Low Cost Launcher の登場 (宇宙利用拡大時代に向けた普及型ロケットの開発動向)
  (エアワールド2006年12月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年12月号」をお買い求めください

 本稿では海外における小型打上げ手段「Low-Cost Launcher(低価格ランチャー)」におけるの次世代化動向を紹介したい。

◎ICBM派生型ロケットへの対抗

 ICBM派生型ロケットは、ドニエプル、ロコット、VOLNA、ミノトウルなどが挙げられるが、これらロケットは価格が安いことから打上予約が殺到している。ドニエプルロケットでは、JAXAの「きらり(OICETS)」と「れいめい(INDEX)」が打上げられた。もともとICBM派生型ロケットは、核兵器削減条約(START)に基づいて生まれたロケットだ。この条約におけるミサイル廃棄の定義は「衛星打上使用でも廃棄とみなす」という項目も加えられているため、「廃棄よりは金儲けしよう」という観点の元、“ICBMのロケット化“が進められ、SS-18やSS-19という高性能ICBMがロケット化されて平和利用されている。これはミサイル廃棄しながら商売(ロケット打上サービス)することによってICBM技術が流出しないようにする「ICBMピース・トランスファー戦略」でもある。

 この低価格打上げ手段の登場により、各国の宇宙機関・企業・大学が小型衛星開発へ着手、10年前と比べて衛星を製造する組織は爆発的に増加した。しかしICBM派生型ロケットは、在庫品打上げでもあるため、時間が経過するにつれてミサイル(ロケット)が劣化してしまうという特徴がある。このためドニエプルやユーロコットは近年、双方とも打上げ失敗している。また、製造ラインは既に閉鎖しており再生産は困難だ。この背景から価格の安く、継続製造が可能な小型衛星打上げロケット(Low-Costランチャー)のニーズが高まり、ロシア・アメリカ・ヨーロッパで開発が始まっている。いずれICBM派生型ロケットに代替される低価格打上げ手段が登場するだろう。

小型衛星打上げロケットの概念

 また、小型衛星といっても、「small」、「mini」、「micro」、「nano」、「pico」などの種類が散在し、ICBM派生型ロケットへの一括相乗り状態が続いている。しかし、市場のニーズから見れば、今後の小型衛星打上げ手段の需要は拡大が予測されているため、一括相乗りロケットではなく、衛星のサイズにあわせたLow-Costランチャーも期待される。一括相乗りでは利用者側の自由度が低いからだ。また、近年の衛星は小型化と低コスト化が進み、全ミッションコストに占める打上費用の割合が上昇する一方だ。この事情から海外では小型衛星用ロケットとして観測ロケットや空中発射ロケット、簡易ランチャーが開発されている。逆を言えば、ドニエプルやユーロコットは、“小型衛星市場における暫定的な打上げ手段に過ぎない状況”とも言える。ではこれら次世代コンセプトをみて見よう。

◎観測ロケット流用型

 観測ロケットとは、衛星を軌道投入する速度(第一宇宙速度:7.9km/s)まで加速するのではなく、下図のように高度のみを上げて大気層・宇宙環境・無重力実験をするために打上げられるロケットだ。日本では、SS-520が150kgのペイロードを載せて最大高度1000kmへ到達した記録をもつ。100km〜150km位から宇宙空間とされているため、高度1000kmまで上昇できるSS-520は非常に能力が高い観測ロケットと言える。


観測ロケットの飛行プロファイル

 しかし、高度のみを稼ぐために打上げられる観測ロケットでは、衛星打上げは困難だ。なぜなら、高度を稼いでも水平方向へ加速しなければ落下してしまう。このため、観測ロケットは衛星打上げロケットにはなれないというのが一般論だった。しかし「高性能の観測ロケットの飛ばし方を変えてドーピングをすれば、衛星打上げロケットになれるのでは?」という考えが生まれたのだ。このコンセプトから、観測ロケットの能力を補うため、ロケットにもう1段「キックモータ」をプラスして、観測ロケットを衛星打上げ用ロケットへ改造する動きが出てきた。それがUP Aerospace社とSCOUTロケットだ。

「UP Aerospace社」

 アメリカでは、観測ロケットを衛星打上げ用ロケットにする動きがあり、内之浦射場で使用されているガイドレール打上げ方式が再注目されている。アメリカのUP Aerospace社は2006年、ニューメキシコ州にある宇宙港に小型衛星や観測ミッション打上げ用のガイドレール式発射台を建造した。そしてまずは観測ロケットSpaceLoftシリーズを打上げると発表している。UP Aerospaceのビジネスモデルは、大学や企業が開発したセンサーを弾道飛行させて宇宙空間における作動状態を確認するサービスとしている。このビジネス展開において技術・機能・コストの関係からガイドレール式打上げシステムという既存技術を使用すると公表、その理由は「顧客のニーズを満たせれば良く、余計なランチャー開発はセンスがない」としている。事業(ビジネス)という観点からすれば理に適った考えだ。さらに将来的にはこの打上げシステム技術を流用して、衛星打上げ用とする構想も発表しているそうだ。つまり、観測ロケットベースの衛星打上げロケットが検討されている。コストパフォーマンスからすれば、理に適っているコンセプトだろう。


レール式ランチャー(出典:UP Aerospace)

