国際基準の宇宙開発(グローバル・スペース・スタンダードの確立)
  (エアワールド2006年11月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年11月号」をお買い求めください


 宇宙先進国の衛星開発は「大型こそ全て」という時代から「如何に小型で高機能な衛星・探査機を作れるか?」という時代にシフトしてきた。このために各国が自国の技術力を誇示するために宇宙開発をしている事情があるが、そうした世界情勢の中で世界第2位の宇宙予算を誇る日本の宇宙開発は、取り残されつつあるのが現状だ。本稿では、国内外動向をみながら国際的に通用する国産宇宙技術を育てるべく、次世代衛星宇宙システムについて考えてみたい。

◎スモールサテライト時代の到来

 最近、海外では小型衛星開発が活発だ。小型衛星開発には

・ 宇宙開発途上国が宇宙事業へ参入するために登竜門として開発する流れ

・ 宇宙先進国機関が技術実証・人材育成・機能化を追求するために開発する流れ

・ 個人・大学・企業などが人材育成・産業活性化(アピール)、技術力誇示等のために開発する流れ

と大きく3つの流れがあり、小型衛星の定義も、Small、Mini、Micro、Nano、Picoと大きく分けて5種類ある。大学などで積極的に開発が行われているキューブサットはNano衛星と定義でき、近年打上げられている海外宇宙機関の衛星はSmall、Miniに分類される。

 今後の小型衛星は、静止通信放送衛星の代替となることは短期的に無いが、周回型地球観測衛星・周回型通信衛星・科学衛星では主流になるだろう。その理由として「国家宇宙予算が増加する見込みが乏しい」事と「巨大宇宙システム技術の限界」が挙げられる。過去の宇宙先進国は、技術力を誇示するため、コスト度外視で大型衛星を製造しても許されていた。しかし民間参入が始まり、「費用対効果を追求する時代」に対応する必要性に迫られている。コスト高な宇宙システムを構築すれば世界から“笑いものにされてしまう”ためだからだ。また、巨大宇宙システムを構築するには、予算・時間・人材育成の観点から効率的ではないため、小型高機能衛星技術を追求する時代となっている。

◎次世代技術をスピーディーに具現化

 その例として具現化されているのが、TOPSAT及びTACSATなどだ。これら衛星は、小型でありながらも能力は一流を目指した設計思想であり、既存の宇宙技術に加えて、新たな技術アプローチを目指している。TACSATは、紛争や災害発生時に特定の地域を集中監視する目的で、衛星1基の製造・打上・運用・廃棄というミッションコストを$20mil以内(約22億円)とする目標を設定、実現のための手段として「短期間で衛星を製造する能力」を目指している。このため、ユニット&モジュール型でプラグ&プレイ機能を有し、費用対効果の高い衛星システムが出来上がり、衛星メーカーの技術的優位性が向上するため、「国際競争力ある衛星メーカーを育成している戦略」とも見える。つまり、TACSATは宇宙メーカーの競争力向上&育成戦略なのだ。

 また、イギリスのTOPSATも小型高機能の地球観測カメラを実現した。これは、既存の光学カメラでは重量も容積も大型化するため、熱膨張率の低い炭素繊維複合材にコーティングを施すことによって、非常に軽量な光学レンズを製作、通常口径28cmならば4300g程度かかる光学レンズを、たったの250gで実現し、高機能CCDを組合せて2.5m高解像度でエレクトロニクスを含む重量32kgの光学カメラシステムを実現した。これからの時代はスピードと費用対効果を意識した体制が必要なのは確実で、今後の衛星は在来型衛星技術を脱皮してMEMSやナノテクノロジー技術を結集した小型高機能化が進むだろう。

   
TOPSAT光学カメラ(QinetiQ社)              モジュール型衛星(AIAARS2-2004-3002)

◎次世代半導体の可能性

 このような次世代衛星技術を開発する理由は、在来型衛星システムに限界が生じたためだ。例えば、通信放送衛星は機能化が追求され、トランスポンダー(中継機)や信号を処理するシステムが複雑となり、処理能力と既存技術延長路線に限界が生じ始めている。また、トランスポンダーをはじめ、宇宙機器から発せられる熱の処理に頭を抱えており、受動型排熱技術から能動型排熱技術へ移行したものの、複雑でコストがかかる問題が発生している。

 このため、抜本的にコンセプトを変える必要性に迫られ、その解決方法の1つとして注目されているのが、炭素系ケイ素半導体材料(SiC)だ。これは小型・低消費電力・高効率のパワー素子・耐放射線性に優れた高機能材料として注目され、次世代のパワーデバイスや機能材料として有力視されている。また、宇宙で実績を重ねているシリコン系半導体よりも発生熱量を軽減できる。

 今後の国家宇宙機関には国際的に通じる日本の技術力を育てなければ、宇宙開発としてやる意義がなく、雇用対策・小手先の戦略・国際的に通じない独自基準のやり方では許されないだろう。戦略的に次世代宇宙技術戦略を立案・開発させるべきだと考えている。



炭化ケイ素半導体の可能性(出典:NEDO)

