ステーション変革 「フル規格(ISS)からビゲローショックへミニ・マイクロ化」
   (エアワールド2008年12月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年12月号」をお買い求めください

 宇宙空間利用競争が勃発している。本稿では、当初の予定を変更して「国際宇宙空間利用競争」と題して有人宇宙・貨物輸送ランチャーシステム開発の最新動向を紹介しながら、宇宙空間利用競争に必要な要素を見つけ出し、日本として必要なランチャー戦略を考えてみたい。

◎将来宇宙輸送戦略の策定(低コスト・有人ランチャー競争)

 ここ2ヶ月で示したように、「国際商品になれないランチャーは生き残れない」という事情から「供給過多の問題からランチャーは整理・淘汰」という流れが欧米やロシアで発生している。この流れは、フル規格型ランチャー及びユニバーサルランチャー動向でも見られる。このため、ランチャーで使われているエンジン・ステージ全体・射場をモジュール・ユニット活用することでコスト低減・量産化・バリエーション・信頼性確保を目指す状況となっている。これは過去述べた

・ NK-33エンジン共用のSOYUZ-3、TAURUS-II、POLYOT計画

・ RD-180エンジン共用のATLAS-V、GX(計画見直中)

・ RL-10系エンジン共用のDELTA-IV、ATLAS-V

・ BREEZE-KMアッパーステージを共用するAngara、ROCKOT

・ 固体モータP80・Zefiro-23共用のVEGA、LYRA、米欧共同固体LVS案(P80採用)

・ 固体モータCASTOR-120を共用するTAURUS-I、ATHENA-I、ATHENA-II、Minotaur-IV、Minotaur-IV、ALV-X

・ SS-25の固体モータを共用したSTART-1、Space Clipper(2種類)

・ 射場システムを共用する「DELTA-IIとTAURUS-II」、「KOSMOS-3MとROCKOT」、「TITAN(引退)とFALCON-9」、「スペースシャトルとARES-1」、「欧・露・カザフスタンやインドネシア(計画中)に展開するSOYUZ射場」

などである。これら動向に言える事は、ユニット・モジュール・射場を自国だけではなく、国際提携(米露・欧露・欧米)をも展開して“マーケット統合”を図っていることである。この国際提携は、供給過多のランチャー市場の整理・統合を図りながら、官需以外に展開される商用宇宙市場へ備えていると分析できる一方、比較的に単独主義で宇宙活動を展開する「中国・日本・インド」の市場進出よりも優位に立つ動向とも分析できる。この動向に気付いた中国は欧州とロシアへ接近(エンジン輸入・提携強化)する一方、インドもロシアと米国との関係強化(エンジン輸入や有人モジュール採用など)へ乗り出している。

 今後は、このような優秀なユニット・モジュール開発競争が展開されるのは明白なため、“防衛利用限定”、“官需依存”、“技術継承が主目的”、“研究開発が主目的”、“手作り工芸品”という戦略目的でランチャーやユニットが開発されるのは許されなくなるのは言うまでもない。日本のJAXAが進めるH-2B、GX、次期固体(新固体)、H-X計画、LE-X計画は皆、この上記国際動向から見れば“明らかな戦略不足”というのが現状だが、内閣府宇宙開発戦略本部が始動したことから、これから次第で巻き返しが可能であろう。

◎有人宇宙システム開発もユニット・モジュール活用

 さらにユニット・モジュール活用は有人宇宙システムにも波及している。冒頭で述べたグルジア情勢による欧米―露間の対立は、米国の有人宇宙システム計画変更を迫る事態へと発展している。ご存知のように、2003年2月に発生したコロンビア号事故の影響で、老朽化したスペースシャトルを2010年に引退させる方針が示された。現在では、3基のオービターのうち2基が運用、1基が予備機(部品取り)として待機している。

 その後任を担うのがARES-1ロケットとORION有人船カプセルであるが、開発スタート時点で2010年完成は無理と判明しており、ARES-1登場の空白期間(数年間)はロシアのSOYUZ頼りとする方針が掲げられていた。このため、空白期間中はアメリカの有人宇宙輸送手段が事実上失われるため、雇用不安を含めたスペースシャトル関連職員を抱える地元の議員から「シャトルを延命せよ」との声が上がっていた。だが、シャトルは老朽化している上にシステムが古いことから部品調達・安全性・ミッションコストの点で問題点があり、シャトル運行継続は財政的説明がつかないという理由で2010年引退決定は揺るがなかった。


ARES計画のスケールと目標性能(NASA)

  しかし、「グルジア情勢による米露関係の悪化によるSOYUZ独占体制に対する懸念」、「ARES-1とORION開発が大幅に遅延していること(特にカプセル開発)」、「大統領選挙が迫っていること」から、米国議会から「SOYUZ独占期間に対抗できる手段を求める声」が日増しに強くなっている。この議会からの要求を受けて以下のシナリオ案が検討されている。このシナリオ案を見る限り、有人宇宙システムもモジュール思想が伺える

