未来ランチャー戦略(ハイコスト・ノーリターンランチャー)
   (エアワールド2008年11月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年11月号」をお買い求めください

本稿では先月号の分析に加え、更なる国際動向を分析しながら日本が目指すべき未来ランチャー戦略を考察してみたい。

◎将来宇宙輸送戦略の策定(モジュール・ユニットランチャー)
 打上手段は、技術開発暴走主義や国威発揚で作る時代ではなくなった。同等性能のロケットよりもコストを可能な限り安くして信頼性も高く短納期という、いわゆるユーザーのための「国際商品」を作るのが宇宙先進国での主流となっている。この目的を達成するには、ロケットを工芸品として製造するのではなくモジュール化することだ。この動向が先月号で示したように、米国のDELTA-IV、ATLAS-V、欧州のARIANE-VやSMALLランチャー動向、ロシアのSOYUZシリーズ、ROCKOTとCOSMOS-4計画というモジュール・ユニットランチャーがある。


ATLAS-V及びAngaraのモジュール・ランチャー設計思想(CNES)

 このモジュール・ランチャーは、ロケット全体の約6割を占める1段目を共通化したり、異なるロケット同士でブースター・2段目・アッパーステージをモジュール利用することで、ロケット製造や開発コストの低減、信頼性の確保などを図り、量産化に加えてロケットが大型化してもコスト上昇を最小にすることができる。つまり、今後のランチャーは“優秀なモジュールを採用”し“高いコンセプト戦略”を作った者が勝利する時代なのだろう。
 また、将来展望も見越したモジュール開発も示されている。それは、フライバックブースター(再使用ロケット戦略)だ。筆者が過去紹介したフライバックブースターは、Baikalのように新規製造型も存在するが、アメリカとフランスは既存系活用型の再使用モジュール・ランチャーを研究発表している。それは、SPACEWORKS社のARES(Affordable REsponsive Spacelift)とCNESが提案しているEVEREST(Evolved European Reusable Space Transport:進化した欧州再使用型宇宙輸送)である。
 ARES資料を分析すると、上段の使い捨てロケットはSPACE-XのFALCON-1ロケットエンジンをモジュール採用している。FALCON-1は最近また打上失敗したが、ロケットシステムとして失敗したのであって、エンジンの素地が悪いというわけではない。また再使用段である1段目もRD-180やNK-33というATLAS-V、GX、TAURUS-II、SOYUZ-3で採用されている液体酸素/ケロシンエンジン技術を流用し、帰還時の空気吸入式もGE社のF118エンジンというU-2やB-2で使われている高高度飛行対応型ジェットエンジンが使用されているのだ。
 EVERESTも様々な研究設計案が発表されているが、基本はARIANE-Vで使われている1段目エンジンVulcain-2エンジン技術を流用している。EVERESTでは1段目エンジン1基あたりの推力要求が1640kN以上としており、Valcaine-2エンジン(約1400kN)を性能向上したものを想定している。このエンジンを採用し、1段目は5基クラスター化し、2段目は2基クラスター化して打上時に十分な推力を得る発想である。


将来再使用ランチャー案も既存系活用のモジュール・ランチャー
(出典:Spaceworks、筆者追記)

 つまり、ARESもEVERESTもゼロから作るのではなく、既存系を活用した再使用型モジュール・ランチャーなのだ。しかも闇雲にモジュール採用するのではなく、再使用部は優秀な技術を有する量産エンジン系統(RD-180、NK-33)技術を流用し、上段の使い捨ては可能な限り安いロケット(FALCON-1は低コスト・即応型ロケット開発を目的として開発されている)を使うという、コストバランスを追求している。これならば、ゼロから開発するよりも、開発期間短縮を図れ、コスト競争力もあるのではないか?しかし、ロケットエンジンの再使用化の技術開発戦略は不透明であり、今後の推移を見守る必要があるのも事実である。ARESやEVEREST研究は、「闇雲なコスト無視型開発ではなく、使えるモジュールを使えば可能性は拓ける」というメッセージをもった将来展望を見据えた研究だろう。このように、“未来の再使用輸送機を研究(未来)”しながら現在の技術力を鑑みて、「今すべき事は何か?」と問いながら欧米露では戦略を立てている。

◎LOW-COSTランチャー開発も進む(ナノ/ピコランチャー開発)
 モジュール・ランチャー開発が進む一方で、低コストランチャーの開発も着々と進められている。それは、再使用観測ロケット技術を流用したナノ衛星打上ランチャーだ。アメリカではカリフォルニア州立大学の学生とベンチャー企業があつまり、観測ロケットを開発している。これは教育の一環として実施されているが、宇宙教育を思う資金豊富な財団が彼らを支援、液体酸素/エタノールエンジンをベースに再使用観測ロケットを開発中である。この開発しているエンジン技術を伸ばしてナノ衛星(1kgクラス)ランチャーを計画している。近年ではエンジン開発を実施しており、推力は4500ポンド(2025kg、20kN)の開発を進めているが、目標としては推力レンジ2250〜5095ポンド(11.3〜22.6kN)のエンジンを開発、再使用観測ロケット飛行時の推進剤は液体酸素/エタノール、ナノ衛星ランチャー飛行時は液体酸素/プロピレンを推進剤とする、燃料共用エンジンを開発するとのことだ。


