Future Liquid LVS Plan (ロケットの国際基準化と次世代技術動向) 
  (エアワールド2006年10月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年10月号」をお買い求めください

世界中で開発されているロケットは、コンセプト力重視・国際提携・低コスト射場・機能最適・段階的次世代化が進んでおり、性能は上がっても打上げ単価を下げる傾向が見られる。本稿では液体ロケットの海外動向を踏まえながら国際基準に合った今後のH-2A後継機戦略を考えてみたい。

◎万能型ロケット「ソユーズ」

近年、ロシアが開発したロケット「ソユーズ」が再注目されている。その理由は、価格が安くて万能型だからだ。ソユーズの祖先は、旧ソ連で開発されたR-7と呼ばれるICBMをベースに製造されたロケットと言われており、ソ連初の人工衛星「スプートニク」を打上げるために開発された経緯がある。そしてボストーク・モルニヤ・ボスホートと徐々に打ち上げ能力を上げていき、現在ではソユーズとモルニヤが運用中だ。


ソユーズまでの歴史(出典: Soyuz user manual)

 そしてソユーズは1977年〜2005年までの間に968基が打上げられ、うち19回失敗(打上成功率98%)している。ロケットとしては考えられない量産体制であり、近年では最大月産4基が可能で年産では10〜15基製造できる体制だと発表している。

   
ソユーズラインナップ      ソユーズ3 (出典:Interspace News)

 さらに、将来は有人宇宙カプセル(Soyuz TMA Vehicle)ではなく、再使用有人宇宙船を搭載できるソユーズ3も検討中だ。よってソユーズは有人・物資輸送・衛星を何でも打上げられる万能型ロケットとなったのである。これらのソユーズのコンセプト的優位性から欧州ロケットとして認識され、大型ロケット・アリアン5によって小回りの効かなくなった欧州の宇宙活動を再度活性化させる環境ももたらした。

 また、ロケットの輸送体制もロシア製ロケットため、バイコヌール射場から陸送でバルト海に面するサンクト・ペテルブルグへ輸送し、そこからバルト海―北海―大西洋と船舶輸送してクールー射場へ納入されるそうだ。

   
ソユーズのクールー射場                    ソユーズのバイコヌール射場
(出典:Arianespace)                       (出典:Interspace News)

◎ラインナップを揃えたアリアンスペース社

 大型化してしまったアリアン5の弱点を埋める方策としてソユーズを引き込み、様々な打上げ市場の確保をしようとアリアンスペース社は努力を重ねている。そしてクールー射場にはイタリアが中心となって開発中のVEGAもあり、現在射場が建設中だ。このベガは一部で「イタリアの支出するESA宇宙予算のうち、自国産業へ還元される額が低いため、その埋め合わせとして承認された」とか「イタリアのエゴで開発された」という否定的な意見がある。しかし、欧州という各国の思惑が入り乱れる中、フランス(アリアン5やソユーズ)が欧州宇宙活動のリーダーシップを担う現況によって、欧州各国では自国(イタリアやドイツやイギリスなど)のIdentity(個性)が失われる事を心配している「事情」が存在する。そうした背景でイタリアがVEGAロケットを開発している背景も存在する。またドイツではロコットやドニエプルと提携している背景があり、欧州内でも各国がIdentity(個性)を持った様々なロケット戦略が行われているのだ。このような「実情」と、将来、欧露間で外交的緊張が発生したとしてもロケットが外交交渉として利用されないよう保険としてVEGAの存在価値を示せる背景もある。筆者は欧州宇宙政策の専門家ではないため、各国の思惑を明確に断言できないが、アリアンスペース社とCNESらが将来戦略の一環として2種類のロケット(ソユーズとVEGA)を一気に自陣営へ引き込んだ戦略は、非常に興味深い。自国ロケットだけにこだわらず、アライアンスを組む発想だからだ。そして欧露間ではソユーズのライセンス生産をしようとする計画もあり、一部噂ではドイツがソユーズの製造を担うとの話も聞く。恐らく“フランス主導型宇宙活動の反発”の埋め合わせようとする事で欧州宇宙の連合体結束を図ろうとするフランスの思惑と、Identity(個性)を持った活動と雇用も確保できるドイツの思惑があるのかもしれない。

また、噂によれば、アリアンスペース社がH-2Aの射場をクールーに建設しないか?と三菱重工業へコンタクトしている情報もある。この意図は不明だが、これら打上げ手段の多様化によってアリアンスペース社の赤字補填をフランス政府宇宙予算でまかなっている状態解消と、雇用も確保でき現場も活況するため、アリアンスペース社は今後伸びるだろう。このように「ランチング・アライアンス」を組む戦略的なフランス宇宙機関CNES、アリアンスペース社、EADS社の活動を日本のJAXA、ロケットメーカーらは学ぶべきだろう。

◎ソユーズの技術的概要

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                ソユーズの第1段と第2段(出典:ESA)          ソユーズの打上げ(出典:www.if.pw.edu.pl)



RD-107A       RD-108A      RD-0124        

(出典:http://hometown.aol.de/_ht_a/b14643/space-rockets/)


ソユーズ-2(出典:Soyuz user manual)