@ シャトルカーゴ(物資輸送)の開発実現(この有人版を実現):○

A シャトルの新規建造(RD-171利用案など):□

B シャトル大延命(大幅改修、耐熱シルード交換で大幅延命)(7年):×

C シュブル建造(シャトルとブランの構成品)で3機オービター案(10年):△

D シャトル延命(現役2機に絞り改修)(3〜5年延命):◎

という構想だ。

 @のシャトルカーゴはISS貨物輸送だけではなく、月・火星探査用の大型ランチャーとしての需要を見込んで計画している。これは大きく分けて “スペースシャトルのオービターを使捨貨物ビークルへと変更する設計案”と“シャトル外部燃料タンクを筐体にしてエンジンを取り付けて上段を載せる設計案”と2系統のシャトルカーゴ設計案がある。その一例を下図へ示す。

 
シャトルカーゴ設計案例、数多くの案が再提案されている(NASA、TPF、starlifter)

 このシャトルカーゴの打上能力はARES-Vを上回るものもあれば、そうでないものもあり、1段目エンジンもRS-68系(DELTA-IV)、SSME(シャトル)、RD-180(ATLAS-III、ATLAS-V、GX)、RD-171(Zenit-3SL)をモジュール採用し、1本、3本、5本、6本とクラスター化する案が挙がっており、上段エンジンもARES-Vで使用予定のJ-2Xに加え、RL-10(DELTA-IV、ATLAS-V)、RL-60などが検討されている。これらが再検討されている背景には、グルジア情勢に加えてARES-Vが技術成立性の問題とコスト上昇の懸念が発生しており、様々なエンジン・モジュールを組み合わせ、時にはタンクの直径や全長を変化させたバージョンも検討している。一部案はARES-Vよりも大型であることから長期戦略的で実現する点では良く、コストもDELTA-VヘビーやATLAS-Vヘビーと同等であれば良いとする方針が示されているそうだ。よって“モジュール設計思想、性能・コストのバランスを満たす”考えがあるため、短期的には成立は不可能だが、長期的視野では大型貨物ランチャーとして○だと考えられる。

 Aはシャトルコンセプトの新規建造である。これは、ソ連シャトルベースエンジン、Zenitエンジンにも採用されたRD-171を利用して、シャトルメインエンジンをケロシン系エンジンへ変更する戦略だ。これは技術・性能面で魅力があるが、開発コストがかかりすぎることで□という評価のようだ。

 Bのシャトル大延命は、端的に言えば大幅改修である。だが1970年代技術に2000年代の新技術を組み合わせて大幅に改修する戦略は、ジェネレーションギャップが大きいことでソフト・ハード的な適合性の問題に衝突する可能性が高いと見られている。さらに何処まで性能保証できるかの問題が発生すると見られ、未来展望が拓くための戦略というよりも“ARES-1としての繋ぎ”として見れば、費用対効果が悪いため、NASA雇用対策プロジェクトに過ぎず×という評価のようだ。

 Cのシャブル建造は、シャトルとソ連のブランの構成部品でシャトルオービターを3機製造する戦略だ。ブランは先日、1機がドイツ博物館によって引き取られたが、一方で組み立てていない部品が数基分あるそうだ。この部品・技術を有する国はロシアとウクライナであるが、ウクライナ側からアメリカへブランを含むエネルギア・クリッパー技術の国際提携を申し出ているそうだ。これら背景から、ロシアへの外交的牽制も含めてシャトルとブラン技術を融合し、3基分を製造する計画を検討しているそうだ。これは、旧ソ連技術を吸収できるチャンスであることと、ウクライナが米国や欧州と関係強化を図ろうとする動向があることから、ロシアへの外交的牽制を含めて吸収しようとする思惑もあるようだ。しかし一方で、旧世代技術の組み合わせであるシャブルのコスト的観点と、技術的成立性(性能保証)の問題から△という評価となっているようだ。

 Dのシャトル改修は、既存のスペースシャトルをコストミニマムで改修し、ARES-1登場までの3〜5年間延命して“繫ぎ役として運用”する計画だ。具体的には現役で飛行しているスペースシャトル運用を2基に絞る。そして筐体をそのまま使用し、耐熱タイルと電子機材を更新してコストミニマムで仕上げる戦略である。これは、グルジア情勢の沈静化への期待と外交的な刺激を避ける観点及び、技術的リスクを背負わずに行く点で◎と考えられているようだ。ただし、安全性保証と運用コストの観点から年間2回程度の打上を見込んでいるとのことだ。

 以上、5つの動向を述べた。有人輸送手段の空白期間の問題(SOYUZ独占)がグルジア情勢という外交問題が急浮上したことで、国内・国際提携で様々なコンセプトが提示され、検討が進められている。恐らく他にもあるだろう。現段階ではDの耐熱シールドと電子機材の交換が技術成立性・経済性・タイムスパンで評価をすれば有力と見られている。世界ナンバーワンのアメリカでさえも、贅沢にコストをかけて理想的なランチャーを追求している訳ではなく、既存エンジン・既存筐体・射場システムをモジュール流用しながら“性能・コストのバランス理想を追求”しているのである。

◎ARES-1登場の背景と開発進捗は?

