JAPAN RESPONSIVE SPACE(固体燃料ロケットの復権)
  (エアワールド2006年6月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年6月号」をお買い求めください

 近年、「もう時代は終わった」といわれていた固体燃料ロケットが再度注目されている。本稿では固体燃料ロケットが再注目されている理由や国外の開発動向及び次世代化動向を述べたいと思う。

◎ピースキーパー弾道ミサイルのロケット化動向

 先月号でジョージア工科大学の航空宇宙設計研究所がピースキーパー弾道ミサイルを使った低コストのロケット研究をしている事例を述べたが、単なる大学の1研究テーマとして見がちな技術論文報告書が実はアメリカにおける固体燃料ロケットの総本山的なことをしているのでは?という動向が最近見られるようになってきた。固体燃料ロケットは「液体ロケットの補助をする役目であって大した事ではない」という偏見があり、枯れたロケット技術で将来的な展望はないと言われていた。しかし、ジョージア工科大学が発表したピースキーパーICBMの有効活用レポートの発表以降、「ロケットの低コスト化が進む中、こいつを上手く使えば国際競争力あるロケットになるのでは?」という考えが生まれ、大手ロケットメーカーのロッキードマーチン社、ミノトウル4を開発中のオービタルサイエンス社に加えて、中小企業らしき名前の聞いたことのないロケット打上げ会社までもが登場し、ピースキーパーを使った打上げ事業を展開しつつある。では、固体燃料ロケットのピースキーパーがどのようなロケット化が進められているのか見てみよう。


ピースキーパーICBMと各段の固体ロケットモータ(ASDL)

ピースキーパー各段モーターの諸元(ASDL)

◎E' Prime Aerospace Corporation(EPAC)

 ピースキーパーロケットの打上げサービスを目指した会社が2004年に設立されていた。この会社はE' Prime Aerospace Corporation(EPAC)であり、ピースキーパーをロケット化するため、「Eagle(イーグル)ロケット」を開発、地上発射と海上発射を構想している。この「イーグル」と言うネーミング根性からすると、かなり気合いが入ったロケットのようだ。そのEagleロケットのコンセプトを下図へ示す。

Eagleロケット一覧表
(出典:EPAC)

 このイーグルロケットは、S-Z型まで一挙に開発しているわけではないが、聞くところによると既にS-U型までの開発費は出ているそうだ。

 このEPAC打上げサービス会社は、“民間衛星の打上げ”という商用利用の他にも“NASAの月火星探査計画の物資輸送や人員輸送”も視野に入れており、NASAが“民間から打上げ手段を購入する”という方針に基づいて「月軌道までの有人宇宙・物資輸送」まで構想を描いている。さらにアメリカ空軍やNOAAなども利用検討を開始している。このように、利用者が検討している背景にはEagleロケットのコンセプトが

・ 新しい技術を要求しない

・ 柔軟性のあるモジュラー設計と組立コストダウンで具現化

・ 固体ロケットモーターは、信頼性・貯蔵性があり、高価でもなく、即応性がある

・ 飛行実績のある設計と手順を使うためエンジニアリングコストを最小にできる

・ ICBMピースキーパーは既に技術が達成されているため、ロケット化に対して高い信頼性がある


という利点・方針をEPAC社が掲げて堅実なロケットを目指しているからと考えられる。


イーグル・ロケットモータ        地上(列車)打上げ(EPAC)

 さらにミサイル地下サイロ改造打上げ以外にも、なんと地上打上げと海上打上げを提案している。地上打上げでは、“RAILCAR LAUNCH SCENARIO(列車打上げシナリオ)”として、日本のM-Vロケットのように斜め打上げを提案している。その動画が配信されているので、興味のある方は是非ご覧頂きたい(http://www.eprimeaerospace.com/videosenariohi.htm)。

さらに海上打上げも提案されている。この海上打上げコンセプトは、「Mobile Ocean System Launch Platform(モバイル海上打上げシステム)」として提案されており、日本で言う移動式メガフロートのようなもので、打上げの際は発射台がブレないように展開式の脚を海中へ開脚して使用しているようだ。これも動画が配信されているので、一目みれば分かるだろう(http://www.eprimeaerospace.com/videomos.htm)。<注意:動画をDLするため、少し時間がかかります>