◎ソユーズ組立と射場システム

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ソユーズロケット打上げ作業の流れ(画像出典:ESA, Interspace News, technochitlins)

 



クールー射場とロケット発射台設置の流れ (出典:Soyuz user manual)

◎発射整備塔は内之浦システムを流用

ソユーズのクールー射場を調査して分かったのだが、クールーでは移動式でコンパクトな発射整備塔が採用されている。この整備塔はレール上を移動してソユーズを飲み込むような形で格納させている。恐らく将来の有人宇宙船の整備作業や衛星最終整備、貨物物資の積み替えなどが出来る利点を考えて採用したのだろう。

さらにこの移動式発射整備塔は、発射台逆側の扉から最終段(衛星を収納したノーズフェアリング等)を入れて、クレーンにて持ち上げ、ソユーズロケット上段へと結合させている。これは内之浦のロケット発射整備塔と同じ方式を採用したことを意味する。この内之浦整備塔は三菱重工長崎造船所が建設した経緯があるが、欧州ではこの方式を取り入れてコンパクト射場システムを構築、ロシアのレール技術を組合せて“ロシアと日本の良い部分を吸収した”移動式発射整備塔を採用、日本の内之浦射場やロシア既存射場よりも一歩前進させた低コスト発射組立塔を建設しようとしている。

 過去、筆者は「内之浦射場システムは低コストであり、世界のお手本射場」という話をしたが、ベガに加えてソユーズでも内之浦射場文化が一部で採用されている。これは宇宙科学研究本部が低予算の中で脈々と続けてきた射場システムは間違っていないことが証明されたと考えられ、日本として誇りに思うべきだろう。一方で種子島射場のH-2Aロケットの発射台システムは非常に高価システムだ。その理由はスペースシャトルやアポロ計画のサターン5型ロケットという超大型ロケットシステムと同じ「発射台とロケットが丸ごと移動する方式」を採用している事と、その発射台移動手段はレールステムを採用せずにドーリーと呼ばれる14軸56輪の大型運搬台車(タイヤはゴムではなく鉄板車輪)を2台採用していることだ。このドーリーは直進以外にも横方向へ移動できるメリットがあり、技術的にも高いものが要求される。しかし、レールを敷いて射点へ行くようにすれば、最も低コストな移動発射台となったのではないだろうか?射点が2つあったとしてもレールを敷けば良く、塩害があるというが海岸沿いを走る列車と線路は山ほどあるため技術的に問題ない。このドーリー方式では構築費や維持費がかかってしまうため、非常に費用対効果の悪い発射台システムの一因となっている。恐らく技術開発を目的に開発したと思われるが、このようなコストを意識せず国際基準から大きくかけ離れた射場システムは今後許されない。欧米の射場システムを徹底的に研究し、国際基準に見合った射場システム構築が今後必要だろう。

 以上、ソユーズは有人・貨物以外にもフレガートの投入によって時代のニーズを先読みして生き残りをかけている。このように市場投入のタイミングを見越し、5年〜10年先を意識したロケット戦略を立てることは重要で、国際基準やライフサイクルコストを意識せず、現代のニーズで対応しようとするJAXAロケット戦略は非常に問題がある。

◎H-2B計画、見直しの必要性

 ソユーズは、旧ソ連時代からの技術遺産を引き継ぎ、古い技術と言われながらもエンジンの性能を飛躍せずに段階的に上げたり、過去開発された衛星・探査機技術を応用してフレガートやIkarを製作したりして、静止衛星市場食い込みや商業打上げ市場進出が可能となった。そして高緯度のロシアから赤道付近のギアナにある欧州射場クールーへ進出したため、“打上げ性能が上昇”・“量産ロケット”で価格競争力を持った上に“有人船が打上げ可能”であることも重なって、国際競争力を持った万能ロケットとして生き残っている。さらに今後の計画では、中出力エンジンを4基束ねたエンジンシステムをそのまま採用しながらRD-120.10Fを第一段目、NK-33-1を第2段目としたエンジンを採用、3段目はソユーズ2のRD-0124シリーズを採用し、打上げ性能を引き上げたソユーズ3を計画、バイコヌール・クールー射場双方から有人宇宙船(クリッパーorクリーベル)を打上げる計画だ。

 この自国で開発したロケットとその周辺技術を国際マーケットへ対応させるべく、手を打ったロシアと、技術的メリットと戦略的観点から手を結んだフランス・CNES・アリアンスペース社・スターセム社の戦略はすばらしい。そして日本のJAXAロケット開発体制をもう一度見てみると、非常に問題があることが分かる。

 ある海外の打上げサービス会社は「日本のH-2ロケットシリーズは商業ロケットではなく、技術開発用に加えて特定宇宙組織専用のロケットであり、国際市場へ対応できないロケット」としてアジア諸国の衛星オペレーター向けにプレゼン資料を配布しているそうだ。つまり競合者として「H-2Aは相手にしていない」ということだ。これがH-2Aロケットに対する海外の評価である。