◎自動車・家電メーカーらが衛星を開発中

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◎NASAは宇宙探査のみへ組織改編

 また、高コストシステム運用体制を是正する動きがあるようだ。NASAは2006年に入ってから「アースサイエンス分野がNASAビジョンから削除」された。つまり、NASAは地球観測衛星分野から主導権を実質剥奪されたのだ。よってアメリカの地球観測はNOAA、FIMA、USGS、NGAなどの利用官庁が主導する体制となり、「地球観測分野は他がやるからNASAは宇宙探査(Deep Space)をやりなさい」という方針になりつつある。これは地球観測衛星開発にNASAが関与すると、中間マージンが高い割にメーカーへの丸投げ体質があるようで、スピーディーで効率的な宇宙開発・宇宙活動が出来ない問題が発生しているそうだ。衛星利用は1つのツール(手段)に過ぎない。このため、低コストで利用できる宇宙システムが急務だが、NASAのように大型衛星や大型探査機をやっている組織では、いまさら小型高機能・低コスト衛星へ戻ることは容易ではない。このような背景からNASAは「アメリカ最悪の巨大官僚組織」という過激な発言が出るほど、かつて世界的に受けた尊敬の眼差しにも陰りが見え始めている。つまり、国威発揚型の宇宙開発体制の限界が出てきたのだろう。

 このため衛星利用官庁はNASAを介さずに直接メーカーへ要求する体制にして、効率化と合理化を進めようとしている。「宇宙はNASA」という時代は終わり「宇宙探査(だけ)のNASA」となり、地球近傍は利用組織主体の宇宙開発が今後進む可能性がある。このようにNASAの存在意義そのものが変化しつつある時代を考えれば、「宇宙はすべてJAXA主導体制」が正しいのか検討すべき時代にきている。つまり宇宙は、“国威発揚の時代”から“目的のために利用する時代”となったため、費用対効果を求めるという“ミッション目的・コスト・成果のバランス”を追求する時代に突入している。

           
ニューヨークタイムズ紙報道(出典:NEWYORK times)    LANDSATは小型化、USGS/NOAAが調達(出典:USGS)

◎「ミッション目的・コスト・成果のバランス」を追求する時代

 近年、「衛星は大型であればすべて良し」という時代は終わり、「ミッション目的・コスト・成果のバランス」を追求する時代に突入している。これは、「衛星・探査機へ課す“目的”と達成した“成果”に対し、どれぐらいの“コスト”がかかったのか?」という観点でミッションや打上げ手段(ロケット)を評価する手法で、費用対効果を追求するバロメーターとして審査されている。つまり

・ これからの宇宙活動は、大艦巨砲主義から「低コスト・コンパクト・驚くべき成果」を出す事こそがすばらしい時代になる

という考え方にシフトしたのだ。しかし日本ではこのような審査手法は導入されておらず、「欧米に追いつき追い越せ」という観点のもと、「ミッション目的・コスト・成果」のバランスは考えず、コスト意識の乏しい技術開発が行われてきた。将来的にはJAXA宇宙活動を中立的かつ第3者的に評価するため、宇宙事業や会計を審査する法律や体制が必要になると考えている。現在では文部科学省に宇宙開発委員会というJAXAの諮問機関があるが、この組織は独自調査能力を有していない。総合科学技術会議も宇宙の事務局は文部科学省のため、審議といってもJAXAが作成した資料で開催されているため、身内の審査機関であるのが実態だ。このため、JAXAがH-2Bという国際基準を無視した世界に通用しないロケット開発が実施されてしまう温床にもなっている。つまり外国のような「チェック&バランス」が機能していない。よってJAXAやメーカーが関与しない第3者が中立的に審査をする機能が必要だろう。そして今後は、予算的・スペース的に一定の範囲内へ収める能力と、結果を出す能力が問われることになるため、徹底した審査能力を持つべきだ。

◎「ミッション目的・コスト・成果のバランス」の評価例

 では国際基準に基づいて日本における近年のJAXA宇宙機の評価をしてみると、惑星探査機“はやぶさ”が「ミッション目的・コスト・成果のバランス」という観点で高く評価できる。なぜならM-VというH-2Aよりも価格が安く(M-Vは70億円、H-2Aの実態は180億円)で、現役の固体燃料ロケットとして世界最強で、打ち上げ能力も実質は低軌道へ2.5t(公称値1.8tと発表)あるM-Vを用いて、重量510kgの惑星探査機“はやぶさ”を惑星間軌道へ打上げ、ロケット・探査機双方の製造コストは合わせて200億円程度で宇宙科学研究本部は成し遂げたからだ。

 ミッション成果においても、世界で最も権威ある科学誌の一つ、サイエンス誌で大々的に取り扱われ、世界的に有名な航空宇宙誌「Aviation Week & Space Technology」でも特集が組まれた。日本では「旧NASDAによるISAS潰し」がJAXA文化としてあるため、積極的な発表はしておらず、日本での“はやぶさ”評価は高くない。しかし海外における日本の宇宙活動に対する好意的な扱いぶりは近年殆ど見られず、日本の技術力を比較的低投資で世界へ示した事例としてもすばらしい。しかも何度も故障しながらも、しぶとく地球帰還を目指すべく、航行用のイオンエンジンで姿勢制御を試みる姿勢は賞賛に値する。よって小惑星探査という目標に対し、ミッションコスト約200億円、大々的に学会誌や専門雑誌で取り扱われた理学的・工学的成果から筆者は高く評価している。

 では、旧NASDA主導にて製作が進められている月探査機、「セレーネ」を考えてみたい。月探査機セレーネは、旧NASDA時代に構想が始まった月探査機であり、15個のミッション機器を搭載している。しかし、惑星間航行では今や常識の電気推進装置は搭載しておらず、その重量は2885kgと“はやぶさ“の5倍以上で、1995年以降打上げられたESAの月探査機「SMART-1(367kg)」、やNASAの「ルナ・プロスペクター(295kg)」・「クレメンタイン(425kg)」と比較して大型過ぎると考えている。また将来計画の「Lunar Reconnaissance Orbiter(1000kg以下)」と比較しても約3倍ある。