 このようにARES-1開発が遅延していることと、2010年シャトル引退後の空白期を埋めるため、シャトル延命がほぼ決定しつつあるが、肝心のARES-1はどのようなコンセプトで作られているのか?まずARES-1へ至った変遷を見てみよう。

 ARES-1は“スペーシャトルのような人貨兼用コンセプト”ではなく“専用ランチャーへ分離すべく、人員輸送機専用”として開発されている。見てのとおり、スペースシャトルのSRBを流用し、上段のエンジンをアポロ計画サターンVロケットのJ-2エンジンの設計思想を流用し、J-2Xを製造したことになっているが、実はその前にはしっかりと人員輸送機の設計コンセプトが議論されている。当初検討されていた案を下図へ示す。


ARES-1決定までに検討された有人輸送機コンセプト一覧(NASA)

 これはNASAがARES-1コンセプト決定までに検討したコンセプト案である。それによれば人員輸送機はATLAS-Vヘビー型やDELTA-IVヘビー型にカプセルを搭載する案やATLAS-Vの直径を従来のコア直径5mから5.4m、8mと大型化させてブースターなしでシングルにする案、そしてスペースシャトル固体ブースターのモータセグメント数を現行の4個にするか、新規に5個にして上段エンジンをJ-2系とLR-85(4機)とする案の計7案が検討されたのである。
  審査の結果、一時はスペースシャトルエンジン(SSME)と補助ブースター(SRB)のモータセグメント4個が選択された。だがその後、搭載カプセルが海上・陸上の両方へ着水・着陸できる仕様が検討されたり、当初の見込みよりも重量が増加したことなど様々な問題が発生、このままではORIONカプセルを打上げられない問題に直面し、最終的には上段エンジンはSSMEからJ-2系エンジンへと換装、固体モータセグメントも4個から5個へと変更されたのである。
 そして射場も最終的にはスペースシャトルの発射装置2台のうち1台を流用する決定がされたが、それ以外にもケネディー宇宙センターのTITAN-4B発射台を流用する案も検討され、打上準備期間も発射台にて7日で打上とする方針も検討された。(その後、TITAN-4B発射台であるコンプレックス40はSPACEX社のFALCON-9が使用することに決定)
 また、最近では固体モータにおける振動問題が障害となっている。スペースシャトルの固体補助ブースターは直径3.7mとM-Vモータ直径の2.5mと比べれば大型であり、固体モータは大型化するほど振動が大きくなる。このため、振動を抑制するSoftride® (本誌2006年9月号参照)があるが、この振動抑制装置の大型化は図面上では描けても製造は困難と見られていた。しかし、この鬼門である振動抑制装置の開発を従来の宇宙企業ではない、ある企業へ依頼、成功したとのことである。この振動抑制装置はORIONカプセルのすぐ下段に装着することで乗員が振動を許容できる仕様にするとのことだ。


TITAN-4B発射台流用も一時検討された(NASA)                   開発した振動抑制装置(NASA)  

 これら様々な技術的問題を解決し、ARES-1乗員輸送用機は開発が進められている。ORIONカプセル開発は先日、パラシュート展開試験に失敗したものの、今後は地上燃焼試験やシステム試験を実施しながら、2009年にはリファレンスミッションとしてランチャーシステムが機能するのかどうか、無人打上を実施予定だ。
 そうした中でNASA-COTSに対抗しているのか、最近では“人員輸送”に加えて“貨物輸送”も目指すコンセプトも提示されている。これはORIONではなくノーズフェアリングを搭載する案や、上段にATLAS-Vアッパーステージのセントウルをモジュール採用する案も発表、ARES-1の派生型案も登場し始めている。これらはサイエンスミッションへ使用するそうだ。この当該提案が他のランチャーよりも“低コスト”で“打上レンジ幅を確保”できるのであれば、開発へGOがかかるかもしれないが、シャトル技術遺産ベースで開発費も比較的贅沢であるこのランチャーが商業ベースのコストで運用できるかは微妙だと考えている。以上、ARES-1はゼロから開発するのではなく、あるものを上手く・効率よく組み合わせる技術トレンドなのである。


ARES-1の派生案/宇宙機打上(NASA)            ARES-1開発メーカーと開発費(NASA)

◎NASA-COTSの第3回入札の情報も

(エアワールド2008年12月号をお買い求めください)


NASAとパートナーシップを結んでいる5社(出典:NASA)    CSIのシベリアが優位か?(出典:NASA)

◎有人宇宙標準打上げ機の実用化競争を纏めると

(エアワールド2008年12月号をお買い求めください)


“人貨兼用LVS”から“専用ランチャー化”して作業分離へ(SPACEX)

◎利用の割には大型過ぎたISS(背景にはビゲローショック)

 しかし、読者の皆さんも疑問に思う人がいるかもしれない。「ISS貨物輸送は供給過多のはず。人員輸送機は作る必要があるが、なぜアメリカはランチャーと貨物機を新規に幾つも開発しているのか?」と、、、。

 よく調べると、アメリカが開発しているNASA-COTS貨物輸送機は日欧が開発しているATV(貨物量7.6t)やHTV(貨物量6t)よりも小型の貨物輸送システムだということに気付く。例えばSPACE-XのDRAGON輸送機の搭載量は2.5t(回収可能)である。様々な方々から話の情報を整理すると、このCOTS開発の背景には、ISS貨物輸送だけを狙っていない背景が見えてきた。それは、ミニ宇宙ステーションの動向だ。

