革新宇宙技術への転換戦略(Japan Air-Launch技術競争)
   (エアワールド2009年6月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2009年6月号」をお買い求めください

空中発射ロケットの本格検討が始まろうとしている。これは空中へロケットを運んで打ち上げるという言わば「技術上のドーピング行為」とも言え、(地上打上よりも)軌道投入重量を向上させる効果がある。地上打上ロケットを上空へもって行くだけで打上能力が上がることから、もし顧客衛星の重量がちょっとだけオーバーして地上発射では任意軌道へ投入できない場合は空中発射へと打上方式を変更したり、空中発射専用のロケットを作ることで、地上打上ロケットよりも低コストで販売できる戦略を狙ったりと、商業打上ランチャーとしての可能性がある。このため、宇宙旅行事業を進めるVirgin Galactic社が宇宙旅行事業に加えて空中発射ロケットを使った衛星打上事業計画を発表、英国政府サイドも支援姿勢を示したと報じられている。加えてJAXAや文部科学省が近年全く研究してこなかった空中発射ロケットに対し、海外企業やCNESではここ数年徹底した研究・開発成果を発表、そのもたらす戦略が明らかとなってきていることから、海外では旬な話題となってきている。

一方、空中発射ロケットのもたらす効果に対し、批判する声も存在する。しかしその内容は過去情勢と古い研究・論文成果のみをベースに議論を展開、現在の衛星需要・技術トレンド・商業化動向・波及効果から見た視点は乏しく、正確な情報分析は未だ報じられていない。本稿では、空中発射ロケットにおける国内検討動向やNASA及びCNES検討動向を紹介、その利点と問題点を検討し、空中発射ロケットの理解を深め、何が日本として必要なのかを検討したいと思う。

◎公的機関が検討する空中発射システム(基幹ランチャーの空中後継案)

 JAXAでは空中発射ロケットを検討している。その位置付けは、この空中発射ロケットシステムを次期基幹ロケットとして位置付け、液体ロケットか固体ロケットを基本ベースに戦略展開する検討を進めている。その検討内容は5つあり、

・ 固体案1:オリンピア(ARES-1モータ流用の空中発射バージョン)・・・衛星・貨物

・ 固体案2:Castor-120(Minotaur-IV空中発射版)・・・・衛星打上

・ 固体案3:固体+液体(大直径固体)・・・貨物・衛星

・ 液体案1:NK-33案(TAURUS-II小型版)・・・貨物・衛星

・ 液体案2:NK-33、43案(TAURUS-II共用筐体)・・・貨物・有人・衛星


という構想だ。JAXAではこれを基幹ロケットH-2Aの後継機として開発し、衛星打上だけではなく、有人&貨物輸送も含めてやろうとする構想だ。ロケットを発射する航空機(母機)は、B-747、C-17、C-5、多目的航空機を想定している。この多目的航空機はスペースシップワンのような双胴機をベースに検討している。しかし多目的航空機開発には時間がかかるため要素研究を続行し、とりあえず母機をB-747やC-17として有人輸送を含むロケット提案を計画しているようだ。

当初ロケットは液体ロケット(液体酸素、プロパン)を検討していた。この利点は、インターステージという設計をしており、簡単に言えば“ロケット段間部を密閉してそこに燃料を入れ、燃料タンクと段間部を1つに纏める”ことで、ロケット全長をコンパクトにして総重量を抑える設計コンセプトである。この開発企業(T/space社とAirlauch LLC社)は小型液体ロケット(Quickreach)をベースにスケールアップしたQuickreach-2の開発計画をNASA-COTS計画(ISS民間物資輸送/3600kg)として応募した経緯がある。また有人カプセルも提案されており、搭乗人員は4人の輸送が可能で、2005年にはカプセル実物大試験機を製作してパラシュート展開、降下、着水実験を終えている。




