気象・環境観測衛星競争(EU vs USA)
     
   (エアワールド2008年7月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年7月号」をお買い求めください

 地球温暖化問題における関心は、日増しに高まっている。日本では、7月に主要国首脳会議(サミット)が北海道洞爺湖で開催されることも重なって、宇宙を含む地球温暖化問題に日本がどれだけ国際社会へ貢献できるか?が注目される。その一方、欧州と米国ではこの地球温暖化問題に宇宙ツールが外交的・技術的・経済的に強い影響力を及ぼすことを理解しており、時には争い・時には手を組むことで、宇宙システムを展開している。
 本稿では「EU vs USA」という地球観測衛星国際競争として、欧州と米国で繰り広げられている地球観測衛星開発競争の現状を分析、日本が地球観測で遅れている現状を鑑みながら、宇宙5大強国(ロ・米・中・印・EU・日本が候補)として生き残るための方法論を考えてみたい。

◎新世紀地球観測宇宙戦略の策定
 地球温暖化問題により、宇宙先進国の地球観測衛星戦略が次第に明らかになってきている。特に欧州とアメリカは「静止・周回地球観測衛星」の「高性能化」と「小型化」を進める一方、救難信号を受信して人命救助を果たすCOSPAS-SARSAT機能や、渡り鳥等の航跡を監視するARGOSシステムという付加価値機能も有している。
 また政策的にも欧州は「各国の保有する地球観測衛星」、「欧州気象機関EUMETSATの気象衛星(Meteosat、Metop)」、「ESAの保有する科学衛星」を体系的に組み合わせて、将来の地球温暖化問題へ対抗する体制を整えている。またアメリカも静止地球観測衛星GOESの高性能化、周回地球観測衛星POES(民事用)とDMSP(軍事用)を統合してNPOESS(National Polar-orbiting Operational Satellite Series)を目指している。

 
DMSP(PolarMax)              POES-M(NOAA)             Metop(Eumetsat)

 これには、世界気象機関(WMO)が、成層圏のオゾン層や温室効果ガスなどの大気化学・地球環境に関する地球規模の観測をするため、全球大気監視計画(Global Atmosphere Watch:GAW)に基づいて、各国気象機関や研究機関から提供してもらって情報を共有しているが、今後のニーズと技術的アドバンテージを確保することは宇宙先進国として不可欠な要素でもある。しかも、静止を含む地球観測衛星情報は地球温暖化問題によって、より詳細なデータを取得する必要がある一方、安全保障上重要な情報であるのに加え、農作物や漁業資源の分布や作付け状況が分かるために投機的観点や外交的観点で利用されており、またプライベート企業が衛星保有する動向が見られる上に、新たに二酸化炭素排出権の売買の情報ソースにも利用される側面も加わって「先進国として生き残るための衛星情報は重要なツール」であるという認識が欧州とアメリカにはあるのだ。また、今後の国際紛争は軍事的ではなく、情報ソースを握って事前に外交展開して先手を打ち、軍事活動を未然に防止できる国が真に賞賛される時代になるだろう。ましてや、軍事力を急激に増大させて周辺国へ「いらぬ緊張」を放ちつつある近隣国の存在に脅かされつつある日本ならばなおさらだ。
 よって巨大公共事業を展開して産地偽装的な宇宙システムで国民を騙すような活動は厳に慎むべきである。国際動向からみればJAXA(NASDA)的な(動きが遅く、高コストな)宇宙活動をしている余裕はもうない。今後は日本が宇宙5大強国として生き残るための実績と組織体制を目指してJAXA組織を大幅に見直し、国際宇宙情勢の変化に備えて気象衛星「ひまわり」後継機を含む新たな地球観測衛星を展開する必要がある。


世界をリードする地球観測衛星(NOAA)              地球観測に加えて人命救助機能も(NOAA)

◎国際的に置き去りにされつつある日本(JAXA)
 では、筆者が3年半前に連載を始めるきっかけ(本誌2004年10月号)となった気象衛星網はどうなっているだろうか?日本は、宇宙先進国として気象衛星「ひまわり」を保有しており、静止気象衛星情報の提供国として日本のみならず、アジア・オセアニアへ情報配信している。これは日本のナショナルプレステージであり、日本が宇宙活動を行う大義名分であるとも言える。
 しかし、MTSAT-1R(ひまわり6号)とMTSAT-2(ひまわり7号)を打上げていた間に、国際情勢は変化した。そう、中国の対等である。中国は静止気象衛星を打上げているが、日本がH-2シリーズ打上失敗によってもたついている間に宇宙外交を展開し、日本の近くにFY-2静止気象衛星を配備した上に、世界気象機関(WMO)からお墨付きを貰っている。さらに、周回衛星もFY-1を展開、気象情報配信国として国際的地位を確立したのだ。