 JAXAの次期固体計画では、垂直方式を採用するとしているが、海外がガイドレール方式を見直して再注目する動きに対し、日本は逆行しているようだ。すでに“内之浦にあるもの”を使用せずに廃止して新たに作るという発想は、コスト意識の乏しい計画であると見て取れる。

「SCOUT」

さらにアメリカでは、1960年〜1985年まで活躍したロケットSCOUT(Solid Controlled Orbital Utility Test)システムにキックモータを取り付けて小型の衛星打上げロケットを作る計画もあるそうだ。このSCOUTロケットは、弾道飛行科学実験や衛星打上げ用として使用された過去を持つ。衛星ではエクスプローラーWを1961年2月に初打上げに成功している。このSCOUTは“公道を走行可能なトラック架台”へ搭載できる仕様で製造され、トラックが発射台の下に輸送されて、そのまま発射台に装着されるシステムとなっている。しかも製造ラインや発射台は稼動状態にできるとのことで小型衛星打上げロケットとして再注目されている。しかも、観測ロケットにキックモータをプラスすれば、衛星打上げロケットになれる特徴がある。過去筆者が紹介した、日本の観測ロケットSS-520を衛星打上げ用にする計画が、海外で存在していることを意味する。観測ロケットの中で質の良いものを利用すれば、衛星打上げ用ロケットになるという発想は何処の国でも考えているようだ。

このSCOUT再生産モデルの具体的な方策は、固体モーターは複合材料化し、推薬を世代交替させ、工作機械(製造ツール)もMCなどに交換、設計も電子設計化へ変更、開発を可能な限り省き、量産化する方法で進めるそうだ。一方で打上方法と輸送方法は継承し、打上単価を$70〜100万ドル(約8400万円〜1億2000万円)を目指している。しかもこの価格の中にロケット製造価格に加えて打上げ費用も含まれている。つまり、20年間の空白をコストダウン(70%ダウン)・性能向上(20%軽量化)し、民生規格品を起用する徹底した事業化戦略を立てている。




トラック搭載のSCOUT(出典:NASA)         発射台にセットされたSCOUT(出典:NASA)

 
San Marco海上射場のSCOUT(出典:NASA)


SCOUT-B (出典:NASA)

 生産量の確保では、将来的に小型衛星の打上げ数は年間300基を見込んでおり、その3分の1の打上市場を確保したいと考えているそうだ。このため、5年で250本の生産・販売を前提にプロジェクトを進めるとし、生産設備は保管してあるSCOUT製造ラインをベースにリース制度を導入、パテント(特許)保有者側は、パテント提供料金の変わりに対価で獲得、製造権利などは出資する方向で検討しているそうだ。NASAはSCOUTの5本打上げでNASA射場の利用権を提供する予定だ。つまりニーズとファシリティー(生産設備)とライセンス(特許)を現物で貸与する方法で動いている。これらSCOUTは、開発費が約30億円程度、小型衛星専用ロケットとして2009年から事業化を予定しているそうだ。

 開発の理由は、「ロケット技術は官が保有している。しかし官が開発に関与すると高コスト化するため、技術特許料や設備を貸与して民間がやる体制にさせた手法が良い」と考えている。この低コスト開発手法は興味深い。

◎観測ロケット派生型(Super-Stripy)

 アメリカのサンディア国立研究所では、観測ロケットStripyWという3段式観測ロケットの設計思想をキープし、直径と全長をスケールアップした衛星打上げロケット研究をしている。そもそも観測ロケットは、弾道飛行をして上空で大気観測・宇宙線観測・微小重力実験などを行うロケットであるが、観測ロケットとして製造されたため、ロケットと比較して安い特徴を持つ。この設計思想をスケールアップすれば、衛星打上ロケットの単価が下がるのでは?という考えがあるようだ。このコンセプトから、3段式観測ロケットStripy-Wの直径を53cm増して全長を6.35m延長したSuper-Stripyを提案している。このSuper-Stripyは直径約1.3m(1372mm)、全長18.75mで、射場は太平洋側にあるバーデンバーグと大西洋側のワロップスをする構想だ。バーデンバーグ射場は極軌道(傾斜角97度)で、高度550kmへ152kgの衛星を軌道投入可能だ。またワロップス射場は傾斜角38度、高度500kmへ210kgの衛星を軌道投入可能だ。


     Strypiロケットと打上性能(出典:AIAA)

 また、打上げ方式はレール方式で、M-V、M-3SU型、SS-520の打上げ方式と同じだ。この打上げ方式選択の理由は、打上効率と水平方向の加速を早急に確保するためだそうだ。またレール式発射台はSuper-Strypiロケット全長が長くなったため、ガイドレールのブームを延長している。この既存施設流用で発射台建設費を下げている。最近、観測ロケット及び衛星打上げ用ロケット打上げの方式は簡易化する一方だ。このSuper-Strypiロケットでは、開発期間18ヶ月とし、1発の開発費と打上費用で$10.25mil(約12億円)、その後は半年ごとに1発づつ打上げれば、3年間でSuper-Strypiロケットが4発打上げ可能として、3年間で$27.25mil(約32億円)という論文を発表している。


Super-Strypi衛星打上ロケット(出典:AIAA)