B-747改修の空中発射Quickreach-2(NASA)                  2005年実験のカプセル回収実験(T/space)


      当初のシステム構成(T/space)            現在開発途上のQuickreach(Airlauch LLC)

 JAXAでは、これらB-747改修の空中発射システムを次期基幹ロケットとして検討、有人宇宙開発計画の一翼として取り組むことも検討対象としていたが、Quickreachエンジン開発が遅延したことで、コンセプト練り直しを迫られ、米国企業の複数社へコンセプト委託研究費を支払い、上記の固体と液体ロケットが現在検討対象として挙がっている。

そこで出てきたコンセプトが上記5つである。コンセプトを分析する限り、大型志向しているようだ。まず、固体案1はARES-1の固体モータを第一段目にしてAndrew Spaceが提案していた固体ロケット「オリンパス」をベースラインに空中発射する案である。無論、基盤技術はすべてアメリカである。衛星・貨物打上げ用を想定しており、HTVよりも低コストの打上手段として考えているようだ。

次に固体案2は、Castor-120をベースとした空中発射ロケットで恐らくRaptor-3であろう。これはMinotaur-IVの空中発射ロケットバージョンであると言われ、Orbital Science社からシステム輸入ということになる。母機はC-5かC-17を想定していると見られ、Minotaur-IV性能(太陽同期軌道600kmへ1200kg)から評価をすれば、衛星打上手段ということになるのだろう。

固体案3は、大直径モータと液体ステージの融合案であり、ウクライナのスペースクリッパー案と同じコンセプトのようだ。サイズは多少異なるが、衛星・貨物打上げ用を想定しており、HTVよりも低コストの打上手段として考えているようだ。

液体案1は、ロシアのAirlaunch LLC社が検討していたAn-124を使用し、ロケットはNK-43エンジン(NK-33の空中発射エンジン版)ベースのPOLYOTを真似て、NASA-COTS計画で開発中のTAURUS-II小型版を狙う戦略のようだ。TAURUS-IIはNK-33ロケットエンジンを2基使用しているが、JAXA案はNK-33を1本として空中発射させるファミリゼーション戦略を考えているようだ。コンセプト的には面白い。先々月号で示した空中+地上打上モジュールランチャーを目指しており、エンジン量産とファミリゼーションを提案しているかもしれない。JAXAではこの空中発射ロケットで貨物・衛星打上を検討している。

液体案2は、TAURUS-II筐体を共用化してTAURUS-II空中発射バージョンを作るということだ。このサイズだと、貨物・有人・衛星の打上が可能となる。サイズが大型化するため、母機も専用機化することが見込まれるため、専用母機が必要となる可能性がある。

以上、JAXAはこれらシステム導入を図り、インフラや商業利用について大手へ民間委託する方向で検討しているそうだ。一見すると、開発の進んでいる海外宇宙システムを採用することで空中発射ロケット、モジュールランチャーを作るという目的は最短と考えられる。インターオペラビリティー(相互運用)という点でも魅力があるといえる。エンジン量産化、モジュール交換、コンセプトも既存技術ベースもしくは開発中の技術を使うからだ。


    固体案1       固体案2            固体案3                     液体案1                    液体案2
(画像出典:Andrew space、OSC、Yuzhnoye、Airlaunch LLC)

◎民間企業による空中発射システム提案@(高速航空機利用ロケット案)

 JAXA以外でも民間企業A社が空中発射システムの検討を行っている。それは高速航空機、つまりF-15戦闘機を母機とした空中発射ロケット案である。A社側ではこれをGXと次期固体の後継として計画、ロケットはイスラエルが研究発表した空中発射システムを導入し、革新宇宙技術を使用した商業宇宙市場として提案検討している。

母機であるF-15保有国は派生型も含め米国、イスラエル、日本、サウジアラビア、韓国、シンガポールが保有しており、うち空中発射ロケットは米国、イスラエル、日本、韓国が検討を進めている。提案メーカーはイスラエルの検討する空中発射ロケットシステム案を導入する計画だそうだ。では、ロケットはどのようなものだろうか?これは