2008年現在の世界気象機関(WMO)が推進する気象観測衛星網(気象庁)        気象衛星「ひまわり」情報の受信国(気象庁)

 対する日本は旧NASDAが進めていたADEOS-1(みどり1号)、ADEOS-II(みどり2号)が双方とも1年もたずして故障・廃棄され、外国から預かったセンサーをも機能停止させたため、周回衛星の国際的地位を失った。国内では「故障箇所が異なる」とか「センサーではなく、バス機器の故障なので問題ない」という声が聞こえるが、本質的な問題はNASDA宇宙活動の大失敗により、国際的信用を失ったことである。また、気象センサー開発をしていない上に、高額衛星開発ばかりに目が行き基礎研究能力もなく、外部へ丸投げ発注を横行させて「何もしないのに高給与」という旧NASDA組織の改善動向は殆ど見られず、宇宙外交も十分に展開せずに高コストの衛星を“相変わらず計画”している。ADEOSのような巨大衛星を作っても、もはや「失われた地位と信頼」を回復させるには戦略が弱い。国際宇宙情勢は刻一刻と変化している事実を我々が認識する必要がある。

◎欧州の地球観測戦略のGMES政策
  ヨーロッパでは、これら衛星開発を展開するに十分な政策がある。それは人工衛星や地上観測施設を統合した包括的な地球観測のシステムであるGEOSS(Global Earth Observation System of Systems)理念が「地球サミット」にて制定されているが、欧州ではこの理念に基づいて欧州委員会(EU)と欧州宇宙機関(ESA)と欧州気象機関(EUMETSAT)が互いの衛星や観測施設を出し合い、欧州として総合的な地球観測&分析システムを構築するGMES 政策(Global Monitoring for Environment and Security:環境と安全保障のための地球規模のモニタリング)を実施している。このGMES政策の注目すべき点は、新規にプロジェクトを立ち上げるというよりも、欧州諸国が独自に保有する衛星や、ESA科学衛星情報、欧州気象機関の気象衛星情報をベースに、得られた情報を食料安全保障・人口解析・森林監視・土地管理・大気汚染等監視・海洋安全保障・都市地盤沈降等に分類し、欧州域内の作業分担国で解析を実施、欧州間で情報シェアしている。つまり、1国では予算的・技術的・人員的にできない情報収集・分析をグループ国同士で実施、シェアする発想で欧州連合体として経済力・外交力を向上させようとしているのだ。

一方で近年、ベンチマーク衛星を放つイスラエルが、フランスと共同で“VENUS”衛星を開発、観測情報分析で組む動向も見られる。VENUSは従来よりも高解像度のマルチスペクトラルカメラを搭載、植生領域を中心に観測する衛星のため、分析能力と情報ソースのやり取りで、フランスとイスラエルの思惑が一致したのだろう。GMES政策というグループ同盟を進めながら、欧州国外とも別途組むフランス宇宙外交戦略の高さが垣間見える。

 このGMES政策により、戦略的に地球観測情報等の分析を戦略的・体系的に展開している状況を見れば、実用化開発・技術開発を謳って国益に関する情報を出せない上に、高コストなJAXAと地球観測情報を分析するRESTEC(財団法人リモート・センシング技術センター)体制は今後、組織改革が必要なのは明らかだろう。


GMES政策に位置付けられた衛星計画(DLR)                          解析分担国と内容(DLR)

◎米国の地球観測衛星計画は戦略変更の動き(静止衛星)

(エアワールド2008年7月号をお買い求めください)


GOES-N(NOAA)         GOES-R(NOAA)

◎米国の地球観測衛星計画は戦略変更の動き(周回衛星)
 次に周回衛星についても、アメリカの戦略は本誌2007年6月号、7月号で述べたように周回気象衛星DMSPとPOES(NOAA)を将来的にはNPOESS(2013年打上予定)へ統合するため、その前座衛星であるNPP(2009年打上予定)の開発をNOAA/NASA/IPO/DoD(国防省)を中心に現在進めている。IPOはNPPやNPOESS構築および運用のためのNOAA、NASA、DoDによる統合計画局である。このNPPへ搭載センサーは
・ VIIRS(地上・海上・大気の光学観測)
・ CrIS(マイケルソン干渉計による温度と湿度観測)
・ ATMS(受動マイクロ波による温度と湿度観測)
・ OMPS(高度別のオゾン層観測)

