国産ロケット国際工業製品化戦略(次世代液体ロケット戦略)
  (エアワールド2006年7月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年7月号」をお買い求めください

 日本の宇宙開発は最近、ロケット打上げの成功によって徐々に活気を取り戻しつつあって喜ばしいことだが、日本としてやらなければならない事はまだまだある。固体燃料ロケット戦略は過去の2回にわたって述べ、固体燃料ロケットが再注目を浴び、日本を除く宇宙先進国が空中発射ロケットへ着手している動向を述べた。一方、日本ではH-2Bというロケット計画が発表されたが、本稿では技術だけに捕われない視野で液体ロケットの今後の戦略を考えてみたい。

◎液体型ロケット開発の背景
 日本のH-2やH-2Aが登場するまでの液体型ロケット開発は、当初全て国産で開発する予定であった。しかし相次ぐ開発遅延もあり自主開発を断念、1967年の日米宇宙協力協定を締結し、アメリカからの技術導入という方針に舵を切っている。これによりアメリカ、マクダネル・ダグラス社のデルタロケット技術を導入し、エンジン・バルブ・ソフトに至るまでアメリカから技術を学んだのであった。そしてN-I、N-II、H-Iと徐々に国産を進め、純国産と言われているH-IIロケットを製造した。この開発は国産ロケット技術を確立することが目標だったため、コストは度外視して製造された。そして190億円という1回の打ち上げ費用が高いため、コストダウンを目指して製造されたのがH-2Aであった。したがって日本の液体ロケットはある意味、アメリカのデルタロケットと兄弟のような関係でもあるため、H-2Aを生産する現在では、デルタロケットの燃料タンクの一部を三菱重工が製造・納品している。

DELTA-M(Spaceline)

しかし、その先人の苦労が今、水泡に帰す可能性があるのでは?と筆者は考えている。それがH-2A後継機として開発が決定されたH-2Bロケット開発方針だ。

◎ロケット開発に今後必要な視点

 現在、H-2Aロケットは2003年11月に発生した6号機の打上失敗もあり、周囲の猛烈な批判に晒され「信頼性向上」という方針を掲げ、組織一丸となって信頼回復に取り組んでいる。そうした「信頼性向上」が叫ばれている中、たった1機しか打上げ再開していない時点(ひまわり6号打上成功)で、また新たなロケット開発をしようと方針決定されたのがH-2A能力向上型(後のH-2B)である。このJAXA決定は政府予算申請締切前日に急遽プレスリリースされた背景があり、突然の発表に驚いた人は多いだろう。
 なぜこのようなタイミングで発表されたのかは不明だが、このH-2Bロケットは、H2-Aロケットと比べ、1段目ロケットの直径を1m太くし、エンジンを1基から2基へと増設すると共に、固体補助ロケットブースターを4本取り付け、打ち上げ能力をH2Aの4〜6トンから最大8トンまで強化したものである。
 これは打ち上げ能力アップを目指したロケットであり、将来の宇宙ステーション物資輸送機であるHTV(H-UTransfer Vehicle)打上げや深宇宙探査の観点から考えればすばらしいように思える。しかし、過去の誌面で述べたようにHTVはスペースシャトルプログラムの遅延によって、宇宙ステーション自身が完成するかどうか不明な状況下にある。このためHTVが本当に必要になるのかは明確に断言ができない。しかも仮に国際宇宙ステーションが完成し、HTVによる宇宙物資輸送ができれば理想だが、現行の宇宙物資はロシアのプログレス貨物輸送船が主であり、H-2BとHTV組み合わせ価格よりも圧倒的に安いのが現状で、HTVと同等性能で対抗馬の欧州ATV(Autonomous Transfer Vehicle)が先手必勝で売り込み攻勢を展開中だ。海外の宇宙専門メディアはHTVを扱った記事は殆ど出てこない一方、「使い捨てなのに高価な設計をし過ぎている」と海外の宇宙エンジニアは評価している。したがって、H-2BでHTVを打上げるという開発方針は、技術的な利点だけ述べて戦略的・革新的・コスト的な“発想”が発表されないことが非常に残念だ。しかも国際宇宙ステーションは国際協力で実施しており、必ずしもHTVをH-2Bで打上げる必要はなく、技術的に信頼性の高いアリアンVやデルタ・アトラス・プロトンを使う選択肢も考えられるため、H-2Bを開発するならばこれらロケットと同等程度の価格にする必要が求められる。