 観測ロケットを衛星打上げ用ロケットとして改造した場合、格安打上げ手段になれるということだ。このSuper-StrypiロケットはDARPA-FALCON計画のロケット(LEO約450kg:24時間以内打上:価格約6億円)よりも性能が悪いが、価格は量産ベースならばFALCON計画と同等クラスで、Super-Strypiロケットのコンセプトは学ぶべき点がある。しかもこの構想発表は1998年になされているため、具現化されれば、格安の小型衛星打上げロケットになれるだろう。以上、Super-Strypiロケットは、小型のロケットを大型化させる方式で低コスト衛星打上げ方法論を示している。一方、JAXAでは、大型ロケットのロケットモーターを使用して小型ロケットを作るという、Super-Strypiロケットとは逆コンセプトを提案している。大型ロケットのロケットモーターを使用して小型ロケットを作ると、小型と比較して価格高の設計思想をスケールダウンするやり方となるため、コストダウン効果が悪くなる。実際、海外のロケットエンジニアと会話をすると、500kg〜1tクラスの打上げ能力を持つロケットを作る場合、「小型ロケットからスケールアップする方式」と「大型ロケット技術を流用してスケールダウンする方式」を取った場合、どちらが安くなるのか?という質問をしたところ、「前者の方が安くなる」という結論を得た。つまり、JAXAや旧NASDAのJ-1ロケットや次期固体ロケット計画は、やり方自体が間違っているという結論になる。だがJAXAは次期固体ロケット計画を「打上能力、技術の維持、低コスト開発予算」という都合のいい文言だけを並べて議論している。

◎デリバリー・ランチ・システム

 デリバリー・ランチ・システムとは、衛星打上げ用ロケットや観測ロケットを配達打上げするシステムだ。周囲の安全を確保する面で世界中何処でも打上げ可能ではないが、希望する地域へ出張して打上げサービスが可能となるため、将来的には具現化するだろう。しかし、ミサイルと間違われないためにも事前通報(ノータム)や第3者的監査が必要になると考えられる。

「RaDLS」

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水中・陸上打上げ  &  陸上打上げコンセプト図(出典:AIAA)


水中打上げコンセプト図(出典:AIAA)

 また、これら水中打上げロケットはハイブリッドロケットか固体ロケットが最適とされている。液体ロケットでは、燃料注入の必要性や水中における波や海流による擾乱で、ロケットの本体強度や点火システムに影響を及ぼすため、固体ロケットやハイブリッドロケットが優位としているそうだ。このため、アメリカ海軍研究所ではハイブリッドロケットにて研究している。この究極の簡易打上げシステムで可能な限りライフサイクルコストのかからないようにする発想はすばらしい。しかも、この打上げシステムが完成すれば、射場が不要もしくは移動可能となるため、飛行安全が確保されれば、必要な地域や国へ打上げ機会を提供する“デリバリー・ランチ(配達打上げ)“が可能となる。

「SS-520」

 また、デリバリー・ランチ・コンセプトと言えば日本でも存在する。それは旧宇宙科学研究所のSS-520ロケットだ。この打上げシステムは移動可能で、ガイドレール方式を採用、トラックに発射台が搭載されており、移動打上げが可能となっている。

しかし、SS-520は発射地点が実質移動可能なため、「自走が可能なので、移動式弾道ミサイルと同じでは?」という日米宇宙協定の違反性を指摘された経緯がある。当事者から見れば本来の目的としていないため迷惑な話だが、この自走打上げシステムは、自動車ナンバーを搭載していないため公道を走行できない仕様にしているそうだ。つまり、デリバリー・ランチ技術は既にあるが、日米協定上問題があるため、わざと内之浦射場から自走して出られない法的体制にしている。しかし海外情勢から見れば、シーランチや空中発射ロケットもある意味移動式ランチャーと言え、簡易式のデリバリー・ランチ技術もいずれ具現化される。よってミサイル化防止のための措置(第3者監査や国際アライアンスチームなど)をした後に日米協定を改訂して教育・国際貢献・商業打上げとしてデリバリー・ランチ・システムを構築することは日本として可能だろう。


SS-520と発射台(出典:ISAS)

◎ロシアのLow-Costランチャー開発動向

 一方、世界ナンバーワンのLow-Costランチャーを提供するロシアでも開発の動きは加速している。それは、コスモス、START-1、Cyclone-2Kであるが、既存ロケットを量産化すべくプレス成形法を模索したり、民生品を流用したり、最終段(アッパーステージ)を改造・次世代化させたりと努力を重ねている。

「コスモス(KOSMOS)」 :LOWクラス

現役の小型液体廉価ロケットとして君臨しているのはコスモスだ。このコスモスはYangel R-14(SS-5)という短射程の弾道ミサイル(IRBM)をベースに設計された経緯を持つ。そして衛星用打上げ用ロケットKOSMOSとなり、現在ではKOSMOS-3M型が活躍している。このKOSMOS-3Mの打ち上げ能力は、低軌道(300km)へ1.3t、太陽同期軌道SSO(500km)へ900kgの打上げ能力を持つ。つまり、M-Vロケット(低軌道へ2.5t)の半分程度の打ち上げ能力をもつということだ。このKOSMOS-3M打上げ価格は$10mil(約12億円)だが、仲介業者による中間マージンがあるため、直接契約をすれば、$7.2mil(約8億5千万)にて購入可能だそうで、今後は打上げ費込みで約5億円を目指す方針だ。