の4つが計画されている。これらセンサーはゼロから開発するものではなく、DMSPやPOES及びA-Train衛星群である「Aqua」等のセンサーを統合もしくはアップグレードさせたものを搭載している。開発はVIIRSセンサーがIPOとノースロップグラマン社とレイセオン、CrISセンサーがIPOとノースロップグラマン社とITT社、OMPSがIPOとノースロップグラマン社とBall Aerospace社、ATMSがNASAゴッダード宇宙センタとNorthrop Grumman Electronic Systems(NGES)社が開発している。ちなみに、日本のひまわり気象衛星センサーはひまわり5号と7号(MTSAT-2)がITT社、ひまわり6号(MTSAT-1R)はレイセオン社が供給している。


NPP搭載センサーのスペック(IPO)

製造中のNPP(Ball Aerospace)

 また、NPPでは将来的に欧州周回気象衛星METOPとの協調観測体制を掲げており、その役割分担は、NPOESS(AM)が早朝(Early morning)に撮像し、欧州METOPが午前中(Mid-Morning)に撮像する。その後、別のNPOESS(PM)が午後に撮像する体制を構築するそうだ。そして将来的(2004年以降)にはMETOPを2機、NPOESSを3機投入して段階的に合計5基の欧米協調観測をする体制を整えている。
もし、日本がADEOSで成功していたら、これらアライアンスへ参加できたかもしれない。しかし日本は外され、今では欧米で役割分担をしている。その一方、衛星搭載センサーが多数搭載することもあり、各々のセンサー開発にバラつきが生じている。このため、開発スケジュールが遅れている。
 このNPP衛星の観測データは北極域のノルウェーSVALBARD基地局へ直接送信するか、静止軌道にあるデータ中継衛星(TDRS)を通じてホワイトサンズ地上局へ伝送されるそうだ。また、観測データは近リアルタイムで送信する必要があり、その地上系データ処理システム開発が重要となる。NPPやNPOESS及びA-Trainや欧州METOPの観測データは、地上局を通じてIPOが管轄するIDPS(インターフェース・データ処理セグメント)でデータ処理されNOAAユーザーへ配信される。そしてさらに解析データは米国のNOAA-NWS(国家気象サービス)、NOAA-NCEP(環境予測センター)、NASA-GSFCのDAO(データ同化オフィス)、FNMOC(米海軍艦隊計算機気象海洋学センター)に加え、海外へはECMWF(欧州中期予報センター)、UKMO(英国気象局)、 Meteo-france(フランス気象局)、BMRC−Australia(オーストラリア気象研究センター局)、MetServ-canada(カナダ気象サービス)へと配信され、各々のNWP-Forecasts(数値天気予報)として予報が流れる仕組みだ。


2007年発表の米国の軌道別周回衛星計画(STAR) 米欧連合の周回地球観測衛星計画(NPOESS Integrated Program Office)

 現在、レンセオン社とIPOがデータ処理システムの構築を進めているが、センサー能力向上とデータ容量が膨大である点も加わって開発が遅延しているそうだ。これは、2005年時点では、POES(NOAA)、GOES、DMSPのセンサー数が合計15個だったものが、2015年では、NPOESSやMETOPを加えて合計46個とする計画が背景にある。つまり10年間で3倍もセンサー数を増やすのだ。また、新世紀へ向けて衛星や地上処理系システムをデジタル化していることもある。これは上記で述べたように地球温暖化問題に加えて地球観測データが経済活動や外交活動へ影響を及ぼす関係から、様々なセンサーを有し、高度情報処理能力を身につけなければ国際競争には勝てないという認識があるためだ。よってセンサー数増加と性能向上も加わって観測データ量が膨大となる。それを処理・配信できるシステムを今から構築する必要があると、IPOとレイセオンでは遅延をしながらも、開発しているそうだ。


近リアルタイムデータ処理網と仏豪加の国際協力(IPO)        地球観測センサーの増加(NOAA)

 加えてNPPの後にくるNPOESS衛星システム自身も、搭載センサー数が13台と多く、要求性能も高過ぎたため、開発遅延・コストオーバーとなっている。報道では、初打上が2010年から2013年と先延ばしされ、予算も約4200億円の増額となり米国会計検査院(GAO)が分析レポートを発表したところ批判が集中、NOAA局長はメーカーを痛烈に批判しているが、IPOが発足してNPOESS計画が走り始めた2004年時点で、技術開発目標がかなり厳しいことになることは予見していたという話もあり、その時点で計画変更をしていれば良かったのではないか?という意見も聞かれる。これら背景もあり、2007年夏に「このままではJAXAのような宇宙システムになってしまうぞ!!」と指摘され、出来上がった技術の範囲で一時的に纏め上げて衛星を製造し、段階向上を図る戦略に切り替えたそうだ。悲しい現実だが、衛星開発の悪例としてJAXAがベンチマークにされている。
以上、アメリカでは将来の気象観測システムへ向けて欧州・オーストラリア・カナダとデータ共有する一方、周回衛星ではMETOPと協調観測、静止気象衛星GOESも能力向上を進めている。