海上打上げコンセプト(EAPC)

◎ILS(International Launch Services)

 EPAC社による地上・海上打上げに加え、“ピースキーパー・ロケット化”の動きはまだあるようで、何と大手ロケットメーカーのロッキードマーチン社がピースキーパー空中発射事業を本格検討している情報が入ってきた。

 ロッキードマーチン社は自社ロケットであるアトラス5を保有し、前世代のアトラス2やアトラス3を含めてカウントすれば100回以上の連続打上げ成功記録を誇っている。このアトラス5に加えてロシアのクルニチェフ社製造のプロトンロケットとアライアンスを組み、1995年にInternational Launch Services(ILS)社という国際アライアンスの打上げ事業会社を設立している。この米露合弁企業が大型静止衛星打上げ需要を見込んだ打上げサービスを提供しているが、今後需要が拡大すると見込まれる小型衛星打上げ需要を見込んでコストで勝利できる可能性を秘めたピースキーパー・ロケットの空中発射事業を検討しているそうだ。しかも検討と言うよりも事業化へ向けて具体的に行動を起しているらしく、空中発射母機としてAn-124ALと呼ばれる空中発射特別仕様の機体を既に2機発注しているとの情報もある。聞くところによれば打上げ事業会社はILSとのことで、商業打上げ会社として今後ラインナップに並ぶだろう。


An-124-AL(出典:アントノフ)

◎オービタルサイエンス社の固体燃料ロケットビジョン

 地上発射型ロケットはEPAC社以外にもオービタルサイエンス社が存在する。筆者は先月号でオービタルサイエンス社の固体燃料ロケットである、ペガサス、トーラス、ミノトウル、ミノトウル4の技術的流れを紹介し、「既存ロケット・ミサイルモーターを流用して価格勝負できる即応型ロケット」を開発するため、ペガサス・ピースキーパー・ミニットマンの技術を使ったロケットを開発中との話をしたが、さらに調査を進めると、ピースキーパー弾道ミサイルをロケット化した「Hyperion(ハイペリオン)」ロケットの存在が分かり、オービタルサイエンス社がさらに戦略的な固体燃料ロケット開発を実施していることが分かってきた。またオービタルサイエンス社は固体燃料ロケット技術を飛躍しない方針で伸ばすビジョンを立てている。その一覧を下図へ示す。


固体燃料ロケットの進化(1998年〜2007年)(出典:AIAA)

 この図によると、2004年〜2007年にかけては第3世代として110億円かけて

・ ピースキーパーロケット「Hyperion(ハイペリオン)」

・ F-15空中発射ロケット「F-15MSLV」

・ ペガサス低コスト版の「Pegasus-Lite」


という衛星打上げロケット計画を立てている。このうち、ピースキーパーロケットのハイペリオンは、ピースキーパーミサイルの核弾頭を外してそのままロケット化させたものであり、ペガサスライトは空中発射ロケットであるにもかかわらず、翼がない設計となっているようだ。

このように、段階的に技術を継承しながら「DARPAの即応型衛星プロジェクト」や「小型衛星開発動向のニーズ」に合わせてロケット開発を計画的にやろうとする発想はすばらしい。ロケット開発は、しっかりと“目的”があってやらなければ、失敗することは見えているため、オービタルサイエンス社では徹底して固体燃料ロケット技術を磨きつつ製造戦略を立てているのだ。

これを見てふと思ったが、旧宇宙科学研究所がM-V Liteを提案していたのは、もしかしたらオービタルサイエンス社のようなTaurus LiteやPEGASUS Liteのような発想があったのではないか?もしそうならば、M-V Liteを提案したロケット技術者の視点は間違っていないのでは?と思われる。これもイギリス経済誌で言われていた「NASDAによるISASつぶしの流れ」ならば残念な環境だ。

話は戻るが、このような固体燃料ロケットの進化ビジョンを示しているオービタルサイエンス社は技術開発暴走主義で失敗しない戦略的な発想があるのだ。それは衛星にも生かされている。自動車で言うシーマやセルシオのような高級グレードは狙わずにカローラ80点主義でやろうとする衛星製造戦略があるのだ。

   
NSTAR-c            Horizons-2
 (オービタルサイエンス社HP)