 このミニステーション登場の起爆剤となったのがビゲローである。ビゲローは民間資金により開発されている宇宙ホテルであり、インフレータブといわれる風船タイプの宇宙ホテルで、過去2回試験機が打上げられた。日本ではあまり報じられていないが、このビゲロー打ち上げにより、有人宇宙システムに大激震が走ったのである。それは「ISSは本当に有人宇宙活動として最適なサイズなのか?」という疑問だ。実のところ、ISSは平和利用を掲げてはいるが、もともとは米ソ冷戦時代に双方が開発した軍事偵察・軍事攻撃宇宙システムをベースにしたものである。つまり“宇宙兵器システム”を外して“宇宙環境実験装置”を移し変えたピース・トランスファー宇宙システムであり、「宇宙空間利用として最適なサイズである」というわけではない。ISSは80年代の技術遺産ベースで作り上げたものであったが、“他国が有人宇宙システムを開発していなかったこと”と“米ソ冷戦時代が終わり、国際平和協力の場”として“参加国の同盟関係構築とナショナルプレステージ向上へ繋がる場”としてISSは輝きを放っていたのである。だが、当時には予想しない事態が発生する。それが民間の参入である。


利用の割には大型過ぎたISS(NASA)

◎ビゲロー参入でISS関連システムの価値が大幅に変化

 ビゲローはISSよりも圧倒的に小さなミニ・宇宙ステーションである。もし、有人宇宙システム(宇宙ホテル)として登場して低コストで運用されれば、ISSのような巨大宇宙システムによる国家予算の長期的維持は財政的説明がつかなくなる可能性が考えられる。
 いわゆる、MEMSや電子部品の発達で誰もが衛星を作れる時代となり、大型宇宙システムの絶対優位性が崩壊したキューブットサット・ショックが、有人宇宙システムの世界でも発生しているのだ。これを“ビゲローショック”と海外では言われている。
 このビゲローショックにNASAは直ぐに反応した。NASAはJAXAのように無視して見ないフリするのではなく、何とビゲローへNASA-AMESが開発したバイオ衛星試験機を搭載したのである。これはCUBESAT技術ベースのバイオ衛星GENESATの試験機GENEBOXであり、ビゲロー内で宇宙空間バイオ実験を行い、その試験データの回収に成功している。つまり、NASAが民間の宇宙システムへお金を払って宇宙ミッションを搭載したのだ。このGENEBOX成功の後、本番としてTACSAT-2打上時にGENESAT-1をMinotaur-1ロケットへパラサイト搭載・打上げたのである。
 このように、宇宙ホテルであるビゲローは、ホテル装置実験のはずが「無人マイクロ工場衛星(ワクチン創造衛星)」としても機能したのである。つまり、ミニ宇宙ステーション・小型衛星技術(CUBESATを含む)・小型貨物輸送機を使えば“無人もしくは半有人宇宙工場システム”が構築でき、ISSよりも経済効率の高い宇宙活動を展開できるというコンセプトが登場してしまったのである。これを敏感に察した欧米ではISS利用価値の大幅低下に気付いたため、ISS運用継続そのものに疑問符が投げかけられる最近の流れとなっている。


「宇宙ホテル実験」のはずが、「バイオ工場実験」でもあったビゲロー/ビゲロー・ショック(NASA)

 さらに欧州ではミニ宇宙ステーションを民間ベースで構築させ、官が支援するスキームを描いているそうだ。具体的にはATVとSOYUZを組み合わせたミニ宇宙ステーションを作り、あるバイオ企業が利用、地球では紫外線がオゾン層でカットされるため、直接紫外線を浴びることができる宇宙空間で二酸化炭素を吸収する藻を大量に培養し、地球温暖化ビジネス(CO2を吸収した上でバイオ燃料化するコンセプト)へ利用する計画が検討されているそうだ。これはISSでは他国へ情報が漏れるため、欧州独自でやりたいという意図もあるようで、ATVの有効活用案としてクールー射場から打上げられるSOYUZへの搭載が検討されている。

◎NASA-COTSは次世代宇宙モジュールの育成戦略なのか?

 以上からすれば、なぜアメリカがATVやHTVよりも小型貨物輸送機(ドラゴン・シグナス)を開発し、回収可能である有人宇宙システムを開発しているかが理解できる。小型貨物輸送機によるISS需要というのは短期的であり、長期的には民間によるミニ・ステーション時代を見据えた先行的開発でもあるのだ。これを理解している企業らが自己資金まで投じて開発しようとするモチベーションならばより理解できる。もしかしたら、NASA-COTSはISS輸送需要で民間宇宙企業の売り上げを下支えさせて育て、新たな民間宇宙需要(ホテル・バイオ工場・人員/貨物/衛星打上)の世界で米国企業を優位に立たせるための絶妙な戦略なのかもしれない。

 また、TAURUS-IIのNK-33エンジン、FALCON-1,-9,-5のMerlinエンジンとKestrelエンジン、Minotaur-IV,-Vの各段モータなど、新型のユニバーサルランチャーは、次世代のモジュール育成を兼ねているのかもしれない。例えロケットシステムとして成功しなくとも、国際提携&ユニット・モジュールロケット時代へ備えてモジュールを育成しておけば、国際市場で優位に展開できるからである。
 そうなれば、欧州ATVが月探査宇宙船と称して実態はミニ宇宙ステーション(バイオ工場)へ走ったり、ランチャーの国際同盟が展開されている背景の説明がつくのかもしれない。

