次世代環境・気象監視システムの整備(環境・気象激変への総合的航空宇宙システム)
  (エアワールド2006年1月号抜粋)

 今年はハリケーン「カトリーナ」の被害や大型台風の接近・上陸があった中で、最近の地球環境について皆さんはどう思うであろうか?何となく「地球温暖化しているのでは?」と感じ始めているのではないだろうか?本稿では、これら自然と人間が共存する中で今後どのような航空宇宙システムが必要になるのか考察を行いたい。

◎台風の種類

 さて台風とは熱帯性低気圧が低くなったものであり台風と言ってもハリケーンやサイクロンなど様々な名称を耳にするが、いったいどのような種類があるのだろうか?それは基本的に地球地域ごとの名称があり、

・ 北西太平洋・アジア地域では台風(タイフーン)

・ 北部大西洋・北東太平洋・南東太平洋ではハリケーン

・ インド洋、南西太平洋、オーストラリア周辺等の地域ではサイクロン

と呼ばれている。


巨大ハリケーン「カトリーナ」(NOAA)

◎凶暴化する台風・ハリケーン・サイクロン

 2005年9月のアメリカ科学雑誌「サイエンス」によると、近年の台風は凶暴化の兆候があると述べている。この発表をしたのは米ジョージア工科大などの研究チームであり、彼らは1975年から2004年までの間に地球の各海域で発生した台風、ハリケーン、サイクロンについて、発生数や持続日数や強さを調査したとこのことだ。その結果、発生数や持続日数の増減傾向はないが、中心気圧が低くなっている傾向が見られるとのことで熱帯性低気圧の強さが増してきているとの結果を公表している。この傾向はハリケーン、サイクロンでも同様の傾向があるため“凶暴化”しているのでは?としている。

◎厄介な嵐を観測する方法は?

 さてこの厄介なハリケーンや台風を観測するには様々な方法がある。まずは静止気象衛星である。気象衛星は高度36000kmの静止軌道から観測する方法である。メリットとしては静止軌道にあるため、継続的な観測が可能である。しかし高度36000kmと非常に遠い距離にあるため、解像度が悪く局地的な観測には不向きである。

 そこで解像度の高い観測を行うために、高度850kmの南極・北極域を通過する極軌道気象衛星が打上げられた。米国のNOAA、DMSP、ロシアのMeteorなどである。これらの衛星ならば高度が低いために細かな観測が可能となり、局地的な気象観測も可能となった。しかしこれらの衛星は静止型と違って周回型のため、同地域の観測頻度が1日2回と低くなるというデメリットがある。よって同地域の気象状況を監視するためには静止気象衛星の観測解像度を高める必要があるのだ。

 
NOAA(出典:NASA-GSFC)         MTSAT-1R(出典:RSC)  

 そこで登場したのが気象観測機だ。気象観測機は台風やハリケーンなどの積乱雲へ突入し、「内部の気温、湿度、降水量、気圧、風速」などのデータを取得、ハリケーンや台風の詳細データを取得しているのだ。よって海外では、米国が太平洋と大西洋、イギリスが大西洋と気象観測機を飛行させている。

ではどのような航空があるだろうか?実のところ気象観測機は巨大な積乱雲の中へ突入するため、普通の航空機では機体が損傷、もしくは破壊されてしまうため、機体が“補強“されている。アメリカではロッキードマーチン社のC-130を改造したWC-130JやP-3Cを改造したWP-3が使用され、イギリスではBAEシステム社のBae-146-200が使用されている。またフランスではトランザール、カナダは流氷観測用にDASH-7、インドではTu-142型を2機保有している。これらの気象観測機の大半はエンジンが4発であることだ。気象観測機は旅客機が避ける積乱雲の中へ突入するため、機体は巨大な乱気流、雷、気温−40度の湿気にさらされる。このような環境下でフライトすると細かな氷の粒子が機体へ付着する恐れや、乱気流によって機体に大きな応力がかかるためにエンジンが停止したり、機体構造へヒビが入る恐れがある。したがって気象観測機は4発エンジンが理想の一方で、機体構造の関係から高度な航空機技術が要求されている。


         WC-130J(出典:USAF)                            Bae-146(出典BAE)

  
DASH-7(出典:Canadian Ice Service)  WP-3D(出典:NOAA)


Tu-142(出典:Indian Naval Air Arm)