       欧州ATV(ESA HP)       日本HTV(ESA HP)

◎コンパクト・ロケットシステム時代の到来

 実のところ日本のロケットシステムは明らかに成熟していないのが現状だ。先日のALOS(だいち)打ち上げには、800人ものスタッフが打上げ作業に従事していたそうだ。これは多過ぎるといえるだろう。一方でロケットの規模は違えども12人でロケットを打上げるシステムを構築している液体型SPACEX社ファルコン・ロケットを見ると日本はまだまだのようだ。おそらく海外では打上げの際にゾロゾロと打上げ隊を結成する現状はやめて、過去の紙面で述べたように航空機を使った打上管制機を使用して地上固定インフラを最小にした「コンパクト・ロケットシステム」を構築しているのではないだろうか?恐らく今後のロケットは地上インフラを最小にし、追跡管制は航空機を利用したシステムになると思われ、この追跡管制機はあらゆるロケットに対応でき、衛星との通信も可能になると考えられる。そうなると、射場を含めた打ち上げ費用の大幅なコストダウンが可能となり、国際競争力のあるロケットが実現可能となる。筆者はSPACEXのFALCONロケットがその先陣では?とみている。2006年3月の打上げは失敗したが、先駆的なコンパクト・ロケットシステムであることも事実なため、アメリカ海軍は打上げ失敗したFALCONロケット回収を全面協力で実施するそうだ。また打上げ管制システムと発射台は正常に機能したことが証明されており、SPACEX社は近い将来に再チャレンジするとのことだ。このようにシステム革新を目指したコンパクト・ロケット開発の動きは今後も加速すると同時に800人という大人数を打上げ作業へ費やす種子島射場も、内之浦射場のように低コスト志向を目指した大幅な見直しが必要になるだろう。

◎技術思考のみのロケット開発の行方は?

 日本のロケットが成熟するためには、ただ単に推力・比推力至上主義でコストアップしたロケット(H-2B)を作るではなく、自動車や携帯電話のようにユーザー至上主義なロケットを目指してはどうだろうか?ロケットは「技術開発を目的」にする時代はもう終わり、利用あっての時代となっている。つまり「ロケット技術者主体のイノベーション時代が終焉を迎えている事実」を理解しなければならない。

 また、アメリカではデルタW、アトラスXが存在するが、「即応型宇宙によって空中発射ロケット等、低価格の新宇宙アクセス手段が開発されている事」と「固体燃料ロケットはコスト勝負上有利なため、近年見直されている事」から需要拡大が懸念される大型ロケットのデルタとアトラスロケットは統合する動き(アトデルタ・ロケット?)があるため、恐らく現行システムの覇者であるアリアンV、デルタW、アトラスVロケットシステムは、次世代化の波が近い将来襲ってくることは容易に予測できる。

 したがって、商業打上げ市場でTOPを行くアリアンVロケットやアメリカのロケットが超大型傾向にある状況を見て、「打ち上げ能力が高い」から日本も追いつくとか「大型ロケットがあれば需要が取れる」という“技術だけに視野を絞って”ロケット開発をすることは絶対にやってはならないと筆者は考えており、H-2Bがそのような観点でもし開発されるのであれば将来が非常に心配だ。ロケット技術者から見れば「ロケット開発は人生1回限りのチャンス」と思い、技術思考のみで打上げ手段を考える傾向があるが、今後はそれだけでロケットを開発するような行為は許されないため、ロケット開発が技術暴走へ行かないよう戦略的観点が最低限必要となる。読者の皆さんもロケットの性能(推力や打上げ能力)向上だけで「すばらしい」と考える事が正しいのかじっくり考えて欲しいと思う。