 実際に海外の宇宙技術者がセレーネを見て「あまりにも大型過ぎる」と皆が口にするほどだ。さらにコストを見ると、ロケットの価格は実質180億円(射場経費含まず)に対し、探査機の開発費も180億円といわれているが、新規技術開発と称して別枠で60億円かけており、実質は240億円となっている。つまりミッションコストは420億円と“はやぶさ”の2倍以上かけている計算となる。これに対して見込まれている成果が果たして“はやぶさ”倍以上の扱いを海外から受けるのかは微妙と考えている。月・惑星探査とミッションは違えども、ミッション目的・コスト・成果のバランスで評価すればこうなる。セレーネは、ハイビジョンやスペクトル分析をするための光学カメラ等で月の地図や、重力場・磁場の測定や月表層の元素組成、鉱物組成の調査が予定されている。ミッション目的に対する発生したコストと見込まれる成果で評価をすれば、セレーネが「低コスト・コンパクト・驚くべき成果を出す」という評価手法で良いものになるのか、今後じっくり審査する必要があるだろう。逆を言えば、はやぶさのミッションコストが200億円ではなく、500億円かかっていたなら、理学的成果はあったとしても、特別に賞賛すべき総合評価にはならないということだ。

 そして人件費も考える必要があるだろう。実のところ、JAXA内部では旧NASDA、旧NAL、旧ISASごとに給与水準が違う。最も高いのは旧NASDAと言われており、諸手当が非常に多く、すべて換算すると、アメリカNASA平均給与所得の2倍もあるそうだ。つまり“目的・コスト・成果のバランス”で見れば、旧NASDAはNASAよりも高い成果が望まれるところだ。

 また海外の技術者は、「旧NASDAは日米宇宙技術交換協定に基づいて設立された組織でもあるため、アメリカの技術を輸入し、その技術をベースに宇宙技術を開発した組織」との評価をしている。つまり旧NASDAは技術開発・研究開発と言いながらも「技術開発衛星なのに海外から部品を調達している」のだ。このため、旧NASDAは今でも「アメリカでの旧式宇宙機器の消化機関に過ぎない」との指摘がある。技術開発なのに輸入調達では開発の意味がないと思うが、この在来型宇宙システム(旧世代)輸入体制と経営体質を実質継承したJAXAは、輸入調達文化を継続しており、日本の技術が育たない根源とも言われている。そのJAXA文化が悪い形となって現れたのが「まいど衛星(SOHLA-1)」だ。

「ミッション目的・コスト・成果」のバランスを追求する時代へ(画像出典:JAXA、NOAA)

◎東大阪「まいど衛星(SOHLA-1)」の迷走

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SOHLA-1(出典:航空宇宙学会講演会)


大阪大学開発の電気推進PPT(出典:ISTS)

◎旧NASDAと旧ISAS衛星開発の比較

 日本の宇宙開発は今後、ミッション目的・コスト・成果のバランスが必要となるだろう。なぜなら「予算的・スペース的に一定の範囲内へ収める能力」を追及しなければ、「目的のためなら予算もサイズも無視してやれ」という技術・予算・効果無視型へ走る危険性があるからだ。世界第2位の宇宙予算をもつ日本が目立った成果を多く出せていない根源がここにあると考えている。これらの観点で調査を進めると、旧NASDAと旧ISASが開発した実用衛星と科学衛星を比較した資料が平成17年度2月7日に文部科学省宇宙開発委員会で発表されていた。「JAXAにおける衛星開発の総括及び今後の方針」 (http://www.mext.go.jp/b_menu///shingi/uchuu/gijiroku/h17/suishin02/0107.pdf)という資料だが、この資料は日本か開発した過去の衛星・探査機の歴史と実情が公表されている。

 この資料のポイントはP6とP23にあるだろう。P6には旧NASDAが開発した衛星一覧があり、P23には旧ISASが開発した衛星・探査機一覧がある。この資料を見て思うのは旧NASDA情報のあやふやさと、旧ISASの情報開示量だ。実のところ、海外では旧NASDAより旧ISASを高く評価する声が多い。よってP23のISAS資料をベースにミッションコストを加えれば、ミッション目的・コスト・成果のバランス評価が可能になると考えている。これは今後、JAXAやメーカーが関与しない、中立的で独自調査能力のある審査組織が比較し、衛星に加えてロケットや航空開発でも実施すべきだろう。そしてJAXAとなった現在では、旧NASDA方式が実質継続されているが、その方式が今後の宇宙戦略として正しいのか検証すべきだと考えている。


旧NASDA(上)及び旧ISAS(下)のミッション結果比較(出典:文部科学省)

            
   3年寿命が10ヶ月で故障「みどり2号」                 開発3年が7年かかった「飛鳥」
(出典:JAXA&かがみはら航空博物館)

