国際標準ランチャー競争
   (エアワールド2008年10月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年10月号」をお買い求めください

 本稿では、大型ロケットの技術トレンドも含め、ここ25年で何が起きているのかを整理しつつ、国際標準ランチャー競争と題してJAXAランチャー計画の本質的な問題点に迫りたい。

◎新世紀宇宙ランチャー戦略の策定(モジュール・ランチャー)

 「ロケットは国威発揚・国家科学技術力の象徴なのでコストは高くても良い」とする考えは、もはや過去のものとなりつつある。ロケット開発先進国であるアメリカ・ヨーロッパ連合・ロシア・ウクライナ・インドなどは、官需で育ちながらも商業化を前提としたランチャーを開発している。具体的には国ごとに異なるが、基本的にモジュール・ユニット化させて共通化させた上で、ロケットの種類が多い場合は整理統合というのが基本路線だ。それがアメリカのEELV(デルタ4、アトラス5)であり、アリアンVの上段バリエーション計画、ロシア主力の中小型ランチャー「コスモス・ドニエプル・ユーロコット」や大型ロケットゼニットシリーズなどの登場へと繋がっている。

 これらロケットの整理統合と新規開発は1つのベクトルを持っていると言っても良いかもしれない。それは「来たる商業ランチャー競争で勝てるコンセプトを出す」ことが目的であろう。長期的視点で見れば、かつての自動車産業のように国家予算依存時代から一人立ちさせる必要がある。いや、むしろ宇宙先進国では莫大な国費を投じて育ててきた宇宙産業を、産業化させて民間として一人立ちさせるよう長期的な戦略で政策を講じるのは必然とも言えるだろう。そう受け取れる動向が、高コストなロケットの中止、競争力のないエンジンの退役、量産・納期体制の見直しなどだ。各国では闇雲な開発ではなく、将来の再使用ロケットを含む時代に備えて、「伸ばせる技術」、「やっても将来性の乏しい技術」、「新規に目指す技術」を整理して中止もしくは開発している。

 しかし日本では、H-2A、H-2B、GX、次期固体ロケットをこのまま維持・開発しても国際競争力が弱いのは、宇宙業界関係者が多くが理解しているはずだ。それを理解しながら続行し、エンジン開発が上手く進んでいない(LE-7B、LNG等)問題や、燃焼振動対策の問題、駄作J-1の繰り返し(次期固体)と、過去の失敗を十分検証せずに問題を先送りし、その場限りの計画で取り繕い、愚かな過ちを繰り返すというのが文部科学省とJAXAの基本路線だ。アメリカではNASAではない組織・企業がロケット開発するのが主流となる中、NASAを追随するJAXA戦略ではない、あらたなロケット戦略体制が必要だろう。では、国際的なランチャー実用化動向をまず整理してみよう。

◎DELTA4、ATLAS5(EELV計画)ではエンジンを整理、モジュール型ランチャーへ


 宇宙大国アメリカでは、ロケットの淘汰・再編が行われた。それが、DELTA-IVやATLAS-Vを生み出したEELV(Evolved Expendable Launch Vehicle:発展型使い捨てロケット)計画である。EELV計画では、当時主力ロケットであったDELTA-II、DELTA-III、TITAN-II、TITAN IV-B、ATLAS-IIA、ATLAS-IIIという多品種(10種類)のロケットを統合し、DELTA-IIはそのままに、DELTA-IV、ATLAS-Vへ統合している。その整理統合はドラスティックであったと言えるだろう。まず、液体エンジンを徹底的に整理統合したことだ。その図を見てみよう。


米国EELV計画では旧型ロケットを整理・統合し、モジュール型へと進んだ
(出典:Space Launch Vehicles Broad Area Review Report、筆者追記)

 まず、1段目エンジンはDELTA-IIをのぞいて、RS-68とRD-180エンジンへと整理統合されているのが分かる。RS-56、LR-87エンジンは、出力不足・将来性・コストの点から判断され、中止したのだろう。このRD-180とRS-68エンジンは高出力エンジンであり、補助ブースターなしでもリフトオフできる体制にしている。これらエンジンで「1段目をモジュール構成」して、従来のロケットよりも部品点数減少とコストダウンを図っている。