 では、今後のロケットを使いやすく、次世代を見据えて技術的にも楽しいものとするため、筆者は今ある技術でユーザーのためのロケット開発を目指す提案をしたい。


H-2、H-2A、H-2B計画の比較(JAXA)

◎実証機会の提供

 日本の宇宙開発は、緊縮予算のあおりを受けたのと同時に打上げ手段も停滞して宇宙実証機会が極端に低下してしまった。さらに欧米追従型を目指した大型衛星製造主義が横行し、打上げれば不具合発生の噂が絶えない。大型の技術試験衛星ETS-8もやっと2006年度に打上げ予定だが、そもそもこの衛星は1999年打上げ予定だった。また、メーカーやJAXAは批判されることを避けるため、完成した宇宙部品を輸入して取り付けるノックダウン方式へ一部が移行しつつある。この方策によって不具合問題は払拭できるが、短期的に解決したとしても長期的視点で見れば技術が育たない環境となってしまう。さらにプロジェクトの発想力はあっても予算関係上、研究費が確保できず言わば“机上の妄想”となり実証実績が出せない状況で、あまりにも不幸な環境だ。しかし日本の宇宙開発は中国のアジア活動展開により、緊縮予算の中でより戦略的な行動を取らねばならず、技術暴走主義だけで国家宇宙事業を継続することは許されなくなってきている。
 以上の背景から、「宇宙技術者へ宇宙実証機会を設ける」、「技術暴走ではなく、将来の“実”をとる技術を研究する」、「戦略的宇宙活動・国際貢献を行う」という観点から筆者は旧型H-2とH-2A供試体の有効活用を提案したい。

◎再使用機の開発

 (エアワールド2006年7月号をお買い求めください)


     クリッパー(Anatoly Zak)                再使用宇宙往還機(SEI)

◎ロシア・バイカル

 その一例がロシア「バイカル」だろう。これは再使用飛行回収(フライバック)ブースターであり、打上げ時は液体ロケットブースターとして液体酸素とケロシンを燃料とするロケットエンジン(RD-191)が点火し、単体もしくはロケットのSRBの役割として使用される。そして、打上げ作業終了後は空気抵抗低減の為に収納してあった主翼が落下時に展開し、ブースターが航空機となるのだ。そしてRD-191は燃焼終了し、代わりに空気吸入方式の航空機エンジン(RD-35)が始動、目的地の滑走路まで飛行し、着陸回収する方式だ。この構想は随分前からあったが、この技術は最近注目されるようになり、アメリカのロケットメーカーがロシア・モスクワに事務所を開設、すでに米露で共同研究を始めているとの噂だ。このバイカルは既存の全段使い捨てロケットよりもコスト競争で先を行くロケットとなるかもしれない。


フライバック・ブースター「バイカル」(Khrunitchev)
 
          フライバック飛行経路                  帰還コンフィギュレーション

 日本も彼らの“考え方”を見習うべきだろう。予算がかからず、現行の技術で可能と思われるH-2A用のSRBを使った飛行回収技術を実験してはどうだろうか?