◎固体燃料ロケットの復権

 話は外れたが、固体燃料ロケットは「再着火はできなくて振動環境は悪くても、液体燃料ロケットと比較して故障個所も少なくコスト競争上有利」という固体燃料ロケット特有の利点が再度注目されており、ピースキーパーを用いた地上・海上・空中ロケットがアメリカでは複数行なわれている。さらに最終段のみ液体にすれば複数の衛星を軌道投入できるため、一部の固体燃料ロケットは最終段のみ液体化している。

これは明らかな「固体燃料ロケットの復権」であり、「液体燃料ロケットを補助する役目で大した事ではない」という誤った観点を我々は改めなければならないだろう。そして、この上記3つのピースキーパーに絡むロケット開発は、すべてジョージア工科大学の航空宇宙設計研究所が2002年に発表した「A Conceptual Study of the Space Launch Capability of the Peacekeeper ICBM(ピースキーパーICBMのロケット化のコンセプト研究)」ベースであるようだ。ここでは技術的検討を行なっており、小型ロケットからロケットモータを複数組み合わせた大型ロケット、そして空中発射ロケットに至るまで技術検討を行なっている。そしてその研究成果を企業が流用しているのだ。このように、大学の研究がロケットメーカーの重要な“下地”となっている事実を我々は知っておくべきと同時に、日本はアメリカのように潤沢な宇宙予算はないため、やみくもに大型化への暴走開発やコスト効率・ペイロード比率の悪いロケットを開発することは許されない。つまり、今後のロケット開発は今ある技術をどう生かし、“射場システム維持費用”や“ハンドリングコスト”という裏コストも含めて総合的に低い投資で最大の効果を引き出す戦略が重要となる。

◎米大手ロケットメーカーは全て空中発射ロケット開発へ着手

 また一方、本稿で判明したことは、アメリカの大手ロケットメーカーは、すべて空中発射事業を展開していることがはっきりした。まずはデルタ2、デルタ4、シーランチ(ゼニットSL)を展開するボーイング社はF-15MSLV(オービタルサイエンス社と共に)、ノースロップグラマンはF-14空中発射、そしてロッキードマーチン社はAn-124+ピースキーパー改造ロケットというように大手宇宙メーカーは全て空中発射事業を展開しているのだ。これに加えて

・ 低コスト版ペガサス(次世代発射母機も検討中)=ペガサス・Lite

・ Airlaunch社のFALCONロケット(発射母機C-17)

・ t/SpaceのCXV(発射母機B-747)

・ ロケットプレーン社と北海道ハイブリッドロケットとの空中発射ロケット事業(発射母機リアジェット)

・ スペースシップワン(衛星打上げではなく、弾道飛行旅行用)


等を見れば、近年は空中発射ロケット開発が活発化していることは明らかだ。これは、即応型宇宙にマッチした概念とコスト削減効果が高く、何よりも技術的なオモシロさがあるからだと筆者は考えている。これらの具現化の動きは全てが実現するとは考えにくく、恐らく小型、中型、大型と3つ程度に集約されていくものと思われる。


実物大のロケット段間部、切離実験(エアランチ社) 


FALCON落下実験(エアランチ社)

また、これら官民の空中発射プロジェクトを支援するため、何と米空軍はB-52HやB-1Bの一部を空中発射母機として用意する方針を考えているようで、老兵B-52Hは利用拡大を見込んで旅客機エンジンへ換装(リエンジン)したり、コックピットを新しくしたりする動き(B-52H Re-engining計画)さえある。

つまり、

・ F-14、F-15という小型ロケット打上げ用

・ B-52やB-1BやMD-11という中型ロケット打上げ用

・ C-17やB-747という大型ロケット打上げ用

とアメリカはあらゆるニーズへ対応した空中発射時代の対応へ動き始めている。また、この機体を民間企業の実証機用として支援している背景を見ると、そのサービス精神はすばらしいだろう。恐らく、機体の兵装を外し、次に審査パスした企業へ貸し出す発想だと思われるが、日本にも防衛庁が保有し、三菱重工が整備するF-15があるため、アメリカ空軍のように民事開発へ開放する政策があればすばらしいだろう。F-15は兵装を外せば高速航空機なのだから、、、、。

 
  MD-11F(airlinerphotos.de)       B-52H Re-Enginering計画(USAF)