 そして2段目エンジンの整理統合はもっとドラスティックだ。エンジンはRL-10とAJ-10シリーズへすべて整理統合されている。いや、DELTA-IIを除けば、液体エンジンはRL-10シリーズへ一本化したとも見て取れる。これら方針で1段目液体エンジンを5種類から3種類へ、上段液体エンジンを9種類以上から3種類へと絞り込んだ。

 さらに液体エンジンの出力が増したことで固体ブースターの種類も劇的に減少した。DELTA-IVやATLAS-Vを見れば分かるように、補助ブースターは必要最小限に抑えられている。今後は完全消滅しないものの、液体ロケットにおける固体補助ブースターは液体エンジンの性能向上により需要が減ると考えられる。逆説的言えば、固体ブースターは消え、固体ランチャーは生き残るということである。また、日本は液体エンジンの性能が悪いため、固体ブースターが延命しているとも評価できる。

◎タイタンロケットは引退。その理由は?

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TITAN IV-B/IUS  TITAN IV-B/Centaur(出典:aol.de)

◎DELTA-IVへと繋ぐDELTA-IIIは要素技術実験の目的もあった

 DEITAロケット系は、1段目エンジンRS-27Aは出力が小さいと判断、補助ブースターなしでもリフトオフできるRS-68エンジンが並行開発された。RS-68エンジン(3314kN)はRS-27A(1085kN)と違い推力が3倍もある。そしてモジュール型ロケット時代に備え、DELTA-IIIでは実験を兼ねてRL-10B-2エンジンを利用した上段アッパーステージを開発した。この成果はDELTA-IVで採用、アッパーステージのタンク直径を2種類用意(4m、5m)し、モジュール化された1段目に加えて、上段もモジュール構成にしたロケットとなっている。結果論から見ると、DELTA-IIIはDELTA-IVへ行くための実験ロケットだったと評価できる。また、DELTA-IVでは、ロケットが大型化したにも関わらず、モジュール体制を構築することでDELTA-IIより部品点数を減らした。そしてRS-68エンジンも従来エンジンよりも「試験・失敗・調整のサイクルを従来の10分の1」、「原価償却ユニットコストを10分の1」、「開発期間も33%〜50%短縮」、「試験回数は3〜5倍減少」、「エンジンレベルの爆発事故は皆無」という低コスト・短納期・高信頼性で開発したのである。結果、エンジン単価は6〜8億円(償却費を含む)と言われており、日本(LE-7)は80〜100億円(償却費を含む)のため、RS-68は競争力があると言える。


DELTA-IIIではEELVの要素技術試験(Boeing)      DELTA-IV上段バリエーション(Boeing)


高出力RS-68開発費(Boeing)       RS-68は低コスト・短納期・高信頼性を達成(P&W)



 また、このDELTA-III開発には三菱重工が燃料タンクを供給していた。当該計画には深く関与していたのである。DELTA-IIIの主目的とDELTA-IV開発動向を、三菱重工のエンジニアがどの位理解していたのか分からないが、DELTA-III開発戦略と後継戦略をしっかり理解していれば、H-2Bのような戦略不足コンセプトが出てこなかったと考えられる。

◎アトラスVはロシア製RD-180エンジンとセントール技術採用へ

 アメリカの3大主力ロケットであるDELTA系(液体酸素/液体水素)、TITAN系(下段がエアロジン50/四酸化二窒素、上段が一部で液体酸素/液体水素)のうち、TITAN系の下段は消滅したが、ATLAS系(下段が液体酸素/ケロシン、上段が液体酸素/液体水素)も抜本的改修がなされている。それは、1段目エンジンの大変革だ。

 これは1991年12月のソ連邦崩壊にはじまる。アメリカはソ連の偉大なる宇宙技術者コリョリョフ氏の技術遺産で作られ、最高傑作の1つとされるRD-180エンジンを輸入した。燃料系統は“液体酸素/ケロシン”と、ATLASロケット1段目と同じなのだ。しかも、旧NASDAのN-1、N-2のように輸入するだけではなく、製造設備・パテント・設計書類・技術者含めて全てを引き取ったのである。両エンジンを比較すると