 少し話は外れたが、気象観測機は台風やハリケーンの中心部へ向けて飛行し、気象データを集めるため、機体から「ドロップゾンデ」を落下させて直接観測を行っている。

 これによって台風・ハリケーン観測は静止気象衛星で大まかなデータを取得、低軌道気象衛星で局地的な気象データを取得、そして気象観測機の観測によって直接データを取得するという“3段構え”で嵐に対応しているのだ。これには理由がある。海外では、ハリケーンや台風は上陸でもすれば経済的損失が日本円で兆円単位へ膨らむ恐れがあるため、「経済的損失」が発生すると認識されており、事前に人的避難や公共交通網の停止、救援物資確保の準備を整える必要がある。したがって「何時、どこへ、どれぐらいの規模で襲ってくる」という情報は非常に重要だと認識されているのだ。したがってこれら“3段構え“の情報は周辺国のためにも「見えない貢献」として活躍している。




ドロップゾンデ投下                                               ドロップゾンデ              


気象観測機内部(出典:NASA,NCAR)

 では日本ではどうだろうか?日本では静止気象衛星”ひまわり6号“が打上げられているのみで、低軌道気象観測衛星はJAXA(旧NASDA)がADEOS、ADEOS-2などがあったが打上げ後1年持たずして故障・廃棄されている。一方センサーについては、海外の衛星(TRMMやAQUA)へ相乗りさせてもらい、一部は台風やハリケーンメカニズムの解明へ活躍しているのが現状である。しかし気象観測機については、研究レベルで無人小型気象観測機を飛行させていた経緯はあるが、気象観測機は保有していない。このため西太平洋域の気象観測はアメリカのWC-130が米空軍横田基地から飛び立って観測しているのだ。つまり日本はこれだけの”台風銀座国家“であるにもかかわらず、気象観測機を保有せず、アメリカのWC-130気象観測機のデータを提供してもらっている状況なのだ。

その一方で日本の国土では”アメダス“を構築するとして気象レーダーを開発、国内に張り巡らされている。そのレーダーの1つとして脚光を浴びているのがドップラーレーダーである。これは、電波を発射して反射波の伝搬時間と反射強度から雨雲の位置と降水量を検出するレーダーなのだ。その観測模様は防災情報ホームページhttp://www.bosaijoho.go.jp/radar.htmlにて公表されている。しかしドップラーレーダーは観測範囲が広くない事と、日本のドップラーは海外のように十分小型化されていない状況下にあり、さらに消費電力も膨大なため、車載式ドップラーレーダーが実用化できていない。このため、あらゆるコスト削減や消費電力削減や小型化などを進める必要があるだろう。


ドップラーレーダー

 余談ではあるが、2005年2月に打上げられたMTSAT-1Rは約5年遅れでやっとのことH-2Aにて打上げられ、“ひまわり6号“として活躍中であるが、2005年9月末に不具合が発生し、台風が日本本土へ接近しているにも関わらず数時間、気象観測が中断してしまいニュースで大々的に報道された。これはアジア・オセアニア諸国へも配信停止を意味するが、幸いにもアメリカのGOES-9という気象衛星がバックアップへ回り、長期の気象観測停止という最悪の事態は免れることができた。これはアメリカへ感謝すべきことと同時に多目的化したが故のトラブルだろう。予算措置上はそうせざるを得なかったのは理解できるが、衛星メーカーから「衛星の信頼性上好ましくない設計方針」と見られているのも事実である。この”ひまわり6号“は米国のスペース・システム・ロラール社が製造したが、気象庁発表によると不具合の原因は気象観測カメラと衛星本体への通信に不具合が生じたとのことで、スペース・システム・ロラール社の衛星製造方法に問題があると思われるが、衛星の製造経緯からすると(詳細はエアワールド2004年10月号〜12月号をご覧頂きたい)今後が心配である。バックアップ機である三菱電機・ボーイング社・アルカテル社らが製造したMTSAT-2は恐らく製造が終了し、いつでも打上げられると考えられる。最悪の事態は考え難いが、日本に限らずアジア・オセアニア地域のためにもMTSAT-2は優先度が高く、早く打上げるべきかと考えられる。気象衛星は観測の中断が許されないため、軌道上バックアップの存在が常識で、さらに地上にも整備保管機を用意しておく事が最も望ましい。

◎嵐を制御する試みも

 さて、この凶暴化する大型の“嵐”であるが、何と制御してしまおうという研究もある。それはオムツにように水分を大量に吸収する物質を上空からばら撒いて、空の水蒸気を吸収して雲(ハリケーン)を消してしまおうという研究もなされている。この水蒸気吸収材では、アメリカのフロリダ州にあるDYN-O-MAT社が有望視されている。この吸収剤は上空で水分(水蒸気)を吸収しても海水では溶けるため最適では?と考えられているのだ。そして実験も行われ、B-747を使ってハリケーンクラスへ撒けば、風速24〜32m程度まで勢力を弱めることができるとしている。

  
3個同時発生ハリケーン(NOAA)                    DYN-O-MAT社、水分吸収剤散布例(Evergreen)

◎今後の気象観測は?