このコスモスは、ドニエプルやユーロコットと違って、ロケット製造インフラが稼動状態にある。よってマスプロダクションフェーズ(量産化)体制へ移行すれば、現行の小型衛星ロケット市場のなかで最強となるだろう。このコスモスの将来性を見込んでイギリスが購入し、TOPSATを打上げた経緯がある。さらにこのKOSMOSロケットの将来性を見越して、ドイツ、イギリス、スウェーデンがコスモスの次世代化に資金を拠出しているとのことだ。この近代化における動向は3つある。


コスモスロケット(http://hometown.aol.de/)   


コスモスアダプター

 1つ目は、KOSMOS自身の衛星搭載アダプターを、複数衛星搭載できるマルチアダプター化し、軌道投入精度をある程度無視した俗に言う“薄利多売”型のマルチアダプターを開発した。これにより、1機あたりの衛星打上げ単価をさげようという戦略だろう。

2つ目は、顧客の利用ニーズから、2段式のコスモス-3MにドイツのOHBシステム社が開発した「マルチアダプターとスタンド」と「オーブコム通信装置」をもつ“コンバインランチ(Rubin-X)機能”を搭載している事だ。このコンバインランチ機能は、オーブコム周回通信衛星へのコンタクト機能を有しているため、先の標準型マルチアダプターとは違い、地上追跡装置が届かない軌道でもロケットを制御できるメリットがある。恐らく、再着火機能や姿勢制御が可能と考えられ、マルチアダプター機能よりも付加価値のある打上げサービスが可能となる。つまり、低価格の簡易型アッパーステージみたいなものだろう。

3つ目は、本格的なアッパーステージだ。このコスモス-3Mへアッパーステージ「Breeze-K」を搭載するKOSMOS-6M計画(仮称)があるそうだ。Breeze-Kはすでにユーロコットで採用されている。この本格的アッパーステージを搭載すれば、打上げ能力が200kg増加し、低軌道へ1.5tクラスまで能力アップできる一方、軌道投入精度を特に要求される衛星や小型静止衛星の打上げも可能だ。このコスモス-6Mの打上げ価格は、Breeze-Kが加わるため、1基、約10〜12億円だ。

この最終ステージのマルチ化は興味深い。コスモスは単機打上げシステムに加えて

・ 薄利多売型の「マルチアダプター」打上げ

・ 簡易型アッパーステージ打上げ(Rubin-X)

・ 本格的アッパーステージ打上げ(Breeze-K)


という“3種類の最終ステージ”を用意している。これはロケットを使用してくれる顧客対応戦略であり、技術暴走主義的思考のもとでロケット開発をしていない開発体制である。しかも、過去の開発歴史からKOSMOSとユーロコットが同根技術でユーロコット射場もKOSMOS-3M射場を流用している事実がわかった。製造設備はKOSMOS-3Mしか稼動状態に無いが、量産可能なBreeze-Kを採用し、ユニット&モジュールでKOSMOS-3Mの機能を向上させようとする戦略は興味深い。また、衛星搭載スタンドも特異だ。この“骨組みスタンド”は、恐らく振動・衝撃環境を分析し、最適なスタンド設計をしたのだろう。リング状で削り出し成形方式では高コスト過ぎるかもしれない。このような思想は学ぶべきだろう。


スタンド・マルチアダプター(出典:COSMOS International)             Rubin-X(出典:OHB)


Breeze-K(http://hometown.aol.de/)    衛星搭載部分(BMBF)

 コスモスは今後、ロケット1段目と2段目の低価格化を実現すべく、旧型のコスモスやコスモス2型の生産ラインを活用したり、鋼板から高張鋼板(自動車等の活用)へ素材を変換したり、アビオニクスなどの電子機器を民間航空機の民生品を使用したりと、コスモス-3M型を原型に価格を50〜70%ダウンした国際基準のライトランチャーを開発中だそうだ。そして量産化として年50基を計画し、マルチアダプター型とRubin-X型で30基、アッパーステージ(Breeze-K)型が15基、ロシア公共用に5基が計画されている。このロシア、ドイツ、イギリス、スウェーデン連合の動きは非常にすばらしいと言えるだろう。

KOSMOSのBreeze-K導入は2008年からだそうで、射場の赤道進出による打上能力向上も図れれば国際競争力があがるため、魅力ある戦略かもしれない。ただ、問題が1つあるとすれば、打上作業に2週間かかるため、アメリカのようなRESPONSIVE Launch(即応打上)が出来ない事だけが難点だ。しかし今後、コスモス-3Mやコスモス6Mという「低軌道1.2t〜1.5t程度」で「価格もバージョン次第で約5億〜12億(打上げ費込み)」のロケットは、液体廉価ロケットとしてさらに磨きがかかるだろう。

「START-1」 :Middleクラス

 START-1はICBM派生型ロケットであるが、製造ラインが稼動状態にあるためLow-Costランチャーとして市場へ進出すべく開発が行われている。STARTはM-Vロケットと同様、全段固体ロケットであり、ICBM用に開発された固体ロケットモータ「MIHT-1」、「MIHT-2」、「MIHT-3」、「MIHT-4」を組合せて4段式と5段式という2種類の衛星打上げロケットとして開発された。このうち4段式は「START-1」、5段式は「START」と呼ばれている。このうち4段式のSTART-1は直径1.8m、全長22.7mであり、1993年〜2001年までに5回が打上げられた。うち3回は、イスラエルやアメリカの高解像度地球観測衛星「EROS A1」や「Early Bird」、スウェーデンの科学衛星「Odin」などが打上げられ、5回全てが成功している。しかし、5段式のSTARTは1995年の初打上げの失敗以後、行われていない。