 一方、日本はISS維持=目先の技術開発=JAXA雇用対策という構図が実態のため、JAXAは「ISS維持のためにH-2B開発、HTV開発」という国際戦略よりも鎖国体制が主体なようだ。さらに価格破壊(赤字経営)によるISS利用環境提供とJAXAブランドで利用者募集を募り、利用者拡大を図っている。一見、悪くないように見えるが、各国が民間をベースに官が支援、モジュール育成しながら国際競争で宇宙産業を生き残らせるというスキームで宇宙工場や観光事業案を実施すべく水面下で進行している中、国際社会に準じた流れではなく、JAXA至上主義のスキームを実施し続ければ、「タダ同然のALOS画像販売問題」同様に海外から“民間企業の妨害行為”と非難され、日本が宇宙で国際的孤立に追い込まれる危険性を憂慮すべきかもしれない。宇宙は夢や目先の雇用対策ではなく国際経営としての視点が今後必要であり、そのスキームを描きながら意味のある雇用対策を図る必要があるのだ。

◎有人宇宙システムは小型化へ(固体ロケットの復活強化も)

 旧ソ連が開発・運用した宇宙ステーション「ミール」の後に登場した国際宇宙ステーション(ISS)は大型化したが、ビゲローショックによる動向から見れば、大型化し過ぎたISSではなく、低コストで打上・実験・回収する宇宙システムを作らなければならない時代へとシフトしていると分析できる。そしてビゲローとGENEBOX/GENESAT(小型バイオ工場)の組合せで、ISSの費用対効果の問題が露呈、“小型ステーション”と“衛星技術”を組み合わせることで、ISSを利用しなくても低コストでバイオ工場や滞在施設等が建設できるマイクロ・スペース・ラボが可能となってしまったのである。
 よって、国際モジュール競争で安いランチャーを作り、安い貨物船でステーションへ到達、常時人が滞在しなくても宇宙施設を維持管理できる(衛星に近い)コンセプトを目指す動きが主流となるだろう。

 このような経済的な宇宙システムの展開は、航空旅客と同じだ。かつて航空機による移動手段が王族や富裕層のみしか利用できなかった時代から、大型・高速化による大量輸送時代へ入ったことで座席単価が下がって利用者への敷居が下がったように、宇宙も“ビゲローショック”と“キューブサットショック”により、小型・低コスト化が必然的に進み、国家だけでなく、企業・大学らが容易に宇宙利用できる時代(敷居が下がる時代)へ突入する過渡期となっているのだろう。あるNASA-COTS開発企業らと話をすると、何とNASA-COTSで開発している貨物機や人員輸送機のスケール・ダウン・バージョンも既に設計してあるそうだ。

 そうなれば、打上手段はさらに安いものを追求するため、必然と液体ロケットよりも低コストの固体ロケットを強化しなければならない。そう、アメリカは「小型はPEGASUS、RAPTOR-2」、「中型はMinotaurシリーズ」、「大型はARES-1」、「基幹基礎技術を育成する観測ロケットRNSLV(Resarch Nano Space Launch Vehicle)」と気が付けば大中小及び基礎技術育成用(RNSLV)の固体ベースランチャーを揃えているのである。さらにヨーロッパでも中型サイズでVEGAとLYRAが、ロシアやウクライナでも「小型は戦闘機搭載空中発射ロケット」、「中型はSTART-1、スペースクリッパー及びORELロケット」と固体ロケットプロジェクトを走らせている。対する日本は愚かにもM-Vを放棄した上に、的外れで技術戦略性が乏しすぎる次期固体・新固体となり、レベルダウンしている。至急、固体ベースロケットの戦略変更が必要である。

 
      米国の中小型ランチャー戦略(AIAA)             ウクライナ固体ロケット戦略(YUZHNOYE)


研究用の固体ロケットも用意/RNSLV(NASA)

 以上、SF映画のように人が宇宙へ行ってコストをかけて大型コロニーを建設・維持する流れではなく、今後は「小型衛星技術・ミニステーション技術・低コストランチャー・回収(帰還)カプセル」インフラを作った者が優位に立てることになる。だからこそ、アメリカは人貨分離をしながらATVやHTVよりも小型の宇宙輸送システムをNASA-COTSで開発させているのであろう。そしてその対抗馬となる絶対優位なランチャーを上回ろうとしているのだろう。このアメリカの底力には凄いものがある。

◎低コスト・高性能・高機能モジュール・ユニットを開発したチームが勝利する時代へ

 スペースシャトル延命により人貨両用は存在するものの、今後開発される宇宙利用システムは人員輸送と貨物輸送を別にした人貨分離システムが進められていることが分かってきたと同時に、ISSだけではない宇宙利用システム競争が始まっていることも分かった。これは欧州も同様で、クールー射場では“Ariane-VとATV(工場)”、“SOYUZ-2、-3とカプセルやクリッパー(回収可)”の人貨分離で検討されている一方で、VEGAシリーズも小型貨物輸送システムが検討されているそうだ。そして現在計画中のARIANE-Xは恐らくこれら動向を加味した真の戦略があるのだろう。また、モジュール育成も着実に行われている。聞くところでは、クールー射場から打上げられるSOYUZ初号機のバージョンは古いが、将来的には1段目エンジンをTAURUS-II採用のNK-33エンジンに換装したSOYUZ-3を打上げる計画で、着実にエンジンのモジュール採用も広がっている。おそらく、欧州ではSOYUZのクールー射場進出の折衝で、「将来のユニット・モジュール交換時代、人貨分離概念、国際同盟」などの考えを持っていたのだろう。さらにVEGAの強化バージョンであるLYRAも加えれば、なぜクールー射場にVEGA(LYRA)・SOYUZ・ARIANEを配備したかが透けて見えてくるのではないか?

