JAPAN RESPONSIVE SPACE(その2) M-V-RVS戦略:固体燃料ロケットの復活
  (エアワールド2006年5月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年5月号」をお買い求めください

 近年、ロケットの「製造高・コスト高・納期遅れ」が常態化しており、コストを下げるには量産できて短期打上が可能なロケットが望ましいとされ、様々な研究や事業化が進められている。その筆頭として注目を浴びているのが固体燃料ロケットだ。本稿では即応型宇宙として日本が対応できるのは、固体燃料ロケットのM-Vが最適ではないかと考え、M-V技術を振り返って日本における国産RVS(Responsive Vehicle System)を考察したい。

◎固体燃料型ロケットのRVS化の可能性

 即応型宇宙システムにおいて重要なポイントは、技術水準を損なわずして如何に安く、早くできるかが勝負となる。このため、既存のロケットや発射設備を改修して即応型宇宙を目指す方法が良いとされ、その研究成果から最短・最適と言われはじめているのが固体燃料ロケットだ。固体燃料型ロケットは、構造が液体型ロケットと比較してシンプルで、機械的故障も少ないため信頼性も高く、価格も比較的安い打上げ手段とされているが、一方で搭載衛星や探査機の打上げ環境が液体型ロケットと比較して苛酷であるのが現状だ。一般的には「固体燃料ロケットは時代遅れ」であり、液体型ロケットの方が飛行制御や再着火ができるため、もはや活躍の場は無いのでは?と考えられていた。しかし、考えに変化が出始めた。

◎ミノトウル・ロケット

 ミノトウル・ロケットは、アメリカ空軍がロケットのコスト効率・信頼性・柔軟性のあるロケットを目指すことを目標に、オービタルサイエンス社へ発注して開発させたロケットだ。つまりこれが即応型ロケットの開発なのだ。このロケットは全4段式の固体燃料ロケットだ。実のところ固体燃料は、液体型ロケットのように推力の調整ができないため、飛行時の最大動圧(MAXQ)を可能な限り小さくなるよう「重量バランスを整えて」組み合わされているのだ。したがって、ミノトウル・ロケットは何も安易にあるモノを組み合わせているわけではなく、打上げ手段として徹底した計算が行なわれているそうだ。

 また、ミニットマン弾道ミサイルをベースとしたミノトウルの一方で、ピースキーパー弾道ミサイルをロケット化させたミノトウルW・ロケットも開発中だ。このミノトウルとミノトウルWにかけてはコストダウン手法が取り入れられている。

アメリカの弾道ミサイル派生型ロケットは、当初はトーラスのように既存のペガサス・ロケットを取り入れたが、コスト上昇を招くという問題が露呈し、最近ではロシアのそれと同様に「純粋な」ICBM派生型ロケットへと変貌しつつある。

  
   トーラス(出典:OSC)       ミノトウル(出典:OSC)      ミノトウルW(出典:OSC)

◎ピースキーパー派生型ロケット

 このように、最近ではミニットマンやピースキーパー弾道ミサイル派生ロケットの研究開発が続けられている。

 戦略的観点でピースキーパーを有効活用するため、ジョージア工科大学ではピースキーパーを使用したロケットを徹底研究している。その研究レポートは「A Conceptual Study of the Space Launch Capability of the Peacekeeper ICBM (ピースキーパーICBMのロケット化のコンセプト研究)」として110ページにも及ぶ技術検討レポートが発表されている。それによればピースキーパーをベースによる様々な派生型ロケットが提案されている。


ピースキーパー派生型ロケット案(出典:ASDL)

論文を読み込むと名言はしていないものの、即応型宇宙用のロケットとしての土台研究が最近なされているようだ。その1つにC-17やC-5大型輸送機を用いた空中発射型ピースキーパー・ロケットやMD-11とミニットマンをロケット化した空中発射ロケットの概念設計をして、アメリカ空軍へ許可を得た上で、その技術や特許をアメリカ企業へ売却し、企業が事業化、大学は研究費を調達している。将来的にはいずれ上記のミノトウル・ロケット以外にもピースキーパー等を使用した即応打上げロケットが登場するだろう。