・ イスラエルのミサイル防衛用「Arrow」をベースとしたロケット

・ エアロスパイクエンジン+固体モータをベースとしたロケット


の2種類が検討されている。まず、Arrowミサイルをベースとした空中発射ロケットは、イスラエルがBoeingと共に開発中の弾道ミサイル迎撃用ミサイル「Arrow(アロー)」をベースとした小型衛星打上ロケットである。地上打上ミサイル(ロケット)をF-15Iへ搭載して宇宙発射するコンセプトである。これは既存流用の組合せとしてイスラエルが短期的に構築できるものとして2006年に国際会議IACで発表された。


アローによる空中発射ロケット案(IAC2006)      弾道ミサイル迎撃ミサイル「アロー」(Wikipedia)

 A社では、これをシステム導入して空中発射ロケットを計画しているそうで、その打合せをするため、イスラエル企業が頻繁に名古屋を訪問しているとのことである。またこれら提案を国産と称して防衛省や文部科学省などへ持ち込んで空中発射システムを売り込んでいるとのことである。

 次に「エアロスパイクエンジン+固体モータ」を利用した空中発射ロケットも第2案として計画している。これは、イスラエルが2008年4月に国際発表した論文「Investigation of Combined Air Breathing/ Rocket Propulsion for Air Launch of Micro-Satellites from a Combat Aircraft」を真似た、1段目を空気吸入式エンジンで加速して2段目以降は固体モータで組み合せた空中発射ロケットである。Googleで「AIAA-RS6-2008-5003」と検索すると論文&プレゼンテーション資料が見られるので、これを見れば一目瞭然である。

 この1段目の空気吸入式ロケット(Ducted rocket motor)は、コンポジット推進剤(HTPB)、ジェット燃料、金属燃焼材ボロンを吸気しながら燃焼させて推力を得るコンセプトが特徴である。ロケットの燃焼サイクルが固体、液体に加えて3つ目の「空気吸入式エンジン」を採用したもので、コンセプト的には新しく、技術的にはチャレンジングなものである。これをA社がイスラエル企業からコンセプト輸入、国産開発と称して上段ロケットモータもATKサイオコールのものを輸入、JAXA-NALの超音速研究チームや防衛省へ持ち込んで実用化しようとする計画案を練っているそうだ。

 このロケットは全長6m程度、1段目の空気吸入式ステージではマッハ4以上加速し、それ以降はATKサイオコールのSTAR-27固体モータ、STAR-48V固体モータの3段式ロケット(総重量は約3t)で、近地点250kmへ最大75kgの衛星を軌道投入できるとしている。技術的チャレンジにより、全段固体ロケットと比べれば軽量化を目指しているのだ。

 さらにA社では国産対艦ミサイルASMをベースとして空中発射ロケットも計画したが、対艦ミサイルベースではコスト面と軌道投入能力の問題から検討中止した経緯があるそうだ。


エアロスパイクエンジン+固体による空中発射ロケット案(AIAA-RS6-2008-5003) 


エアロスパイクエンジン+固体ロケットのフライトパス(AIAA-RS6-2008-5003)

◎民間企業による空中発射システム提案A(旅客機利用ロケット案)

 これは別の民間企業B社が検討しているものだが、B-747のエンジンパイロンを使って固体ロケットを打上げるコンセプトである。B-747は普通、4発エンジンを搭載しているが、実のところ、機体によってはオプション装備としてエンジンを吊下げる第5パイロンがある機体を保有している民間航空会社がある。それが下記の写真だ。