・ RS-56エンジン(ATLAS-II)は推力1906kN、比推力263秒、重量約1600kg

・ RD-180エンジン(ATLAS-III)は推力3829kN、比推力311秒、重量約5500kg


であり、RD-180性能の高さは明らかであった。これら背景からRS-56は廃止してATLAS-IIIではRD-180へと変更された。

 次の大改修はアッパーステージである。ATLAS-IIIでは、TITAN IV-Bで使われていたCentaur(セントール)技術を上段アッパーステージで採用した。これをまず、ATLAS-IIIAで実証している。それは2段目直径を4.32m(Centaur)から3.05m(ATLAS-IIIA)へと絞り、全長を8.98m(Centaur)から10.46m(ATLAS-IIIA)へと延長した。このアッパーステージは正常に作動し、「ATLAS-IIIA」は日本のMBSAT-1を含む2回の商用打上に全て成功している。

 その後アッパーステージのタンク全長を約1.2m延長し、推進重量を3742kg増加させた「ATLAS-IIIB」を開発、1段目エンジンはそのままに、2段目燃料増加で打上能力向上を図り、4回の打上に全て成功、来るATLAS-Vのモジュール型アッパーステージ技術を積み上げたのである。そしてATLAS-Vの400型ではこれら2段目アッパーステージ(直径3.05m)で全長を変化させる設計で打上可能レンジ幅を確保する方針で採用されている。つまり、可能な限り改造を少なくし、打上げレンジ幅を確保するモジュール型を実現している。

 よって、ATLAS-IIIではロシアの最高性能エンジン技術導入(RD-180)と、TITAN IV-BのCentaurを上手く吸収し、ATLAS-Vでは1段目直径を3.81m(ATLAS-IIIBのそれは3.05m)と延伸し、射場・製造設備の減少、打上期間短縮を実施し、着実に積み上げるモジュール型ランチャーを実現したのである。

 そして、その将来技術を研究したATLAS-IIIBの1段目製造過多モジュールは、GXロケットとして日本へ売却されている。つまり、日本は成功した“遺物”を購入し、アメリカは日本の資金を上手く活用してATLAS-Vへと繋がる技術を脈々と積み上げたのである。

 さらにRD-180エンジンはもともとロシア版スペースシャトル「BURAN」のRD-170エンジンを流用していることから、再使用エンジンとしての素質がある。RD-180を将来の再使用ロケット時代を見据えて、RFS(Reusable First Stage:再使用第一ステージ)として飛行回収実験で素地を掴み、次にHLV(ハイブリッドランチャー)として上段使い捨てロケットを空中発射し、次にTSTO(2段式再使用宇宙輸送機)というロードマップを考案している。日本も折角RD-180を購入しているのならば、GXロケットをただ単に中止するのではなく、LE-7A(H-2A、1段目、推力1098kN、比推力440秒)より高性能を秘めたRD-180(推力4152kN、比推力338秒)を使って、賢い戦略を考えてはどうか?

   
ATLAS-IIIA(2段目長12.03m) ATLAS-IIIB(2段目長13.25m)(出典:aol.de)


RD-180エンジンの特徴とその将来(AIAA)

◎大型ランチャーを淘汰し、ユニバーサルランチャー開発(ARES-1でNASAの焦り)

 以上、DELTA-IVとATLAS-Vへ行く段階で、多くのロケットとエンジンが廃止・退役した。日本はその遺物を購入して「H-2A、H-2Bのソフト」、「GXの1段目」として利用していたわけであるが、一方でアメリカは“日本への売却費”や“JAXAからの特許収入”及び、浮いた国家予算で30億円以下を目指したユニバーサルランチャーの開発をしている。それが過去の誌面で示した

・ 固体モジュール型ランチャーMinotaur-IV、Minotaur-V

・ 衛星とのセットランチャーを目指したMinotaur-I(バス・調達コスト削減)

・ 上記に加えて小型衛星対応ランチャーのATHENA-III、FALCON-1、空中発射ロケット(高速航空機利用のランチャー、Quickreach、RAPTOR-2)など

・ 一部は30億円を超えるが、コスト競争力あるTAURUS-II、FALCON-9、FALCON-5


という、ICBMモーター(CASTOR-120、SR-19など)を流用したモジュール型ランチャーや、低コスト・即応型の液体エンジンランチャー、航空機によるアシストランチャー(空中発射ロケット)を実施しているのである。