◎液体ロケット開発の欧州動向

 ここからは、世界的な液体ロケット開発動向を紹介したい。過去の紙面で、旧NASDAロケットチームの開発したH-2Aロケットは、エンジン推力を上げたが自重が増加したため、推力重量比が悪化し、1段目ロケットエンジンとしては、もはや一流ではなくなってしまった可能性を指摘した。液体酸素・液体水素技術は非常に技術レベルが高く、長期的に見ればこの技術は優位性が確立されるため後継機戦略は場当たり的ではなく、将来戦略が非常に重要だ。また中国も開発に着手した。しかし現行のJAXA宇宙基幹システム本部が基幹ロケットとして推進するH-2Aは信頼性向上という言語を巧みに使い、価格高・機能不足・高コスト射場体制であり、ATLAS-5の

・ 射場200人以下体制(H-2Aは1600人)

・ 打上準備2週間(H-2Aは5ヶ月)

・ 打上作業最短8時間(H-2Aは1ヶ月)

という国際基準を満たしておらず、コスト高で世界から見ても恥ずかしいH-2B計画が行われている。今後は射場移転も考えた低コスト射場体制にしなければ種子島射場が世界から笑いものにされてしまう可能性が高い。また何処の国でも宇宙開発に予算がかけられなくなっている事情から、「コストをかけないイノベーション体制」が必須となっている。だが日本ではそれを実施せずにサボった結果、先代の成果が水泡に帰す危険性が高まっている。よってM-5ロケットを高コストと批判して低レベルな計画案を出して潰す前に、宇宙基幹システム本部自身が育てたH-2Aロケットの“襟”も正すべきだろう。

 では最近、海外は何が行われているのか?アリアン5を見てみよう。アリアン5ロケットは近年、短期的なアリアン5の次期計画を発表した。テーマは“コストダウン&リスク低減&性能向上”であり、H-2Aエンジンの“コストダウン&性能低下”、H-2Bの“コストアップ&性能向上”とはならないよう目指している。聞くところによれば、CNESやアリアンスペース社は、JAXA宇宙基幹システム本部の掲げた次期H-2Bロケット開発内容を分析して「日本のようなロケットにならないように」というスローガンを密かに掲げているそうだ。我々にとっては非常に苦い話ではあるが、クールー射場にベガとソユーズがやってきたため、CNES(フランス)ロケットであるアリアン5は競争力向上が叫ばれている。このため、コスト競争時代に生き残るため、アリアン5の後継機戦略を検討開始している。このうち短期的計画はアリアン5の第一段エンジンVULCAIN-2の設計思想をキープし、性能向上を目指した上に製造コストを削減する方針を掲げた。そもそもVULCAIN-2エンジンは前作VULCAIN-1エンジンと比較して推力を17%増加させて比推力(ISP)を3sec上昇させたが、エンジン重量が1300kgから1800kgと大幅に増加したため、推力重量比が前作と比較して悪化した。このため、目的・コスト・成果のバランスから、エンジンの技術水準を低下させずにコスト削減という方策を打ち出している。その製造コスト低減方策としては、“ポンプ/ステーターとケーシング”&“タービン/ステーターとケーシング”&“タービンローター”の3つ製造コスト削減をVOLVO AEROが掲げ、ガスジェネレーターのコストダウンも実施すると発表している。さらにロケットエンジンノズルを延長して性能を向上させる方策を掲げ、2010年までに段階的に実施するとSNECMA、VOLVO、AVIOなどが共同で発表した。

 また、アリアン5の長期戦略としては、打上手段が抜本的に変化する可能性から、ESAを中心に「将来ランチャー予備計画」として2010年から5年かけて要素技術の試験を行うそうだ。当然ながら筆者が過去紹介したフライバックブースターや空中発射システムもテーマに上がっており、「再使用システムで25回フライト」や「ターボポンプ・バルブ・ステージコンビネーション」や「RLV(再使用ロケット) vs ELV(使捨ロケット)」というサブシステム技術や今後の戦略性の検討を開始している。そして「2025年ごろに実用化し、欧州が宇宙アクセス手段をAffordable(手頃な価格)にする」というビジョンが掲げられている。さらにロシアとの連携も含まれているそうだ。

日仏ロケットエンジン性能比較表


日仏エンジン開発の歴史比較

◎アッパー・ステージ開発動向

 さらに今後の液体ロケット開発は、1段目エンジンの性能向上が行われている一方で、ロケット最終段に“Upper stage”というマルチバスを搭載するトレンドが見られる。これは、ロシアのソユーズ、プロトン、ゼニット、ロコット、ドニエプル、ヨーロッパのアリアン5やアメリカのアトラス5などに搭載もしくは搭載予定で、小型のロケットエンジンと燃料を搭載し、ボクシングのアッパーのように、荷物(ペイロード)をロケットから加速打出しする装置だ。マルチバスは主に「複数衛星を複数軌道へ投入」したり「大型衛星を直接静止軌道へ投入」したり「探査機を惑星間軌道へ投入・補正」する機能を有する、言わばミニ多機能ロケットだ。現在のロケットは、静止トランスファー軌道、一定の低軌道や惑星間軌道へ投入したらロケットの仕事は終わりであるが、軌道投入された荷物(衛星・探査機・宇宙物資)は、そこからさらに軌道修正する必要がある。例えば宇宙ステーションへドッキングする場合、荷物側で軌道を微調整しながら接近しなければならないが、それは荷物側が大型化してしまうため、製造コスト増を招く問題を抱えていた。



アッパー・ステージを搭載したEurockotと運用例(出典:Eurockot user manual)