Start-1は、ICBM派生型ロケットだけあって、ロケットの車両搭載が可能なため、デリバリー・ランチ(配達打上げ)が可能なロケットであるのもまた事実だ。しかし弾道ミサイルと間違えられないように、現在SVOBODNY射場から固定式打上げを実施している。打上能力は、低軌道(200km:傾斜角52度)へ 632 kg、極軌道(600km)へ275kgの打上げ能力がある。つまりLow-Costランチャーとして魅力なため、デリバリー・ランチ事業へ進出する可能性は十分考えられる。


START-1(出典:Puskovie Uslugi)

 さらに今後は、ニーズに応じて様々な打上げサービスを展開可能にするため、ロケットにPBPS(Post-Boost Propulsion System (PBPS)という、アメリカのミノトウルWロケットのような小型マルチバス(簡易型アッパーステージ)を搭載、軌道投入精度を高められる仕様にするそうだ。つまり固体ロケット最終段もキックモータや簡易型液体アッパーステージを搭載する事がVEGAやミノトウルから常識となっている。そしてコストダウンすべく、打上げ価格$9mil(約10.8億円)をコストダウンして$5mil(約6億円)とするそうだ。

また、コスモスと違い、START-1は固体ロケットでもあり、Reponsive Launch(即応型打上げ)が可能だそうだ。よって、緊急の衛星打上げに対応できため、コスモスとは違ったセールスポイントが出せるだろう。

「Cyclone-2K」 :Highクラス

 最後のLow-CostランチャーはCyclone-2K(別名:Tsyklon)だ。Cycloneは、3段式液体ロケットで、直径3m、全長は約40mあり、打ち上げ能力は低軌道(500km、傾斜角56度)へ2500kg、極軌道(500km)へ2000kgとLow-Costランチャーとしては大型だ。この高い打上能力へ対し、3段目のアッパーステージをプラスしても価格は打上費込みで$15mil(約18億円)だそうだ。

  
Cyclone-2K(出典:Puskovie Uslugi)


 アッパーステージ                      ペイロードアダプタ(出典:Puskovie Uslugi)

 最後のアッパーステージは、独立型のようで特異な形状をしている。打上げ時は下図へ示すように重量1600kg(うち燃料は600kg)のアッパーステージにペイロード・アダプターが覆い被さる形でマルチバスとして作動する。そして再着火可能な4基の低出力メインエンジンが燃焼し、8基の姿勢制御用スラスターが作動してペイロードを任意の軌道へ投入する。比較的マルチバスとして高価な機能を有しているが、打上げ能力が低軌道へ2500kgというM-Vに匹敵する能力で、それでもコストが約18億円というのは、Low-Costランチャーとして十分国際競争力がある。

このCyclone-2Kを量産化すべく、$15mil以下にコストダウンする計画をしているそうだ。まず量産設備を見直し、素材の適所適材化・工作法の見直しで対応し、量産量は年間27〜30基を3年で最大100基製造する予定だ。そしてコスモス-3Mのコンバインランチ機能をアッパーステージ代わりに搭載させた、Cyclone-3(低軌道へ2000kg)とCyclone-4(低軌道へ2500kg)とあわせて3モデルを投入する計画を立てている。つまり、次世代化した部品と製造法で各シリーズを共通化、Cycloneロケットをコストダウン、CYCLOE-2/3を$15mil(約18億円)、CYCLOE-4を$15〜18mil(約18億円〜約21.6億円)で供給し、年10〜12基の販売を計画中と発表している。生産設備が残っているCycloneも非常に興味深く競争力あるロケットだ。

 以上、ロシアではLow-Costランチャーとして「LOWクラスがCOSMOS(約5億円〜12億円)」、「MiddleクラスがSTART-1(約6億円)」、「HighクラスがCyclone-2K(約18〜21.6億円)」という大・中・小のLow-Costランチャーを揃えている。

◎ヨーロッパのLow-Costランチャー開発動向

「European Small Launcher(ESL)」

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「スペイン:Capricornio」

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3段式固体ロケット「Capricornio」(出典:http://hometown.aol.de)

◎ヨーロッパは旧ソ連ロケットを徹底研究

 またヨーロッパではソ連邦が崩壊して以降、ロシア経済低迷時に旧ソ連の宇宙技術を徹底的に研究したそうだ。そしてロシア技術の“程度の良いもの&悪いもの”を分析、ソユーズ、ドニエプル、ユーロコット、コスモスの優位性を気付いて“ツバ”をつけたそうだ。

 ESAではロシア・ウクライナロケットを分析した資料(NEWS FROM MOSCOWなど)が数多く公表されている。この研究結果からヨーロッパは戦略を見直し、アリアン4を廃止してソユーズを導入したと考えられる。最近ではゼニットがクールー射場へ進出するため、現地視察を終えたとの情報もある。恐らく、コスモスも低価格液体ロケットとして非常に有望なため、クールーか赤道付近へ進出する可能性はあるかもしれない。しかもコスモスをイギリス、スウェーデン、ドイツが支援しているならなおさらだ。