◎宇宙先進国のうち、日本以外は空中発射ロケットを開発中

 過去の紙面で少し紹介したが、アメリカ以外の国でも空中発射ロケットの開発はここ最近盛んだ。米国に加えて最近ではF-15MSLV(Micro Satellite Launch Vehicle)に対抗したロシアのMig-31フォックスハウンドを母機とした空中発射ロケット「Ishim」がシンガポールで開催されたアジア航空宇宙展で発表された。このロケットは“全段固体燃料式”で3もしくは4段式だそうだ。そして高度15km〜20kmまで上昇して重量10トンのロケットを切離して打上げ、実験は2007年に予定されている。


Mig-31が母機のIshimロケット       F-15が母機のMSLV
(出典:Flight International)             (出典:USAF)

さらにロシアでは、オーストラリア・イギリスとM-55を使った空中発射ロケット開発をしている状況を見ると、かなり本気でやっている状況だ。


M-55(MARS 2005)

  そしてあまり情報がなかったフランスでも、空中発射ロケット開発の情報が入ってきた。何とフランスでは、スウェーデンと共同で小型衛星打上げロケットとして固体燃料型の検討を進めており、空中発射母機はグリペンや1996年に退役したが整備保管されているミラージュ4、ラファールMを検討しつつ、A-340を空中発射母機とする戦略も立てているそうだ。


フランスも本格的に空中発射ロケット開発を開始(仏軍、エアバス)

  また、過去の紙面で紹介したベガの空中発射ロケット事業であるが、An-124-AL型を発注したとの情報が新たに入り、いよいよベガの空中発射事業が具現化しつつある。事業会社設立の報はまだ聞かれないが、いずれ出てくるだろう。また、インドネシアとロシアがロケット協力を結んだとの報道発表があり、ロシアのゼニット・ロケットベースの空中発射ロケット“Polyot”がインドネシアという赤道直下の国から打上げられる予定だ。また、ゼニットロケットを基本としているため、「シーランチロケットを止めて一緒にやらないか?」とボーイング社へ打診している噂もある。

 よってアメリカ以外にもロシア・フランス・イタリア・イギリス・カザフスタン・ウクライナ・オーストラリア・カナダ・インドネシアが空中発射ロケット事業を開発・展開している中、日本以外の宇宙先進国は全て空中発射ロケットをしている事実が明らかとなった。


PolyotとAn-124AL(Air Launch System Corp)

◎宇宙港は商業宇宙観光だけではない

 エアワールド2006年6月号をご覧ください


B-52H使用の空中発射ロケット(オービタルサイエンス)  C-17(Airlaunch社)

◎日本単独でのABSLは?

 恐らく、ここ3年以内には空中発射ロケットの具現化が進み、多くの打上げ会社が登場するだろう。日本単独で空中発射ロケット(ABSL)プロジェクトをやることは隣国から警戒感が出てくるため、ミサイルへ転化させないためにもILSやボーイング、スターセムなど国際共同開発を打診する方針が望ましいだろう。また、小型の空中発射ロケットは、ICBM転化が困難ため、100%国産化が可能であるとの確証が得られれば、上記アメリカのF-15MSLVのようにJAXAが防衛庁へ協力を依頼して「兵装を取り外した非武装F-15」を用意してもらい、整備管理する三菱重工がF-15MSLVのような空中発射ロケットシステムを製造してはどうだろうか?SS-520とM-Vの中間を埋める小型衛星ロケットを三菱重工が担当する戦略もあり得る。これならば競合する可能性は低く、場合によってJAXAは航空機提供のみとし、ロケットは民間企業を育成させるため、経済産業省管轄のUSEF(財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構)が担当する発想だってある。小型衛星需要として筆者は200kg程度の衛星を太陽同期軌道へ打ち上げる能力があれば、かなりのことができると考えている。


NASAは米空軍からF-15を借りている(NASA)

 既に空中発射ロケット開発はスピード勝負だ。余計な技術開発はせずに低コストで早く達成した企業が勝者となる。そうした中、日本唯一名乗りを挙げている北海道ハイブリッドロケットチームへ筆者はエールを送りつつ、ぜひとも中国系宇宙企業ではなく純粋な日本の企業投資家の投資をお願いしたいと切に願う。