   
ピースキーパー(USAF)          シャビット(IAI)

◎シャビット

次はイスラエルのシャビットロケットだ。IAI社やRAFAEL社は、シャビットの固体燃料技術を流用し、打上げ手段のコストダウンと即応型宇宙を目指すため、戦闘機F-15や民間旅客機B-747を改造した空中発射ロケットを開発している。最近の報道では、F-15を用いたマイクロ衛星よりも、B-747などを用いた大型航空機を発射母機とする空中発射ロケット開発を加速させている。その中心的企業がRAFAEL社であり、この企業はロケットモーターや衛星の推進装置やタンクを開発している一方で、ミサイルパーツを開発している。RAFAEL社では、IAIと共にこれらの技術を背景にして低コスト打上げ手段の開発に着手、将来的にはシャビットに取って代わることを戦略的に考えており、イスラエル政府機関も開発を中止させていない模様であり、このABSL(Aircraft based Satellite Launch)システム構築によってシャビットの弱点である西向き打上げの解消も図れる一方、低コストの打上げ手段として世界市場へ参入してくるだろう。


空中発射ロケット公表資料(RAFAEL)

◎イタリア・VEGAロケット

 イタリアでは、欧州の中小型衛星打上げロケットとしてVEGA(ベガ)が開発中で、2007年に打上げ予定だ。このベガは1998年に開発が開始され、イタリアの宇宙機関ASIを中心に固体燃料ロケット開発をはじめた。しかし、当時の固体燃料ロケット技術はアメリカのサイオコール社(現ATK)、フランスのSEP、日本の旧日産の航空宇宙部門(現IHIアエロスペース)しかなく、イタリアにはアリアン5のSRB(中段と下段部分)を製造しているものの、固体燃料ロケットを作り上げる基盤技術は持っていなかった。そもそも固体燃料ロケットは弾道ミサイル技術と見られており、純粋にロケットのみとして開発されたのは日本の東京大学及び宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)のミュー(M)型ロケットのみだった。このため、イタリアの大学教授が学術ロケットとして当時開発されていたM-Vロケット技術を学んだと言われている。そしてM-Vの技術を学んで独自のイタリア主導ロケット、ベガを開発したのだ。ベガは世界で2番目のICBMベースではない固体燃料型衛星打上げロケットとして世に送りだされると同時に、M-VロケットのDNA(?)を引き継いでいるため、ある意味兄弟ロケットでもある。ぜひとも商業打上げロケットとして成功を祈りたい。それと同時に固体燃料型ロケットは「怪しい国」が技術を手に入れようと躍起になっているとの噂を聞く。よって日本とイタリアのロケット技術情報はしっかりと管理する必要があるだろう。


ベガロケット(Arianespace)

◎迷走した固体燃料ロケット開発計画

 日本では世界に誇れるM-Vロケットがあるが、果たしてすべてが順調であったのか考察したい。

■ J-1 ■

J-1は、H-2ロケットのSRBを第1段とし、第2段目には宇宙科学研究所のM-3型ロケットの上段部を組み合わせたロケットである。これは1991年から始まり、当時のH-1ロケット設備を有効活用して何かロケットができないか?という背景から始まっている。またこれは、開発コスト削減と早期に打上げ手段を確立して利用したいとするNASDAの戦略があったとされている。しかし、上記でのべたように固体燃料ロケットは重量バランスが重要であり、ただロケットモーターを組み合わせるものではないため、J-1ロケットの性能は必ずしも高いとは言えなかったようで、ロケット全重量におけるペイロードの割合は当時の宇宙科学研究所のロケットよりも低く、価格も当初目標としていた20億円を大きく上回り初号機は48億円と同等レベルの海外ロケットと比較して2〜4倍以上という問題を抱えた上に開発遅延も発生。1996年に極超音速飛行実験(HYFLEX) 1回の打上げ成功後、コスト削減を模索して2号機は直径を大幅に変化させるなどして35億円まで下げたものの20億の壁は高かったようでJ-1は1発の打上げのみで中止している。