 B-747エンジンは非常に大型である。このため、出先空港でエンジンが故障した場合、現地で修理が出来ない場合は代替エンジンを輸送する必要がある。その場合は、下図のような第5パイロンにエンジンを懸架させて輸送し、現地でエンジンを取り替え、故障したエンジンを持ち帰るオペレーションをしている。実は日本の航空会社も、この第5パイロンを有するB-747を運用していた実績がつい最近まであったそうだ。写真は南アフリカ航空とオーストラリアのカンタス航空が保有するエンジン輸送パイロン付きのB-747である。

 また懸架できるものは、エンジンだけではない。実は中東のある国では、航続距離が不足する関係から燃料タンクを懸架できるB-747もある。さらにB-747空中給油機の図面もあるそうだ。つまり重量とサイズとコストを満たせば、ロケットを懸架できるという発想が生まれたのだろう。

つまりB-747は旅客機として「様々なオプション装備」があるのだ。このため、一時期はこの機体を巡って取得競争が勃発したことがある。過去誌面で紹介した話だが、日本でも数年前に民間航空会社保有のB-747が第3国を通じて中国が購入しようとしている情報があった。その後はアメリカ系企業が買い取ったそうだが、この第5パイロンを使ったロケット打上コンセプトは日本(USEF)だけではなく、イスラエルも考えている。イスラエルは、第5パイロン付きB-747を既に保有しているそうだ。そして「シャビット(Shavit)」というイスラエル固体ロケットを空中発射するコンセプトをAviation Weekが報じている。


第5のエンジン懸架パイロン(Airlaines.net、カンタス航空)

 B社ではイスラエル企業と共に、このシャビットをベースとした空中発射ロケットの提案検討している。計画では第5パイロン保有のB-747をイスラエルもしくは他国から購入し、開発費は日本持ちで共同保有、シャビットの空中発射事業を展開しようと検討しているそうだ。イスラエルはインド洋上からの打上計画を発表しており、日本は太平洋から打上げる計画と考えられる。これは他国と機体を融通し合う“インターオペラビリティー(相互運用)”戦略として、機体維持費シェアも可能となるため、経済性を意識しているとも言えるだろう。このB-747を使ったコンセプトは興味深い。B-747ならばFAA型耐空証明の取得が戦略次第で出来るため、商業ランチャーとして対応可能であること、そして小型から中型サイズまで派生ロケットが搭載可能である。その一方で、ロケット打上のみへ使用するコンセプトだと、運用コストとパイロット維持の採算が厳しくなり、ペガサスと同じ(機体占有)事態となり、エンジン数が多い分で運行・維持コスト上不利となる可能性がある。よって過去誌面で紹介したように多目的利用機として別途利用の市場開拓の必要に迫られるだろう。

◎民間企業による空中発射システム提案B(自衛隊輸送機利用ロケット案)

 さらに違う民間企業C社が、自衛隊の輸送機を使用した空中発射ロケットを提案しているそうだ。これは、既存自衛隊輸送機や開発中輸送機(C-X)を利用し、ロケットを架台に載せて放出投下するロケットである。

 貨物輸送機による空中発射は、アメリカに限らずフランス、ロシア、フランスで検討されている。その理由として、ペガサスのように発射母機を占有化する特徴が無いからだ。普段、運用している貨物輸送機を改造することなくロケットを搭載できるため、最新の検討情報では「AN-124、C-17、C-5/A-400、C-130」の母機どれでも貨物室搭載できる仕様が望ましいという設計コンセプトが検討されている。これは技術的に可能であり、先のB-747第5パイロン併用によるマルチ運用は“母機運航コスト低減の1つのアイデア”である。ロケット打上による打上支援機器はモジュール化し、航空機内部のパレットによる着脱可能にする設計コンセプトで、ロシアとアメリカはこの方針を発表している。一方、日本では「空中発射母機を占有運用が前提」として空中発射ロケットはコストが合わないという主張をする動向が国内であるが、世界の最新コンセプトは“マルチユーティリティーによるアイデア力”で戦略検討されている。ジャーナリズムは所詮ジャーナリズムであって、技術的検証と調査力欠如では意味がないのではないか?