 その原因として、技術開発のために技術開発ロケットとしてJAXAがH-2シリーズを扱っていることだ。例えばH-2B開発は、どの市場をターゲットにしているかと言えば宇宙ステーションへの物資打上げ市場である。現在、将来上がる国際宇宙ステーション向けの物資輸送手段を開発するという名目でH-2Bと言われるロケットが開発さている。このH-2Bロケットは、H2-Aロケットと比べ、1段目ロケットの直径を1.2m太くし、エンジンを1基から2基へと増設すると共に、固体補助ロケットブースターを4本取り付け、打ち上げ能力をH2Aの4〜6トンから最大8トンまで強化したものである。

 しかしH-2Bの打上げ価格を考えると、表向きは110億円〜120億円と言われているが、実態は170〜180億円位かかると言われている。その根拠を示す例としてH-2Aは当初80億〜85億円と設定されたが、現状では射場経費を含めずに110億円以上かかっている。とてもH-2Bの価格が110億円になるとの報道は信じ難い。また射場システムも古く、大人数・長時間インテグレーション体制で、コスト意識の乏しいビジョンでH-2B計画が実行されているため、最悪は打上げ価格が200億円を超えるかもしれない。しかも国際宇宙ステーション物資輸送システムHTV(H-UTransfer Vehicle)を海外では「使い捨てで無人貨物機であるにもかかわらず、中途半端な有人仕様で貨物輸送としても余計な機能が多く、コスト高」と批判が上がっており、HTVの単価は100億円と言われている。つまり、H-2B(170億円)とHTV(100億円)の組合せでは1回の打ち上げ費用が少なくとも270億円であり、スペースシャトル打ち上げ費用の半値もするという国際商業市場では到底受け入れられない貨物物資輸送システム(H-2B&HTV)だ。では日本以外の宇宙輸送物資の現状はどうだろうか?調べると下表となる。

表を見ると日本以外の宇宙物資輸送システム開発国は、プログレスの輸送単価を下回る計画をしている。プログレスの輸送単価は1トンあたり26.6億円となっている。対して、アリアン5・PROTON・EAGLEロケットは、ミッションコストが上昇しても輸送単価はプログレスのそれを下回っている。つまり欧米露はミッション費用が上昇しても輸送単価を下げようとしているのだ。この“国際基準”に対し、日本のH-2BとHTVは輸送単価がプログレスよりも高く、非常に経済効率が悪い。よって製作しても国際市場では受け入れられない可能性が高い。しかもNASAは各国の物資輸送システムをバランスよく採用すると建前上は言うが、“競争入札で貨物輸送機を調達する”ことを正式発表しており、H-2BとHTVの組合せを入札すれば、真っ先にコスト高・物資輸送単価高の理由で不採用となるだろう。H-2BとHTV開発は徹底的に見直しが必要だ。

◎H-2Bの技術的問題点

 もしH-2Bをメーカーが独自の資金で開発・製造し、国際市場へ出るならば筆者は反対しない。しかしJAXA宇宙基幹システム本部は、技術開発と称して世界レベルに追いつこうとせず、国際マーケットに対応していない基準を独自に設け、国際競争力の無いH-2Bロケットを国民の税金で開発しようとしている。

 コスト効率の悪いH-2Bロケットを国民が負担しなければならないのは困るが、一方で技術的壁も存在する。現行のH-2Bは直径4.0mから5.2mに変更し、高出力エンジンLE-7を2台配置するという設計方針だ。これはロシアのように中出力エンジンを束ねる発想と思われるが、高出力エンジンを2機配置すれば、エンジン架台の推力荷重が2倍大きくなり、エンジンのノズルから跳ね返る熱(プルーム)が干渉してエンジンやロケット胴体下部に受ける熱負荷が膨大となり最悪溶ける可能性がある。ボーイング社のDELTA-Wロケットは、噂で聞いた話ではRS-68を2台クラスター化する検討をしたところ、エンジンの架台が熱負荷に耐えられず、溶け出す結果が出たそうだ。このような問題は高熱に対応した材料を使用する事も考えたがコスト上昇要因となるため、高出力エンジンRS-68を2台束ねるようなことをせず、ロケット本体を複数製造して結合することにした。そうすることでエンジン付近にかかる熱的負荷を軽減、結果的に製造コストを下げている。しかしJAXAでは熱的負荷の問題を十分理解していないのか、コストを意識せず技術暴走主義が横行したのか不明だが、開発も予定通り進んでいないようだ。この熱対策は、ケミカルケーシングと呼ばれる耐熱処理を施す対策で乗り切ろうとしている。しかしこれは希少材料を使用することを意味するため、さらにコスト上昇するだろう。

また、特許の問題もある。これら高出力ロケットエンジンのクラスター化は、海外では特許が取られている。この特許に抵触すれば、JAXAならば足元を見られて高値を要求されることが予測できる。しかも、特許はすでに取られていても具現化していない事実を見れば、「技術的にモノにならない」か「やってもコストアップ要因を招くだけで意味が無い」という結論を海外のロケット開発者がしている可能性があるのではないか?H-2Aは素材ベースで70%が輸入品であるが、DELTA-WやアトラスXのように性能は上げてコストを下げている現実を見ずに、モノになり難い海外特許技術を購入し、実施しても効果的とは言い難い技術開発をしているのではないか?高出力エンジンのクラスター化が仮に実現したとして、H-2Bが国際市場へ出ても競争力あるのか?という疑問点が残る。