  実のところ、ロケットは打ち上げ1時間勝負だが、荷物側(衛星・探査機・宇宙物資)は長い年月にわたって動作しなければならないため、ロケットよりも信頼性が要求される。よって“ロケット側の仕様”で(マルチバスやアッパー)を製造し“荷物側の仕事”ができれば、荷物側(衛星・探査機・宇宙物資)を小型化・長寿命化でき、荷物側のコストダウンに繋がるという考えが生まれた。例えば、衛星搭載スラスター(小型エンジン)をロケット用基準で製造すれば、信頼性要求が低くなり、製造コストは“10分の1”になったという例もある。また、マルチバスやアッパーが搭載できれば、コンバインランチが可能となり、1機あたりの打上単価を下げる効果をもたらす。よってアッパー・ステージは「今ある打上手段で最大限の能力を引き出す戦略」と見るべきだろう。さらにマルチバス(アッパー・ステージ)は、能力不足のロケットに「ドーピングを施す」行為とも言え、一定の高度以上ならばロケット自身の打上能力が最大15〜30%上がるそうだ。しかし、搭載重量を減らす必要もアッパー次第では存在するため、アッパー・ステージは自動車で言う「オプション装備」として位置付けられる場合もあり、使用はケースバイケースだ。だが、小型化する“衛星・探査機”と“複数衛星打上“や”宇宙探査“のニーズから見れば、アッパー・ステージ開発は、液体ロケットとして必須となるだろう。

◎今後のJAXA液体ロケット戦略と問題

 しかし日本ではアッパー・ステージ時代に対して「信頼性向上と言えば新しい技術を開発しなくて良い」という保守的体質が横行し、いまさら作っても国際市場では通じない次期固体ロケット計画を立て、液体ロケットのレベルも低下が進んでいる。

 今後ロケットエンジンLE-7Aの技術水準を次世代化するならば、アリアン5やデルタ4の実施している“性能を下げずにコストダウン”する方針が正しいと考えている。しかし、JAXAが「LE-X」として発表した国際会議内容によれば、「LE-7Aのコストダウン」は当たり前と言えるが、数値計算の結果「ISPが低下」したと発表し、フィージビリティースタディーを終了すると発表していたそうだ。つまり、LE-7からLE-7Aへ次世代化した際の“欠点”を改善するどころか、さらに悪くする検討結果を発表している。この事実を海外のロケット技術者は見抜いており、「エンジンの設計能力が落ちたので、クラスター化して逃げ、根本的問題を解決しようとしないのでは?」という意見も聞かれ、日本の液体ロケット技術に対するレベル低下の指摘と日本を反面教師にしようという声が一部で聞かれる。最近は日本の宇宙開発(JAXA)に対する海外の評価は下がる一方で、世界第2位の宇宙予算を誇る日本が、国際会議では殆ど話題に出ないそうだ。しかも日本側(JAXA)の出席者は殆ど発言しない場合が多く、存在感が感じられないと聞く。そのような状況を続ければ、血気盛んなインドや中国の方に海外の目が行くのは必然だろう。よって世界から見放されないためにもLE-7A技術の向上は必須であり、今後は「性能を下げずにコストダウン」する方策が必要だ。具体的にはボーイングRS-68やSNECMAの開発するVULCAIN-2エンジン開発動向にならって、日本のLE-7Aエンジンは今後、低コスト開発体制に加えて、推力が同等ならば「比推力(ISP)向上・エンジン重量低減・推力重量比向上」を目指した段階的開発が必要だ。

 また、ロケットの打上性能を目指すのであれば、LE-7Aをクラスター化するよりも、宇宙空間で自由度のあるアッパー・ステージをH-2A後継機では目指すべきではないか?これは、荷物側(衛星・探査機・物資輸送機)の顧客サービス向上の観点で言えば、LE-7Aクラスター化よりも重要で、ロシア・ヨーロッパ・アメリカのロケットは、もはや常識となっている。つまり、アッパー・ステージ(マルチバス)機能のないロケットは“売れ筋商品”にはなれず、生き残れない可能性が高い。自動車で言う「エアバック・パワーウィンド・ABS」が無ければ売れ筋商品になれないみたいなものだ。よって日本も最低限必要な機能として持つべきだろう。しかし、H-2Aにはアッパー・ステージのような装備は無い。第2段ステージは大型衛星1機を軌道投入する機能しか持ち合わせておらず、小型衛星を複数装備して任意の軌道へ投入する機能(マルチバス)がない。それは昭和48年に日米間で交わされた「日米宇宙技術交流協定」に原因があるかもしれない。

◎「日米宇宙協力」のギャップ

 日米宇宙技術交流協定は1969年(昭和44年)に調印され、宇宙開発事業団が設立された。東京大学(後の宇宙研)は既に固体燃料ロケットを打上げている。その宇宙開発事業団設立当時は液体ロケットを独自開発する方針だった。そして翌年(1970年)に液体ロケットの自主開発を断念、技術公文改訂(エンジニアリング・図面・部品提供)などが可能となり、デルタロケット技術を導入している。この際、独自開発路線を完全に断念したわけではなく、完成品(デルタ)を輸入しながら独自開発も進める2段構えの戦略方式をとっている。この独自開発チームが後にLE-5やLE-7という部品は輸入しながらも独力設計で液体酸素・液体水素エンジンを開発した。つまり、アメリカからの技術導入をしながらも、独力でLE-5やLE-7という複雑なロケットエンジンを設計・製造し続けた戦略は、すばらしいと考えている。しかし、エンジンを自主開発できても、ロケットは構造・アビオニクス・射場など様々なシステムが組合わさるため、全てを独力で作り上げることは困難で、H-2はデルタロケット技術を流用した射場や打上げシステムとなっている。しかしここで国産ロケット発展の障害が出始める。