さて、C社ロケットは固体を想定しており、空中発射技術はオービタル社のRaptor-2投下システムを導入、ロケットも実績ないため海外システム導入、ライセンス生産するそうだ。情報によれば、頻繁に民間企業らが海外企業と打合せをしているそうだ。しかし日本の軍用輸送機は貨物室にRaptor-2がスペース・重量的に搭載不能のため、約半分サイズの固体ロケットにした設計コンセプトで考案している。またロケットも製造実績がないことから、海外メーカーから支援を受けて行うとのことだ。


自衛隊輸送機とRaptor-2(Wikipedia、USAF)



◎NASAとCNESの動向

 JAXAは空中発射ロケット研究を真面目にやってこなかった動向に対し、NASAでは空中発射ロケットの技術を用いて、2段式再使用ロケットTSTO(2段式宇宙往還機)の検討を進めていた。日本では空中発射とTSTOの関連を完全否定する動向がみられるが、海外では真面目に検討されている。NASAでは空中発射ロケット技術基盤を応用し、母機を大型化してフライバックブースターやTSTOの達成シナリオを検討している。母機B-747などの既存機を流用し、知見を高めて将来は大型化・専用機化を検討している。ロケットもロケットエンジン、空気吸入式エンジンなど、短期的、中期的、長期的に可能なコンセプトを整理し、ロードマップを考えている。また空中発射メリットの主張もある。先日、日本ではUSEF研究成果で示した「空中発射のメリット」を低く見積もろうとする分析が発表されたが、NASAでは空中発射ロケットを地上打上型と比較して重力ロス、ドラッグロス、エンジン圧力ロス、飛行経路ロスを軽減できると公表している。

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中長期的な空中発射ロードマップ(NASA)


空中発射ロケットのメリット(NASA)

 一方、CNESでも空中発射ロケットの知見を応用し、短期的には「Rafale戦闘機を使った空中発射ロケット」で検討し、そして「無人機やエアバス貨物機A400を使った空中発射ロケット」に加え、ロシアとともに共同基礎研究し、長期的には「再使用輸送機(TSTO)」を開発するALDEBARAN研究を展開している。つまり、ESAの将来輸送研究FLPPのCNES版がALDEBARAN研究なのだろう。この研究では、空中発射技ロケット技術の先にあるものは再使用宇宙輸送システムであると定義している。


RAFALE空中発射ロケットMLA(CNES)    エアバスA400空中発射ロケット(CNES)


ALDEBARAN研究により未来LVSビジョンを描くフランス(CNES)

◎公的宇宙機関提案の評価(納期・コスト・性能無視でキー技術も輸入)

JAXA検討の空中発射ロケットを考察すると、要素技術や基盤技術が「全て海外依存」であることが分かる。キー・テクノロジーはブラックボックス扱いになることが予想され、日本としてのランチャー技術が“より未熟”となる可能性が高い。そして対等な日米ロケット関係にもならないことが見える上に特許料支払いで高コスト化する可能性が高いため、ある意味「NASDAによるN-1へ回帰(技術導入)」と同じであると分析できる。

様々な海外技術者からの情報によれば、JAXAはこの大型空中発射検討に500万ドル(約5億円)もの大金を海外企業へ支払って検討させようとしているそうだ。(ついでを言えば、USEF空中発射研究は年1000万円程度で実施したそうだ)。国内でコツコツ研究している動向に対し、過去全く研究してこなかったJAXA(旧NASDA)が遅れを挽回するため、国民の税金を国外企業に支払って「キー技術輸入のコンセプト」を研究させている構図となる。「作業マル投げで成果は自分(JAXA)」という、相変わらずの「予算ばら撒き宇宙活動」の悪さを見直す姿勢が乏しい情勢だ。