 以上のように台風・ハリケーンなどが凶暴化し、地上へさらなる被害をもたらす可能性を指摘する研究者も現れ、原因の1つとして地球温暖化があるのでは?という意見も聞かれるようになった。また、アメリカでは大胆にも台風の勢力を弱めてしまおうという発想まで出てきた。よって台風やハリケーンなどを捉えるのは気象衛星等の仕事であるが、気象衛星は突然やってくる嵐を予測するために打上げられた。だが各国の打上げた気象衛星を組み合わせれば地球規模の環境研究ができるとのことで、気象機関や地球環境を研究する機関・組織が主に観測データを使用しているのが現状だ。

しかし最近は「気象」と「環境問題」が非常にリンクしてきていることもあり、気象というよりも「環境観測」という言葉が海外では使われ始めている。したがって将来的には「気象衛星」と「環境観測衛星」という2つの別々の衛星が“統合”される可能性が高いだろう。いや、気象衛星という言葉は姿を消すかもしれないのだ。

そして、環境汚染も深刻になってきた。近年では、山火事や工業地域によって発生する環境汚染物質がジェット気流に乗って地球規模で汚染が拡大しているのでは?と言われている。しかし科学的証明をしない限りそれを「理由」として環境汚染改善へ労力を費やさない国家の登場も危ぶまれる。

では減災と国民・国際貢献を目的として日本の航空宇宙技術は何ができ、どうすればいいのだろうか?近年の日本は緊縮財政のため、膨大な税金投入による開発は不可能である。よって「低コスト」で「あるものを組合わせ」て「波及・汎用性のある」システムとして構築方針を掲げれば良いのではないだろうか?何でもかんでも新規開発をやれば「コスト上昇」の挙句に「技術開発暴走主義」となり、結局役に立たないシステムが出来てしまうからだ。実は日本の航空宇宙開発はそのデス・スパイラルへ突入している模様で海外の宇宙雑誌から「欧米へ追いつくという理由でビジョンのない技術開発をひたすら進める日本」として2005年9月末の記事でバッサリと斬られてしまっていた。残念ながらJAXAビジョンは海外からは評判が良くなかったようだ。その記事を読んでいて悲しくなったが、これは海外から「アジアの宇宙先進国としてもっとしっかりしろよ」との激励として捉えてはどうだろうか?

そこで今後の気象観測は、環境気象衛星(次世代気象衛星)システムとして考えてはどうだろうか?つまり、気象衛星という名の現行の気象観測を世界気象機関の定める枠組みを考慮しながら新たな時代に対応して次世代環境気象システムとして構築しようという発想である。これは今年に入って韓国が欧州から静止気象衛星と軍事通信衛星を購入した背景があることと、中国と韓国が日本の気象プレステージを狙っている事も想定し、日本としてどういう方向性で行けば、優位でいられるか?という観点でも考えている。さらに、環境気象システムとリンクができる機能もあれば良い。例えば被災地(パキスタン地震やスマトラ沖地震)等の被災・国際援助情報の提供、大気環境汚染の観測、水資源の観測である。ではその具体的なシステム構成を挙げると

静止衛星:2機

極軌道衛星:2機

気象・環境科学衛星

気象・環境観測機

高層気象観測機 

定期広域気象・環境航空機 

地域気象観測網 


という構成である。ではその内容を詳しく述べたい。

◎静止衛星2機

 今後の環境気象衛星システムの静止衛星は、高空間分解能(高精度)と高時間分解能(高頻度)という高性能化が必要となるだろう。現行の“ひまわり6号”は最大30分に1回の観測が可能であるが、海外の動向を見ると将来は5分に1回を目指しているとのことだ。そして空間分解能も数十倍上げる予定としている。これは気象予測精度を上げる必要性に応じて「実質的な地球生中継」をするというスタンスである。また、現行の静止軌道気象衛星は北極から南極域まで全体を撮像するカメラを搭載しているが、一方で局地気象を観測する専用のカメラは搭載していない。よってスポット的に撮像するカメラを搭載し、台風やハリケーンを専門的に観測もしくは、集中豪雨などの予兆を捉えるセンサーがあればいいだろう。このカメラから撮像する光学データを地上へ送信して地球シミュレーター、天気予報、科学研究などへ利用するのだ。また当然ながらアジア・オセアニア諸国へ配信する。