◎供試体の有効活用でロケット価格低減を

 これはH-2A及び後継機型のコストダウン目標をベースに過去のResponsive Spaceで述べたようなロケットの製造・輸送・射場インフラのシステム革新を目指した案である。現在のH-2Aロケットは部品の半分以上が輸入品であり、その後継として期待されているH-2Bも輸入比率がさらに高くなる傾向だ。輸入品が多くなれば、技術の本質を理解しないで使用する危険性があり、問題が発生した際にその根源を追求できなくなる可能性が高い。しかも1段目のメインエンジンを2基にする設計は「エンジンのマウント技術」が特に要求されており、新型エンジンのMB-Xも燃焼試験が失敗したことと、ペイロードのHTVも価格高であり海外から冷やかな目で見られていることから、技術暴走型へ陥る可能性が高いと考えている。
 素材ベースで評価をすればH-2BやH-2Aロケットはとても「国産ロケット」とは言えず、この活動を続ければ輸入品が殆どとなり、いずれ旧型H-2で培った液体技術は根絶やしになる可能性がある。またロケットのコストダウンのためには、価格勝負できる輸入部品に頼って利益を確保したいというメーカーの思惑があるだろう。しかし今後利用拡大が期待されている電磁バルブは日本へ技術輸出される可能性は低く、バルブを国産化しない限り日本は液体ロケットを保持できるかどうかは分からない。よって国産ロケット技術を「飛躍しないで伸ばす発想」と、「コストダウンの発想」、次世代の技術を研究しながら「日本のロケット技術は無視できない環境」を政治的に作る必要があると考えている。
 この「コストダウン」と「利益」をとるために「国産比率を低くする」傾向を避ける抜本策は人的資源、予算的環境から困難だ。しかも数を打上げようにも今後の衛星開発潮流から見れば小型高機能衛星が台頭してくるため、H-2AやH-2Bはオーバースペックとなる可能性がある。ならば、この液体ロケット技術を枯らせないためにも将来の先を行く再使用技術の実証実験をしてはどうかと考えている。
またH-2Aは信頼性向上の真っ只中にある事と、実証実験のためにH-2Aを製造することは予算措置上説明がつきにくいため、H-2A用のSRBを過去に製造した旧型H-2やH-2Aという「供試体と称して実質フライト可能なパーツ」を組み合わせて打上げ、技術実証を行う方策であれば次世代化の1歩が比較的容易に踏み出せるのでは?と考えている。
  しかもこれは新しいコンセプトではない、過去の誌面で述べたがドイツ宇宙機関DLRがフライバック・ブースターSART(飛行回収ブースター)を研究しており、その技術実証を「日本独自」もしくは「ドイツとの国際協力」として実証する方法も考えられる。

   
H-2A(JAXA)         ドイツSART(DLR)

 例えば現行の固体ロケットブースターに翼を取り付け、上空で切離した後にフライバックして指定海域まで滑空させ、仮想滑走路へ着水して回収もしくは廃棄する。恐らくSRBは飛行してから航空機へ遷移する際の飛行ダイナミクスが技術の肝となるのではないか?フライバック・ブースターは恐らく高仰角から失速して飛行復帰しなければならないので、大金をかける必要はないが、フライバック技術や再使用機の実証として十分意義がある。簡単な技術実験ならペットボトルロケットで可能だ。
よってフライバック技術が確立されれば「SRBの再使用化」の道が開く一方、場合によってはLRB(液体型ロケットブースター)への道が開けるかもしれない。そうなれば再使用ロケット実用化が期待できるのではないか?場合によっては日米独共同でプロジェクトを立ち上げ、種子島打上後のブースターが飛行して米国領の「テニアン」滑走路へ着陸させてもらう発想も考えられる。この技術をクロスライセンスとして三国で共有するという発想なら対等の国際協力ができる一方、国産ロケットに加えて戦略的な競争ロケットを国際提携で進めることが出来るのではないか?
 また、このSRB回収技術が確立できれば、現行のロケットエンジンの再使用化へ向けて開発できる環境が整うかもしれない。なぜなら現行のロケットエンジンであるLE-5やLE-7エンジンは「短距離ランナー的で長持ちしないロケットエンジン」と言われ、「数回の試運転と1回の打上げ」という“短時間”に性能を発揮すればいいという設計思想エンジンだ。しかしフライバックするロケットエンジンには厳しい信頼性・耐久性が要求される。したがって、現行のLE-7A製造費の4倍の製造費用がかかっても8回フライバック使用ができれば総合的にロケット価格低減と信頼性向上も期待できるため、日本として海外のロケットよりも優位に立てるのではないだろうか?