J-1はH-1ロケット技術の利活用とSRB、M-3型ロケット組合わせてNASDA・ISASロケットを組み合わせるという融合案は「技術的に無理があった」と「コストが予想の倍以上」いう教訓を残して姿を消している。


   J-1と射場(出典:JAXA)           J-1打上げシーケンス(出典:spaceandtech)

 J-1改、J-2、GXロケット 

1991年から開発開始したJ-1をコストダウンしようと考えたNASDAは1996年ごろからJ-1改として考え始め、関連メーカーや商社を集めて検討を行なった。そしてこの議論の中では低コスト化が主題として上げられ、固体燃料ロケットだけにこだわらない、あらゆる可能性を模索している。そして検討の結果、三菱商事へ「低コストのロケット実現」と「将来的に競争力あるロケットの開発検討」を依頼し、三菱商事もこれに答えてIHIと日産(現IHIアエロスペース社)でロケット研究を始めた。この時点で「J-1クラスのロケット市場を狙うのは困難」とし、「J-1よりも打ち上げ能力の高い市場を狙う」としてJ-1改はJ-2へと変化した。よってJ-1は固体燃料ロケットであったが、J-1改では技術的共通点があるとは言い難い液体型ロケットへと変更して全くの別物となったのだ。このJ-2では、高度800kmに3tのペイロードを打上げる能力を持ち、打上げ価格は30億円と設定された。

そしてこの価格を実現するため、国産だけにこだわらないロケットを実現すべく、第1段エンジンは日本製ではなく、ロシアのエンジンをアメリカで改良した米露エンジンを使用し、2段目はIHIと日産(現IHIアエロスペース)が液体水素/液化天然ガスというロシアが磨いてきた技術を採用するという今までに無い大胆な戦略方針を掲げた。

この計画をNASDAはJ-2開発として予算260億円で計上し、宇宙開発委員会も了承した。だがとてもこの予算での実現は困難で、官民協力体制を新たに掲げた結果、民間側として三菱商事、IHI、日産(現IHIアエロスペース)、川崎重工、日本航空電子が150億円以上を出資するという展開になっている。そしてJ-2ロケットはいつしかGXロケットと改称され、当初2003年に打上げ予定だったが2006年の現在でも射場建設からロケット本体を製造しているという報道は聞かれない。このように小型衛星打上げロケットを国際競争力ある価格で開発を目指したJ-1改が今ではGXとなり、迷走を続けている。



     J-1の1号機と2号機                    J-1改                            J-1改

(spaceandtech)

■ TR-1A 

   エアワールド2006年5月号抜粋をご覧ください


TR-1A(出典:JAXA)

 このように日本国内の固体燃料ロケットを取り巻く開発は必ずしも全てが上手く行っていたわけではなく、特にJ-1ロケットはかなりの迷走によって姿を消している事情があることを私達は知っておくべきだろう。

■ M-Vライト 

 学術ロケットとして開発されたM-Vであるが、海外同等クラスと比較してM-Vロケットを「性能は認めるがコスト高」という問題が存在するため、M-Vロケットをコストダウンすべく「M-V-Lite」計画を宇宙科学研究所が発表している。これは、2つの選択肢が提案され、

1、M-Vロケット1段目を使用せず、2段目、3段目、キックモーターを使用した3段式固体ロケットを製造、開発費35億円で1機あたりの打上げ価格を13億円とする構想。

2、現行のM-Vの性能を少し下げ、開発費100億円で現行価格(65億円)の半額にする

方式が掲げられた。

しかし、このロケット開発は“性能が下がる”という打上げ能力だけで評価されたのか、イギリス経済誌エコノミストが述べている「NASDAによるISASつぶし」という醜い内輪もめが原因なのか、コストダウン提案はJ-1シリーズでは許されたにも関わらず、M-Vでは許されなかった。以上のように、M-Vロケットが生み出された前後には様々な固体ロケット開発が計画されては実用化せずにお蔵入りしているのが現状だ。