 スペインもESAの打診を受けて検討を開始している。今後どうなるのかは分からないが、アメリカ、ロシア、ヨーロッパでのLow-Costランチャーの動きは加速しているようだ。

◎Low-Costランチャー開発の基本は「温故知新」

以上、アメリカやロシアを中心に低価格ロケット開発動向を説明した。これら情報を整理すると、継続生産可能ロケットで評価をすれば、ロシアでは6億円(LEO1.3t)〜18億円(LEO2.5t)となっている。恐らく、これら価格帯が国際基準となるだろう。対するアメリカは、FALCON計画である約6億円で450kg打上げ能力のロケットを開発中だが、ロシアのロケット価格を下回れないのが現状だ。このため、空中発射ロケットや価格の低い観測ロケットをベースに“超小型衛星打上げロケットから攻め直そう”とする戦略を考えているようだ。すでに確立されている技術(SCOUT)を使って更なる価格低下を狙うべく、ロケット専用部品ではなく、航空機のアビオニクスや市場に出回っている民生品材料を用いて、徹底的にSCOUTやその他観測ロケットの価格低下を狙っている。聞くところによれば、「低価格帯のロケットを目指すなら、無理に飛躍した技術を追求せずに過去をじっくり学んで、民生品(COTS)を組み入れたコンビネーション技術を追求する方が合理的。そして結果的にイノベーション(革新的)ロケットが出来上がるという形が理想」との意見を聞いた。つまり、「ふるきをたずねて新しきを知る」という温故知新という考えの元で行われているのだ。

恐らく、そうしなければ国際基準で世界ナンバーワンのロシアロケット価格帯を下回れず、価格高のロケットをアメリカ国内で運用し続ければ、議会や国民の納得が得られないという考えがあるのだろう。“目的のために最適のものをもってくる”という思想は賞賛に値する。技術維持と主張して段階的な改良をせずに魑魅魍魎で国際基準を無視した低レベルな妥協ロケットを計画する、どこかの国の宇宙機関とは違った合理的な考えだからだ。またロシアのロケットは最近価格上昇の兆しが見えるが、それは他国のロケットと比較して低価格過ぎるためであって、価格を多少吊り上げているに過ぎず、ロシア価格帯へ追いつけば、当然下げてくるため、上記価格帯を目指す事は必須である。

Low-Costランチャー開発のもう1つの狙い

 アメリカ・ロシア・ヨーロッパがLow-Costランチャーを開発している背景には、国際打上市場で勝つための他にもう1つある。それは、北朝鮮・イラン・パキスタンなどのICBM(大陸間弾道ミサイル)の駆逐だ。ソ連邦崩壊以降、残念ながら弾道ミサイル技術が拡散してしまった。スカッドミサイルが技術拡散流出の代名詞だが、これら技術をベースに北朝鮮では「テポドン」や「ノドン」、イランでは「スカッド」や「シャハブ」、パキスタンでは「シャヒーン」や「ガウリ」が作られ、闇市場で売買されている。また、ミサイル開発国や購入国は「衛星打上げ用ロケットを開発中」もしくは「保有中だ」と主張して、国際的批判を逃れようとするやり方が横行している。実際に、北朝鮮がテポドンを打上げて「これは衛星打上げだ」と主張したのは記憶に新しい。だが、実際にミサイルを衛星打上げ用へと改造することは不可能ではない。つまり、「今日はロケット、明日はミサイル」というように、将来的には“非常に危険な衛星打上げロケット”が売買される危険性があるのだ。

これら事情から、ミサイルより低価格で革新的技術を取り入れた衛星打上げランチャーを市場投入すれば、価格的優位性を主張して衛星打上げ用ロケットと称したミサイル取引を“牽制”できる。“ロケット開発”という主張を淘汰しながら、ミサイル技術や本体を売買できない環境を作ってしまおうという発想があるようだ。これは俗に言う“ならず者ランチャー”と呼ばれている北朝鮮・イラン・パキスタンのミサイルやロケット技術を淘汰しようとする戦略とも見られる。つまりLow-Costランチャーはミサイル技術者を平和裏にピース・トランスファー(平和転換)させる潜在性をも持ち合わせているのだ。これは、日本としてチャレンジすべき分野ではないか?Low-Costランチャー&国際貢献という一石二鳥の外交・産業戦略でもある。


北朝鮮ミサイル技術の派生        テポドン・シャハブのロケット化
(出典:GlobalSecurity.org、http://hometown.aol.de、Astronautix)

◎Low-Costランチャーは国際市場・外交戦略でも優位

以上、Low-Costランチャーを市場投入してミサイル技術拡散を防止し、ミサイル購入国や開発国へ「改心」させるツールを用意する発想は、今後の宇宙先進国として必要な視点ではないだろうか?そういう点でも日本が独自開発した固体ロケット技術は価値があり国策的に重要であると考えている。

恐らく、このような各国の戦略は公的に発表されないだろう。それは宇宙技術が外交的に使え、商業ベースを意識したものへシフトしつつあるからだ。外交交渉ツールや商業ベースとなる素地をもつならば、自身の優位性を確保するまで情報を開示しないのは当然だ。