H-2B(出典:JAXA)

◎国際基準に対応できないH-2B

 また、過去の紙面で紹介したように、アメリカのDELTA-WやアトラスXは、製造・輸送・射場システムを全て見直し、合理化を進めて次世代化し、ロケットが性能向上したにも関わらず、打上げ単価を下げている。例えばDELTA-3ではGTO:3.8tの打上げ能力で8000万ドル(88億円)だったが、DELTA-IV MediumではGTO:4.1tと上昇したが価格は7000万ドル(77億円)と発表している。それに加えて、ロケット1機に衛星1基という「1to1」時代終焉のため、大型ロケットはペイロード多様化時代に対応すべく、ESPA(EELV Secondary Payload Adapter:使い捨てロケット副衛星アダプター)を搭載したり、マルチバス(I-Cone・TrailBlazerTM・SHERPA)を搭載検討している。これは、ピギーバック体制ではインターフェースが工芸品でコストが下がらないため、標準化を進めてロケットと衛星双方の利便性を高めるものだ。今後のロケットには最低限必要な装備となるだろう。

この「ロケットとして売れ筋商品になるために、最低限必要な装備は何か?」という観点でもロケット開発を進めているアメリカ空軍のロケット戦略やアリアンスペース社の戦略を見習うべきだ。しかし、JAXAでは国際価格競争力の無いHTVを“物資は自前で上げる必要がある”と称してH-2Aで打上げることをせずに、無理やり大型化して高コストのH-2Bロケットシステムを新規開発させる体制で行われている。射場設備も20年に1度は更新の必要があるにも関わらず、射場システム・製造体制・輸送環境の効率化もせずにH-2B計画を実行しているのだ。これでは先代が築いたH-2ロケットの良い遺産が失われ、国産液体ロケット崩壊は時間の問題だ。その原因は宇宙基幹システム本部の戦略がグローバルスタンダードではなく、ドメスティックスタンダードで実施されており、世界を見ずに国内しか通じない基準と体制で行われている可能性が高い。


  
ESPA(出典:Lockheed Martin)   フレガート(出典:Soyuz user manual)

◎H-2Aライト計画

 また、聞くところによればJAXAはH-2Aライトと呼ばれる低価格ロケットを計画しているそうだ。しかし、中身はアメリカのDELTA-WSMALLと呼ばれる、企画倒れになったロケットをそのまま利用する提案だそうだ。DELTA-Wロケットは、米空軍が要求するEELV計画において、ボーイング社が小型から大型まで提案した。その注目すべき提案は、1段目のすべてがロケットエンジン「RS-68」を使用していることだ。そして2段目を「small型がAJ10-118K」、「Medium型とHeavy型がRL-10B-2」という体制とし、small型のみ3段目にStar 48キックモーターを採用するという提案だ。

 審査の結果、DELTA-WMediumとHeavyは、1段目と2段目が同じであり、量産効果も見込める事から採用となったが、DELTA-WSmallはSmall自身のコスト競争力が弱く、ESPAの採用が無い事、新規に開発されている小型衛星打上げロケットに将来的に吸収される事を理由に不採用となったようだ。この企画倒れのDELTA-WSmallの概要資料を三菱重工業が購入し、エンジンをLE-7AとLE-5Bにして補助ブースターSRB-AなしのH-2Aライトを計画しているそうだ。恐らく、H-2Aライト、H-2A、H-2Bとラインナップを揃える戦略を立てているのだろう。しかしこれは、一見量産化できてコストが下がるように見えるが、価格高のH-2Aのエンジンシステムを小型へ移植すれば、「大型トラックのエンジンを軽自動車へ載せる行為」と同じで打上げ重量単価が悪くなるため、やる意味が無く国力消耗型ロケットとなることは容易に予測できる。

 ここからは、あくまで筆者の憶測であるが、このH-2AライトはM-Vロケットと同等クラスとなってしまうため、計画立案者にとってはM-Vが邪魔な存在となる。しかし純国産固体燃料ロケットのため、安易に扱えば批判を受ける可能性が高い。よってM-Vの打上げ性能を下げたSRBとM-Vの組み合わせという「大いなる妥協ロケット」を無理に誰かが推進し、M-Vの後釜にH-2Aライトを据えようと計画しているのではないか?そして全てのラインナップを揃えた時点で次期固体ロケットとGXを追い出すシナリオを描いている可能性がある。

    
当初のDELTA-W計画案              (出典:Boeing)

 それには衛星側の理由もある。現在、JAXA筑波(旧NASDA)が計画している地球観測衛星や測位実験衛星は、衛星のミッション重量が軽くなったため、H-2Aではオーバースペック状態に陥っている。このため、本来のミッションとは異なる余計なミッション機器を搭載させた衛星計画を立案中だ。本来ならばM-Vの出番になるはずだが、JAXA筑波では、旧組織の確執が存在し、なにがなんでもH-2Aを利用しようとする背景があるそうだ。

これならば、次期固体燃料ロケット計画にJAXA宇宙基幹システム本部が“SRB-Aを第一段目に使用する案に固執している”理由が通る。また、M-V開発メーカーもレベルは低くとも“新しい技術開発”が出来れば反対はしないだろう。しかしそれは、自社ロケットが淘汰される潜在性を持っている事には気付いていないようだ。