観測ロケット技術で衛星打上ロケットを開発中(AIAA)

 近年では、エンジンのインジェクター試験、点火系の試験、エンジンチャンバーの製作を実施、さらに燃焼試験による試験を経て打上試験を実施している。現在は失敗を繰り返して知見獲得が続けられているが、もし新型エンジンができ、大型化すれば新たなLOW-COST衛星ランチャーの登場へ繋がり、さらに再使用ロケット時代となれば、将来の上段使い捨てロケットやアッパーステージとして採用されたりするかもしれない。また低コストの観測ロケット・ナノランチャーを開発する一方で、未来の極超音速エンジンの開発もしている。この3本コンセプトでユーティリティーあるLOW-COSTランチャーを開発しているのだ。


極超音速エンジン開発(Garvey Spacecraft)        NASAのナノ衛星・ランチャー計画(AMES) 

 これら動向に加えて、NASAのエイムズ・リサーチセンターが5kg以下の超小型衛星の開発も行っており、これらLOW-COSTランチャーと超小型衛星技術が新世紀の宇宙活動を支えるものとなるのだろう。おそらく、キーワードは「NANO/PICOから始める」というものなのかもしれない。

◎CNESは学生インターンシップ受け入れでLOW-COSTランチャー開発中
  さらにLOWCOSTランチャー動向はハイブリッド・ロケットも注目すべきだろう。ハイブリッド・ロケットは、大型化は非常に困難という結論が出始めているため、大手メーカーは撤退し始めたようだが、小型の観測ロケットや小型衛星ランチャーとして模索が続いている。開発国は日・米・欧だが、商業ベースでは、バージン航空が出資する弾道飛行用の宇宙旅行機(スペースシップ・ツー)が開発中である一方、ハイブリッド・ロケット技術を組み合わせて戦略的で魅力的な展開をしているのはCNESだ。
 CNESでは、PERSEUS計画(本誌2008年5月号参照)という欧州大学を対象とした教育プログラムの一環とした宇宙科学研究計画を実施している。
 これは、フランス宇宙機関CNESと国防研究機関ONERAが開発する無人機に対し、インターンシップの学生と中小企業らが制作したハイブリッド・ロケット「DEDALUS」を搭載する空中発射ロケットを開発している。つまりCNESがナノ・ランチャーを学生に作らせているのだ。これら技術開発動向は公表されており、着実に学生ベースのナノ・ランチャー開発が進められている。

◎UP Aerospace観測ロケット事業は、大手とも組んで再使用ロケット実験
 観測ロケット事業が商用ベースで運用されている事例もある。それはUP Aerospace社の観測ロケットSpaceLoftシリーズだ。最近では、「スタートレック」でスコッティ機関長役を演じたJames Doohan氏と、マーキュリー7号宇宙飛行士のGordon Cooper氏及び日本人などの28人分の遺灰が搭載され、打上げられた。価格は1グラムの遺灰で約500ドル(約5.5万円)だそうで、商業事業化されている。また、リサーチ・ナノスペース・ランチ・ビークルシステム(RNSLV)として、本誌2007年11月号で示したように、SpaceLoftという多目的(気象観測、UAV派遣、高速機開発、小型衛星打上げ)ロケットを使い、再使用ロケット技術実証としてロッキードマーチン社から受注している。これは2008年8月には、非公開で実験を行っており、内容は明らかにされていない。民間であれば、非公開実験は比較的容易なのだ。また同時に“高価”で“使い勝手が悪く”、“ペイロード比が悪い”というユーティリティーのないJAXA再使用観測ロケットの利用意義が低いことを感じさせられる。

 
非公開打上も実施しているUP Aerospace社のSPACELOFT(UP Aerospace)

◎地対空ミサイル(SA-2)をピコ・ランチャー化する動向も
 また、ミサイルをピコ(1kg以下)ランチャー化する動向もある。使えるモジュールを使って衛星打上化する発想で、ミサイルのように垂直打上するのではなく、固体ロケットの効率的打上を行うために、ISASが実施している傾斜型ガイドレール発射台を使用するようだ。さらに興味深いのは、地上打上に加えて空中発射ロケット化も検討していることだ。論文発表者(GIMBALS FOR VECTOR CONTROL OF NERVA LIQUID MOTOR TRANSPORTERS, SISOM 2008 ,29-30 May)の論文引用リストに、ISASと旧日産が1991年に発表した空中発射システムの論文(MATSUO, H., KOHNO, W., MAKINO, T., NAGAO, Y., HIROSE, H., Conceptual study of Airlaunch small satellite launcher system)が入っているのである。この論文は2008年5月に公表されており、彼らは小型衛星打上ロケットを地上から空中発射へ変更するだけで打ち上げ能力が倍以上になるという論文結果に興味を示しているのかもしれない。


SA-2をベースに1段目を液体化したピコ・ランチャー / 飛行経路解析(SISOM)