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   TAURUS-II(Orbital)      ARES-1(NASA)     ATLAS-V401有人輸送案(LM)

 これら大型ランチャーの整理・淘汰の波の中で、最も焦っているのはNASA自身だ。それはNASA人員輸送機(CEV)のARES-1だ。ARES-1はスペースシャトルよりも打上価格が高いと専らの噂だ。最新の米国ランチャー開発は、過去の資産を有効活用しているものの、コストと性能が合わないものは使わない方針である。

 よってARES-1がスペースシャトルの補助ブースター流用と、上段液体エンジンJ-2もサターンV遺産活用で作り直し版であるとしても、コストが異常なことで、もはや実施意義さえ疑問符が投げかけられつつある。それに追い討ちをかけるように、アメリカ民間人がプライベート宇宙船としてSOYUZロケットとカプセルを約100億円で購入するニュースが流れた。ARES-1がこれらコストで達成できるのか微妙な情勢だ。また、DELTA-IVやATLAS-Vも有人船搭載の検討やクリッパー共同開発の検討も進められており、ARES-1開発がコスト的・技術的に失敗した場合における次善策が水面下で検討されている。

 以上、アメリカのロケットは既存モノが整理・淘汰され、新たなランチャーは中小型から積み上げるユニバーサルランチャーを開発、それぞれランチャーにはテーマが与えられており、固体技術の可能性模索・モジュール化・セットミッション化・最適化・低コスト化・空中発射化など、将来の競争力向上へ向けて着実に実施されているのだ。

◎ロシア・ウクライナでもランチャーの整理統合が行われた

 アメリカが旧ロケットを整理・統合し、新しい世代へランチャーを開発する一方、ロシアでも旧型ランチャーの整理統合が行われている。それらを表にまとめた。

 ソ連邦崩壊以降、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が拡散しないよう、ピーストランスファーランチャー(Dnepr、Rockot、VOLNAなど)が登場する一方、既存ランチャーも欧米各国が技術提携を進めた結果

・ フランス:SOYUZ(販売だけでなく、クールー射場新設)

・ ドイツ:ROCKOT、Dnepr

・ イギリス:COSMOS-3M

・ 米国:RD-180エンジン、NK-33エンジン、PROTON、ZENIT-3SL(シーランチ)

・ イスラエル:START-1(技術交流をしている)


という関係が90年代前半からはじまり、鉄のカーテンで隠れた旧ソ連宇宙技術が一気に見えるようになり、高レベルを誇る技術の争奪戦を繰り広げていたのである。アメリカではこれらソ連宇宙技術を学んで、球形タンクの設計変更、優れた冶金技術の習得、新型エンジン開発へと役立てたそうだ。しかし日本は、国家としての宇宙戦略が殆どなく、80年代の決定事項の惰性で旧NASDAが活動していたため、国産技術以外は見られない体質(国産万歳主義)も重なって、学ぶチャンスを逃す結果となった。

 また、ロケットも「段階向上するモノ」「ロケットとして消滅したが、ユニット供給源として残ったモノ」「ロケット同士でモジュール交換するモノ」などがある。

 “段階向上するモノ”と言えば、SOYUZだろう。SOYUZは打上能力向上のため、そしてクリッパー搭載計画も考え、エンジンの段階的改良を始めている。それは、上段エンジンRD-0110の比推力向上をしたRD-0124エンジンをSOYUZ-2Kにて実験、成功させた。今後は1段目エンジンRD-108AエンジンからNK-33エンジン(推力が800kNから1900kNへ上昇)へ換装、サイド・ブースターもRD-107AからRD-120へ換装する計画があるそうだ。これはISS後のプライベート・スペースによるミニ・ステーション需要及び、コスト最適の有人宇宙活動を見込んだ、SOYUZ-3とクリッパーによる有人往還機を想定している。この動向にロシア以外の宇宙開発国が興味を示している。いずれ、ARES-1と一騎打ちになるかもしれない。