優秀でまともなロケット技術者ならば、SRB-AとM-Vの組合せが如何に低レベルか理解しているはずだ。なのに、純国産固体ロケット技術を低レベルな扱いで抑えこもうとする理由は何か?次期固体ロケット計画が出た後に、H-2Aライト計画が出てくれば、筆者の憶測が正解なのかもしれない。

以上、あくまで筆者の憶測レベルだが、Delta-4 Smallの概要資料をアメリカのメーカーから購入した事実から上記の背景があるかもしれない。また、Delta-WSmallのコピーまがいのH-2Aライト計画は、液体ロケット技術の輸入部品体制に拍車をかけるだけであり、メーカーが自己資本で開発するのはいいが、純国産のM-Vを淘汰する程の価値のあるロケットではなく、国として開発する必要は無いだろう。

◎JAXA宇宙基幹システム本部の組織的限界

 以上のように筆者の憶測が間違っていなければ、非常にフェアとは言えないロケット計画をJAXA宇宙基幹システム本部が立案している可能性がある。この憶測が杞憂であって欲しいと願うが、JAXA宇宙基幹システム本部が、コスト高で国際基準を大きく外れた高コストのH-2BとHTVの開発を容認し、M-Vの弱点ばかりを指摘して「コストが高いから止めろ」とレベルの低い次期固体ロケット計画を立案している実情からすれば、とても“開発方針軸を持った公平で競争概念があるロケット計画”を立案しているとは言い難い。すでに学術及び技術開発目的としたロケット開発体制は限界を迎えており、国際基準へ対応した体制が必要だ。よって現状のJAXAロケット開発体制は見直しが必要な時期に来ているだろう。今後は“過去の組織形態”に縛られない、すばらしい戦略的プロジェクト・マネージャーが育って欲しいと願うが、現状は厳しいようだ。

ロケット技術導入企業一覧

(出典:DoD International Cooperation and Competition in Civilian Space Activities)

 おそらく、JAXAも含めて日本には科学経営資源の乏しい体制があるのではないか?ロケット開発を実施するならば、国際動向を見ながら5年〜10年先や20年を見て戦略を練らなければならないが、実態はロケットエンジニアが“一生に一度のチャンス”とばかりに目先の技術暴走主義へと走るようで、いまだに手工芸・手作りロケットのやり方を推進している。また、液体燃料ロケットは米国から技術導入をした経緯があり、技術の基本を理解していないで使用している可能性がある。そして事故を起せば物理的に読めない量の書類を作成し、問題点の根源を直そうとしない経営方針にある。この書類作成の嵐によって、ロケット技術者作業全体における7割〜8割が書類作成に割かれているとの噂だ。これではロケット技術者が育つはずもなく、国際市場では勝てない。書類作りがロケット開発ではないのだ。

◎国産液体ロケット開発の歴史

 日本の国産液体ロケットは当初、独自開発をしていたが、相次ぐ開発遅延の問題と、固体ロケット技術が伸びてコントロールが効かなくなる危険性を感じた思惑から、昭和48年の日米両国政府間の技術協力によって米国からの技術導入へと方針転換し、静止気象衛星や通信放送衛星を打上げるためにアメリカからロケット技術を学んだ。その技術移転の際に日本側は「液体酸素・液体水素エンジン」か「液体酸素・ケロシン(灯油)」の双方を検討している。当初は拡張性があって扱いも楽な「液体酸素・ケロシン」を採用する方針が大勢を占めたが、海外企業からの技術情報開示が困難であった事と、当時のロケットメーカーらが日本市場を拡大したいという思惑と政治的背景から、技術的に困難でコストも高くなりがちな「液体酸素・液体水素エンジン」を選択している。

そして当時のマクドネル・ダグラス社からDELTA-Mロケットを購入し、N-1として各メーカーらが組み上げて打上げた。このN-1ロケットは「DELTA-NIPPON」の意味をこめてN-1と命名されている。そしてアメリカの各メーカーからノウハウを学び、技術を購入して次第に少しずつ自主開発できる道を作った。そしてN-1、N-2という段階を踏みながら、H-1では2段目エンジンLE-5を国産化し、「純国産ロケットH-2」へ行く道を作った。そして旧NASDAはH-2で液体酸素・液体水素を燃料とする高出力ロケットエンジン、LE-7とLE-5Aを開発した。このLE-5からLE-7へ行く過程においてが最大の壁だったと言われている。なぜならLE-5では推力103kNに対し、1段目エンジンを国産化したLE-7では推力が1078kNと1ケタも増えているからだ。


      国内外エンジン開発の比較(出典:IAC2002)