 さらにこれからの将来需要もある。ビゲローショックにより冷戦の遺物&大型過ぎのISSの潮時を睨んだ動向や、民間では担えないサイエンス分野でも国際天文台計画及び巨大隕石回避システム、実現の目処は当面先だが宇宙太陽光発電やサンダーバード5号のような救援システムという、これら需要を実現させるために宇宙屋は、コスト・性能・納期を満足できるモジュール用建設ランチャーを開発しなければならない。そのためには、可能な限り新規開発を少なくして開発コスト増を抑制し、優秀な既存ユニット・モジュールを組み合わせて良い物を作るコンセプトを追求しなければならない。

 これら思想から、“自国開発のみ”では限界を感じ取っている欧米露では、例え政治的問題(グルジア情勢など)により停滞しても、優秀なモジュール・ユニットを持つ国同士で国際提携を止めようとしない背景がある。これにより、中国・インド・日本のような宇宙開発国を足切りしようとする戦略があるのかもしれない。国粋主義は時には必要だが、それを言い訳に戦略不足の開発を平然と続ける“どこかの宇宙機関”とは違う概念・理念をもっているのだ。

 国内技術開発も重要だが、戦略を間違えれば現場で必死に働く技術者が報われず、「血と汗と涙の感動秘話」のはずが「骨折り損のくたびれ儲け」となり誰も賞賛してくれない。これらからの時代は真にグローバルな視点で宇宙活動を見る必要がある。この国内開発&国際提携のバランスを追求できる宇宙戦略本部の戦略立案能力と、それを理解しながら“企業献金で自説を捻じ曲げない”優秀な宇宙政治家が何人できるのか?により日本宇宙の未来の半分は決まってしまうのかもしれない。

◎コンセプトが世代遅延のJAXA宇宙システム

 このように宇宙空間利用競争が勃発している中、日本(JAXA)の宇宙開発動向を見れば、どこに問題があるのか、読者の皆さんも分かるだろう。まず、GX・次期固体・H-2B、HTVという現在開発中の宇宙インフラは、「優秀なモジュール・ユニットを作る国際競争時代」に対して「“オーダーメイド型”で“公共需要依存型”」であり、「ISS→民事ミニ宇宙ステーション」へとシフトしている事情から見れば、コンセプトアウトである。

 さらに宇宙インフラ(バイオ工場・など)を作る時代に、JAXAは打上手段へ執着し過ぎており、唯一の宇宙インフラHTVも与圧・非与圧兼用としたことで、ミニ・ステーション化するには欧米より大幅設計変更が必要で、余計な費用がかかってしまう。「何でも出来る」コンセプトを狙ったら「コスト的・利用的に何にも出来ない」コンセプトへ陥ってしまったのである。

 しかしHTVも悪いことばかりではない。HTVの設計の多くは、JAXAが海外企業へ外注してあったお陰で、海外技術者が「将来の有人船仕様」を睨んで作りこんでおいた経緯があるそうだ。よって、HTVを公共事業依存型で高コスト開発をするならば、過去筆者が指摘した通りに試作で中止すべきだが、もし地球温暖化ビジネスに関するバイオ企業育成や宇宙衛星工場から放出するコンセプトなど利用企業を主体的に巻き込んで検討し、真面目なコンセプトが出せるのであれば、HTVに小動物を搭載してランチャー国際競争入札で打上実験して機能確認する価値はあるかもしれない。もしくは、JAXAと文部科学省が莫大な予算をかけたが、重力発生装置の開発が頓挫した上にシャトル打上回数の制限で中止が決まり、予算無駄遣いを指摘されないよう、闇に葬られたセントリフュージを有効活用する方法もある。無論、H-2Aより高コストのH-2Bで打上げる必要はないが、、、。

 だが、やり過ぎも禁物である。HTVをミニ・ステーションとして半無人工場化するのは良いとして、これを「回収する行為」は、NASA-COTS(2.5t輸送量)のように低コストの小型人貨分離輸送機動向(さらに小型化も計画中)から見れば、“コスト高”な上に“大型過ぎ”で“経済性が悪過ぎる”ため、明らかな愚策であることは言うまでもない。



HTVは宇宙工場として可能性あり、そのままの回収化は愚策(JAXA)

   
欧露共同開発の再使用有人船(ロシア宇宙庁)     非再使用HTV有人船案/コンセプトアウト(JAMSS)


宇宙へ行くフライトモデルが野晒しのセントリフュージ(JAXA)

 このような情勢下から見れば、宇宙飛行士の育成戦略も大幅な戦略変更が必要だ。今後の宇宙飛行士における労働は地球上で発生する様々な問題やニーズ(宇宙機放出、インフルエンザ等伝染病のワクチン開発、植物や藻利用の新型バイオ技術実験、特殊材料開発、培養工場、旅行滞在)で使われるミニ・ステーションの維持管理者として必要だが、ビゲローショックで代表されるように、小型衛星技術&小型ステーションの組合せコンセプトに成立性があり、メンテナンス以外は無人運用化される見込みが高く、必ずしも宇宙飛行士は増員する必要はないという見方もある。