LE-7A(左)とLE-7(右)エンジン(SJR,NO19)      LE-7AをH-2Aへ装着(http://homepage1.nifty.com/issui/)

 そしてこれらの技術が確立できれば、有人宇宙開発の道が開ける可能性があり、使い込みによる信頼性向上でロシアから「クリッパー」を共同開発してレンタル搭載する方法がある。これならば何処かの国のような“国威発揚を掲げた完全使い捨て有人宇宙ロケット”を上回ることができるだろう。
 このように「開発予算が無いなら無いなりに」あるモノを使って将来のロケット再使用化へむけてコツコツ積上げていく「コストをかけないユーザーイノベーション体制」と「次世代の技術を獲る」方策がJAXAとメーカーには要求されている。H-2Bのようにエンジンを増設して性能を上げることだけがロケット開発ではない。

◎旧型H-2やH-2A供試体により技術継承も

 この供試体利用は“製造現場の活況”と“宇宙実証機会の提供”と“技術継承の機会提供”という3つの目的がある。まず1つ目はパーツメーカーの製造基盤維持の観点から製造現場を稼動させておきたい思惑がある。今あるユニットを使い、足りない部品を調達すれば、製造基盤維持が少しでも可能となる。またこれにより、多少の改造が必要となるためロケット技術者の“腕の見せ所”となることもあり、現場が活況することも期待できる。
 2つ目は低コストの実証機会を技術者や研究者へ提供するためだ。先にも述べたが、近年のロケット大型化と停滞のため、宇宙実証機会が極端に減っている。この打上げ手段のために実績が積めないため、技術者や研究者へ旧型H-2やH-2A供試体で実証機会を設けて実績を上げさせることが目的だ。この実証ミッション案については後述する。
 3つ目は技術継承を進めるためだ。旧型H-2ロケットは先人の成果の賜物であり、上表のように国産率90%を誇った純国産のロケットだ。しかしH-2Aではコストダウンを図る事とメーカーの採算を図るため、半分以上が輸入品となっている。よって旧型H-2やM-Vロケットは国産ロケット言えるが、H-2Aは準国産ロケットだと考えている。さらにH-2Bでは素材ベースで国産化比率25%になると海外では分析されており、旧型H-2で作り上げた液体ロケット技術遺産が根絶やしになる危険性がある。このため、設計思想及び当時の加工技術を学ぶ機会を“今の若手世代”へ用意できればと考えている。これにより「現状を振り返り、将来を展望する」環境を設けてペーパーエンジニアの発生を防ぎ、将来の宇宙アクセス手段を徹底的に模索する機会を設けて人材育成をしたいと考えている。

 
H-2A段間部(http://homepage1.nifty.com/issui/)   H-2Aの2段目(出典:SJR,NO19)

◎旧型H-2ロケットユニットは使用可能

 (エアワールド2006年7月号をお買い求めください)

◎時代遅れのロケットとならないように

 以上のように、現行覇者であるアリアンX、デルタW、アトラスXへ日本が追いつこうにもH-2Bのように打上能力を増強した方策だけでは、いずれ国外でフライバック・ブースターが実現する可能性があるため、H-2Bへ開発注力して具現化しても時代遅れとなる可能性が高い。ロケットには経営的視点が必要であり、その経営は「戦略」・「ビジョン」・「方法論」がキーとなるはずで、これを言い換えれば「お金」・「技術」・「人」となる。現行のH-2B計画は“ATVとHTVとの競合”や“コストダウンと将来対応技術の開発が始まっている事”や“世界を見て、宇宙を考える時代”から見れば日本が開発するロケットとしては経営・戦略不足だと考えている。このままでは人的・技術的、予算的な浪費状態に陥る可能性が高い。
 筆者は液体酸素・液体水素ロケットエンジン技術は非常に高い技術が要求されるため、この技術を殺さないためにも同じ技術と歴史をもつデルタロケットと筐体・システム等で連合を組み、超大型ロケットは国際共同GLV(Global Launch Vehicle)として国際共同開発できればと考えている。例えばデルタ次世代型のデルタX計画に参加し、パーツを共通化できれば商業需要やその後の新規開発も比較的容易に可能だからだ。
 そしてH-2Aや後継機(H-2C?)は国産として残して国際基準ロケットを製作し、日本として独自の打上げ手段を維持し、輸入品ロケットとならないよう国産技術を維持する。H-2AもH-2Bもこのまま輸入品で続ければ、液体ロケット技術が根絶やしに可能性が高く、20年後には液体ロケットの基本技術がなくなる恐れがあるのだ。
 また、超大型ロケットGLVやシャトルカーゴは日本一国では維持困難なため、国際共同開発でファミリー化したH-2D(?)で宇宙構築物、火星探査、宇宙資材運搬機を進められればと考えている。
 