 ここで疑問に思うのは、日本は高性能観測ロケットがあるのに、なぜコストダウンして市場進出しないのだろうか?それどころか、トータル開発費100億円という、余計にコストのかかる再使用観測ロケット(RVT)をJAXAが計画している。これは技術・コンセプト・コスト・ユーティリティー・将来展望のバランスで評価をすれば、最適な戦略なのか非常に疑問が残る。また、下記に記すが国際再使用エンジン動向と比較しても性能が低い上に全重量におけるペイロード比率が比較的悪いため、ある意味「文鎮ロケット」とも言え、技術投入時期・市場性・費用対効果のバランスではなく、研究者の興味本位で計画を立案しているのではないか?
 日本がLOW-COSTランチャーをやるならば、やはり優秀なISAS観測ロケット技術を“低コスト化”してモジュール採用し、国内外のモジュール組み合わせも鑑みて、観測・ナノランチャー・極超音速エンジン実験(RNSLV)へ利用した方が、低投資で多くの成果を引き出せる上に宇宙外交も展開できると考えられる。技術・コスト・戦略のバランスの追求が大切なのだ。宇宙予算は決して無限ではない。

◎国際ベンチマークは低コスト・短納期・国際市場対応
 以上、各国の動向を見れば、国際市場で通用するランチャー・システムを作るために、ロケット開発側がすべき要求事項は「低コスト・短納期・国際市場対応」であるのは明白だ。技術開発をベースとして数百億円以上かけて(国際市場で通用しない)衛星打上ロケットを開発することはもう許されない。このため、大型ランチャーや既存ランチャーは先月号で示したように「共通モジュール化」や「発射台の共通化」及び「アッパーステージによる打上レンジ幅の確保」により、既存ランチャーを整理統合している。さらに

・ RL-10エンジンによるDELTA-ATLASアッパーステージの統合や、ROCKOTアッパーステージBREEZE-KMをAngaraとCOSMOSが採用、NK-33エンジンをSOYUZ-3とTAURUS-IIが利用などの「ユニット・モジュール交換」

・ 再使用型エンジンを含む欧州・ロシアのフライバックブースター技術開発や、コスト最適な有人宇宙システム計画及びロシア・イスラエルによる共同商業打上活動「START-1」などの「国際提携による共同開発」

で、エンジン・射場・マーケット統合も起きている。そしてこれらモジュールによる既存改良で「Minotaur-1ロケットの空中発射バージョンであるRAPTOR-2」、「ICBMのSS-25(RS-22)モータとCYCLONEエンジンを組み合わせてSTART-1やSpace Clipper空中発射ロケット」が登場している。このように、コスト・技術・新時代へ対応するためにランチャーの整理統合が行われているのだ。


既存モジュールで中型空中発射ロケット案を公表(YUZHNOYE)

 よって、これら動向から見ても官需依存型ではない国際商品ランチャーを開発しなければ、国際舞台で戦えないためロケットは必然と低コスト・短納期・国際市場対応が求められるのである。

◎インターナショナル・フル規格ランチャーは5系統か?
 将来は最適なモジュール化を進めて、従来よりも低コスト化し、納期も短いランチャーを作ったものが勝者となる。このため国際動向と需要から見れば、筆者らは静止軌道へ大型衛星も打上げられるフル規格ランチャーは、5系統が需要と供給の面から最適だと考えている。その5系統のうち4系統は長期的視野で「DELTA-IV、ATLAS-V、Ariane-V、Angara」になると考えられ、残り1つの指定席に「中国・インド・日本」のランチャーが争うことになると予測している。果たしてインドのGSLV、中国の長征シリーズ、日本のどれが生き残るのだろうか?当然ながら、コスト・納期・性能・実績で評価され、決して“信頼性のみ”で評価されるわけではないという認識が必要だ。今後はフル規格ランチャーとして世界で生き残る条件を理解する必要がある。それでは今後、どのような技術戦略を進めれば良いか?項目を挙げて考えてみよう。

◎将来ランチャーの技術戦略目標
 今後、ランチャーを開発する上で、最低限必要な技術戦略を考察してみるが、その前提条件に、日本独特の「液体は液体」、「固体は固体」という文化はもはや時代遅れであることを明記しておきたい。ランチャーに必要なのは、可能な限り最適なコストと組み合わせで作り上げることであり、「ISAS文化を崩壊させ、液体ロケット中心主義を掲げる」もしくは「コスト意識がなく、公共宇宙しか見られないロケット計画」は、何ら技術戦略上の優位性をもたらさない。

★利用用途拡大が可能なエンジン(第1段目エンジン競争)
まず、1段目液体エンジンを開発するならば、性能向上とユーティリティーを意識した技術を追求しなければならない。RD-180エンジンは先月号で示したように、

・ 完全使い捨てロケット(ATLAS-III、ATLAS-V)として利用

・ 将来はフライバックブースターに加えてTSTO(2段式宇宙輸送機)