 しかし、ここで問題となるのは衛星の数である。実は上記の静止衛星は2つに分割しなければならないのでは?と考えている。実のところ気象衛星は、撮影時にピンボケしないように衛星の構造体へしっかり固定されている。したがって、地球全体を撮像する気象センサー衛星は“静衛星”であり、もう1つの機能であるスポット撮影衛星は撮影方向を変えるため“動衛星”となるのだ。よってこの2機は別々にしなければならないだろう。

 さらにここで把握しておかなければならないのは、気象センサは国産化されていない。MTSAT-2は三菱電機が主契約者だが、気象センサーはアメリカのITTインダストリー社から輸入している。よってこれらの上記のビジョンを掲げても、すぐの実現は困難なのだ。しかしスポット撮影用の静止衛星は、JAXA−ISASによって培われた天文衛星技術を応用し、過去の誌面(2005年10月号)で掲げた火の見櫓衛星と連携すれば可能と考えている。これならば、スポット型の局地環境気象衛星の実現可能性は高いかもしれない。

 しかし、全体をサーベイする現行の気象衛星センサーの開発は困難かもしれない。場合によってはデジタルカメラ・メーカーの力を貸してもらうか、気象センサーを購入しているアメリカと共同開発が出来れば理想だろう。実は過去において日本人エンジニアがアメリカへ渡り、気象センサー開発に従事していた背景があるのだ。それらの研究成果や特許取得もあって、現在でもアメリカは日本へ気象センサーを販売してくれている経緯がある。しかしその恩恵に甘えてサボることは将来的に正しいとは考え難い。なぜなら、日本がある程度の技術を持って切磋琢磨しなければ、将来的に中国や韓国が技術を上げて日本のプレステージを奪い取りに来る可能性がある。現に中国は密かに自国の気象衛星受信設備を東南アジア諸国へ配布しているのだ。さらに米国からの気象センサー購入が他国の外交工作によって阻止された場合、その時の日本は気象衛星のプレステージを失う可能性がある。つまり日本の重要な外交ツールが無くなるのだ。よってこれらの技術を磨いて優位性を保つ事は、現行の宇宙開発の中で“打上げ手段”よりもプライオリティーが高いかもしれない。ロケットは様々な国のものが購入できるが、気象センサーは限られた国しか製造する能力がないのだ。よって将来を見据えて、静止衛星用のセンサー開発能力は“地味”だが必須であると考えている。

 また、静止軌道衛星のバックアップ的役割を担う「西回り赤道周回気象衛星」も何と日本が提案している。これは赤道上13942 kmの高度に対して地球と逆周りの西方向へ衛星を飛行させると、同地域を6時間に1回撮像する事が出来るため、世界各国5箇所で観測している静止気象衛星のバックアップ機として発揮できる。これは旧宇宙開発事業団の菊地昭氏の提案によるものだが、こういう発想もすばらしいだろう。

◎極軌道衛星2機

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◎環境・気象・科学衛星

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◎衛星製造の主方針

  次にこれらの様々な衛星の製造方針だが、衛星メーカーからすれば大型衛星を作りたがるだろうが、過去の反省からADEOSのようなヤマタノオロチ衛星は止めにしなければならない。日本の衛星は「大型化」に加えて「製造回数が減った」こと、「H-2とH-2Aの停滞」に加えて「緊縮財政」による体制でガタガタになってしまい、過去の経験で何とか繋いでいる状況だ。したがって「仕切り直し」が必要となるため、しばらくは単機能衛星で徹底的に経験を積み直すことが必須であり、それによって技術的・国民的な信頼を獲得すれば、将来的には立ち直りが出来てすばらしいのではないだろうか?現状は中国、韓国、インドなどの追い上げが激しいが、今は「死んだフリ」をして脈々とやるべきことをやればよい。我々も中国のやり方に学んだ「したたか戦略」で行く方法も悪くないはずだ。それに加えて衛星製造現場も「モノ作りがしたい」との声が上がっている。これら意向と戦略のバランスを取る事が日本の科学技術発展と国益、国民・国際貢献の観点から重要なのだ。以上のように、今後の衛星製造は競争概念も取り入れて中小型で小回りの効く「早い・安い・うまい」の吉野家戦略が望ましい。その方針に対応できないメーカーがもしあるのであれば、他の衛星メーカーへ依頼するか、新規参入の衛星メーカーへ依頼して時代に対応した政府衛星調達システムを構築する方法もやむを得ない。海外でも同様の戦略だ。