 この液酸・液水エンジン技術は非常にレベルが高く、ケロシン系エンジンと比較して比推力(いわゆる燃費)が高く(良い)、推力重量比(推力に対するエンジン自重の比率)が低い(悪い)という特徴を持つ。つまり、液酸・液水エンジンは、ケロシン系エンジンと比較して“比推力(燃費)は良いが、エンジン重量に対する推力発生効率は悪い”という特徴があり、一長一短というわけだ。この当時公表資料の少ない中で旧NASDAと三菱重工業は暗中模索しながら独自開発した。しかもLE-5と比較して強力なLE-7ロケットエンジン開発は設計・製造・加工法などが異なったため、開発は熾烈を極めた。そして16基のエンジンを試作、280回の燃焼試験失敗を重ねてLE-7を開発したのだ。そしてLE-7開発後は製造法を簡易化したエンジンLE-7AがH-2Aロケット用に製造されている。しかし、LE-7と比較してLE-7Aでは、推力が多少増加したものの、それ以上に重量が増加したためエンジンの推力重量比が低下し、比推力(燃費)も低下している。つまり、自動車のエンジンで言えば「馬力は上がったが、パワーウェイトレシオが悪化、燃費も落ちた」という意味に値する。これを自動車サイドから見れば「いいエンジンを作った」とは言えないだろう。この事実を海外のロケット開発企業はしっかり見抜いており、H-2A用に開発したLE-7Aを「新型エンジンの方が、性能悪い」と評価しているそうだ。さらに近年では燃費・推力重量比が落ちたエンジン(LE-7A)をクラスター化しようとしている状況にある。

今後のロケットエンジンは、上記のような場当たりではなく、開発方向の“軸”をもって国際基準に合うロケットエンジン開発体制が必要だ。


ロケットエンジンの推力重量比一覧表(出典:Space Works)

◎液体酸素・液体水素ロケット技術の重要性

筆者は、この液酸・液水エンジン技術は非常に重要であると考えており、30年後より先には最も生き残る可能性の高いロケットエンジンだと考えている。

 その理由は、最近の動向だ。まず、中国が非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)と四酸化二窒素という劇物系燃料路線を変更し、液酸・液水エンジン開発へ着手したそうだ。そして、ある日本系企業へ発電所施設を購入する変わりに液酸・液水エンジン技術を提供するよう依頼してきたそうだ。これは絶対に開示してはならないだろう。日本の苦労の証を易々と出すものではない。さらに中国は海南島へ射場を建設しようと計画中で第一段目がフライバックするブースターも開発ビジョンの中に入れている。この事実から、中国は打ち上げ能力向上を目指して技術レベルの高い液酸・液水エンジンへ着手し、赤道付近への移動も視野に戦略的展開を始めた。これは何を意味するのだろうか?筆者は液酸・液水という燃料のメリットだと考えている。 

 超大型ロケットを開発しようとしているアメリカ・中国・フランスは「液酸・液水ロケットエンジン」と「海岸線・赤道付近の射場」を目指していると考えている。射場が海岸付近にあるのは、第1段やブースター落下を海上投棄して安全を保つためと見られがちだがそれだけではない。実は、将来的にロケットが量産化された場合に、海水をくみ上げて液酸・液水の製造をするプラント戦略も考えられている。よくよく考えてみれば、今後はロケットの燃料と酸化剤の価格もコストダウン対象となる。一方の固体燃料ロケットは、将来的にバイオ系推薬へと活路を見出そうとする動きがあるが、液体ロケットは、劇物系推薬とケロシン(灯油)や天然ガスを長い目で見れば、原材料の価格上昇はあっても低下は今後望めないだろう。むしろ原油高の高騰が激しく、ケロシンベースのロケットは量産レベルになった際に価格競争力を失う可能性が高い。つまり、今後価格競争が激化しているロケットにおいて、“製造・輸送・射場経費”に加えて“推薬の価格”もコスト競争化する可能性があるということだ。

自動車で言えば、ガソリン車とディーゼル車が燃料の安定供給と価格が安かったため普及したが、木炭車や蒸気自動車は馬力も低く扱いも困難だったため淘汰された。こういうことが、20年先にロケットの世界でも十分起こり得るのではないか?そうした場合、ロケットの燃料や酸化剤の製造・調達費を考えれば、自然界において豊富に存在する水素と酸素を燃料とするロケットは競争力が高くなるはずだ。現状の液酸・液水ロケットは構造が複雑・価格高・取扱困難だが、ポンプフィードや圧力フィード型エンジンの選択、民生材料の活用などで製造コストの削減に努めれば、将来的に最も優位なロケットとなる。

◎日本は優位的ポジションにいる


 つまり、固体ロケットも液体ロケットも自然界に多く存在する燃料と酸化剤で行こうとする“自然回帰型”の流れがあるようだ。以上の観点から筆者は、日本が1980年〜1990年代にかなりの国費と人的リソースを投じて液酸・液水ロケットエンジンであるLE-7とLE-5を開発したことは正しかったと考えている。一時はケロシンを目指した方が良かったと考えたが、長期的視野では液酸・液水ロケットエンジンの方が総合的観点で優位だ。日本は当時少ない情報の中で独自開発した経緯があり、日本のロケットエンジニアへ最大の賛辞を送ると同時に、日本として誇りに思うべきだろう。