 次に“ロケットとして消滅したが、ユニット供給源として残ったモノ”は、EnergiaやCYCLONEだろう。Energiaは再使用ロケットとして開発されたものの、コストが合わずに中止。これら技術はRD-180へと引き継がれているが、ロケットとしては消滅した。CYCLONEは上段が空中発射ロケットSPACE Cliperのステージとして採用されている。

 最後に“ロケット同士でモジュール交換するモノ”だ。これは、COSMOSとROCKOTだろう。COSMOSの将来計画はROCKOTのアッパーステージをモジュールごと採用し、搭載する方向(COSMOS-4)で計画されている。互いのモジュールをやり取りする戦略だ。これら動向は、空中発射ロケットには顕著に見られる。それはPOLYOTやSvitiazだ。POLYOTはTAURUS-2やSOYUZ-3で採用されたNK-33エンジン、SOYUZ-2Kで実験したRD-0124を採用している。既存モジュールを使うことで信頼性の確保・量産・低コスト化・開発コストダウンを目指している。またSvitiazに至っては、ZENITロケットをそのまま空中発射化する計画なのだ。

◎モジュール交換以外に再使用化、射場共通化も

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ロシア主要液体エンジン企業と採用ロケットリスト(NFM Special Issue、筆者追記)

  
Angara再使用化のBaikal(aol.de)         COSMOS、ROCKOT発射整備塔の共通化(RSW)

◎ARIANE-Vは、日本とは全く逆の戦略で性能向上

 ヨーロッパではフランスが中心となって開発したAriane-Vがあり、商業化にも成功している。2008年7月までにAriane-Vの全バージョン合わせて40回の打上が行われた。Ariane-Vは1段目エンジンVulcainに加えて左右に補助ブースターを搭載、上段は約30kNのAetusエンジンという構成をしている。

 このAriane-Vは、日本のLE-7登場に刺激されてValcaine-2エンジン開発へ着手、推力は1355kN(250kNアップ)と向上し、固体補助ブースターも推力9064kN(106kNアップ)と向上させた1段目を開発、既存システムを“大幅な設計変更なし”に製造し、発射台もほぼ改造なしで作り上げた。この1段目をベースに、アッパーステージを“EPS+”、“ESC-A”、“ESC-B”と3種類用意(2種類は実用化)させ、これをモジュール交換することで、国際宇宙ステーション(ISS)物資輸送機ATV、静止衛星2基同時打上、大型静止衛星打上、探査機打上という様々なニーズに対応させている。

 これはアメリカのDELTA-IVやATLAS-Vのようにアッパーステージ性能向上で打上レンジ幅を確保する思想で行われていると分析でき、H-2AやH-2Bのように2段目を共通化したり、射場改造するのではなく、1段目を共通化もしくはミニマム改造をした上で、上段バリエーションを揃える戦略で、打上レンジ幅確保、部品共通化・ミニマム改造(モジュール化)・高信頼性を達成する戦略で行われているのだ。

 さらにCNESでは将来の再使用ロケット時代を見据えて、性能向上や低コスト化を目指した液体エンジン開発戦略を発表している。それによれば、従来の液体酸素/液体水素エンジンだけでなく、液体酸素/炭化水素エンジン、液体酸素/メタンエンジンなどへも着手、自国だけでは技術不足のため、ロシアと共同でエンジンやフライバックブースターの研究を行っている。これら地道に築き挙げた基礎技術が、いずれHLVやTSTOへと繋がっていくのだろう。報道によれば、エンジン開発が順調ではないとのことだが、例えエンジン開発が上手く行かなくとも、コンセプトがしっかりしているため、ロシアからモジュールを輸入する戦略も考えられ、着実に積み上げるフランスの戦略は興味深い。


Ariane-Vのバージョン(出典:CNES、筆者追記)


(画像出典:CNES)


CNES液体エンジン開発20年戦略(再使用を含む)(CNES)

◎モジュール型ランチャーを目指す欧州

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CNESモジュール・ロケット開発(CNES)

◎米国・ロシア・欧州のトレンドをまとめると

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◎ロケット開発に必要な条件及び戦略は?