を見込んでいる。再使用時代の到達にはエンジン長寿命化と推力向上ビジョンが必要だ。現在のロケットエンジンは、1エンジンあたりの作動時間はせいぜい1時間程度(地上試験&実フライトで積算)である。これを数十時間、数百時間と長時間燃焼できるエンジンを段階開発し、RD-180を使ったRFS(Reusable First Stage:先月号参照)実験を組み合わせてフライバックブースター(HLV)へ行き、最終的にTSTOへ行くという、将来の再使用ロケット時代へ備えた技術戦略で実施されている。
 RS-68エンジンもそうだ。RS-68を開発した旧ロケットダイン社(現、P&Wロケットダイン社)では、RS-68知見を流用したRFSやフライバックブースター用にRS-76再使用エンジン設計案を公表した。実際に製造されているかは不明だが、同社はRS-68の約1.5倍推力の高いRS-84エンジンも従来の液体水素系燃料ではないケロシン燃料系で設計、再使用時代に備えたエンジンとしている。このように、長寿命エンジン時代に必要な知見を積み上げているのだ。
これら背景からエンジン性能競争が勃発している。サイズによって異なるが、現在のDELTA-IVやATLAS-Vなど大型ロケットは、固体補助ブースターなし(コストダウン)でリフトオフするには、1段目エンジン推力が2800kN以上(海上レベル)は必要なようだ(H-2Aのそれは約840kN)。また、サイズが少し小さいAngaraロケットは推力が約1900kNである。海外では、フル規格型大型ロケットにおける液体エンジンは、比推力よりも推力を重視しているようで、燃費(比推力)より馬力(推力)を重視している。無論、エンジンの馬力重量(推力重量比)も高い必要がある。
 以上、米国・欧州・ロシアの1段目エンジンは「ユーティリティーと推力向上」を必須としてエンジン開発の技術戦略を立てている。これが出来なければフル規格ランチャーとして勝者になれず、将来の再使用時代も拓けない。これは固体ロケットの世界も同様で、日本(ISASのM-Vロケット)が高い優位性を持っていたのは過去に述べたとおりである。
 ではどの液体エンジンが1段目で勝利するのか?現在は総合的にケロシン燃料系エンジン技術を有する側が優位ではないか?と考えている。地球近傍で使われる1段目エンジンは、“重力の強い地上”を離れるための“ブースト機能”として利用されることから、どちらかと言えば比推力(燃費)より推力(馬力)が重視される。この条件を満たす燃料系統は“ケロシン(RP)/液体酸素”であろう。単位面積あたりのエネルギー量が液体水素に比べて大きいからである。ケロシン(灯油)が枯渇すれば、海水利用プラントで“液体水素/液体酸素”が生成できることから長期的将来は“液体水素/液体酸素”が主流になるが、それは地球資源の問題に依存するものであり、今現在は技術的にケロシン系エンジンが1段目エンジンとして優位なポジションにあるようだ。
無論ロケットエンジンは、燃料系統のみに依存するものではなく、作動ソフトやシステム設計に加えて冶金技術や溶接技術など、総合的な技術力がないと製造できない。よって総合技術力を検証せずに安易にケロシン系エンジン開発へ走るのも愚策である。

ランチャーのモジュール化
エンジンの性能向上や将来のユーティリティー(RFS、HLV、TSTO)に加えて、液体のみならず全てのロケットは、モジュール化戦略を進めておく必要がある。モジュール化とは、全体を一つのモノとして製作するよりも、小さく独立した機能単位に分割して製造し、それらを組み合わせて製作した方が、容易で低コスト化も望めて保守しやすい特徴をもつ。このモジュール化はすでに自動車・鉄道車両・航空機というハードに加え、ソフトウェアの世界でも進んでおり、もはやモノ作りの常識となっている。これをロケットに当て嵌めて考えた場合のメリットとデメリットは、

---
モジュール化のメリットは?
・ 他のロケットでも使い回せる(ROCKOT、Angara、COSMOS-4によるBreeze-KMアッパーステージの共用化など)
・ 標準化、部品点数削減、加工工数の削減、ロッド生産による量産化が可能となりコストダウンと納期短縮に結びつく
・ 不具合があれば、モジュール単位で交換できるため、信頼性を確保しやすい
---
モジュール化のデメリットは?
・ モジュールに致命的な故障・欠陥があれば、他ロケットへも影響を及ぼす
・ 使い回しにより、各段の重量配分バランス(最適化)が低下する
---

となる。例えば、ATHENA-IとATHENA-IIを見てみよう。ATHENA-IとATHENA-IIはモジュールランチャーであり、双方の違いは1段目のCASTOR-120モータをATHENA-1は1個、ATHENA-2は2個をモジュール化して組み上げ、打上レンジ幅を確保している。


CASTOR-120モータ1個と2個のATHENA      Minotaurによる最適モジュール化(aol.de)