仮にエコノミストが言う「NASDAによるISASつぶし」があったとしても現在ではJAXAとなっている。表面上の融合ではなく、互いの良いところは取り入れる真の意味での日本国宇宙機関のJAXAになって欲しいと願うばかりだ。


M-Vライト(ISAS)

◎M-Vの利点と問題

日本初の人工衛星“おおすみ”打上げ(1970年)以降から2005年まで28回打上げられたミューロケットは、28回すべて同じ射場設備を使用し続けている。中大型ロケットにおいてこれほどまでに長期使用されたロケット射場は国内にはない。これはNASDAのように潤沢な開発費が無かったため、既存の射場を流用、改造して使いつづけている言わば“ビンボー射場”なのだ。だがこの低コスト思考は日本国内では評価されず、海外では「ほほう、こういう考え方はすばらしい」と学んで積極的に取り入れている。それがオービタルサイエンス社ロケット射場やベガの射場設計に生かされている。よって低コスト思考においてM-Vとその射場の設備流用思想は海外ではしっかりと高い評価を得ている事実を私達はもう一度振り返り、誇りに思うべきだろう。内之浦射場は国内では目立たなくても“知恵を絞って驚異的射場コストで作られた、世界のお手本射場”なのだ。

 
28回打上使用のMロケット発射台(出典:JAXA)

 またニーズを考えれば、小型高機能衛星時代のため、世界の潮流から見れば低価格化が可能で液体型よりも故障点が少ない固体燃料ロケットは有利である。またM-VはSOLAR-BやVSOP-2の打上げ需要がある一方で小型高機能衛星時代に対応できる技術をもった探査機PLANET-Cやソーラーセールミッションなど様々な科学ミッションが提案されている。したがって、「M-Vに需要がない」というわけではなく「M-Vを使ったミッション提案は多々存在する」ことが分かってきた。

コスト

しかし、すばらしい反面問題もある。それは、コスト高であることだ。現行のM-Vロケットは兄弟のベガが登場するまでは世界最高性能を誇るが、65億円という価格高を考えれば、今後維持することは困難だ。したがってコストダウンが必要なことは明らかだ。このため、宇宙科学研究所ではM-Vライトという低コスト化案を提示している。しかしNASDAではコストダウンが許されても、宇宙科学研究所では許されないようだ。しかし、もともと1発のロケット価格が高くても、開発費、射場設備、製造インフラへ投資した金額を総計してもH-2やH-2A開発にかけた費用と比べれば、20分の1でM-Vは開発されて射場費用も割安のため、“原価償却”という観点で考えれば効率の良いロケットであることはここではっきり述べておきたい。

◎国産化率

 M-Vにおける国産化比率は、素材ベースで遡ると約82〜85%が国産化に成功している。これは、かつての中島飛行機から技術を受け継いだ、富士精密工業が東京大学と共にペンシルロケットを始めとして脈々と固体燃料ロケットを開発し、それがプリンス自動車から日産となり現在ではIHIアエロスペースという、日本の航空機技術遺産を受け継いで開発されてきた固体燃料ロケットだ。

 そしてH-2Aはどうだろうか?H-2Aは米国の液体ロケット技術を導入している背景もあり、現在のH-2Aは、素材ベースで計算すると約42〜45%が国産化しており、半分以上が輸入品という状況だ。このH-2A発展案は今後扱うとしてM-Vは純国産ロケットであることをここで述べておきたい。

◎生産体制(納期)

 純国産であるが故にM-Vは納期短縮が可能だ。現行の生産ラインを多少改造すれば最速で月産1機のM-Vロケット製造が可能であり、内之浦射場での運用を上手く行なえば搬入から最速1〜2週間で打上げ可能だ。

一方、H-2Aはパーツの多くが輸入品であり、大型でもあることでM-Vのような月産1機は無理で、製造には最低3ヶ月かかる。しかも輸入品の検査などを考えれば、さらにリードタイムを考えなければならず、最長6ヶ月に1機ペースとなる。したがって、製造ラインへ莫大な投資をしない方法で評価をすれば、月産1機のM-Vと年産2機のH-2Aという結果となる。