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ロケット打上プレセスの圧縮/低コスト化(AIAA-RS2-2004-8003)

ロケット1段目エンジン性能比較表(出典:aol.de)

 日本が開発中のH-2BエンジンLE-7Bは、見かけ上の推力が出ているが、国際比較では性能の低いエンジンをクラスター化しているのに過ぎない。また、表には示していないがLE-7Aの推力重量比は他国と比較して悪い。そして「1ノズルあたりの推力」で評価すればLE-7Bは性能が低く、海外と同等性能(打上能力)を出すならば、固体補助ブースターを使わねばならず、その結果コスト上昇を招く。また、小型へ使おうにも単価が高過ぎて使っても国際競争で勝てない。つまり、JAXAエンジン開発能力が国際水準から脱落しているため、H-2BのLE-7Bエンジンを作ったとしても、「コスト最適・性能向上・モジュール化」を目指す米国・フランス・ロシアのロケット先進国へ追いつくどころか、後退・停滞するだけなのだ。にもかかわらず、文部科学省では「H-2Bは世界最高水準のロケットであり開発は妥当」と発表している。明らかに国際情勢を分析していないのだ。よって、液体エンジンが国際水準を満たせないならば、開発中止するか輸入するかの決断も必要になるだろう。

 以上、今後は“国際商品ランチャー”を作り世界へ通用したコンセプト(低コスト化・短納期・性能最適)を示し、需要を海外へも求めなければならない。そうしなければ、国際市場で通用しないため、国産技術維持の論理が成り立たない上に、維持管理がすべて国民負担(税金)となる。今のJAXAは国際市場で受け入れられないロケットを技術者自己満足や国威発揚主義で維持し、外交ルートを通じて無理やり売りつける(H-2Aを国際価格で販売すれば赤字。その損失分は国民負担となっている)体制であり、自滅路線へと走っている。これでは、過去の積み上げた技術遺産が不良債権となっていずれ消滅という、不幸の極みとなってしまう。

◎国際比較によるJAXAロケット開発の問題点

米国・ロシア・フランスの進めるランチャー戦略項目は

・ モジュール設計思想による製造コスト低減・最適な使い回し・工芸品製造の是正

・ DELTA-IV、ATLAS-V、Angara、VEGA(LYRA)のように比較的コストのかかる1段目を共通化

・ Arina-V、DELTA-IV、ATLAS-V、ANGARA等のように上段ステージのバリエーションや更新(拡張性)

・ 製造&開発コストをミニマムに抑制しながら、上段バリエーションによる打上レンジ幅を確保(コスト・性能レンジのバランス)及び混載装置の標準化

・ 素材調達や工法の見直し及びシステム設計の更新によるロケット自身の製造短縮化

・ 即応化(輸送・組立・打上工程)によるコスト低減

・ 固体補助ブースターなしでもリフトオフできる、1段目液体エンジンの開発

・ 再使用化へ向けて、モジュール化・エンジン開発・飛行回収技術へ向けて、コストをミニマムに技術を積み上げるロードマップ戦略

を実施している。これら各国の戦略に対し、JAXA宇宙輸送ミッション本部(旧JAXA宇宙基幹システム本部)が実施しているロケットの国際比較表を比較すると以下になる。

JAXA宇宙輸送ミッション本部戦略の国際比較

 米露仏と比較すると、モジュール設計思想、1段目共通化、上段ステージのバリエーション戦略が弱過ぎる。そして1段目エンジン性能(LE-7シリーズ)も低く、燃焼振動問題・熱処理(冶金技術も含む)・ソフトウェアにおけるノウハウ・技術力そのものが不足している。そしてシステム設計が80年代のままのため、即応化(輸送・組立・打上作業の短縮化)について行けていない。そして将来ロードマップ戦略も弱い。「現状の技術を把握してタイムスパンを見ながらコストミニマムに開発する方法論を模索する戦略」を日本は描けていないのである。JAXAの空気吸入式TSTO計画やRVT計画(再使用観測ロケット)がそれを示しているが、自身の弱点を見抜けずに研究者・技術者による趣味的・自己満足的な開発体制の問題が露見している格好だ。このJAXA計画が実施する“差別化”が他国より優位になるならば良いが、そうとも思えない。