◎ロシアも周回・静止気象衛星を計画発表(手堅い路線で行く戦略)

(エアワールド2008年7月号をお買い求めください)

周回気象衛星METEOR-M、  静止気象衛星ELECTRO-Lの概要
(出典:Russian Federal Service on Hydrometeorology and Environmental Monitoring)

◎センサー開発はどうやっているのか?
 では、どのようにしてセンサーは開発されているのか?日本(JAXA)のように「いきなり大型衛星搭載」という暴挙をしているわけではない。まず、基礎技術はNASAや大学及び研究機関のサイエンス研究者が研究している。その成果をベースにセンサー開発し、航空機や気球による搭載実験、地上試験を通じてセンサーを調整・確認して衛星へ搭載させている。このため、NASAのリサーチ・エアクラフト(研究航空機)や観測気球を飛ばしたり、観測地域(海上や熱帯域)へセンサーを持ち込んで計測したりと実験と基礎研究の繰り返しを行っている。基礎研究から実用化まで、体系的な開発・製造体制を作り上げているのだ。
さらに、打上げられたセンサーも観測したデータが本物かどうか、実際にリサーチ・エアクラフトを飛行させて実データを計測、科学的証明をしながら確認作業を行っている。公表資料によれば、Aqua衛星の取得したデータを確認するため、NASAのER-2やガルフ・ストリーム機がハワイ沖でデータ収集した記録が発表されている。しかも、JAXAのように「組織を一本化させて見掛け倒しの組織体制」で国民を騙すのではなく、組織を一本せずに、使える人材・組織・機材を適時投入する体制で実施している。
また、アメリカでは海外の衛星も参考にしている。例えば山火事監視センサーとも言えるMODISセンサーはAquaやTerraにも搭載されたが、ドイツの小型山火事監視衛星BIRD(衛星重量94kg、センサー重量30.2kg、)と比較して解像度が悪いとし、赤外線センサーMODISを性能向上させたNPP衛星搭載のVIIRSセンサーを開発しているそうだ。自国で情報封鎖せずに、海外動向を見極めて次のセンサーを作るという努力を重ねている。
そして、NPOESSのように大型衛星へ搭載する前に小型衛星で実証する事例としてCMISセンサー(マイクロ波のサウンダー)開発がある。このセンサーはNPOESSへ搭載予定だが、事前実証としてWINDSATへ搭載しており、コツコツ技術を積上げる戦略なのだ。


航空機・気球・地上・海上試験でセンサー開発(NPOESS Integrated Program Office)


米MODISセンサーと独BIRDセンサーの比較データ、山火事検出(DLR、NOAA)


 NPOESS搭載CMISセンサーは、小型衛星WINDSATで実証実験(NOAA、USN)

 また、これらセンサー基盤技術は、サイエンスミッションから来るものが多い。この背景もあり、米国が行うサイエンスミッションが急増傾向にある。2008年2月に公表された2017年までのNASA科学ミッション(地球観測・惑星探査・太陽観測・天体観測)計画は2007年時のそれと比較して12ミッションも増加している。1年間でミッション数をこれだけ増やすのは、知見獲得を最優先にしているのかもしれない。
 科学ミッションは、センサー等のミッション機器の目標レベルが高く、ここで蓄積された技術が実用ミッションへと派生していく側面がある。つまり、周回地球観測・静止気象衛星のセンサー技術はサイエンスベースなのだ。よってサイエンスを軽視すれば、基盤技術が育たないこととなるため、センサー開発能力そのものが低下する。NASA・NOAA・DoDはそれをよく把握しており、NASAゴダード宇宙センター(日本で言うISAS理学研究者)のサイエンス技術者の待遇を良くしている。その一方、巨大公共事業的なスペースシャトルプログラム関係者(日本で言う旧NASDA)は大幅にリストラする報道がある。国として何処を重要視し、どこを削るかというメリハリをしているのだろう。センサー開発及びミッション動向から、アメリカでも取捨選択を始めているようだ。
 しかし、アメリカのように技術積上型の宇宙システム開発は、規模は小さいながらも日本でも行われている。それはISASだ。ISASでは、NASDAのように大型衛星&巨大公共事業的な暴走主義ではなく、まず観測ロケットや気球で基礎研究を実施、その得られた知見をベースに科学衛星(本番)へ搭載するという、規模は小さいがアメリカのように、コツコツ積み上げて開発するという基盤技術開発体制を有している。だが、JAXA(NASDA)に吸収されたことで、基盤技術が崩壊されつつある。ISASがJAXAから切り離される方向で検討が進んでいる情報もあるが、組織が見直されるならば、ISASも国際的評価がさらに上がるような体制になることを望みたい。
 以上、センサー開発は基礎研究から地上・空中実験を重ねた後に小型衛星で実験がなされ、本番(大型)衛星へ搭載されていくというステップで開発されている。