 加えて言えば、有人宇宙システム中心で建設するよりも、無人宇宙システムベースで建設した方が経済効率的に優位であるのも事実である。しかも、民間宇宙活動を官が国家競争力向上のために支援するスキームを欧州や米国が描いているため、スタート当初は国家育成の宇宙飛行士が必要でも、時間が経てば民間が世界から格安で調達する所謂、エアラインによる外国人パイロット戦略でも良い。このような将来的な視点で、JAXAは国際市場でも対応できる宇宙飛行士育成・増員戦略を立てているならば良いが、「宇宙より効果的でない地上交際費に宇宙予算を使ったJAXA」では、恐らくそこまでの視点はないだろう。

◎JAXAは歴史的役割を終えつつある

 世界を見渡せば日本はまともなランチャー戦略がなく、宇宙空間利用インフラも高コストの“HTV”と“野晒しのセントリフュージ”しかなく、どんな言い訳を並べても「出遅れた日本(JAXA)」という構図となっている。このまま公共事業主体のH-2B、GX、次期固体を継続しても未来がない。そしてJAXAが次期基幹ロケットとして計画しているH-XロケットやLE-Xエンジンも、1段目エンジン開発競争で敗北した上に、NASA-COTSのTAURUS-IIとFALCON-9が事実上SOYUZ・PROGRESSへ対抗するコンセプト(人貨分離)で市場戦略を放っている中、H-Xは

・ 静止衛星打上マーケットでも競争力なし(エンジン性能とコスト両面で問題)

・ 人貨分離ランチャーとしても大型過ぎで競争力なし(市場はSOYUZ、TAURUS-II、FALCON-9か?)

・ 国際モジュール同盟へ参加しても性能不足で足切りされる可能性が高い(優秀なモジュールとも言い難い)

という状況だ。日本は相変わらず国際宇宙空間利用競争へ対抗できるコンセプトではなく、研究開発ランチャーを作りたいという、文部科学省お得意路線であり、「作っても未来展望なし」という過去の過ちをまた繰り返す、贅沢な国費浪費宇宙計画となっている。これはJAXAそのものが国際的に通用する組織体制になっていないと評価できないだろうか?しかも宇宙基本法成立後に宇宙戦略本部や国会議員へ説明して回っているJAXA情報を分析しても、改心するつもりはないようで、世界が羨む宇宙予算を有していても、戦略的・効率的な宇宙活動を展開することができないJAXAは、日本の将来を考えれば存在する必要があるのか?と疑問を抱くのは筆者だけではないはずだ。国際情勢から見ても、国側が公開・非公開で戦略・コンセプトを立案し、民間が主体となって開発している国際情勢下、まともな人数をかけている割に戦略・コンセプトを立てられないJAXAは、明らかに歴史的役割を終え、規模縮小すべきではないだろうか?

 だが民間側にも問題がある。JAXA戦略の多くに「提案・企画立案・計画まで実施する民集団」が4つ程度存在するという噂が絶えない。これら民集団がJAXAや国会議員を“説得”してプロジェクト化する流れで宇宙計画が作成されている可能性がある。これは民間が「こうしたい、ああしたい」という視点で見れば、民間企業育成上は良いように見えるが、問題は“その提案コンセプトが国際標準レベルで競争力があるのか?”で評価すべきであり、“集団利益を追求した宇宙計画”や“世襲・天下り・親族就職で見返り”しているならば目も当てられない。

 H-X、HTV、H-2B、GX、次期固体などの宇宙計画がISAS科学ミッションのように「世界より優れた目標」があってコストミニマムで実施されているならば問題ないが、筆者らが分析している限り、今のJAXA計画は企業集団による利益追求主体提案で実施されているのではないか?と深い疑念を抱かざるを得ない。真相は闇だが、まともな戦略が出て来ずに、既存計画に執着して国際標準から外れた計画を平然と続けるJAXAの姿勢がそれを裏付けているのではないか?

 もし、このような“望ましくない体制”をしているならば、至急改めなければならないだろう。そしてJAXAにいる若手も、そのような上司がいるならば、疑いの目をもって行動し、自ら正しいと思う道を訴えるべきだろう。さもなくば、近い未来にJAXAが消滅してしまう可能性を憂慮すべきかもしれない。

◎新世紀宇宙空間利用システム戦略の立案へ(国際将来宇宙利用システム標準機競争)

 時代も変われば、戦略も変えなければならない。かつて「大軍が地理的不利で身動き取れず、少数奇襲部隊で大将を討ち取られた桶狭間の戦い」、「鉄砲という近代兵器の戦術性を低く見積もり、騎馬軍団で突撃し、敗北した長篠の合戦」という、新たな戦略・戦術・技術の登場で価値が変化する情勢を敏感に感じ取り、コンセプト・チェンジする柔軟性が必要な時代に、JAXAは今川義元軍や武田軍を続けていく訳には行かないだろう。
 国際ミニ・ステーション(宇宙工場)や人貨分離輸送機の動向及びその需要を見れば、皆が作ってもマーケットが合わないのは明白であり、今後は住み分けを行うことで日本としての生き方・生き残り策を考えなければならない。そうした中で新世紀の宇宙空間利用システム戦略を展開すべきだ。そうしなけば、国際的に足切りされてしまう。まず、現実を整理すれば将来の宇宙工場市場へ参入できるランチャーは