 このような宇宙システムを開発・維持すればどうなるか?それは「(まともなロケットや衛星がなく)日本としての対外信用力が低下」する上に「高額な維持費が100%国民負担」となる。この主原因は、JAXA職員が技術官僚的な考えで、民間宇宙システム拡大の事実を見ずに官需依存型の宇宙産業維持に奔走する一方、“ランチャーや衛星のコンセプト戦略”や“学会論文の作成”までメーカーへ丸投げしている事実だ。このような事態を繰り返せば、過去のTR-1やJ-1及びH-2Bのように同じ過ちを繰り返すことになる。現在露呈している問題は

・ 基幹技術の陳腐化(技術不足)・・マニュアル文化とJAXA基幹文化

・ 旧NASDAコンセプト(J-1・TR-1の固体技術取得)・・・国産M-Vコンセプト壊滅

・ NAL・JAXA技術開発力露呈(GXのLNG開発失敗)・・・GXの壊滅

・ お抱えランチャー・ご用達(H-2A・H-2B)の無限開発・・JAXA雇用対策


となり、丸投体質と能力低下の事実を隠蔽すべく、広報活動で国民を騙す事態へとなっている。国家財政が苦しい中でのJAXAランチャー戦略の継続は国際社会における日本の地位と信用を低下させるだけでなく、国費浪費した上で宇宙活動が消滅という事態になりかねない。このため、過大出費となっている「シャトル引退による高額HTV開発」、「宇宙ステーションの利用問題と費用負担」、「国際基準不適合ロケット(お抱えランチャー)」を抜本的改革により中止するか是正し、費用対効果の高い「新コンセプトランチャー・固体ロケット技術再生・小型衛星」へのコンセプト転換を図る必要がある。

◎国際同盟技術時代へ対応した戦略を

 固体に限らず液体モジュールロケットは世界中で進んでいる。やっていないのは日本だけであり、H-2Bは異端であるとも言える。インドはGSLVロケットにSOYUZカプセルを搭載する計画案を発表する一方、液体エンジン輸入をすべくNK-33やRD-180など高性能エンジン確保に動いている。中国も同様にロシア液体エンジン導入をすべく交渉しているそうだ。FUTRON社の分析レポートによれば、日本の総合的宇宙戦略は中国・インド・カナダ以下であると公表した。この消滅直前の日本が生き残るには、既存ランチャー戦略(大型万歳)を抜本的に見直す必要があるのは明白だ。

 まず、H-2Aは高額で100%国民負担型の赤字ランチャーだが、静止軌道へ打ち上げられる国内保有唯一のランチャーなので、他国より高コストであっても、当面は維持せざるを得ないだろう。だが、いずれ国際基準の液体ランチャーを保有する必要がある。しかしそれがH-2Aより高コストのH-2Bであるとは到底思えない。またLE-7Aシリーズは1段目エンジンとして能力不足であることが露呈した。中国ネット掲示板でもLE-7Bによるエンジン開発能力が低下したと指摘されている。またLE-X(次期基幹)、MB-XXエンジンも研究中だが、国際動向比較で評価をすれば能力・技術的問題を抱えている。次期基幹ロケットは上記国際動向である1段目の共通モジュール化、コスト優位性、エンジン性能という点で検証・評価する必要があるだろう。MB-XXは提携解消も含めた提案を海外メーカーが示し、見放されつつある。このまま開発しても国際商品になれるのかは経緯を見守る必要がある。

 次にH-2BとHTV開発の中止だ。ISS貨物物資輸送を日本が高コストでやる理由はない。HTVをデビューさせれば高額維持費が100%国民負担になる上に、利用価値が乏しく、国際市場でも敗北確定、効果的ではない出血(税金)となることは明白なため、地上試作で中止すべきだろう。HTVがなくともISSは維持管理が可能(代替手段は日本よりも低コストで開発中、もしくは実用化)である事実を認識すべきだ。

 GXロケットはRD-180エンジンの魅力を上記で述べた。LNG開発にJAXAが失敗したため、目先のGXランチャー開発を推進するのではなく、購入したATLAS-III筐体を使ったRFS(Reusable First Stage:再使用第一ステージ)実験をして、将来の再使用ロケット時代へむけたノウハウを同盟技術時代と国際提携含めて習得するのが効果的だろう。