◎対する日本は“予算の不適切配分&戦略不足”
 では日本はどうか?日本は80年〜90年代に立てた計画を惰性で実施しており、気象衛星戦略は不十分、地球観測衛星も「ニーズあっての観測」ではなく大手メーカーが儲かる提案をJAXA(旧NASDA)が予算化するために奔走するという体制で実施されている。また、気象衛星は国土交通省気象庁が予算化しており、文部科学省管轄のJAXAと違って予算が不十分なため、気象衛星後継機(仮称:ひまわり8号)の調達計画はまだ検討段階だ。つまり「日本は宇宙予算が適切に配分されていない」のだ。
 気象衛星開発は、センサーや衛星筐体技術向上が比較的緩やかだったが、ここ数年、異常気象によって急激な技術向上が進められている。また、静止気象衛星はセンサーや衛星バス筐体を製造して“纏め上げる”能力が高度に要求されるため、“その国が持つ科学技術水準”のバロメーターとして海外から評価される側面がある。つまりこれが出来なければ、「纏め上げる(インテグレーション)能力がない」と評価され、宇宙先進国として脱落する事情がある。
 では日本ではどうか?気象衛星は現在、第4世代へと行こうとしている。日本で言うならば第一世代がひまわり1号、2号(アナログ)、第二世代が3号、4号、5号(アナログ)で安定期に入り、センサー能力向上でスピン制御型から三軸制御型へ変化したのが第3世代のひまわり6号、7号(MTSAT、デジ・アナ)である。そして現在は第4世代(デジタル)へ行く時期へさしかかっており、米国ではGOES-Rがそれに当たる。しかし、海外では第4世代だけを見ているわけではない。20年先を鑑みながら第5世代(フルデジタリング)を見越して、来たる気象観測技術(解像度向上・リアルタイム中継・観測チャンネル数増加・新型観測装置の付加)の基礎研究を実施しながら、今ある技術で出来るものを組み上げているのが第4世代(GOES-R)であって、地道に将来を見越して基礎研究から開発まで実施している。


       気象衛星「ひまわり」の過去と現在                ひまわり7号(国交省)

 しかし、日本では20年、30年先を見越して地道に積み上げる体制ではなく、アメリカからの技術導入で“気象衛星ひまわり1号〜5号”を日米共同開発で科学技術省(NASDA)が開発していたが、日米貿易摩擦により1989年の日米構造協議で人工衛星・スーパーコンピューター・木材製品の3品目がスーパー301条の適用対象とされ、実用衛星は“競争入札制度”となり、事実上価格競争力があるアメリカから国際調達する流れとなった。この背景には、日本が実用衛星を事実上開発していなかった(技術試験衛星や科学衛星が主体だった)事と、国内自動車メーカーの輸出攻勢によるアメリカ側の貿易赤字をオフセットするために宇宙が槍玉となった背景がある。
 それがMTSAT-1(ひまわり6号)である。しかし、MTSAT-1はH-2ロケットが打上失敗して失われ、既存のひまわり5号を延命することで乗り切ろうとしたが、MTSAT-1R(再ひまわり6号)製造企業の倒産騒ぎとH-2Aロケットの打上失敗事故で打上げがさらに遅延、アメリカからGOES-9を借用するという事態にまで陥った。この問題や軌道上にはバックアップが必要という観点でMTSATはもう1基が発注されることになる。このため“ひまわり6号(MTSAT-1R)”を2機作れば良かったが、米国メーカーが倒産騒ぎを起こしたことと、日本メーカーの技術習得を目的として、三菱電機が随意契約でMTSAT-2を受注している。しかし、随意契約としたことでコストオーバーランとなり、結局のところMTSAT-2はMTSAT-1Rの2倍のコスト(約600億円)で製造・運用された。日本メーカーが開発できたことは技術習得上喜ばしいが、予算調達と執行を明確化しなかったため、メーカーに要求されるがままの高コスト体質となり、監査が十分に行われず税金が消えていったのである。