 これらランチャーは、モジュール化を達成しているが、最適なモジュール構成とはなってはいない。本来の固体ロケット各段モータの重量配分の最適化で評価すれば「固体ランチャーとして邪道だ!!」と日本の固体ロケット技術者は言うだろう。筆者も同じ考えだ。だがコストで考えれば、量産モータ(Castor-120)の使い回しだからこその優位性がある。一長一短というわけだ。
そしてこの(最適化不足という)短所を改良したモジュール型ランチャーがMinotaurシリーズである。Minotaur-1はミニットマンICBMを衛星ランチャー化させた場合に、最適なモジュール構成で組み合わせた場合の仕様であり、Minotaur-IV、VはICBMピースキーパーのそれと同じである。ATHENA-1、ATHENA-2という最適化不足を解消したMinotaurは、ICBMモータとPEGASUSやTAURUSロケットという、Orbital Science社の使用実績のある固体モータを可能な限り最適な組合せで達成した固体モジュール・ランチャーである。しかも、軌道投入精度を上げるために最終ステージ液体化のモジュールも有している。この最適化で、ペイロード比向上を達成した。
また、FALCON-9、FALCON-5も液体Merlinエンジンをモジュール化して組み合わせており、“マルチマーケット(貨物・有人?・衛星)ランチャー”として市場参入を目指したモジュール型ランチャーを開発している。
 このように、ロケットのモジュール化は「工芸品製造による高コスト体質の脱却」と、「様々なモジュールを組み合わせることで最適化」を図る一方で「バリエーションも揃えて打上レンジ幅を確保する」ことが技術戦略上優位に立てる要素であり、利用者(顧客)のニーズを満足させる点でも効果がある。
よって開発者側は「モジュールの選択」と「最適な組み合わせ」及び「バリエーション(打上レンジ)確保」と「コスト」のバランスを考え、戦略を立てなければならない。これを間違えれば、TR-1やJ-1という失敗を繰り返すことになる。日本のM-Vが“各段モータ重量配分の最適化”という点で世界のトップランナーだったが、海外はコスト・バリエーション・モジュール化という戦略でVEGA(LYRA)やMinotaurシリーズを出し、Minotaur-1は空中発射バージョン(RAPTOR-2)まで出すという、日本の弱点を見つけて優位に立つ固体ロケット戦略で30億円以下ユニバーサルランチャー市場を目指しているとも分析できる。対する日本は今後どういう戦略で行くのだろうか? 

大型ランチャーの淘汰(NASA公共ランチャーの終焉か?)
 次の技術戦略としては、大型ランチャーの整理統合である。衛星の小型高機能化動向及び過当競争を避けるためにも、大型ランチャーの整理統合とコスト競争力強化が必要になる。これは、アメリカが率先して行っている。先月号で述べたように、商業市場で勝てないランチャーは作らないというのがアメリカの戦略であるようで、コスト高のTITANシリーズは引退した。そしてモジュール化・短納期化・バリエーション等を意識してDELTA-IV、ATLAS-Vが生まれた。この大型ランチャーの後を追いかけるように、NASAが費用を直接民間企業へ与えてTAURUS-IIやFALCON-9がISS貨物輸送機として開発中だ。多少サイズは違うが、それでも大型ランチャーはかつての「TITAN-II、DELTA-II、TITAN-IV、ATLAS-II、スペースシャトル(有人)」から変わり、固体ブースターなしでリフトオフできる「DELTA-IV、ATLAS-V、TAURUS-II、FALCON-9,5」という新型4大ランチャーへとなっている。NASAのARES-1はコストオーバーとなっており、技術的にも問題があるとの報道があり、スペースシャトルの後釜になれるのかは不透明である。もしコスト的・技術的・納期的にクリアできなければ、NASA主導の公共ランチャーはこの世から姿を消すことになるのだろう。

 この背景から、新型4大ランチャーのうち、DELTA-IVとATLAS-VとTAURUS-IIは有人船搭載の検討を開始、ARES-1カプセルやSOYUZ宇宙カプセル及びクリッパー等の有人船の搭載検討を始めているそうだ。
 また、ランチャーの整理統合の一方で、射場も流用する動向がある。TAURUS-IIはDELTA-IIの後釜として、DELTA-II射場の流用検討を始める一方、FALCON-9は、TITAN射場を流用する方向で検討が進んでいる。以上、アメリカでは大型ランチャーの整理統合が進められ、過去の体制と比べれば、格段にコストダウン・モジュール化・納期短縮を達成していると分析できる。また自在性についてもTAURUS-IIとFALCON-9は開発中であるが、DELTA-IVとATLAS-Vがあるため確保されている。恐らく、TAURUS-IIやFALCON-9が安定期に入れば、次の段階としてDELTA-IVとATLAS-Vの統合化が進む可能性は十分考えられる。以上、コスト高の大型ランチャーは着実に淘汰されている。日本も異常とも言える高額H-2A、H-2B体制を続けるわけには行かないだろう。

大型はマルチマーケット対応、小型は多頻度対応
   (エアワールド2008年11月号をお買い求めください)

◎遅れるわが国の宇宙推進システム開発(将来展望のない技術遅延ランチャー戦略)
 では、日本国内へ目を向けよう。上記や先月号でも示したように、日本のランチャーシステムの問題点を整理すると以下になる。

・ JAXAと文部科学省宇宙開発委員会による大中小ランチャー(H-2シリーズ・GX・次期固体)政策の挫折:固体技術軽視、大型ランチャー技術衰退

・ 技術継承や技術開発(クラスタリング)を謳いながら、実態は国際比較無視で戦略性の低いロケットに国費を費やすH-2B開発(国費浪費・過大出費ロケット)

・ 1段目液体エンジン(LE-7シリーズ)が性能不足なため、国際大型ランチャー競争から脱落:しかしH-2シリーズの無限開発計画を掲げ続けるJAXA

・ 国際ランチャー動向[モジュール化、エンジン性能競争、搭載標準化、商業化、将来展望(再使用化等)、国際提携、短納期、コストダウン]の分析・戦略不足

となっている。この情勢下、2008年7月にJAXAがアメリカ航空宇宙学会で、次世代液体エンジン計画(LE-X計画)と、次期基幹ロケット計画が発表された。


性能不足のLE-X開発計画を2008年7月に発表(AIAA)