 まず、日米宇宙協力は「協定、交換公文、覚書、ガイドライン」の4つから成立っている。この日米協力の取り決めでは、アッパー・ステージは「弾道ミサイル弾頭部」の制御に使われる危険性から、日本への技術導入は見送られ、シャットダウンが不可能な固体燃料ロケット(アポジモータ)完成品をサイオコール社から輸入(供与)されている。

 また覚書(了解)は128項目(内42件は東大・宇宙研)で毎年協議されている。宇宙研のロケット開発は固体ロケットなため、ミサイルとならないよう日米間で覚書が交わされている背景があるが、液体ロケットエンジンもH-2が国産化された以降、アメリカ側はH-2ロケット動向を監視するため、部品等を制限している。つまり、H-2国産化以降は最新技術がリリースされなくなったのだ。この背景もあり、宇宙部品は古いものしか輸入できなくなり、種子島射場が更新できない背景にもなっているようだ。

◎「日米宇宙協定改訂」か「国産独力で行く」か

 また、日米宇宙協力は昭和44年という今から30年以上前に作られたものがベースなため、古過ぎて現在の“宇宙ニーズ”や“現実”に対応できていないという実情がある。例えば、当時の交渉段階ではロケットに衛星を複数搭載する事は想定されていなかったはずだ。しかし現在では、ロケット1機に衛星1機という時代が終焉を迎え、各国のロケットは衛星複数搭載装置のESPAリングというマルチアダプターやアッパー・ステージ(マルチバス)の開発を行い、着実に時代へ対応した開発を行っている。しかし日本の基幹ロケットであるH-2AはJAXA宇宙基幹システム本部に設計能力がないのか、日米宇宙協定のよる拘束が存在するのか分からないが、ピギーバックのような衛星を複数搭載する装置が国産ではなく、輸入品であるのが実情だ。実のところH-2A、4号機におけるADEOS-2(通称:みどり2号。打上後1年で故障。運用中止)打上時に、ピギーバック(副衛星)として搭載された、オーストラリアのFEDSAT、千葉工業大学のWEOS、JAXA筑波のμLABSATという3機のピギーバック搭載システムは、アメリカのAeroastro社が設計・製造したそうで、論文発表されている。つまり、H-2Aのピギーバック搭載装置でさえ、国産化されていないのだ。

 さらにH-2Aの燃料タンクドーム部は、ドイツのMT Aerospace社から輸入しており、国際価格競争力がなく製造する価値を失ってしまったHTVも「ハードウェア」と「内部構造」もMT Aerospace社が製造している。これはSPACENEWSで報道されている。つまり、JAXA宇宙基幹システム本部は、技術開発と称して国内企業を育成せずに、部品を海外で開発させて調達しているのが実態だ。「全ての技術を国産化せよ」とは言わないが、H-2Aは前作のH-2と合わせれば、3900億円の開発費を投じて開発され、さらに技術開発、先行開発費として試算すれば、1兆円近い開発費が実質投じられたそうだ。そこまで投じれば、価格競争力あるロケットができるはずだ。しかし実態を見ればH-2Aに国際的競争力はなく、三菱重工が国際市場へ出られない実情がある。よって旧NASDA文化を引き継いだJAXAのロケット開発体制では、国内企業が育成出来ずに国民の税金が海外企業へ消えていくのが実情なため、「宇宙基幹システム本部の解体・合理化」や「日米宇宙協力の改訂」を含めてロケット開発体制の抜本的見直しが必要だろう。

 また、打上手段も海上発射「シーランチ」や空中発射「ペガサス」が実用化し、近年ではロシア・ウクライナ・アメリカ・イスラエル・ヨーロッパ諸国が独自か国際提携で空中発射ロケット開発を開始している。空中発射ロケットは、フライバックのような再使用型ロケット開発の「入り口」とされ、打上手段の価格低減をもたらすとESAが発表していることもあり、次世代の打上手段として各国が検討開始している。だが日本では、国際アライアンス時代に対応しておらず、すでに「日米宇宙協力」締結当時の解釈では想定外の宇宙開発が実施されている。この縛りで日本の宇宙開発が発展できない遠因ではないか?よって日米間の宇宙協定は時代に適合しておらず、時代変化のギャップを埋めるために「全面改訂で行く」のか「国産独力で行く」のか決断時期に差し掛かっている。

  
H-2Aピギーバック装置は米Aeroastro社製(出典:spaceflightnow) H-2Aタンクドームは独MT Aerospace社製(出典:MT-Aerospace)


米露は大型空中発射ロケットも本格検討開始(Spaceworks、Yuzhnoyes)

空中発射ロケットの価格優位性はESAも把握

(出典:ESA)

◎JAXAは独自規格路線・国際動向無視

 日本の宇宙開発は、日米宇宙協定が“現実“に対応していないため、信頼性と称して古い技術を使用し続け、次世代技術を追求しない体質が横行している。「信頼性向上」を謡えば基本的に反対する人はいないからだ。だがこの“方策”を取り続ければ、技術者は過去の遺産を使う「コンビネーション技術」を追求し、次世代の「イノベーション技術」を追求しない体質が横行する。これを証明するように海外の技術者と会話をすると、JAXAはほんの一部で独自開発体制(M5ロケットや科学衛星など)があるものの、JAXAの大元組織である筑波宇宙センター(旧NASDA)は「アメリカでの旧式宇宙機器の消化機関に過ぎない」という意見が実態だ。実際旧NASDAが開発しているロケットや衛星は輸入部品が非常に多い。地球観測衛星「だいち」は活躍しているものの、光学センサーのシステムイテグレーションはGoodrich社で実施され、ALOSに搭載(海外調達)されている。ロケット開発もアメリカのロケットメーカーへコンサル依頼して審査してもらっている。


