存技術の組合せ、つまりユニット&モジュールの発想でランチャーが検討されている。これら様々なランチャーと母機の組合せで、技術的に成立し、コストも適正価格であり、将来のTSTO技術へ繋がる“セミTSTO”として価値が見出せれば、製造着手されるだろう。恐らく、固体ロケットで早期に実証、そして液体ロケットへと発展して行く戦略なのかもしれない。

◎基礎研究過程からTSTOへ

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TSTO計画案:UAV + ブースター(=TSTO)

 また、UAV母機の使用として航空機エンジンはそのまま、ロケットエンジンをラムジェットやスクラムジェットなど空気吸入式エンジンに転換するコンセプトも各国が研究している。しかし、これは「母機の大型化を招く」、「技術が十分確立されてない」という問題を抱えている。しかしTSTOの1段目(UAV母機)は「速度がマッハ数6付近、高度も高ければ良い」という要求から魅力的エンジンであることも事実だ。今後のエンジンの技術開発動向次第で登場するだろうが、新規開発要素が多いため、比較的時間がかかると見込まれている。よって技術的・コスト的に出来る、出来ないと判断するにはまだ早いだろう。技術の積み上げ研究が黙々と続くのは確かだ。

◎各国は現実的なロードマップを描いている

 以上、情報を整理すると各国はスペースシャトル計画のように、金力にモノを言わせて再使用型宇宙システムを目差すのではなく、経済原理に基づきながら技術をコツコツ積み上げてTSTOを目差している。

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打上手段低コスト化へ向けてのロードマップ

 RVTは単段式ロケットでその技術は“真空空間(月面着陸)での利用を見込んだ開発”なのに、JAXAは汎用性の見込めない“観測ロケット”としてRVT計画を発表している。RNSLVという多目的(気象観測、UAV派遣、高速機開発、小型衛星打上げ)ランチャー時代と比較すれば敗北しているにも係らずだ。そしてスペースシップワンもどき計画も「もっと経済的な手段があるのに、浪費的な計画」と評価されている。今後は経済性・技術的成立性・波及性を意識した再使用ロケットへ向けたロードマップを日本は描く必要がある。

◎世界潮流から外れてしまった日本(JAXA)

 以上、欧米露は闇雲にTSTOへと着手するのではなく、着実に技術を積み上げて「石橋を叩いて渡る」戦略を考えているのだ。この将来戦略を立てている上で、もう一度振り返ると、現在民間ベースで開発されているサブオービタル民間宇宙旅行船や、空中発射ロケットの開発、無人機の開発、エンジンの長寿命化開発などをアメリカやヨーロッパやロシアが各々進めているのが理解できるだろう。答えを言えば、これら技術は将来の“再使用型打上げシステム”と“打上コスト削減”を目指したTSTO技術の土台になり、国際比較して技術的優位に立てる上に、新たな国際宇宙同盟時代に存在感を示すことができると理解しているからだ。このため、ロシア、フランス、アメリカがフライバックブースター(UAV母機)の仕様検討を進めるため会合がもたれている。このアドバンテージ戦略にJAXAが呼ばれていないのは、非常に痛いと言えないだろうか?現状から判断すると、H-2A、H-2B、次期固体ロケット、GXロケット計画を進めているJAXAが国際的潮流から大きく外れて、技術的に遅延しているかが分かる。少なくとも言えることは、既存宇宙計画へ対して膨大な宇宙予算を費やしている日本(JAXA)が、このまま計画続行しても国際的優位が得られないことは確かだ。

 これは「JAXAが国際的にオーソライズされない時代がやってきている」という意味ではないか?今後は、グローバルとして生き残る発想を持つ一方、上記戦略のように次の世代技術の展望を考えながら、打上げ手段の戦略を立てなければならない。そして経済的にPAYされ、経済性の成り立つものを考える思想がJAXAには必要だ。闇雲に研究者の個人的な趣向・野心でコンセプト提案し、日本全体の技術開発を停滞させてはならない。

 今後の将来輸送戦略は、JAXA宇宙基幹システム本部では能力不足であり、別の次元で将来輸送戦略を練る体制が内閣府宇宙戦略本部に要求される。少なくとも内弁慶という表現で宇宙鎖国体制を目差す組織は解体が必要ではないか?と考えている。

◎まとめ

 地球温暖化問題により、産地監視・資源管理を目的として国家以外にも民間企業が衛星自身を購入する動きがある。また、衛星開発は小型化・低コスト化による技術革新が進む一方、宇宙関連企業以外が出資する動きが出てきている。2030年には、官より民間の出資比率が高くなると予測されている。この予測を示唆するように、マスメディアが報道事実を立証するために周回地球観測衛星を購入する動きがある。周回衛星のプライベート(民間)企業保有化が拡大しているのだ。

 また衛星技術は、観測センサーとしてハイパー・スペクトラルセンサーが注目され、日本では農業用として実用化されており、その技術は海外から注目され、採用されているそうだ。そしてショートスパン、ショートレンジの二ア・スペース(低高度宇宙)ミッションの需用拡大が見込まれる中、将来の小型化や低コスト化衛星時代へ備えて「RFタグ(小)、携帯電話(中)、キューブサット(大)」技術が“21世紀の産業革命のベース”になると海外では考えられている。衛星は「特別扱い」から「一般技術の採用」が進むということだ。よって日本は今後、グローバルとして生き残る発想を持ち、新たなマイクロスペース産業を育成する必要があるだろう。マイクロを制すれば、いずれ国際舞台へ復帰できる可能性が非常に高く、日本も発想の転換が必要だろう。

 打上げ手段は、TSTOへ向けて亜音速型・超音速型空中発射ロケットが開発され、民間企業開発中心で将来的な技術波及が見込めるサブオービタル機が開発されている。同じ思想をもつ宇宙先進国同士では、打上げ手段のバリエーション追求や再使用ロケットエンジン技術(エンジンの長期燃焼化)を黙々と積み上げて、来るべき再使用ロケット時代へ向かって歩んでいる。その一方、既存宇宙計画にしがみつくJAXAの遅れが目立ってきた。

 JAXAや宇宙開発委員会の慢心・怠慢により「JAXAが国際的にオーソライズされない時代」がやってくる可能性から、内閣府宇宙戦略本部による抜本的改革が必須であることは間違いない。少子化等による国力低下時代に備えて、日本は国際宇宙動向を把握しながら「経済的に成立でき、国際潮流に遅れない」戦略を長期的視野(2030年)へ立って考える必要があるだろう。


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