 しかし目先のロケット価格をみれば、現在はケロシン系ロケットエンジンが全盛期だ。JAXAはこの目先の良さを見て「すぐに飛びつく」傾向があるが、自国の持つ液酸・液水エンジンの潜在的優位性を十分認識していないのではないか?すぐにメリットだけを並べて飛びつく戦略では将来が危うい。現状を見て将来を展望する視点が不足しているのではないか?ロケット開発は10年、20年、30年先を考えて熟慮を重ねて実施すべきだと考えられる。例えばボーイング社のDELTA-Wロケットやスペースシャトルの液酸・液水エンジンを開発しているボーイング社ロケットダイン部門は、プラット&ホイットニー社へ売却された。プラット&ホイットニー社は液酸・液水エンジンで数々の実績を挙げている企業だ。一部報道ではボーイング社ロケットダイン部門の採算が悪いため、リストラの一環で売却されたとの噂があったが、DELTA-Wという最新ロケットを開発している段階に売却とは何らかの意図があるのではないか?これも筆者の憶測だが、アメリカは液酸・液水エンジンの将来性を見込んで、国家戦略としてプラット&ホイットニー社へ技術を集約し、将来的にボーイング社やロッキードマーチン社のロケットへ液酸・液水エンジンを供給する体制を想定しているのではないか?また、ロッキードマーチン社のアトラスXはケロシンエンジン(RD-180)を使用しているが、ロシア製技術でここ10年は繋ぐ方針でも、「最後の勝者は液酸・液水エンジンになる」と考えているのではないか?もしそうならば、ボーイング社が液酸・液水エンジン部門を売却した理由がわかる気がする。ロッキードマーチン社とボーイング社共同によるロケット打ち上げベンチャーULA(United Launch Alliance)にて、デルタ・アトラス統合型ロケットが検討中だそうだが、新しく提案されるロケットが液酸・液水エンジンであれば、この憶測は正しいのかもしれない。よって日本のLE-7とLE-5という液酸・液水エンジン技術とその取扱い及び、次世代戦略は非常に重要なのだ。


しばらくはケロシン系ロケットエンジンが優位だが?
(出典:Lockheed Martin, Interspace News)

◎液体ロケットの今後は?

 この重要な液体酸素・液体水素(液酸・液水)エンジン技術の重要性を見れば、H-2B計画は非常にコンセプト能力不足だ。しかも噂で聞いたが「H-2BはJAXAロケットチームの雇用対策」という名目で実施されているそうだ。その理由は恐らくH-2Aが三菱重工へ移管されるため、旧NASDAのロケットチームは技術開発対象を失ってしまったためだろう。恐らく旧NASDAの流れをくむ宇宙基幹システム本部は“開発するロケットが無ければ困る”という名目で、なし崩し的にH-2Bが立案されている背景があるかもしれない。しかし、ロケット製造体制の合理化、射場システムの即応化、低コスト化という“必然”を取り入れずに、LE-7Aでの失敗点を改善するのではなく、クラスター化してコスト増を招いて、世界に通用しない独自のロケット開発をしていては、海外打上げサービス会社が「日本のH-2ロケットシリーズは技術開発用で、特定宇宙組織専用のロケットであり、国際市場へ対応できない」と永遠に言われ続けてしまう。それに加えてH-2Bができると、H-2Aとの共通性は実質失われるため、製造元の三菱重工は「H-2A製造をやめた」と言えば、H-2Aよりコスト高のH-2Bを国民の税金で買わされる羽目になる。この輸入品体制・コスト高・国際基準を満たしていないH-2Bロケットでは、緊縮財政下で身動きが取れずに将来的優位性のある液酸・液水エンジンが没落する危険性が高い。

 よって今後は“将来に繋がる技術”を磨くロケット開発をしなければ意味がなく、現行のH-2B計画は至急中止し、“一世代やり過ごして次のモデルで勝負”すべく戦略を徹底的見直すべきだと考えている。HTVは価格の安い海外ロケットを使用するか、HTVを小型化してH-2Aで補給すればよい。JAXAは過去に海外ロケットを使用した実績(ドニエプル)があるため、可能だろう。HTVのために国際競争力の低いH-2Bを開発するよりは費用対効果が良いはずだ。

◎今後必要な液体ロケット開発思想

 例えばボーイング社のロケットダイン部門(現、プラット&ホイットニー社)が開発したRS-68の例を見てみよう。RS-68はスペースシャトルのメインエンジン(SSME)よりも比推力は下回るが推力は1.5倍もあり、推力重量比も同等クラスの液酸・液水よりも強力なエンジンだ。このエンジンはデルタWや次世代貨物ロケット(CaLV:Cargo Launch Vehicle)での採用が決定している。


RS-68の開発ポイント(出典:IAC2002)

  このRS-68開発は、性能向上しながらもコストダウンを徹底的に意識し、省力化に努めている。例を挙げれば、SSMEと比較してパーツ数を80%削減し、開発人件費を92%も削減したことだ。そしてロケットダイン社独自のRocketdyne Advanced Process Integration Development (RAPID) 計画に基づいて、設計・有限要素解析・品質・試験データ・材料価格など、エンジン開発に必要なツールを開発、自社と提携企業とリンクして効率的なエンジン開発を行っている。そしてCFD解析・熱解析・構造解析を通してRS-68設計案を固めながら、民生品の使用、溶接・ろう付け作業の低減、圧力接着など製造方法を一新して開発費を低減した。そしてRS-68を12基試作し、試験数183回(SSMEは18基試作615回試験)で完成している。このRS-68は過去海外で製造された液酸・液水エンジンよりも試作数・試験数が少ないそうだ。この省力開発思想は今後の日本にも必要だろう。