◎振動環境

エアワールド2006年5月号抜粋をご覧ください

◎射場・輸送

現在のM-Vは種子島宇宙センターにて固体燃料を充填し、内之浦へ輸送している。つまり、輸送費が余計にかかっているのが現状だ。したがって輸送費の面から種子島でM-Vを打ち上げたほうがいいという意見には同調できる。しかし、財政面の点から考えれば、種子島にM-V後継の射場を作るとなると150億円程度かかると考えられ、さらに今回のようにH-2Aを2回、M-Vを1回、S-310を1回とすべて種子島で行なうと、安全距離の観点から一局集中は非効率を伴う。またM-Vライト計画では、コストダウン手法によってM-Vの1段目セグメントを2つから1つにする方策が考えられ、その結果1セグメントが大型化することにより、道路輸送が不可能という噂があるが、これは可能であるとの調査結果が出ている。実のところM-Vは直径2.5mのため、トラックや内航船へ搭載可能な仕様となっており、一般道路でも輸送が容易なため、H-2Aと比較しても輸送費用を安く製造しているのだ。

したがって、内之浦でM-V後継機を開発することは、「M-V以上の大型固体燃料ロケットは商業的な需要が見込めない」と「種子島集中・保安距離・費用・設備流用」の観点から内之浦を使用し、固体燃料ロケットの輸送費を支払ったほうが総合的に割に合うだろう。

   
M-Vの第1段モータ輸送と組立て(出典:JAXA)

◎過去の失敗を繰り返さないために

 M-Vロケットは固体燃料ロケットの世界トップランナーだ。しかし、上記のような迷走に加え、後継機案の噂を聞くと恐らく今後はブービーへと転落するだろう。そ例えばH-2AのSRBを使い、M-Vの2段目以降を使用するという発想があり、打ち上げ能力をアップするというアイデアが存在するとの噂を聞くが、それはISASとNASDAの融合という点では聞こえはいいが、J-1の教訓が全く生かされていないことを意味している。

今後のロケットはコスト効率の悪く国際競争力のないロケットを開発することはもう許されなくなっている。

◎今後の地球周回衛星は1t以下が常識化

 最近の新聞報道では、IAEAがついに各国へ衛星衛星画像の提供を呼びかけた。恐らくイランの核問題等で査察したい国ほど査察ができないので、IAEAが各国へ衛星画像提供を呼びかけたのだろう。つまり筆者ら先月号で述べた通り、IAEAの核査察衛星ニーズが出てきたのだ。このようなニーズに応じて国際平和貢献のためにピースSATを即応型の打上げランチシステムで打上げれば、利用者サイドに適合できる(コスト・機能・即応)ユーザーイノベーション衛星が可能となる。

これは日本では固体燃料ロケットが最も対応できる戦略だ。また、数日で地球観測衛星を製造するシステムがアメリカでは開発され、スウェーデンでも小型高機能の地球観測衛星を開発するとの報道があり、その解像度性能は1.5m、開発期間は3年で開発費は何と3年で40億円程度と発表している。さらにイギリスではTOPSATと言われる重量、125kg、17x17kmの地域を解像度でパンクロ2.86m、カラー5mで撮像可能か小型高機能地球観測衛星が2005年12月に打上げ成功し、地球観測衛星のシステム革新の動きは加速している。しかもこのTOPSATは打上げ費込み約25億円で、報道では「解像度における重量の割合が最も高い衛星だ!!」と述べており、暗に大型地球観測衛星は「時代遅れだ」と嘲笑しているような表現だ。さらにドイツではラピッドアイと呼ばれる150kgの地球観測衛星を2007年に5基打上げ予定だ。このように小型高機能地球観測衛星は1t以下が今後常識化してくる可能性が十分ある。


イコノス(NASA)                    ラピッドアイ(RapidEye AG) 


  TOPSAT (SSTL)