国際標準ランチャー動向を無視したJAXA次期基幹ロケット計画(AIAA)

 このLE-Xエンジン計画とH-Xロケット計画の発表資料を見て思うのは、「今頃になってからVulcain-2エンジンを作ってどうするのか?」、「コストミニマムなモジュール化構成という意識が極端に低い」、「高コストで非力エンジンをクラスター化するならば、固体補助ブースターを使い、1段目の燃焼時間を長くしてアッパーステージでレンジを稼ぐ、Ariane-Vコンセプトの方が総合的観点で安上がりなのでは?」である。
 まず新規計画LE-Xエンジン計画を見てみよう。先月号で示したように、1段目エンジンは性能向上が国際競争で勃発している。フル規格型の大型ランチャーはエンジンの推力向上が必須であり、DELTA-IV(RS-68エンジン)、ATLAS-V(RD-180エンジン)、Angara(RD-191)など、真空中で2000kN以上の推力を有している。また、エンジン性能で遅れているAriane-VのVulcain-2エンジンは推力不足(1355kN)を補うべく、2000kN〜4000kNクラスのエンジン開発計画を公表、再使用型も含めて20年スパンで実施すると2007年末に公表している。それら既存1段目エンジンと、将来計画の比較表を示す。

 この比較結果から見ても、LE-XやLE-7B計画は「戦略の乏しい非力な高額エンジンを作っている」のに過ぎず、国際競争での脱落は確定で商業ベースでも敗北確定なため、今から着手しても意味がないと分析できる。一方、FALCON-1は民間ベースである上に、エンジン性能に合わせた筐体(直径1.7m、全長21.3m)であるのに加え、低コスト化を狙って希少材料低減とエンジン知見獲得及び性能バランスを追求しており、日本とは違ってやる意義があるが、この優秀なモジュール(エンジン)を作る時代に、JAXAは国際外れの性能不足エンジン開発を国家主導でやると公表している。

 次に、この非力エンジンLE-Xを使ったH-Xロケット計画だ。これは、JAXAが「日本新型の次期基幹ロケット」として計画しているものだ。しかし結論から言えば、始める前から国際競争で敗北したコンセプトである。まず、LE-Xは性能が低いため、ラインナップ1案、2案共にエンジンをクラスター化せざるを得ない。他国ではエンジン1基で出来る仕事を日本は2基以上でやっているのだ。この時点で製造コスト上昇確定だ。次にDELTA-IVやATLAS-Vのように1段目を共通モジュール化して、これを束ねる発想でコストミニマムを目指しているのに対し、ラインナップ1案は、共通どころか“1段目は2種類用意するという贅沢な仕様”だ。コストミニマムという発想がない。そしてラインナップ2は、1段目を共通化しているものの、非力エンジンLE-Xを3機クラスター化している時点で、国際競争脱落が確定な上に、アッパーステージのラインナップ戦略が弱い。モジュール化設計思想を多少有しているが、不合格だ。先月号で示した、各国のランチャー戦略は「モジュール化、エンジン性能競争、搭載標準化、商業化、将来展望(再使用化等)、国際提携、短納期、コストダウン」であり、恐らくこの計画発表を聞いた海外ロケット技術者は「JAXAは何も分かっていないのか、エンジン技術が凋落した」と評価しているだろう。無論、H-2Bも部品共通化やコストダウンを謳ってはいるが、コストミニマム思想が全くない上に国際動向認識不足である。

◎さらには将来展望が拓けない再使用観測ロケット戦略も(ISASレベルも低下か?)
 もしLE-Xエンジンで無理やりH-Xロケットを開発しても、いずれ将来展望が拓けない問題に衝突する。各国の新規計画エンジンは、“モジュール化思想に対応”して“推力向上”した上に“再使用化(フライバック)”を前提に考えている。JAXA計画を見れば一目瞭然だが、LE-Xは推力不足に加えて再使用化もしていない。さらに問題なのは再使用化の開発は、“新規開発として再使用観測ロケット(文鎮ロケット)ミッション”でやると発表している。これら問題を整理すると、

・ 観測ロケット市場はコストとユーティリティー(RNSLV)と投入時期重視の時代

・ 観測ロケットミッションとしては開発費が高価(100億円)

・ コストをかけた上に他の観測ロケットと比較してペイロード比が悪い

・ 当該計画の再使用エンジンは、国際技術動向と比較して性能が低い

・ 知見積上げ戦略なしの状況下で再使用回数50回化する

という、利用・技術戦略・将来展望のタイムスパンが崩壊したコンセプトを掲げている。目先のシステムを作る言い訳だけに終始した結果、モジュール化・再使用化・性能・コスト・ユーティリティーのバランスが悪い“文鎮ロケット”となっている事実にまだ気付いていない。これは、日本が誇るISASのレベルが低下したのではないか?国際動向の観測ロケットと再使用システムの関係は、