ただ、フライバック実験のためだけに旧型H-2やH-2A供試体を使うのは得策ではない。折角の打ち上げの機会があるなら、さらに戦略的なペイロード搭載を実施すべきだ。


H-2ロケット7号機(JAXA種子島宇宙センター)

◎スーパー・アカデミック・ペイロード戦略

 それはスーパー・アカデミック・ペイロード戦略だ。先のSRB回収技術実証と同時に旧型H-2やH-2A供試体の打上げ能力を使用して、学術衛星の搭載スペースを用意し、「3年後にロケットを打上げるから、衛星を搭載したい学術機関(大学・専門学校・高等学校)は持っておいで」と募集をする。これは現行のJAXA審査基準ではハードルが高過ぎるため、宇宙振興策として第三者が搭載認定を行い、キューブサットや50kg程度の衛星を供試体へ搭載して打上げるのだ。キューブサットクラスならば実績のある東京大学や東京工業大学が認定(お墨付き)を出す方法が考えられないだろうか?つまり現在日本国内で開発中の大学衛星に加え、もの作り教育の一環として高校・専門学校の学術衛星を一気に大量打上げをしてしまおうという発想だ。しかし、供試体ロケットベースで打上げを行い、フライバック技術実証が主目的であるため、ペイロードの軌道投入が失敗した場合はJAXA及びメーカーは責任を問わないこととしたい。供試体ロケット流用戦略のため、失敗責任をJAXAへ押し付けるのは酷だからだ。また、供試体という数少ない実験ではあるが、商業打上げ市場との競合を避けるため、学術研究目的と産業振興目的のみの衛星募集とするほうがいいだろう。

◎宇宙を教育へ利用

 (エアワールド2006年7月号をお買い求めください)

◎国際貢献のチャンス

 また場合によっては国際協力の一環としてオーストラリア、チリ、ペルー、カナダ、アメリカ、韓国、台湾などの学術衛星を打上げたり、日本の戦略的パートナーとして結びたい国の大学衛星を打上げるという外交ランチ戦略として使用する方策も考えられる。これは過去、H-2Aでオーストラリアの衛星を打上げた実績のあるJAXAならば可能で、日本が国際貢献を行う絶好のチャンスでもある。よって外務省との連携やユネスコとの連携、アメリカNASA、欧州ESA、カナダCSA、JAXAが参加する国際宇宙教育会議(ISEB)との会議で募集をかけるという発想もある。すでに衛星は民生品利用の拡大が進み、秋葉原の電子機器パーツを組み合わせれば製造できる時代となってきた。