 また、JAXAが空中発射ロケット開発の主体となると、日米宇宙公文を改定する必要があると考えられる。実のところH-2、H-2A、H-2B液体エンジンの基本燃焼ソフトウェアの供給は本公文に基づいて行われており、この公文による合意で米国企業からソフトウェア供給が行われている。これが「液体エンジンのキー技術を海外依存」している背景だが、空中発射ロケット開発がJAXA主体となるならば、日米宇宙公文の「枠内」に明記してシステム輸入の合意を取り付ける必要があるだろう。細かな詳細は言及を避けるが、JAXA空中発射ロケット計画は、有人宇宙アクセス手段の取得に結びつき、将来的な商業運用の道も考えられるが、「要素と基盤技術が海外依存、コスト高、公文改定の観点」から限界があると見られる。


◎A社提案の評価(軍用機による制限の懸念、キー技術輸入)

 A社による高速航空機利用ロケット2案を評価する。2つの計画案は共に高速航空機が軍用機(F-15)であるため、母機利用は魅力的である半面、外交的な面・製造国との間で「様々な制限」がかかり、F-15目的外利用(商業ランチャー)としての実用化には、メーカーだけの判断では出来ないと見られる。

 また、仮に高速航空機(母機)の利用問題がクリアーとなっても、「要素・基盤技術が海外依存」であり、ミサイル防衛用のARROWではイメージ的な問題がある一方でシステム輸入品であり、「エアロスパイクエンジン+固体」の組み合わせも、1段目はイスラエル、2段目と3段目はアメリカ企業のライセンス導入のため、ロケット基盤技術は全て輸入品ということになる。また仮に国産ロケットで出来たとしても防衛省のみでしか使えない衛星打上ロケットでは意味がない。ロケットは民事・軍事・商用利用できるコンセプトでなければならない。

技術的評価をすれば、全段固体と比較して重量減が期待できる半面、空気吸入式エンジンはまだ「研究段階」の領域であるため、技術的リスクが高く実現には時間がかかると分析できる。コンセプトは面白いが、技術が飛躍し過ぎであり、イスラエルでも「検討・研究段階」と位置づけているほどだ。将来利用の可能性は否定しないが、日本の基礎技術力が乏しいためにリスクが高いと思われる。空気吸入式エンジンは知見獲得するための研究がまだまだ不足している、「いきなり実用化」はNALハイパー亡霊をやるようなもので、じっくりと知見獲得のためにRNSLV(リサーチ・ナノスペース・ランチ・ビークル)を使って基盤システム技術をコツコツ研究するのが先と考えられる。


◎B社提案の評価(キー技術輸入、コンセプト不足)

 次にB社は、B-747第5パイロン利用によるイスラエルベースの固体ランチャーを検討している。母機B-747は商業ランチャーとして運行できる魅力がある半面、空中発射ロケットのみで運用するのは機体維持費がかかり、他国とインターオペラビリティーを図るか、宇宙ランチャー以外で多目的利用を図らないと採算性が厳しいと考えられる。事実、海外技術者との会合では「B-747利用は魅力的だが、コストがかかる」という経済的理由で頓挫した経緯があったそうだ。そしてロケットも基盤技術や分離技術という「キー技術が海外依存」であること、そして20年前にISASが国際学会で発表したB-747固体ランチャーより遅れた提案(モジュールランチャーが出来ていない)であることから、良い提案とは思えない。また、B社はロケットシステムのインテグレーション技術を有していないため、イスラエルから固体ロケットを輸入するのであるならば、その実施価値には疑問が生じる。


◎C社提案の評価(母機の民間型式証明なし、キー技術輸入)

C社については、母機が国産機(C-1、C-X)を想定している。このため、機体メンテナンスや改造自由度が高い反面、既存軍用輸送機には民間型式証明が無いことから、商業ランチャーとして対応困難な懸念がある。防衛省が民間型式証明を取得するための許可を得る必要があるのかもしれない。