 次期固体は、20〜30億円型ユニバーサルランチャー市場参入と利用を目指し、能力マージンを鑑みてSRB-Aのモータを外すべきだ。次期固体の上段モジュールは日本が国際商品を作る上で“宝の山”であることは事実であり、国際協力でモータ開発して

・ 国際標準ランチャーの実用化:M-Vコンセプト(周回・静止・探査)

・ プラチナランチャー(国際競争力):M-Vライト派生・国際提携・ベンチマーク

・ 国際商業ランチャー(国際商品):M-XX


を目指して固体モジュール型・短納期型・コスト最適・アッパーステージバリエーションを図った国際基準ランチャーを目指すべきだろう。液体ロケット開発コストより格安で開発できるので、費用対効果が高く、国民負担を減らせる可能性が非常に高い。

 また、固体ロケットの燃えカスが宇宙空間でデブリになる問題は存在する。よって宇宙空間に漂う最終段(第一宇宙速度で飛翔するモノ)は自己廃棄機能付きの液体ステージとなり、最終段バリエーションをそろえるのが主流となるだろう。事実、各国のユニバーサルランチャー動向は下段が固体、最終段液体が主流となっている。固体は固体、液体は液体とするJAXAは、当時は良かったかもしれないが、今では国際的に通用していないのは明白だ。

 以上、ただ単に旧NASDAロケットを優遇して無限開発するのではなく、同盟技術時代へ対応して国際商品となれる技術を抽出して市場参入させながら将来ランチャーを育成する戦略が有効的だ。これら視点・戦略はJAXA宇宙輸送ミッション本部の能力不足が露呈しているため内閣府宇宙開発戦略本部が主導して、過大出費宇宙プロジェクトの中止、液体エンジンの戦略的な展開や再生、デ・カルチャー(文化的特性を奪う)型のJAXA開発体制の解体を立案して欲しいものだ。

◎ まとめ

 モジュール型ランチャー時代を見据えて各国が戦略を描いている。アメリカはコスト・性能競争力のない液体ランチャーは淘汰してDELTA-IVやATLAS-Vを開発、そして様々な30億円クラスのユニバーサルランチャーを開発している。フランスはAriane-Vの上段更新に加えてモジュールランチャーや空中発射ロケットの検討を進めている上に、再使用ロケット時代へ向けてエンジン開発を進めている。ロシアは既存技術を整理整頓しながら、様々なモジュールランチャーを出し、将来の再使用ロケット時代を見据えた戦略を描いている。これらは総じて国際商品を作ることと、将来再使用輸送技術も鑑みて戦略を立てて着実に実施している。

  しかし日本はJAXA大型万歳&高コスト主義により、“国際技術同盟・コスト最適・打上能力レンジ幅の確保、モジュール型ランチャー”を一切やっていない。H-2Bは異端で国民負担を増やすランチャーであり、開発の価値は非常に低いと断言できる。GXの1段目は将来性があり、別の使い道を模索すべきだ。そして同盟技術・国際提携時代を鑑みて小型・高性能・低コストのユニット・モジュールランチャーを固体ベースで磨き挙げ、経済的な宇宙活動を日本が展開し、国際的に消滅寸前の現状を立て直すべきだろう。

  アメリカ航空宇宙誌アビエーション・ウィークでは「SPACE FIRST、NASA Second(宇宙は国益上重要、NASAは2番目)」とのコラムを発表した。「コスト競争力ある宇宙輸送システム」を作れないNASAは、開発を止めるべきとする論調だ。これをNASAではなくJAXA宇宙輸送ミッション本部と置き換えれば、日本でも当てはまるのではないか?もはやJAXAは「国際情勢を的確に分析して効果的な対抗策を出す能力が極端に乏しい組織」となっている。

  今後は国民を騙して過大出費計画を推進するのか、良いモノをつくるために発想転換(国際提携)するのか戦略を練り直さなければならない。コスト最適・高信頼性の国際商品を作れる体制になってからこそ、有人宇宙へチャレンジできる資格が得られるのではないか?JAXA開発力低下により、長期ビジョン含めてロケット戦略が遅れている中、これ以上の国民負担を増やさないために、官需以外の市場にも対応できる国際商品ランチャーを作り、将来再使用型の宇宙輸送時代を鑑みた経済的な技術育成戦略が今、求められている。


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