・ 観測ロケットはRNSLVで示しているように、再使用よりも低コストでユーティリティーがあれば良い

・ 再使用打上システムは、短期ゴールを狙うのは技術的に困難。よって「モジュール・ユニットランチャー運用でコストダウン」を着実に進めながら「エンジン性能向上+飛行回収(RFS)実験+空中発射ロケット(再使用化戦略)」を長期的に実施してフライバックブースター(HLV)を達成した後に1段目をロケットエンジン(RBCC)を空気吸入式エンジン(TBCC)に換装しながら2段目も再使用化するTSTOへと行く

という長期ビジョンの中、JAXAは文鎮ロケットで国際勝負するそうだ。この欧米露との“差別化”が国際競争で何の優位性をもたらすのか未だに公表していない。恐らく、SSTOとして説得性がつかないので、再使用観測ロケットコンセプトで実現を、、、と安易な考えで立案、長期ビジョンなく目先の興味で実施しているのだろう。これを開発してデビューする頃には、人材と国費(税金)が浪費された上で、海外とのエンジン性能・技術戦略格差・市場参入が絶望的となる。「研究開発して未来展望が拓かず」という結果となる。
 以上、LE-X、H-X、RVT計画の現状を分析すると、宇宙先進各国が将来へ向けたコスト最適・モジュール化・再使用時代のために「優先課題に取り組みながら、コストミニマムで達成するためにシノギを削っている」のに対し、日本の現状は「“的外れ戦略”な上に“高コスト計画”を連発した上で“将来展望”が弱過ぎる」のだ。
 では、なぜこのような液体ロケット計画が出てくるのか?そもそも日本のH-2ロケットは本当に国産化していたのか?ここで、“純国産”とか“海外に依存しない国産ロケット”と叫ぶ旧NASDAロケットの歴史を調べてみると意外にも興味深いトレンドが見えてきた。


再使用化・性能・コスト・将来展望のバランスが悪い“文鎮ロケット”(AIAA)

◎偶然か必然か「H-2、H-2AとDELTA-III」と「H-2BとDELTA-V」は直径が同じ
 過去を遡るH-1ロケットは、DELTA-IIロケットと同じ直径2.44mである。これは輸入品であったことから当然と言えるだろう。そして国産化としたH-2及びH-2Aロケットの直径は4.07mであるが、これはDELTA-IIIとほぼ同じ直径である。これは偶然なのか必然なのか分からない。しすて、DELTA-IIIは三菱重工が燃料タンク輸出に成功しており、国内では液体系の初輸出成功事例だった。
 ここまでは偶然といえるかもしれない。だが、不思議なのはH-2BとDELTA-IVの直径がまた同じ(5m)ということだ。これは、「JAXAとメーカーがDELTAロケットの直径に合わせてロケットを開発している」と分析しても、間違いではないと言えるかもしれない。
もしそうならば、日本は海外ロケット(DELTA)の流れを組んで大型ロケットを開発している意図があるのではないか?実際、海外技術者と議論しても、日本のメーカーが旧DELTAコンセプトの設計資料を購入していったそうだ。

 もし、そうならば性能で追いつけないH-2Bを強引に製造して固体補助ブースターを抱かせるよりも、DELTA-IVの1段目を輸入して(LE-7とRS-68エンジンでは推力差が3倍以上)、2段目をLE-7やLE-5のアッパーステージを開発し、モジュール化・アッパーステージのバリエーションを目指して国際提携を狙ったほうがより競争力あるランチャーができるのではないか?現状は「サイズが大型化してもエンジンが非力」なため、アンバランスとなっており、理想と現実の狭間で国際競争から脱落したH-2Bは、作ってもコスト競争で勝てないのは明白であると同時に、DELTAロケットの流れを未だに続けていることから見ても、日本の液体ロケットは“真の国産化”をしていないことを意味している。
 “「国産だ、国産だ」と騒ぐロケット(H-2シリーズ)”が実は準国産で、“「国産だ、国産だ」と特に騒がないロケット(M-V)”の方が純国産という、苦笑してしまう話かもしれないが、やはり日本の液体ロケットは素材・設計・ソフト・ハードの全てが「真に国産化」がなされておらず、それを隠していたツケが回っているのだろう。

◎国際市場対応できないJAXAが国際協力の場で非難を浴びている(既存戦略の崩壊)
 これら宇宙輸送システム技術遅延の原因は宇宙予算不足というわけではない。日本の宇宙予算は世界第2位である上にJAXAは優遇し過ぎる程に人員と予算を投入して液体ロケットを開発してきた。しかし、結果論から見れば、かけたコストに見合う成果は上がっていない。さらに利用面での先行きも厳しい。一部の報道では「H-2Bを使うISS輸送機HTVをNASAが購入する」と報じられたが、これはJAXA職員が新聞記者へ“依頼”して書かせたものというのが噂として囁かれている。だが、すぐにNASAから報道否定発表がされた。この意図するところは「国際商品時代に高価公共宇宙システムの購入は拒否する」ということだ。聞くところでは、日本はNASAへ“破格”でHTVを売る提案を打診していたそうだ。つまり税金で作ったHTVを“タダ同然”でNASAへ販売するという提案だ。