◎気象・環境観測機

 さて、ここからは航空機だ。上記のように環境・気象衛星は、全体を見渡せても局地的な観測データを取得する事は困難である。さらに衛星は後で解析するには非常にGOODなツールであるが、リアルタイム観測は数を上げる必要ある。したがって、海外では気象観測機が実際に嵐の中へ突入してデータを取得している。例えば太平洋ではアメリカのWC-130Jが活躍中であるが、ここ最近はアメリカ本土の気象変化が激しいためにしばしば留守になることがあるとのことだ。したがって、日本は先進国であるのだから「気象観測機を持てばいいのでは?」という考えもある。さらに気象観測機は激しい乱気流の中でドロップゾンデを投下するため、航空宇宙技術研究においては非常に有効なノウハウとなり、自動操縦技術取得とエアカー(空飛ぶ自動車)の基本技術や無人機研究への波及も期待できるため、台風&技術実証の観点から非常に有効なのではないだろうか?

 このため、航空機の購入を提案したいが、筆者はBAE-146を提案したい。この機体は300機近く量産され、小回りが効く機体で運航・メンテコストも安い。リージョナル機として有望視されていたが、2発エンジンのCRJやERJというリージョナル機が登場したため、商用民間旅客機としては成功しなかったが、台風ハンターとしては有望で、トータルコストを海外のそれと比較して最大半額までできる。しかも搭載するセンサーを変えれば様々な観測ミッションができる。当初は自衛隊機のC-130とP-3Cを譲ってもらうという方法を考えたが、購入費は安くてもメンテナンス費用が高くなるため、4発エンジン航空機という条件で考えた結果、イギリスで実績のあるBae-146がいいのでは?と考えた次第である。

◎高層気象観測機

 次に高層大気観測機である。大気観測は高高度の大気を観測する事によってよる地球温暖化の状況や大気の流れが観測でき、地磁気の観測と組合わせると形成層も解明できる。また惑星間塵の粒子も観測できるため、NASAではU-2を飛ばして観測している。一方、日本での上層大気観測は観測ロケットS-520や観測気球が用いられている。しかし定点に留まることと観測時間も短く、風任せという難点もある。このためU-2のような高層で長時間飛行できる機体が必要なのだ。このような背景から高層大気観測が可能な実用航空機がないか探したところ、U-2、M-55、Proteus、G850、G520Eがあった。これらは実際に大気観測を実施しており、G850は航続距離が18100 kmもあり非常に適している。また運用・購入コスト比較をしたところ、Proteusより若干高くなるがG850ならば12億円程度で最大高度26kmまで上昇でき、高度18kmならば48時間、高度24kmならば8時間の滞空が可能であり、この機体があれば長期の大気観測が可能である。したがって、NASAやNOAAらと提携して、この機体を用いて環境省が大気観測をするアイデアはどうだろうか?またロシアと協力してM-55を使って観測データ中継をしてもらうなどの方法も考えられる。そしてアメリカでもU-2の経費に頭を抱えているので、ドイツとも協力できれば低コスト・多国間で大気観測システムが構築でき、地球全体の大気現象の解明ができるであろう。


U-2(NASA)                     M-55(ロシア軍)  


    Proteus(NASA) 

 
G850(GROB Aerospace)           G520E(GROB Aerospace)

◎定期広域気象・環境航空機

 次の大気観測は民間企業による賞賛すべき活動だ。それは温室効果ガスの濃度を観測するために旅客機へ二酸化炭素自動連続測定器を搭載して大気サンプルの収集を行っている航空会社がある。それは日本財団及び日本航空である。過去の誌面でも述べたが日航財団と気象庁では、定期便に観測装置を載せて月2回の温室効果ガスの濃度を観測している。しかもJALが世界初であり、近年ではその成果が認められ、さらなるサンプリング装置の開発が行われているのだ。また、この活動を知った欧州でもMOZAIC および CARIBICとして同様の活動を開始している。