◎通信衛星バス筐体ベースで気象衛星を作る時代ではない
 これら“戦略不足”、“予算不足の後は超過”という流れによって進められたひまわり6号、7号以降の計画は「静止気象衛星に関する懇談会」が設立されて話し合われている。しかし公表資料を分析すると、様々な問題があるようだ。
 まず、気象衛星を多ミッション化させることは良い流れではない。第4世代として世に出つつあるGOES-R気象衛星やGOMS/ELECTRO-Lは“ひまわり6号、7号”のように通信衛星バス筐体で製造されているわけではない。センサー性能向上や熱処理及びデータ処理仕様(デジタル化)が異なるため、もはや通信衛星筐体バスで製造されておらず専用衛星化されている。
 次に気象センサーを開発させるのではなく、センサーをアメリカから購入し、日本の衛星メーカーが取り付けるという流れを期待しているみたいだが、MTSAT-2で輸出したアナログ型センサーは、日本へ輸出される最後の気象センサーである可能性が高い。過去、気象センサー開発は日本人技術者が関与したためクロスライセンスで輸入していたが、最新のデジタル型気象センサーはライセンスが切れているため「恐らく日本への輸出許可は出ないだろう」というのが米国にいる知人からの情報だ。その背景として、米国がロシアと気象センサーを共同開発している一方、米国衛星メーカーが中国との関係も深めて技術交流を始めているのもある。よって“アジア・オセアニア諸国で必ずしも気象センサーを日本へ輸出しなければならない”という政治的な理由は薄れてきている。日本外しをしても問題ないという考えもあるかもしれない。ましてや、JAXA無策による“技術開発無き宇宙開発”により、気象センサーを買うために日本が出せる魅力ある交換技術も乏しい。例え固体ロケット技術を交換条件にしても、首を縦に振るかも微妙だ。
 このままではナショナルプレステージが失われ、「金を積んでも売ってくれない」事態となりかねない。国家安全保障の観点で見れば、90年代と2000年前半の宇宙戦略不足のツケが回ってきている状況なのだ。
 また、センサーを例え購入できたとしても情報処理量が莫大でデジタル化されている現実がある。気象庁の資料によれば、白黒画像をカラー化すると言うが、それは既存の情報量が高解像度化することも加わって処理量が膨大になることを意味している。また、赤外線波長観測のチャンネル数も倍以上となるため、デジタル処理が国際的主流となる中、データ処理システムは既存のMTSAT-2とは比べ物にならない技術が必要となる。例え日本の衛星筐体をアメリカへ輸出し、センサーを取り付けて逆輸入してロケットへ搭載しても、ブラックボックスだらけで、処理システムが成り立たず、技術習得も出来ずに、また予算が無為に消費される可能性が高い。
 さらに気象衛星の民間調達という点も困難だろう。気象衛星はGPS衛星同様に無料放送されることで国内外を含む多くの利用者がいる。これは過去の誌面で述べたとおりである。これを有料化して製造費に当てる構想には無理がある一方、民間の委託発注も民間側のリスクが高いため、採算も取れずビジネスとして成り立たない。
 つまり第4世代気象衛星の各国技術戦略がどうなっているか?技術的にどこが問題になるのか?各国は政策的にどういう位置付けなのか?という本質的中身を「静止気象衛星に関する懇談会」は理解せずに議論している可能性が高い。

◎徹底的な建て直しのために内閣府主導で抜本的構造改革を
 よって、日本が目先の“ひまわり8号”、“ひまわり9号”製造だけに目をやり、メーカーも目先の受注獲得だけで「静止気象衛星に関する懇談会」を使って騒ぐやり方では無理があり、技術も日本のナショナルプレステージも発展しない。自己の利益のみを追求し、国家の宇宙戦略をどうするのか?という戦略なく懇談会で議論する方策は国益的・組織的にも無理があるため、個人的意見を言えば解散した方がいいのではないか?
 これは気象庁が悪いというわけではない。縦割り行政のため、組織として出来る限界が存在するのだ。JAXAもそうだ。「地球観測でNASAと協力」と報道されているが、そもそもアメリカの地球観測戦略はNOAA・DoD(空軍)・NASAがチーム統合して立案されているため、JAXAはコンタクト先を間違えている。NASAと合意しても「アメリカの全体戦略として位置づけられた」というわけではないため、JAXAにも限界があるのだ。
 もともと宇宙は一省庁や独立行政法人の次元で実施できるものではない。ならば内閣府という上級官庁でまとめれば戦略的な体制が可能となる。日本が5大宇宙強国として生き残るために、総合的な観点で気象衛星戦略を立てなければならない中、宇宙基本法制定後の内閣府にて宇宙戦略本部がすべきことではないだろうか?
 国民が最も使い、アジア・オセアニア諸国へも防災貢献している日本の静止気象衛星の国際的地位を中国へ明け渡してはならない。彼らよりも高性能で使える情報を安定的に配信するために、今後は内閣府が関係機関を纏め上げて戦略を提示し、実施すべきだろう。
 では具体的にはどうすれば良いか?気象衛星だけを考えていてはダメだ。日本全体の宇宙体制として考えるならば、

・ 「基礎研究」で20年先のシーズ育成(NANO衛星・観測ロケット・気球で基礎実験)
・ 「センサー開発」を分野・系統を立てて開発(理学研究者がキー)
・ 「試験衛星」で機能確認(150・250・500kgバスで実証)
・ 「本衛星」でナショナル衛星打上(気象・情報・地球:内閣府保有SAT)