◎産業振興として衛星打上げも

 日本の衛星メーカーは三菱電機やNEC東芝スペースシステムが挙げられているが、実のところ小型ながら日本の大手メーカーは衛星を製造している。社名を挙げて良いかわからないので、F社、C社、S社としておくが、彼らは衛星を打上げたくてもJAXAへ依頼をすれば社内の技術情報が漏れる危険性を心配している。JAXAは上記衛星メーカーの社員が多数出向しているため、JAXAへ持ち込めば中身を開けられて調べられてしまうと警戒している。つまり衛星は製造してあるのだが、怖くてとてもJAXAへ相談に行くことが出来ないそうだ。だからといって海外ロケットへ頼ろうにも輸出許可申請が必要で煩雑な作業が伴い、海外でも「インターフェース調整が必要」と言われて随分と中身を調べられてしまうそうだ。よって宇宙利用拡大のために第3者が搭載認定を行い、産業振興措置として彼らの小型衛星を打上げてあげる環境が必要なのだ。このように打上げたくても打上げられない衛星を産業振興のために緩和する措置があればすばらしいだろう。

◎供試体なので推力を抑えつつ再着火実験

 そしてロケットは供試体などの在庫品を使うため、フルパワーの打上げではなく推力を落とし、宇宙空間で衛星を複数の軌道へ投入するため、再着火技術の徹底取得ということも可能だ。これにより将来のコンステレーション衛星の軌道投入技術実証が可能となる。場合によっては旧型のエンジンを使用する一方、別の供試体では三菱重工の最新鋭エンジンであるMB-Xエンジンの技術実証を低推力で試してみる発想も考えられる。聞くところによれば2005年9月の実験には成功したが、2006年3月にアメリカでの燃焼試験には失敗したとの話を聞いているが、問題が解決されているならば搭載しても良いのではないか?日本のロケットは再着火能力があるが、海外ロケットのような“8回再着火”などの豊富な実績がまだないため、この機会にやってしまおうという戦略もある。

 
ピギーバック(出典:aprizesat.com、JAXA)

マルチバス・マルチアダプターを開発

 恐らく大量衛星打上げを実施するため、海外では開発が進められているマルチバス・マルチアダプターの開発が必要となる。最近まではロケット1回の打上げに衛星1機という時代であったが、衛星が高機能化によって軽量となったため、現行のロケットは特殊用途衛星を除いてオーバースペック傾向にあるようだ。このため、既存のロケットへ複数の衛星を搭載する傾向となってきた。例えばロッキードマーチン社のアトラスロケットだ。最近の報道によればアトラス5は2006年10月の打上げの際に、FALCONSAT-3、MidStar-1、NPSAT-1、CFESat、STPSat-1という5機の小型衛星を打上げ予定だ。その想像図がSPACENEWSで報道されていたが、過去の紙面(スマート・サテライト戦略、2006年3月号)で述べたESPA(EELV Secondary Payload Adapter:使い捨てロケット副衛星アダプター)という、マルチアダプターがこの打上げで使用されている。これはロケットと衛星を結合するリングに衛星搭載用のアダプターを取り付け、副衛星搭載スペースを確保したもので、軌道上でロケット自身や地上からの切離し信号を受けて、衛星を放出する装置だ。これは特に新しいものではないが、ピギーバックと同じものと見られがちだが、今までは一品工芸品のように搭載装置を作っていた背景があり、コストの観点から仕様を設定(標準化)したのだろう。
 このESPAは、デルタやアトラスロケットで使用可能であり、もし成功すれば、今後打上げられるロケットへ恒常化する可能性があり、宇宙アクセススペースがさらに提供されるようになることで国際競争力向上が図れ、NASAやアメリカ空軍に加えて大学の衛星も搭載されるようになるだろう。

 
ESPA(SPACENEWS、AIAA)

 また、ESPAと同様に即応型宇宙を目指したピースキーパー・ロケットが存在すると過去の紙面で述べたが、ピースキーパー・ロケットへ搭載するアダプターをノースロップ・グラマン社が開発している。その技術的内容は2003年の即応型宇宙会議で発表されているが、筆者へ寄せられた情報によれば、ノースロップ・グラマン社が実際に製造したとのことだ。

      
ピースキーパー・ペイロードアダプター(AIAA-RSC-2003)