◎世界潮流へ向けたM-V-RVS

国際化する中で日本が唯一国産技術でやってきたM-Vロケットの今後は学術・技術開発ロケットではなく工業製品化させる戦略が要求される。そしてニーズや世界情勢から考えた結果、即応型ランチビークルとして国際競争力を持たせたほうが良いだろう。なぜなら、現在日本には小型衛星として対応可能なロケットが存在しないからだ。

また即応型宇宙システムを積極的に研究してコストダウンと国際競争力をつけるべきだろう。2006年4月末には、アメリカのロサンゼルスにてAIAAのResponsive Space Conference(即応型宇宙会議)が開催される。ここで最先端のコストダウンの素地とユーザーイノベ−ションを目指した宇宙会議があるので、ぜひともJAXAとメーカーの皆さんは情報収集したほうがいいだろう。そして日本に不足しているのは何なのか考えて欲しい。

また、過去の失敗事例から、SRB使用とM-Vの組み合わせは、重量バランスの問題とSRB熱処理の問題が発生することが考えられ、トーラスのようにコスト上昇を招きJ-1と同じ失敗をする可能性が高い。また種子島宇宙センターに新たな射場を建設しなければならず、トータルコスト上昇は明らかで、恐らく1000億円以上かかるとの試算結果が出ているため、国家財政面から考えれば非効率だろう。むしろその資金をM-V-RVSや今後筆者が掲げる予定のH-2A国際競争化戦略へ使用したほうが効率的だ。

◎純国産M-V-RVSのマルチ化

 したがって、日本が世界から遅れて2流宇宙国家にならない為にもM-V後継戦略とその派生戦略は重要だ。しかもH-2Aよりも純国産化率が高いため、もしロケット技術の輸入停止を受けた場合には日本唯一の打上げ手段となることを考えれば、この固体燃料技術維持は必須だろう。だからと言って大型化することは賢くないが、H-2Aと競合しないで発展させるにはマイクロ衛星時代へ対応したロケットという方針が最も適している。このため過去の誌面(2005年11月号)で述べたように、固体燃料ロケットは構造が頑丈であるため、地上・海上・空中打上げというマルチランチ対応が可能という“素地”を持っている点から、M-Vライト計画によって低コスト化を実現し、既存射場を流用しつつ現行のM-VとM-Vライト双方が打上げ可能なシステムが望ましいのではないか?そしてM-VとM-Vライトのコストダウンが実現できれば、国際競争力のある空中発射事業が展開可能となるため、海外ロケット・アライアンスである「ILS:International Launch Services」、「スターセム」、「Boeing commercial Launch Serves」のどれかへ参加する方法も考えられ、国際共同事業化も期待できる。このロケット・アライアンスの中で「自動車で言う軽自動車部門」M-V-RVSが担当すればよいのではないか?

固体燃料ロケット一覧


M-V-RVS化と発展例(画像出典:JAXA,T/space,sea-launch)

◎今後必要な宇宙戦略は?

今後は宇宙産業を生き残らせながらも独立できる方策を模索して官需依存型による甘えを断ち切らせる戦略が重要だ。特にM-Vは純国産ロケットでもあり戦略的発想を用いれば国際競争力あるロケットになれることがわかった。しかし、コストダウンに対応できない企業については残念ながら淘汰される環境にすることも仕方が無いだろう。国家財政を考えれば、宇宙予算が劇的に増加するとは考えられないのだ。したがって、ある予算・技術・知恵・戦略で世界と戦える宇宙産業育成がJAXAやUSEFや各官庁には要求される。したがって、

・ 日本一国でできる宇宙活動

・ 国際共同じゃなければ出来ない宇宙活動

・ やめるべき宇宙活動

を決める事も重要で、これからは何でもかんでも一国でするのではなく、「組める相手」や「組むべき相手」を考えながら宇宙活動をすべき時期にきている。そうした中で今回はM-Vの発展性を提案したわけだが、今後は即応型宇宙活動の紹介やH-2Aの国際競争化戦略、システム革新を述べていきたい。


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