という体制が国際的に見ても恥ずかしくないだろう。JAXAは組織1本化を主張しているが、戦略性のない衛星(GCOM、GPM)に時間をかけ、ロケットもH-2B、GX、次期固体計画という国際勝負できないコンセプトでやっている状況を見れば、彼らの戦略で宇宙活動をすれば日本没落をもたらすだけだ。日本の宇宙を本気で立て直すならば、基礎研究能力を有した組織、センサー開発組織、試験衛星として纏め上げる能力を有する組織を作り上げ、「構想から製造まで10〜15年」かかる宇宙システムを積上型体制で中期的には「10年〜5年」と短縮化し、将来的には「5年〜3年」へ短期化して(大型を含む)衛星を開発できる体制が良いと考えている。
 このように、今まで同様に個別衛星ごとに組織を作っていては、何時まで経っても「ハイコスト・チープリターン宇宙システム開発」を繰り返すだけだ。目的達成のためにチーム結成することはやるべきことだが、基礎研究から開発・実験・本番というISASのようなコンパクトで体系的な組織体制を参考にして地道にコツコツ積み上げて根本的に立て直す体制を目指すべきだろう。よってこれら組織を作りながら、

・ 気象衛星の2軌道保有(静止・極周回軌道)ひまわり・さくら(周回軌道)
・ 情報収集衛星の軌道活用(施設・衛星筐体・運用)・・・・周回気象衛星
・ 気象衛星の国際貢献衛星機能化(内閣府(調達)運用(気象庁)・・・ひまわり-X
・ 極周回気象衛星の実現(内閣府(調達)運用(内閣府)・・・・・・・さくら-X

目標として、「気象衛星を国の安全保障衛星と国際貢献衛星で優先化」して“第4世代気象衛星技術の確立”を目指しながら“第5世代気象衛星技術の先行開発”を進めるという長期的な戦略を内閣府主導で実施すべきだろう。衛星技術トレンドを知る者なら分かるが、近年は「軍事・民事の性能格差が縮小」しつつある。いずれこの格差は消滅するだろう。こうした中、日本が宇宙5大強国として生き残るならば、気象衛星の優先開発化を進めながら「西周り赤道周回気象衛星」「海外が注目したISAS大気化学・雷観測小型静止衛星(GOAL)」「静止広域大気汚染観測衛星」「周回広域大気汚染観測衛星(日・仏・独・オランダ)」「太陽掩蔽法小型衛星(日・カ・仏・米)」「SMILES/STEAM衛星(日・ス・仏・カ)」という日本が国際的地位を確立できる可能性があるプロジェクトを審査し、実行する体制があればナショナルプレステージ向上ができ、「やっぱり日本は我々の陣営に引き入れておくべきだ」と思わせるしたたかな戦略を実現できるだろう。

◎衛星情報センターも3元化
 また、得られた情報をGMES政策や米国体制のように得られた情報を食料安全保障・人口解析・森林監視・土地管理・大気汚染等監視・海洋安全保障・都市地盤沈降等に分類して国内外へ利用展開する必要がある。このため、衛星情報センターの3元化して

・ 内閣衛星センター(情報収集衛星の有効利用:内閣府)
・ 気象情報センター(気象衛星の近代化・・防災・環境観測利用:内閣府と気象庁)
・ 環境衛星情報センター(JAXAから切り離し、環境省へ)

 する一方、利用促進も鑑みて既存施設を統廃合して衛星利用センターの創設をも目指した

・ 航空管制宇宙センター(神戸)・・GPS化(MTSAT後継、独自小型静止衛星)
・ 航空宇宙救難センター(横浜)・・海難・救援(機器を相乗、海上保安庁に近い)
・ 航空宇宙防災センター(奈良)・・火災・大規模火災(災害時に地盤が良い)

という総合的な視野で新たな宇宙体制を目指すべきだろう。

◎予算執行・調達の明確化も
 そして最も重要なのは、予算管理かもしれない。日本は米国会計検査院GAOのように、厳しい審査・監査が行われていない。それが旧NASDA組織や天下り組織の予算無駄使いを許す結果となったが、「予算執行・調達の明確化」によって徹底した審査を実施し、審査・監査逃れがおきないよう構造改革が必要だろう。

◎ランチャーは国際競争入札(国内メーカーの自立戦略)
 また、ロケットも競争入札制度が必要になるだろう。静止衛星や周回衛星は今後、

・ 静止衛星:H-2A・GX・Ariane-V・DELTA-W・ATLAS-V・FALCON-9・FALCON-5・SOYUZ・PROTON
・ 周回衛星:COSMOS-3M・Dnepr・TAURUS-XL・Minoatur-IV・次期固体