また、ロケットもRAPTOR-2コピーか、その小型版を検討している。ファミリゼーションという観点から見れば良いが、ロケットシステムとしてのインテグレーション力がないため、ロケットシステムはOrbital社からシステム導入し、貨物室からのロケット放出&発射システムもRAPTOR-2システムの基盤輸入する方向で話し合われているそうだ。つまりキー技術の殆どが海外依存ということになる。母機が国産というのは魅力あるが、重要基盤技術が国産化しないというところに問題がある。

◎基盤技術を押さえなかった苦しみをまた繰り返すのか?

 このように、公的宇宙機関及び民間企業が検討している空中発射ロケットは、基盤技術を国内開発するのではなく、キー・テクノロジーは海外システムのそれを導入する方向で検討されている。これでは、宇宙システムが出来てもノウハウは日本へ行かないことになるか、技術ライセンス料の支払いに晒されてコスト競争力を失うことになる。つまり、これは「かつてのN-1ロケット時代」へ回帰するのと同じなのだ。

 日本は当初、液体ロケットを国産化するためQロケット開発をした。当時は旧冨士精密(後の日産)と石川島で行ったが、要素技術が不足したため頓挫する。そして政治的事情に絡んで要素技術が無い背景からメーカー・政治家らが政治主導で海外技術導入を行った。この際、政治家S氏がGDを担ぎ、政治家A氏がダグラスを担いだのである。そしてアトラスを担ぐ日産とIHI、ダグラスを担ぐMHIが対局し、当時の政治家T氏の画策によりN-1(マクドネルダグラス)に軍配が上がったのである。

 そして宇宙開発事業団創設に伴い国鉄の未来技術陣(宇宙航空機)が行き、N-1、N-2に継ぐ次期事業計画ではH-1(旧プリンス自動車チーム)が勝利し、Qロケット実務者の巻き返しはならず、その後J-1改(NK-33)で巻き返しをかけ頓挫、ATLAS-IIIBやATLAS-Vの1段目を使ったGXで巻き返しをかけたが、液体エンジンの要素技術そのものが日本は不足しているため、LNG開発はコスト超過、開発スケジュール超過で失敗、対抗馬はH-2増強型(後のH-2B)とH-Xで潰す構図となっている。

 これ以上の詳細は後日にするが、N-1技術導入は飛躍的に日本の宇宙活動を広めた。しかし基盤技術を開発することなく、政治主導による海外導入を図ったことで、液体ロケットの基盤技術不足が現代になっても足を引っ張っている。そのため公式の歴史上は「H-2」で「純国産化した」ことになっているが、H-2開発に伴い日米宇宙条約改定では「液体エンジンソフトウェア」はアメリカから供給する合意をしている。日本は過去のN-1、N-2、H-1、H-2でソフトウェアを確立しようと努力したが、結局は出来なかったのである。これはインド、中国も同じだそうだ。インドはソ連邦とアメリカ、中国はソ連邦より液体エンジンの基本ソフトを導入したそうだ。真に液体エンジンソフトをノウハウベースで構築し、純国産化して実用ベースへ達したのはアメリカ、ソ連(ロシア&ウクライナ)、フランスだけなのである。そして中国は長征ロケットの使用燃料が毒性の高いヒドラジン系を使用していることから、クリーンな液体酸素/液体水素エンジン開発に着手している報道があるが、結局のところノウハウがないため、アメリカや日本のロケット企業から情報を取る行為を活発化し、昨年には関連情報を盗もうとして逮捕者まで出している。それほど、エンジンソフトウェア及びノウハウは重要なのだ。

  
液体エンジンの推力重量比不足を支え続ける固体技術(NASDA、JAXA)

 日本の液体ランチャーはQロケット以来、液体エンジンの基本ソフトを海外依存し続けているのが現状だ。そして未だに液体ロケットはキー技術を海外依存脱却できていない。さらには推力重量比が上がらないため、固体ロケット技術がその不足分をカバーしている。これでは対等な液体ロケットの協力関係は構築できる状況に無く「技術ではなく金で協力を求められる日本」という構図となることを意味している。

 このように、過去の苦しみを学ばずに、メーカーや公的宇宙機関がキー技術を海外依存して空中発射ロケットを検討する行為は「過去の教訓を学んでいない」と言えるのではないか?