・ EU・・・LYRA、SOYUZ-2,3、ARIANE-X

・ 米国・・・DELTA-IV、ATLAS-V、FALCON-9,5、TAURUS-II

・ ウクライナ・・・ドニエプル(独)、ZENIT-3(米)、スペースクリッパー

・ ロシア・・・PROTON、Angara、SOYUZ-2,3

という構図であり、今後はモジュール・ユニットの絞込みが行われてくるだろう。この絞込みにより宇宙輸送技術の統合化が進み、高い可能性で

・ 国際商業市場対応によるインド・日本・中国の足切り

・ 基幹基礎技術の強化(国際基準エンジン・射場・製造基盤)

・ コスト競争(ビゲローショックの影響による宇宙空間利用の広がり)

という体制が時間をかけながら進み、低コスト・商業化・短納期型の宇宙インフラが登場してくるだろう。この時代へ向けて“集中と選択”によるマルチモジュール対応の国際商業宇宙利用標準機の確保を日本は行わなければならず、“ヨーロッパ・アメリカ・ロシアが目指す商業機”の時代に公共機しか放てない日本は問題がある。よって1段目エンジン競争で敗北(LE-7、LE-Xではどうしようもない)した事実を鑑みながら、

・ 旧NASDA型(JAXA宇宙輸送ミッション本部)の“ランチャーシステムの放棄”と“開発体制の解体”(5年スパンで実施)

・ モジュール・ランチャー時代を鑑みて、大型ランチャーの1段目は国産にこだわらずに国際共同へ行くか、大型ランチャーそのものを放棄するかの決断

・ ミニ宇宙ステーション輸送時代へ備え、国産固体ロケットのモジュール化と国際提携戦略(モジュール型LOWコスト宇宙利用インフラ開発)

・ 国内にある製造基盤・液体&固体宇宙モジュールの有効活用方法の策定

・ RNSLV利用や液体エンジン技術再生など、基幹基礎技術の強化(ノーモア文鎮ロケット)

・ 将来技術対応・・・フライバック・TSTO・往還機・カプセル

によって宇宙インフラ利用システムの戦略策定を実施して国際的に踏み止まるコンセプトを実施する必要があるだろう。モジュール型ランチャーを目指す国際動向から見れば、H-2B、H-X、次期固体、GXなどは“裸の王様”であり“バベルの塔“という認識が必要だ。このまま開発して打上成功し、技術者が涙を流して喜んでも、骨折り損に過ぎず(国際市場敗北)、世界は誰も賞賛しないという認識が必要だ。日本が意味のある宇宙活動を行うための戦略策定と、技術者の苦労が報われる真の研究開発体制が必要なのである。


夢はいいが、利用者とニーズを集めて戦略練るのが先(JAXA)

◎まとめ

 グルジア情勢というロシアと欧米間による外交的問題で、スペースシャトル延命がほぼ決まりつつある。このため、2010年以降の5年間位は年2回程度のシャトル打上が実施される見込みだ。そして不足するISS貨物輸送はNASAが民間(NASA-COTS)、欧州ATV、日本HTVから国際競争入札で採用する方針が検討されている。日本のHTVはコスト上の理由で敗北が見込まれる。

 シャトル以降の人員輸送機ARES-1は多くのコンセプトから選択されていたことが分かった。また、鬼門であった固体ロケット特有の振動抑制装置が開発成功したとのことで、ORIONカプセル開発の成功次第で実用化の目処がたつだろう。さらにARES-1は衛星ランチャー化やアッパーステージ搭載など派生型が発表された。また、シャトル以降の有人宇宙システムは、人貨兼用ではなく人貨分離が主流であり、NASA-COTS計画による第3回入札情報では、ランチャー開発ではなく、輸送システム開発が実施される可能性が高い。

 民間開発の宇宙ホテル“ビゲロー”試験機にて、NASAがGENBOXという小型マイクロ衛星によるバイオ実験工場コンセプトを実施した。この事実で、ISSの価値が大幅に見直す必要に迫られ、ミニ宇宙ステーションで宇宙実験が出来るコンセプトへ向けて、欧米ではバイオ宇宙工場計画などが検討され、巨大システムから小型宇宙利用システムへシフトしている動向が見られる。NASA-COTSランチャーは、そうした市場を見込んでも開発され、さらなる小型化案も設計したそうだ。

 一方、JAXAは打上手段へ執着しているが1段目液体エンジン開発競争で完敗、将来要素もないランチャー開発計画(H-2B、GX、次期固体、H-X)を連発した上で、宇宙インフラも高額なHTVと野晒しのセントリフュージしかない。今後は「宇宙機放出、伝染病の特効薬開発(ワクチン)、新型バイオ技術実験(植物・藻利用)、特殊材料開発、培養工場、旅行滞在」という民間ニーズを見込んで官が支援するスキームを欧米が水面下で実施しつつある情報を収集・分析しながら、住み分けを行うことで日本としての生き方・生き残り策を模索すべきである。そしてJAXAは歴史的役割を終えつつあり、意味のある技術開発でメーカーを育成し、国際的に踏み止まれる戦略を立案する必要があるだろう。

 官需依存型・軍用専用ランチャー・巨大宇宙システムを否定する動きが始まった。キューブサットショックによる大型衛星優位主義の崩壊、ビゲローショックによるISS価値の低下により、巨大な国費を浪費してしまった日本は発想転換と戦略変更が必要である。さもなくば、インドや中国と同じく足切りされた挙句に小型衛星でも韓国に抜かれるだろう。「予算だけ宇宙先進国の日本」と言われないような国際戦略を立てるべく、ガバメントからプライベートへシフトできる戦略策定が求められる。


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