となることが考えられる。ドイツの軍事衛星SARLupeのように、NATO主要国が、ワルシャワ条約機構という相反する軍事同盟国のロケット(COSMOS-3M)を利用して自国軍事衛星を打上げる時代となっている事実からみれば、ロケットは何時でも自由に購入し、打上げられる環境となってきており、「日本国として安全保障上ロケットを“高コスト”で保有する必要がある」という論理が崩壊してきている。近い将来、海外ロケットを民間が自由に購入して衛星を打上げる時代がやってくるかもしれない。さらに衛星を作る側もバックアップランチャーを想定して作らないと、ランチャー価格が下がらない事情が存在する。実のところ、ドイツのSARLupe高性能レーダー衛星はCOSMOS-3Mを使用しているが、EUROCKOTやDneprロケット(レーダーに折畳み機能を付加すれば搭載可)も想定している。1つのランチャーだけを想定すれば、打上費用が下がらないからだそうだ。


   SARLupeは3種類ランチャーに対応(OHB)    レーダー衛星分解能Res.の実力差(日本はALOS) (DLR)

 つまり、国内のロケットメーカーはどんな論理を並べようが、(例え官需でも)国際競争に対抗できるランチャー(経済的で共通性もあり国際補完的機能も有する)を作らねばならならず、それが出来なければ“市場から退場”させられる時代となる。ロケットメーカーの三菱重工やIHI Aerospaceは、いずれ同種ランチャーで同盟を結ぶために国際提携へ出るか、撤退するのか選択を迫られる時が近い将来やってくるだろう。官需予算に甘えすぎた時代から見れば苛酷な道となるかもしれないが、「宇宙市場の殆どが官需」だからと言って、国際的に通用しないロケットを開発し、国際情勢を見ずに逃げてきた自らの責任と、新しい時代へ生き残るための戦略をメーカー自身が立案する必要があるのだ。よって、日本メーカーは双方とも、既存のプロジェクト(H-2A、H-2B、GX、次期固体)が国際競争でコンセプト的にどうなのか、JAXAではなくメーカー自身で考え、内閣府宇宙戦略本部へ提案できる体制を作っておく必要があるだろう。今後は予算調達・執行が明確化されるため、JAXA宇宙基幹システム本部のようなコンセプトアウトの発想は許されなくなる。NASA-COTSのように民間が自ら考え提案し、内閣府が国際的に見て勝負できるロケットか審査される環境となる時代を見据えて、メーカーはランチャー戦略を練るべきだろう。その努力を怠れば、救済措置を出す環境にもならないと思われる。

◎まとめ
 米国の地球観測戦略はNASAではなく、NOAA、DoD、NASAというチーム構成で立案され、段階的に技術を積み上げて達成しようと小型衛星実証を組み合わせてNPOESS戦略を展開、静止気象衛星も飛躍的能力向上を目指してフルデジタル世代を見据えたGOESシリーズを繰り出している。一方、欧州も衛星・地上観測網・分析を欧州委員会・ESA・EUMETSATという連合体制(GMES政策)で展開、宇宙情報が地球温暖化問題から経済競争及び外交へ至るまで使えるという認識の下、1国ではできないシステムを加盟国間で作り上げてアメリカへ対抗する「アメリカvs 欧州」という構図が見えてきている。しかし、米ソ冷戦時代のような付き合いではなく「A-Trainによる米仏連合」も見られ、必ずしも対決姿勢というわけではない。またロシアの新型気象衛星開発にはアメリカ企業も参加している。「民事衛星と軍事衛星の性能格差はいずれ消滅」するため、宇宙は軍事ではなく、国際連合&外交ツールの一環として捕らえ、それが国家安全保障につながるという枠組で考えるべきだろう。
 縦割り行政によって適正に予算が配分されず、日本が最も世界へ影響を及ぼしている気象衛星戦略(高性能化・フルデジタル化)が不十分な中、今後は内閣府が統合管理して実施する必要があり、周回衛星や日本が国際的に高い評価を得られるミッションを打上げ、利用するために20年、30年先を見越した長期的戦略の具体的方策及び、新たな組織体制を示してみた。
 宇宙基本法で騒がれているように、変化の波はもう止まらないだろう。今後は「宇宙市場の大半が官需だから」といって、国際競争力のない宇宙システムを作ってきた一部JAXA組織は抜本的な構造改革をする必要がある。日本が宇宙5大強国として生き残るために何をすべきか?という観点で地球観測衛星国際競争の実情を述べたが、政策立案をする官庁側、メーカー側双方とも国際的に通用する「戦略」を立てて生まれ変われるか?が今、問われている。


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