◎空中発射ロケットは“キー技術”を確立することが先

 おそらく当時は、ソフト国産化を諦めて事実を隠したのは「大したことではない」と思っていたのかもしれない。そして「これは将来の後輩たちに託したい」という思いがあったのかもしれない。しかし未だに解決していない。液体エンジンの原理原則を完全習得できなければ、推力重量比向上や「小型・大出力・低コスト」エンジンが達成できないという事実をJAXAは軽視しているのだろう。

 NASDA-JAXA以来続く、この液体エンジンの“キー技術の海外依存”脱却を目指して、再建するビジョンが必要であると考えている。これは日本が液体エンジン開発国として生き残る上で非常に重要であり、時間をかけてもコツコツ積み上げるビジョンが必要である。メーカー側、公的宇宙機関側共に基盤技術の再建策を期待したいものだ。そして空中発射も同様で、各々検討動向からみても、自社に無いからと言って「ここだけは押さえておきたい!!」とする“キー技術”までもを“簡単に海外から持って来る姿勢”は、Qロケットから始まる過去の過ちを“また繰り返す”ことを意味している。

 CNESでは、基礎研究を着々と積み上げながら、マーケット研究、衛星技術トレンドも分析し、将来輸送手段を鑑みながら「自国技術で今出来ること」、「中期的に出来そうなこと」、「長期的未来はこうありたい」とする考えを立てた戦略を発表している。この積上型の戦略姿勢を日本は学ぶべきだろう。

 空中発射ロケット開発にあたり、ターゲット市場が何にせよ、その「キー技術」が何なのか良く考える必要がある。少なくとも言える事は、空中発射における航空機は「開発」するものではなく「手段」であるということだ。「キー技術」を押さえて「技術知見の深耕(経験とノウハウ)」を蓄積し、「納期・コスト・性能」を描いて国際提携出来る、真の国際市場競争力ある空中発射ロケットビジョン(脱官需依存)を提案してほしいものだ。

基礎研究を着々と発表するCNES(IAC2007)

◎まとめ

 経済産業省が空中発射ロケットの実用化検討を始める。しかし、公的宇宙機関やメーカーらは、「キー技術」が海外依存の空中発射ロケットを開発提案すべく、検討を重ねている。キー技術を海外導入する行為は、N-1から始まる液体ロケットの技術導入により、「エンジン燃焼ソフトのノウハウが日本へ行かずに未だに国産化できない歴史と教訓」を学んでいないことと同じである。過去の失敗をまた犯すのではなく、「経験とノウハウ」を蓄積し「納期・コスト・性能」を意識して国際市場へ対応できる真面目な空中発射ロケットの提案を望みたい。そして液体エンジンもFALCONロケットやAngara動向の事実を見据えてH-Xではない「真の再建計画」を立てて「国威ランチャーから商業対応への転換」を目指した宇宙基本計画も期待したいものだ。

 宇宙基本計画案が発表されようとしている。過去の過ちを繰り返さないため、そして未来の後輩達に「辛い負債」を背負わさないために、むしろ液体エンジンのキー技術再建という問題を克服するため、“退路を断つ意味”も込めて日米宇宙条約を大幅改定するか破棄してもらうという、思い切った決断をするのが良いかもしれない。

目先の「お祭り」でもなく、「20年間で数兆円以上もかかる有人計画」でもない、金力ではなくアイデアと技術で「世界が賞賛」する計画を期待したいものである。


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