ALOSの光学センサーは海外調達(出典:AIAA-RS4-2006-5003)       ALOS(だいち)(出典:JAXA)

 さらにはH-2Aのピギーバックシステムも輸入調達品だ。つまり、H-2で先代が築き上げた技術をさらに発展させず、現在のJAXAロケット開発体制は独自開発能力が極端に低下しているのだ。そのような輸入文化が次期固体ロケットやH-2A後継機を提案すれば、国際的に通じない低レベルな計画や提案が出てくるのは必然である。実際に次期固体計画はあまりにレベルが低くて戦略性がなく、H-2Bも国際的に通用しない。この“事実”が露呈することを恐れ、旧NASDAは特許件数を出すことで対応している。その件数は2000と多いが、情報は世界的に公開されているため、「使えるものは大してない」という声や「本当に必要な特許は出さないものだ」と指摘する意見が聞かれ、日本の宇宙技術そのものがレベル低下しているのでは?という指摘が海外から聞かれる。このような背景のため、国際会議では日本の話題が殆ど出ず、出席しているJAXA職員は殆ど発言せず、「これからのアジア宇宙活動はインドや中国が中心となる」という発言も日本人がいる前でなされている状況だ。また宇宙技術を民生へスピンオフした事例を公開しているが、まともにJAXAが独自開発したものは数件程度で、他は海外のスピンオフ事例や無理やりこじつけたものが多く、英語版が出回れば海外から異論・反論される可能性が高い。つまり、JAXAは現行のロケットを何とか打上げられる体制は確保したが、次世代技術動向から取り残され、国際基準から大きくかけ離れたH-2B計画を推進し、組織崩壊が囁かれているNASAの月・火星探査計画という都合のいいものだけを取り上げて“有人宇宙活動がしたい”と主張しているようだ。しかしTACSATやTOPSATという次世代の“スタンダード”を取る戦略はなく、独自規格・国際動向無視宇宙計画を推進している。このままでは、JAXAが世界から取り残され、ついて来る宇宙産業が崩壊してしまうのは時間の問題だろう。

◎M-5ロケット運用停止論議の不明瞭

 このような体制のJAXA宇宙基幹システム本部が提案したM-5廃止論議は、JAXAの組織的問題を浮き彫りにしている。2006年7月、JAXAはM-5運用停止を宇宙開発委員会へ提案した。宇宙開発委員会はJAXAの諮問機関であるが、独自調査能力を有していないため、監査資料はJAXAが作成している。したがって、諮問機関として機能していないのが実態だ。さらに翌日にはM-5運用停止の理由を説明する記者会見を開催したが、この2日間でJAXAが示した論理やデータは非常に不可解なものが多く、さらに国際基準を大きく逸脱した次期固体ロケット計画まで発表している。その実態を分析してみよう。

 まず、M5運用停止の理由は「価格高」というのが理由だそうだ。確かに国際基準から見れば高いのは事実だろう。しかし、コストダウンする提案は宇宙科学研究所が何度も提案したはずだ。しかし「固体燃料ロケットM5は技術開発を終了する」としてM5のコストダウンをさせなかったのもJAXA(旧NASDA)だ。低価格のM-5ライト計画ビジョンでは確かに提案能力不足だが、M-5を中止して情けないJ-1模造品を新規製造するよりも、M-5という高い打ち上げ能力を発揮させてコストダウンして国際市場へ出した方が世界的に通用するだろう。

 そもそも世界中のロケット見れば、“大型ロケットをスケールダウンして小型ロケットを開発した国”は日本以外存在しない。なぜならそのやり方では「コストダウン効果をもたらさない」ことが分かっているからだ。それを唯一実践したのがNASDAのJ-1だ。技術的成果はあったと主張するが、肝心かなめの主旨である目標価格は下がらなかった。この事実から「J-1的やり方はやってはならない」と海外の宇宙教本に書かれているそうだ。つまり、JAXAは世界の常識を無視した非常識な論理付けして次期固体ロケット計画を100〜120億円で新規開発しようとしているのだ。しかも打上げ能力を下げてM-5の半分以下としたため、10億円以下で打上げられるロケット市場へ対し、次期固体ロケット価格は25億円以下で事業化も視野にすると発表している。M5を筆者が掲げた低コスト化すれば、打上重量単価が次期固体より安くなる可能性が高く、射場も建設する必要がないため、国際市場で十分戦える。つまりJAXA宇宙基幹システム本部は世界に通用しないロケット戦略をH-2Bに引き続いてまた立案している。M5は戦略をしっかりすれば、商業ロケットに十分なり得る素地がある。しかも国際アライアンス時代に日本が技術力を示せる技術外交交渉カードとしての価値もある。実際にM5を事業化する提案は固体ロケット技術が同等クラスの国から提案が出ている。しかしJAXAは技術開発の無限ループをしなければ、技術開発手段を失ってしまうため、M5という国際競争力あるロケットを運用中止し、コスト高でまだ見ぬH-2Aライト計画を出すタイミングを伺っているようだ。しかし、世界を見ればそのようなやり方はもう通用しないはずだ。