「製造・輸送コスト低減」

また、今後はH-2Aの製造コストの低減に努めるべきだ。海外ロケットメーカーを見ると、コストダウンのために大手メーカーが材料を先物市場などで一括購入し、パーツ製造企業へ直接供給し、製造コスト低減を図っているそうだ。希少材料を使用するロケットは、これだけでかなりのコストダウンが可能だ。そして輸送費削減も必要だろう。過去の紙面で述べたように、ロケット製造の際に加工や組立て体制が複雑で、それに伴い輸送体制も複雑だ。よって今後は製造ラインの改善によって余計な輸送費が発生しないようにする体制が必要だ。

 
DELTA-4製造現場                        DELTA-W輸送(出典:Boeing)

「マルチバス・マルチアダプター」

 次に、小型衛星搭載の標準化を目指してマルチバス及びマルチアダプターの開発が必要だろう。これは過去の誌面でも述べたが、ロケット1機に衛星1基時代が終焉し、機能最適化時代到来と宇宙利用拡大を目指して必要となる装置であり、今後のロケットの標準装備機能として最低限必要だ。衛星1基のために、工芸品製造の結合装置を製造していては話にならない。また、海外のロケットエンジニアから「H-2Aのフェアリング部の構造は強度不足の可能性があり、ESPA(EELV Secondary Payload Adapter)の搭載は困難」との指摘を得た。恐らくロケットの最終段と衛星搭載装置間の強度が不足している可能性がある。つまり、ロケットとして今後、最低限必要な装備が載せられない可能性があるというのだ。さらにGXロケットもH-2Aの設計をそのまま採用しているため、海外からの指摘が正しければ、この両者は将来的に生き残れない可能性があるため、改善が必要だろう。

「国際アライアンス」

今後は、ロシアがクールーへ進出して中国が海南島へ進出したように、赤道付近への進出がはじまるだろう。恐らく、クールーや海南島に加えてハワイ・サイパン・アセンション・太平洋環礁・沖ノ鳥島などが候補として考えられるが、その際に必ずランチ・アライアンスが発生する。エアラインのように独自路線からアライアンス路線へ方針転換したように、宇宙にもアライアンスの時代がやってくるだろう。恐らく今後は、欧露・米露・中国による3大宇宙巨頭体制が出来上がるはずだ。その際に日本・イスラエル・インド・ウクライナ・ブラジルなどが独自性を持ってどのアライアンスへ入るのか決断を迫られる時期がいずれ来る。そして液酸・液水ロケットであるH-2Aや後継機も、何処と組むべきか選択を迫られる時期が来るだろう。その際に、日本の国家宇宙機関は「優位性を持たせた状態でロケットをアライアンス入りさせること」が要求されるため、今後は“水素や酸素を製造するタンカーや製造プラント技術”や“材料・加工技術”などを磨いておくべきだろう。これはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)で基礎研究が行われているので、これを応用すれば可能かもしれない。魅力ある「交渉カード(技術)」がなければ相手にされないため、その対策として必要な手段である。そして20年後には日本の液酸・液水ロケットが、JAXAのような技術開発手段として開発する体制を脱皮して、独り立ちできる体制が出来上がっていれば理想だ。よってJAXA宇宙基幹システム本部の組織形態を至急見直す必要があると考えている。ロケット技術を小手先や雇用対策や技術暴走ではなく“基幹”から育て上げる戦略が今、必要なのだ。

◎まとめ

 ロケットは機能最適をすれば、古くても万能型ロケット「ソユーズ」のように“しぶとく”生き残れることが分かった。ソユーズは、価格も安く・信頼性も高く・マルチバス機能(フレガート)を有し、赤道付近のクールー射場へ進出しているため、少なくとも15年〜20年は生き残れるだろう。またこれに合わせて欧州はロシアとともに有翼有人宇宙船「クリッパー」開発を開始している。一方、アメリカでは即応宇宙政策によってロケットの製造・輸送・射場システムを抜本的に見直してコスト勝負できるロケットを開発した。そして中国は海南島へ移転し、劇物系推薬からクリーンな液酸・液水エンジン開発をすべく、裏で日本企業へコンタクトしてきている実情を紹介した。

 世界がコスト・機能最適・射場を意識して次なる“一手”を打つなか、JAXAのH-2B計画は、低コスト化・製造輸送体制の次世代化・射場システムの省力化時代に全く対応できていない事実が明らかとなった。これは技術開発を目的としているJAXA宇宙基幹システム本部の体質に問題があるためだが、今後はデルタやアトラスロケットのように、「射場システムの更新」、「打上げ能力は向上しても打上げ単価は低下するロケット体制」や「アライアンス時代に対応できる技術」を磨いて国際基準を満たす開発体制の方が、日本のロケット産業として発展できる可能性が高い。よって組織体制見直しが必要だ。

 少し厳しい意見を述べたが、日本の液体ロケットが瀬戸際に立たされている現状を読者のみなさんに知って欲しいと同時に、日本の液体ロケットが国際基準を満たしたものになって欲しいと切に願う。


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