これからの時代は情報を握るものが勝敗を左右する。ロケット戦略も技術動向だけを掴むのではなく、外交的効果や商業市場を見込んでアライアンスを含めた戦略を立てる事が重要であり、技術開発・維持と称して“雇用対策”や“利権拡大”という低い次元でロケット計画を推進しているJAXA宇宙基幹システム本部的な方法では、間違いなく日本のロケットは生き残れず、世界的に淘汰されるのは時間の問題だ。また、国として打上げ手段が必要と言っても、割高で戦略性も乏しく、国際基準・動向を無視したロケット計画(H-2Bや次期固体ロケット)では国民の納得を得られない。

JAXAは都合の悪い国際動向は発表しない体質が横行しているが、このような情報封鎖によって国際動向が日本国内では殆ど流れず、「宇宙の世界では何が起こっているのか?」が一般大衆へ公表されていないのが現状だ。このままでは、日本の宇宙政策や技術が崩壊の一途を辿っていく可能性がある実情を読者の皆さんには理解して欲しい。またこの危険性を感じて、「JAXAという文部科学省主導で行われてきた技術開発体制を脱却し、省庁の縦割りを乗り越えて、宇宙を外交や国民・国際貢献(防災・減災)へ使えるツールにすべく、日本の将来のために宇宙基本法を作ろう」という動きがあるなら筆者は歓迎したい。

◎日本の優位性を戻すために

 宇宙先進国のLow-Costランチャーは、量産可能なもので、観測ロケットベースのSCOUTは1.2億円(LEO数百キロ)、ロシアは6億円(LEO1.3t)〜18億円(LEO2.5t)のものなどが存在する。ロケットが国際化するなかで、日本は優位性を戻す戦略が今後必要であり、その観点で国産ロケット技術を発展させるべきだと考えている。

 日本のロケット開発はペンシルロケットから始まり、小型からコツコツと積上げてラムダロケットで衛星打上げに成功した。当時は固体燃料ロケットでは、「衛星打上げなんて出来ない」と揶揄された時代もあった。この観測ロケットからコツコツと技術を磨き上げた国は、日本とアメリカと旧ソ連(ロシア)だけだ。韓国・中国・イスラエル・ドイツ・フランス・インドは実績が無い。日本としての優位性に気付くべきではないだろうか?つまり、アメリカの例にならってLow-Costランチャーを国際市場で勝つためには、日本の観測ロケットであるTT-500A型、SB型、SS-520、S-310などを振り返り、SCOUTのようにLow-Costランチャーを目指して商業市場を狙う戦略はどうだろうか?これは競合者が比較的少なく、日本が優位性を戻すために効果的だ。具体的には、将来的に年間300基衛星が製造されるため、その打上げ市場へ対応するため、民生品の多用や量産ベースの加工法および、アビオニクスはビジネスジェットの機器を使用し、徹底的にコストと量産を意識した小型衛星打上げロケットを目指してはどうか?具体的にはSCOUTよりも小さいロケットを製作し、場合によってはSCOUT打上げ会社とアライアンスを組んで、日米連合でLow-Costランチャーにおける「LOW部分市場(数キロ〜数百キロ)」を狙う方法もある。国産固体ロケット技術で独自技術、独自製造方法を確立し、将来的にユニット&モジュール交換ができてインターフェースも共通化すれば、対等な付き合いが可能だ。しかも固体ロケットは製造して5年〜10年保存が可能なため、ストックが比較的容易だ。また、法的・外交的環境が整えば、“ならず者ランチャー“技術者をピース・トランスファーさせるために、Low-Costランチャーを出張打上げする方法があるかもしれない。また、キューブSAT(PICO衛星)や10kgクラスのNano衛星を外交の観点で大学や高校へ政府ODAとして供与し、低価格のLow-Costランチャーで単独打上げすれば、日本がアジア諸国で優位性を築けられる。つまり超小型の単独打上げ手法は、日本が優位性を確保できる分野なのだ。場合によっては日米露連合会社でラインナップを揃えてやってみる方法もある。これは韓国や中国ではできない分野だ。

 また、一方で比較的大型のロシアLow-Costランチャーは、CYCLOE-2/3(LEO:2000kg)が$15mil(約18億円)、CYCLOE-4(LEO:2500kg)が$15〜18mil(約18億円〜約21.6億円)であるが、国産M-V(LEO:2500kg)ロケットは、過去検討したコストダウン手法をすれば、量産ベースでなくても30億円は可能だ。さらに、民生品の利用と民間航空機で使用されているアビオニクスを流用し、製造を工芸品製造法からロシアのように素材の適所適材化・工作法の見直しを実施すれば、CYCLOE-4と同等クラスを狙え、KOSMOSの“3種類の最終ステージ”にも対応でき、START-1のキックモータと最終段液体戦略にも対応可能な素地を十分兼ね備えている。つまり、世界トップを走るロシアの国際基準ランチャーへ十分対抗しうる技術基盤を日本は国産技術として保有しているのだ。これをわざわざ放棄する必要は無い。しかも固体ロケットは長期保存が可能でResponsive Launch(即応打上げ)が可能なため、地震や災害発生時などに “TOPSATやTacsat”ような衛星を短時間で打上げて、被害状況把握や通信確保・補充(情報爆発の対策)へ利用すれば、大型衛星システムを常時維持し続けるより安上がりな可能性が高い。これら宇宙利用時代に対応できる能力を保有している。つまり国産固体ロケット技術は日本のナショナルプレステージになり得る素地を持っている。