◎マルチ目的の衛星バス開発も

 また、空中発射ロケットや即応型宇宙によってロケットの低コスト化が実現できれば、現行の宇宙予算で様々な宇宙利用が可能となる。そうなれば、衛星の需要増加も期待できるが、過去のAIAA即応型宇宙会議の資料によると、低価格を目指し、衛星バスのマルチ目的化を想定した宇宙機(SPACE VHICLE)がある。それはTrailBlazerTMだ。

    
TrailBlazerTM(Trans Orbital)

 TrailBlazerTMはキックモーターを搭載した宇宙ビークルで、低軌道・中軌道・静止衛星・月軌道という、どの軌道へ投入しても使用可能な衛星バスなのが特徴であり、アメリカのバージニア州にあるトランスオービタル社が開発しているが、技術提案はなんとブラジルからなされているのだ。TrailBlazerTMのように衛星を一品工芸品から簡易・マルチゼーションする発想は今後日本の衛星開発にも必要な発想だ。

◎固体燃料の次世代化の動きも

 また、空中発射ロケットやE' Prime Aerospace Corporation(EPAC)など、ここへきて固体燃料ロケットを見直す動きが盛んだが、どうやら現行の固体燃料ロケットを流用する発想だけに留まらない動きがあるそうだ。筆者は現行のM-V固体燃料ロケットは打上げ数が少ないために、環境負荷の点は検討対象外としていたが、固体燃料ロケット次世代化の動きを知ってからこれも扱うべきだろうと考えた。現行のM-VロケットやH-2AロケットのSRB(固体ロケットブースター)は、ポリブタジエンという“合成ゴム系”の材料を燃料とし、燃やすための酸化剤として過塩素酸アンモニウムが使用されている。このため打上げ時にロケットモータが燃焼すると排気ガスの中に塩酸が混じるため、射場付近に酸性雨を降らせる可能性が指摘されている。この排気ガスに含まれる塩酸は自然界に存在する物質のため特に“過剰反応”する必要は無い。それよりも、ドニエプルロケットや長征3号ロケットのように“非対称ジメチルヒドラジン”という劇物を第一段目などへ使用しているの方が環境へ害を及ぼす影響が大きく、これらロケットは将来的に“環境不適応ロケット”と批判されて使用できなくなる可能性が高い。実際ロシアでは、人体に影響を及ぼしており、保証金を支払っている報道もなされている。

   
環境性に問題のあるドニエプルと長征3型ロケット(コスモトラス、www.vfr.de)

 現行の固体燃料における環境上の問題は大きくはないが確かに存在するため、将来的には解決する必要がある。このため、固体燃料の次世代化研究が密かに進んでいるのだ。その理由として固体燃料ロケットは「低コストロケットの素地として良いことから、この技術を抜本的に見直して使おう」という戦略思想があるようだ。そもそも固体燃料ロケットは、液体燃料ロケットと比較して故障個所が少なく部品点数も少なくできるメリットがある。このため、ピースキーパーやオービタルサイエンス社開発のロケットモーターが再注目されているのだが、さらにコストダウンを狙うのなら、「燃焼圧を低く、低コストの燃料」が必要との観点が生まれ、民生品利用を含めて固体燃料を“全く新しい概念“にしようと研究開発が進んでいるそうだ。この”燃焼圧を低く“できれば、ロケットモーター構造を簡素・軽量化することができるため、コストダウンの道が開ける。

 このため、既存メーカーにこだわらず、形成剤や添加剤や耐熱軽量タンクを新たにする模索が既に始まっている。しかもその素材供給企業の中に日本企業が含まれており、聞くところによれば、海外では新しい固体燃料ロケットの研究相手先として日本企業が参加し、JAXAを介さず直接企業へコンタクトして開発しているそうだ。つまり、世界でTOPを行く日本の固体燃料ロケットがここ2,3年、何ら戦略方針を示さずに迷走している間に、海外ではしっかりと日本の企業を取り入れて技術開発をすすめているのだ。

◎低コスト化と次世代化の追求は始まっている

 残念ながらJAXAのロケット開発はハイブリッドへ着手している兆候も無く、固体燃料ロケットも“世界のお手本“として保有しているものの、枯れたロケット技術と称して本質を見抜いている人は少ないようだ。固体燃料はすでに次世代化へ進んでおり、ナノ推薬で低毒・低公害性の開発が密かに進んでおり、近い将来ハイパーソリッド推薬として次世代固体燃料ロケットやハイブリッドロケットの推進剤の本命と目されている事実を認識すべきだろう。