 また、宇宙基幹システム本部の掲げるSRB-A流用思想(J-1模造品)は、筆者が過去の紙面で説明したようにH-2Aとのブースター共通化は双方の自由度を縛る行為で問題点が多く、使いまわしは実質不可能で改造は免れない。NASAのARES計画でもその事実が露呈している。しかも、M5は独力(純国産)で開発したが、SRB-Aの基本技術はサイオコール社(現、ATKサイオコール社)でライセンサーがIHIアエロスペース社だ。よって事業化した場合、特許料を支払わなければならず、その点でもM5をコストダウンして使った方が、打上重量単価も優位で日本の技術安全保障上の観点で貴重だ。つまり独力技術(M5)に輸入品技術(SRB-Aは準国産)を混ぜ合わせると、国際市場進出のハードルが高くなり、困難になる。企業と組織の利権争いという次元ではなく、日本独力技術(M5)はコストダウンした上で発展させることが国益に十分適っている。

 さらにM5を運用中止にして、M5で打上げ予定のASTRO-GやPLANET-CはH-2Aで打上げた方が安上がりと主張している。このとき、JAXAは「ロケット開発費原価償却」と「射場施設維持費用」含めずにH-2Aロケットを114億円と見積もっている。しかしM5は「射場運用費」、「打上価格」に加えて「開発費原価償却」を含めて80億円なのだ。このJAXA比較は明らかにフェア(公平)ではなく、H-2Aを「射場運用費」、「打上価格」に加えて「開発費原価償却」を加えて試算すれば、H-2Aの打上げ価格は180億円〜200億円だ。この数字を隠して、宇宙開発委員会へ報告したのがJAXAであり、宇宙基幹システム本部がM5を不公平に扱ったのは明らかである。

◎総合的評価では、M5を維持してコストダウンが財政上有利

 M5は開発費を原価償却した価格で公示しているため、国際基準でデータを示している。しかしH-2Aは開発費を原価償却せずに価格算出している“カラクリ”があるため、国際基準ではない数値比較結果をJAXAが示したことになる。H-2やH-2Aは供試体と称してフライト可能なロケットを複数製造したため、これらパーツがJAXA倉庫や企業倉庫にあるが、このような開発製造費は原価償却されていない。この比較結果を発表したJAXAはM5をフェアに扱っていると言えるのだろうか?筆者はそう思えない。よってJAXA宇宙基幹システム本部の提案は、国際基準にも国家技術安全保障上にも対応できておらず、M5の扱いも不公平で、国民の税金を有効に使う発想でもないため、白紙撤回すべきだろう。また、GXとM5が競合するというが、GXの競合はH-2Aだ。GXはアメリカの主力ロケットアトラス5やアトラス-3Bで使用されているRD-180を第一段目として使用しているため、能力が非常に高く、JAXAが公表しているよりも打上能力はかなり高い。よってH-2Aのレベル低下が進むのならば、次世代ロケットの「互市」としてGXを発展させる方法も考えられる。これら考察は将来するが、M5という独力(純国産)ロケットを不公平に扱ったJAXA宇宙基幹システム本部は徹底的に組織見直しが必要だ。

 また、小型衛星打上げロケットについては、USEF(無人宇宙実験システム研究開発機構)が検討開始しているとの情報が入ってきた。USEFでは小型衛星打上げロケットの価格低下を狙って空中発射システム技術の検討を開始しているそうだ。しかも、次世代技術と価格を視野にまずは固体ベースで空中発射ロケットを検討し、将来的には大型固体・大型液体も視野に考えているそうだ。よってJAXAが無理に小型衛星用(次期固体)ロケットを開発せずとも、USEFが衛星利用者の立場からニーズに応じて開発した方がよいのではないか?JAXA以外にも価格優位なロケットを開発できるならば、実施すべきだろう。これも法的問題があるならば、改正を検討すべきで、今後のUSEF動向を見守りたいと思う。

◎まとめ

 海外では衛星の革新技術として炭素系ケイ素半導体材料に注目、小型・低消費電力・高効率のパワー素子・耐放射線性のある材料なため、熱設計が楽になる可能性からシリコン系より有望視されている。また次世代宇宙カメラ技術の追求や、TACSATという次世代量産型衛星技術で次期スタンダードを狙う開発が海外で盛んだ。つまり衛星技術の基本が根本から変わろうとしている。これは宇宙開発が大艦巨砲主義から、「コスト・パフォーマンス・ミション達成」を追求する時代に突入している事を示している。よって日本の宇宙開発も、世界から取り残されないために、既存技術を組合せた「コンビネーション型」から、次世代技術を追求する「イノベーション型」へ移行する必要がある。また独自調査能力を有した第三者的な監査・審査機能が必要になるだろう。そして、大手自動車・家電企業が衛星開発に着手しているため、彼らが自由に宇宙活動ができる環境を作り、新規事業参入できる環境を作るべきだろう。

 液体ロケットは、H-2AのLE-7Aを次世代化するならば、アリアン5やデルタ4のように“性能を下げずにコストダウン”を目指し、海外技術動向を分析し、アライアンス時代に生き残るためにエンジンのレベルアップを目指すべきだ。また、国際基準に則ってアッパー・ステージを開発すべきであり、「日米宇宙協定の全面改訂」か「独力技術で作り上げる」のか決断すべきだろう。それと同時にM5に対する不公平な取扱いはやめるべきだ。今後とも日本の宇宙開発には何が必要かを研究し、発表していきたいと思う。


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