    
測位衛星GLONASS-Kは1機750kg(出典:AIAA)          複数衛星搭載(出典:Commercial Space Technologies, Ltd.,)

 日本が世界から優位性を取り戻すために、国産固体ロケット技術を国際市場へ出すようにする戦略が今後必要ではないか?これは、今回のM-V運用中止問題の反省からJAXA主導ではなく、地球周辺の宇宙活動を民間主導で行うNASA方式を採用して、メーカー主導とすべきだろう。

 以上、超小型Low-Costランチャー市場を目指すために観測ロケット技術を、比較的大型のLow-Costランチャー市場へ対応するためにM-V技術を次世代化すれば、Low-Costランチャー市場を超小型と大型双方から挟み込む戦略で日本の優位性を戻す戦略として必要だと考えている。

◎次期固体ロケット計画の問題点(SRB-Aは日米協定上、強い拘束が発生)

 ロシアやアメリカがイギリス・ドイツ・スウェーデンとアライアンスをしてLow-Costランチャーを目指している現状において、JAXAの次期固体計画は、海外動向から見れば日本の優位性を戻す戦略性には乏しい。JAXAの計画はM-Vの運用を中止し、H-2AのSRB-AとM-Vロケットの2段目と3段目を組合せた次期固体ロケットを100億円かけて開発すると発表している。開発理由はM-Vが高価で固体技術維持の観点で必要としているが、H-2Aと比較してM-Vが高価格という主張も、先月号で示したように根拠のないことも判明している。

 また、部品を共通化してコストを下げて品質を安定すると主張しているが、10年前、いや出来る頃には15年前という旧世代のパーツを今ごろ共通化してもコストが高く意味が無い。またアッパーステージ(最終段)も時代遅れである上に、コストバランスも悪く、射場も改造する必要があり、共通化すると主張するSRB-Aの改造は実質避けられない。海外のLow-Costランチャーにおける「温故知新戦略」は、形は同じでも“民生品を多用し、部品や製造法を次世代化”させて低価格化させている。

 そしてSRB-Aを1段目に採用する事が最大の問題だ。SRB-Aは純国産ではなく、海外メーカーのライセンス物で制約品である事実をJAXAは隠している。SRB-Aは日米宇宙協定上、強い拘束が発生するため、新規固体ロケットはライセンス供与国の意向次第でいつでも中止へ追い込まれる潜在性を持つ。つまり、JAXAの主張する固体燃料ロケット計画は技術維持にはならず、SRB-A使用はダメなのだ。もともと独力国産固体ロケット技術があるのに、わざわざ拘束条件を加えるメリットが何処にあるのか?

 現状の次期固体ロケット計画を航空機で言えば、日本がF-16を改造してFSX(F-2)を開発したように、発展性の見込めない拘束条件が始めから加わることと同じなため、JAXA宇宙基幹システム本部の戦略は「固体燃料ロケットの段階的な根絶やし戦略」とも言える。日本の優位性を戻す素地のある国産技術を放棄する行為は国益に適っているとは言えず、SRB-Aの本質を隠して一般発表したJAXA宇宙基幹システム本部は非常に問題がある。

  しかし、JAXA筑波にも優秀でまともなエンジニアはまだいるようだ。このあまりにも露骨な固体ロケット潰しの動きに対し、JAXA筑波内部でも「フェアじゃない」とか「やり過ぎだ」との声が密かに上がっている。さらにライバルメーカーのロケットエンジニアからも「いくらなんでも酷すぎる」と同様の声が上がっているそうだ。これらまともなエンジニアが多く育ってくれることを切に望みたい。


JAXA次期固体ロケット(Solid-X)(出典:JAXA記者説明資料)

◎まとめ

 アメリカは“観測ロケット技術”を、ロシアは“旧ソ連ロケット技術”を、欧州は“国際アライアンスか独自技術”をベースとして、Low-Cost Launcher(低価格ランチャー)を開発している実情を紹介した。海外では国際市場で通用するロケットを目指して民生品を多用し、部品・材料・加工法・製造体制を抜本的に見直して次世代化を進めている。

また、Low-Cost Launcher開発は、将来的に衛星が年間300基需要になる予測から実施されている背景がある一方、俗に言う“ならずものランチャー”を淘汰する潜在性を持った外交・産業ロケット政策でもある。

 世界情勢を分析すれば、技術開発・研究開発を目的とし、国際基準を無視したロケット開発計画を立てている宇宙先進国は日本以外存在しない。実際、JAXAの次期固体ロケット計画は、国際基準・戦略性・コスト・技術戦略の観点から国際的に通用せず、時代遅れではなく時代外れコンセプトだ。H-2AのSRB-A使用は日米協定上、強い拘束が発生し、独力国産固体ロケット技術の自由度も失われる。H-2BやHTVも国際基準から評価をすれば競争力は無く国際動向無視のロケット計画を立案しているのがJAXAだ。よって今後は、国際的な土俵へ上がるため、ロケット開発体制を抜本的に見直し、日本が優位性を取り戻すための戦略が必要だ。これを最低限実施しなければ、JAXAのコストオーバーラン体質脱却もできないため、有人宇宙開発をチャレンジする権利も得られないだろう。今回はLow-Cost Launcherの国際動向を紹介したが、日本のロケット技術が価格・技術・戦略的に世界へ通用するものになって欲しいと願う。


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