 また、聞くところによるとある国のロケット教本では、「目的無く開発したロケットの失敗例」として旧NASDAのJ-1シリーズとTR-1ロケットを紹介しているそうだ。日本として恥ずかしいが、今後はこの失敗をバネに前へ進めばよい。日本には推薬を開発できる火薬メーカーや化学メーカーが多々おり、高分子材料技術は世界トップランナーであるので国産能力は十分にあるからだ。

 情報を収集して固体燃料ロケット次世代化の動きを把握し、コストダウンのために即応型ロケットの追及をする一方、液体燃料ロケットは「H-2Aの実価格」や「種子島射場運用コスト」や「輸送環境」の実情を公表し、世界に誇る内之浦射場のような低コスト思考を身に付け、コスト削減に努めるべきだと考えている。H-2A国際競争戦略は近い将来発表予定だが、H-2Bのような高コスト志向ロケットよりも、もっと世界から賞賛される液体燃料ロケット戦略が他にあると筆者らは考えている。詳述は次回にするが、「ISASつぶし」という醜い内輪もめは止めて、M-VというISASが開発した固体燃料ロケットのすばらしさを認めつつ、下表へ示すように次世代の固体・液体ロケット開発をしてはどうだろうか?


(画像出典:JAXA、HASTIC、Boeing)

 現行のロケットは基幹ロケットとしてH-2A、補完ロケットとしてM-Vがあるが、最近のネット掲示板ではM-V打上げの際に某大学の小型衛星搭載をH-2A側が反対したという理解し難い事態が発生したそうだ。驚くべき話ではあるが、この根底にあるのは「NASDA による ISASつぶし」という“負の遺産”である可能性が非常に高い。よって現状の基幹・補完宇宙推進システムという表現は止めて「次世代主幹宇宙推進スシテム」として再構築すべきだと考えている。H-2Aやその後継機は引き続き大型静止衛星や大量物資輸送等を担当し、再使用を含めて次世代化を追求。M-Vは低い投資でコストダウン(M-V Liteなど)し、科学衛星とともに小型高機能化が進む地球観測衛星等を打上げる。そして大学のCubeSATや300kg以下の科学・民間・地球観測衛星は世界潮流にあわせて固体燃料ロケットかハイブリッドロケットをJAXAが開発する。そして即応型ランチビークルとして低毒性・低コストを目指した次世代固体燃料技術を追及するのだ。そしてエアランチ技術も追求しながら将来の再使用ロケット時代へ対応してはどうだろうか?少なくともMSLVとSSLVの方策は、最も国力消耗型にならない方策であり、この3つの打上げ手段があれば比較的発展性のある打上げ手段が今後期待できる。ロケットはあくまで打上げ手段であって技術開発暴走の道具ではない。

 またこれは過去の負の遺産を精算し、世界動向と比較してロケット後進国とならないようにするための方策だ。またもし、この「ISASつぶし」というような醜い文化が進むのなら日本のロケット開発機関として失格であり、アメリカNASAのようにロケット開発は全て民間へ資金を提供して任せる戦略をとってもやむを得ないだろう。

◎まとめ

 先月号に引き続き、固体燃料ロケットの実情を紹介したが、既に世界では固体燃料ロケットの次世代化が進み、コスト競争を意識した空中発射ロケットの開発が宇宙先進国や大手ロケットメーカーで進められている実情を紹介した。またこの空中発射ロケットの多くは固体燃料ベースであることが分かった。これはコスト競争に勝てる要素がある一方、液体燃料型ロケットよりも技術的にクリアーしやすいためであるが、この可能性を見込んで次世代の固体燃料ロケット研究がすでに始まっており、JAXAを介さず日本企業が取り入れられている事実を認識してくれたと思う。そして純国産であるM-Vロケットとその将来戦略は重要であると考えている。今後出てくるであろうJAXAの固体燃料ロケット戦略は果たしてどのようなものが出てくるのだろうか?宇宙後進国とならないよう恥ずかしくない戦略を期待したい。


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