    
       新サンプリング装置        機体取り付け       飛行コース(出典:日航財団

 以上の背景から、このような定期便を使用した大気観測がさらに増え、他の観測システムと融合すれば、地球温暖化の解明や大気汚染のデータ等が取得できるかもしれない。よってJALの他にANAやNCAなどにも協力してもらい、観測装置技術を開放して皆で搭載してもらうのはどうだろうか?もし協力してくれた場合にはインセンティブを用意して観測機搭載の定期便は日本における空港着陸料の割引措置をしたり、税の一部免除などをしたりというのはどうだろうか?税収から開発される観測装置と航空会社へかかる負担のバランスが整えばよいと考えられる。

◎地域気象観測網

 最後に地域気象観測網だ。突然だが、最近の集中豪雨は長くて激しくなって来ていると考えられないだろうか?昔は夕方に夕立程度であったが、最近は異常な降雨である。

 日本国土にはこの雨量を測定するために、雨量測定器が全国約500箇所に配置されている。これにより全国の雨量をアメダスとして収集・配信しているが、集中豪雨が発生して土砂崩れが発生した場合には、回線が切れて不通となり、復旧費用が膨大に膨れ上がっている。よって将来的に維持するには何らかのコストダウン手法が必要となるだろう。また話はズレるが、津波警報装置も同様で無線と有線システムのメリット・デメリットを考察せずに構築した結果、地震でケーブルが切れて警報を出せない事態が過去に発生している。これはシステムの重大な欠陥である。したがって、気象情報収集には今後違った視点が必要となるだろう。

さらに局地的集中豪雨の対策だ。現状のアメダスやドップラーレーダーを駆使して観測しても、局地気象を予測する事は困難となってきている。したがって

・ 移動車載式ドップラーレーダー

・ 携帯電話基地局へ気象センサーを配置

・ UAVを用いた高層圏観測中継機

する方法で、局地気象に対応すべきだと考えている。実はこのような集中豪雨を正確に予測するには、現行システムでは困難となってきており、観測頻度と観測精度を上げなければ困難である。したがってこれらの精度上昇には、移動観測できるドップラーレーダーによる集中監視と携帯電話基地局網にセンサーを配置して網目状にした観測体制を構築し、可能であれば高層圏観測中継機によるデータ中継ができれば理想である。


台風ハンターhttp://homepage2.nifty.com/TyphoonHunter2000

◎環境庁か内閣府防災センターに組織統合

  以上のように、地球全体の現象解明から私達の生活まで、衛星、航空機、観測装置の構築体制案を述べた。これらのシステムを全て構築する事は困難かもしれないが、気象現象・地球環境の解明と、国民・国際貢献の観点から非常に有効で国益に適っていると考えている。しかし構築するには、様々な官庁や独立行政法人が絡むため、1つに集約する必要があるだろう。例えば気象衛星は国土交通省管轄の気象庁が管理し、周回型地球観測衛星は環境庁、経済産業省、文部科学省(JAXA)などが関係している。このそれぞれの組織は各自全力を尽くしても縦割りシステムが弊害となり、ナショナルシステムとし構築するには力を合わせて関係部署を1つに纏める必要があるのだ。そうでなければ、国民・国際貢献や国益に順じた観測システムと組織が構築できない。したがって、気象衛星や地球観測衛星、気象・大気観測機、地域気象観測網に関わるあらゆる組織は「環境庁」もしくは「内閣府防災センター」へ予算と人的資源を集約したほうが良いのではないだろうか?過去のしがらみを維持するのではなく、「次世代に対応したシステム構築」が今、必要なのだ。

◎まとめ

  今後の地球環境は、温室効果ガスの排出により台風が凶暴化や、集中豪雨の長期間化によって、私達の生活へ重大な影響を及ぼす可能性があるだろう。そのためには「国際共同観測(見る)」、「分析システム(解析)」、「コンピューター、シミュレーション(将来予測)」によって減災措置が必要だ。そして日本には様々な組織が自然災害へ立ち向かう技術とインフラを持っている。しかしそれがナショナルシステムとして十分に構築されておらず、組織的・ハード的に解決する点はまだ多い。よって過去のシステムに拘束されない新たなコンセプトと組織体制が必要となってきている。今回は次世代環境・気象衛星の整備ということで、宇宙から地上まで様々な観測ツールを紹介し、統合の必要性を考察したが、今後ともナショナルな視点で提案して行きたいと思う。


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