 以上のようにロケットの結合リングへ搭載して複数の衛星を打上げる装置をマルチアダプターと呼ばれている。その一方で“マルチバス”というものも存在するそうだ。これは、マルチアダプターの発展型なようなもので自律機能が搭載してある。例えば、マルチアダプター搭載してある小型衛星切離し機構に加えて、推進装置、電源装置・通信装置を搭載して自律飛行できる機能が追加搭載されている。よって、ロケットの再着火だけでは対応できない衛星数を複数軌道へ投入する場合に有効と考えられており、マルチアダプターとのファミリゼーション化を含めて開発が進められている。恐らくこの延長線上のものとして存在するのがアリアンVロケット搭載予定のオービタルリカバリー社「コーンエクスプレス軌道延命機(ConeXpress)」や先月号で紹介したトランスオービタル社の“TrailBlazer”なのだろう。

 
ConeXpress(オービタルリカバリー社)

 したがって、H-2AやM-Vにマルチアダプターやマルチバスを用意することは、宇宙利用拡大の振興策としてすばらしく、その実施要求事例として上記の学術衛星や産業振興衛星を搭載すれば理想だろう。また、インターフェースはマルチアダプターやマルチバス開発国と協議をして標準化できれば、将来的に様々な国際協力が可能となり、戦略的によいだろう。以上の海外動向から、2006年2月に打上げられたM-V打上げの際に副衛星搭載に際してJAXAのH-2Aチームが反対した事は時代に逆行した行為であると言える。

◎筑波宇宙センター倉庫にある衛星も打上げ

 さらにこのような学術衛星や産業振興衛星の一方で供試体として実機能を持ちながらJAXAやメーカーに保管してある衛星をフライト品として改修、打上げるのはどうだろうか?実のところ、かなりの“衛星”となる供試体があるそうだ。例えばデータ中継衛星だ。データ中継衛星“こだま”と同型の衛星は筑波宇宙センター内にある。これを再整備して打上げれば、静止軌道にある“こだま”のバックアップとして使用可能であり、ゼロからデータ中継衛星を設計・製造するよりも低コストで補充構築が可能だ。

◎まとめ

 日本国民の多くが国産ロケットとして見ているH-2Aロケットは、高い技術が要求される液体ロケットだ。しかし素材ベースで換算すれば輸入品が多く、このままでは旧型H-2で培った技術が途絶える可能性がある。
 また今後は戦略的にロケットを開発しなければ時代遅れとなり、コスト高で輸入パーツに振舞わされる事も重なって、H-2Aが国際競争力低下によっていずれ国として維持することが困難となるだろう。このため、「完全使い捨てから一部再使用化」を目指したフライバック技術の実証を行い、国産の国際基準LVSを進めながら超大型GLVは液体酸素/液体水素連合を組み、デルタロケット等と国際共同開発する案を提示した。今後は次世代ロケット技術の追求とコストダウンを模索するために、コストイノベーションを目指して旧型H-2とH-2A供試体を有効活用しながら、液体ロケットを生き残らせるために「独自製品」と「共同製品化」をしっかり考え、将来を見据えて今後20年の展開しようとする発想が必要になるだろう。さらなる戦略提案はいずれ発表したいと思う。
 また、供試体の有効活用の一方で「人材育成・産業振興・JAXA供試体衛星打上げ・宇宙外交」を目的としたペイロード戦略案も提案した。これはスーパーアカデミックという次世代技術(フライバック・マルチバス/アダプター・公共LVS規格)を見据えて、将来に繋がる展開が期待できる方策だと考えている。
 このように日本のロケット戦略は利用・戦略・開発を含めた総合的観点で考えることが重要であり、同時に海外でも「スマート・ランチシステム」「コンパクト・ランチシステム」という名称で様々なコンセプトが研究されている。このような動向をJAXAがもっと情報収集して欲しいと同時に、今後の日本ロケット戦略が世界から見て高く評価されるようなものになるよう期待したい。


Copyright Hideo.HOSHIJIMA all rights reserved 2006.

Hosted by www.Geocities.ws

1