 これは国際協力の場ですばらしいように聞こえる。しかし、アメリカでは民間企業が必死に自己資金まで投入して開発している中、国家予算に甘えた高価な公共宇宙輸送装置(HTV)を買えば、JAXAの行動は民間企業活動の阻害となる。このため、新聞報道の内容にアメリカのメーカーらが猛烈に反発したそうだ。これはALOS(だいち)データ販売でも同様で、無料同然で画像販売をした結果、海外民間企業から「JAXAが民間企業の活動を妨害している」と非難の声が上がっている。国際商品時代に公共宇宙を続けた日本が国際協力(ISS)の場や商業市場情勢の変化に馴染めずに非難を浴びている。「過去・現在を鑑みて、国際動向を的確に分析しながら、自身の弱点を見つけ出して是正し、将来を展望する視野や戦略」がないのだ。


世界第2位の宇宙予算でも、国際市場へ進出できず(2008 Industry symposium)

◎ランチャー戦略を含めて全体の建て直しが急務
 日本のランチャーを含む宇宙戦略は国際比較からして「予算は十分だが戦略がない」という堕落した状況となっている。「1段目エンジンがダメでも、せめてシステム・コンセプト・2段目で攻める」とか「海外を驚かすような良いコンセプトを出して国際的に踏み止まる」という戦略があって良いものだが、それさえも厳しいJAXA戦略がここにある。ある意味、逆の観点で世界を驚かしているのかもしれないが、このまま対外信用力を失いながら地盤沈下を続けて破滅の道を進むわけには行かないだろう。日本の体質的な問題は、

・ 将来展望がなく目先的で国際動向無視の体質(熟慮と将来要素が足りない計画)

・ メーカーらによる提案をJAXAや官庁及び議員が追認する体質(分析力不足)

・ 既存計画を上塗りしたものを推進する体質(無限開発体質)

・ JAXA職員・官庁の親族関係者による企業囲い込み体質

が蔓延している可能性がある。本来は文部科学省宇宙開発委員会が是正機能として存在しているが、結果論で見れば機能していない。宇宙開発委員の多くが自ら足を運んで学ばず、過去の知見のみで意見を言う姿勢があるからだろう。実際、最新動向が発表される国際会議に出席・発表・意見交換している姿は殆ど見られないそうだ。「偉くなれば、管理者になるので学ばなくて良い。」という堕落した風潮があるようで、都合の良い論理を並べるJAXAやメーカー提案の弱点・問題点を見抜いて是正出来ないのかもしれない。さらには馴れ合いが発生している可能性も高い。職業選択の自由は否定しないが、世襲・天下り・親族就職で宇宙計画・人事・入札が進行されていると疑われる行為は慎むべきであり、今後監視が必要だろう。

 よって日本の将来を考えれば、ここで抜本的改革をして出直すべきだろう。既存体質・計画を継続しようとするJAXAやメーカーの役職者へ、声を上げて是正を促す若手のパワー(世代交代)が必要なのかもしれない。そしてメーカーも官需に甘受できる時代は終焉しつつあるという認識も必要だ。
まず日本ランチャーを根本的に立て直す戦略を考えねばならない。よって小手先の大義名分(技術継承・ISS輸送手段の確保など)を謳った将来要素のないランチャー(H-2B)を作るのではなく、30年先にやってくるであろう再使用ロケット時代へも備えられる、

・ 国際商業市場対応(無限開発体制とコンセプトアウト計画の中止)

・ 基幹基礎技術(国際基準エンジン・射場・製造基盤の再生)

・ 将来技術対応(フライバック・TSTO)

という、コスト競争を見据えたマルチモジュール対応の国際将来商業打ち上げ標準の確保を目指すべきだろう。まず、短期的には

・ 国際的に通用するコストミニマムな将来戦略コンセプト(国際市場対応ランチャー)

・ “GX、H-2(製造基盤だけ)、次期固体”をモジュール単位で活用

・ RNSLVによるマイクロ・スペース産業育成と技術知見積み上げ(基礎技術力向上)

・ 空中発射ロケットによる低コストロケット開発利用と将来要素技術の獲得

によって出直すべきだろう。フル規格ランチャーのベンチマークは未来展望のあるアトラス・コンセプトがいいのではないか?GXの1段目を有効活用してフライバック・システムの知見を獲得するのが良いだろう。また液体エンジン再生もFALCON-1の“真の戦略”をよく分析し、“技術継承”を謳った高額な無限開発体質ではなく、基礎基盤技術からのやり直しが必要だろう。“コストをかければ技術や信頼性が向上する訳ではない”というのはJAXA自身が証明している。

 次にユニバーサルランチャーは、VEGA(LYRA)やMinotaurシリーズのようにバリエーション・最終段液体・国際提携を意識した新M-Vコンセプトが優位だろう。日本の固体ロケットは唯一の純国産化を達成している。だからこそ、“対等な”国際提携戦略が展開できる。鎖国体質にこだわらずに、日本の固体文化を生かした新たな国際市場戦略が必要なのだ。技術・戦略・体制がTR-1やJ-1の焼き直しである次期固体では戦略不足である。

 さらに新固体は問題だ。即応型宇宙システムを提案しているが、それは納期短縮や打ち上げ工程の見直しによるコストダウン効果を期待しているものであり、誰も弾道ミサイルの衛星ランチャー化(ピース・トランスファー・ロケット)を推奨したわけではない。
コンセプトを分析する限り、ロシアの弾道ミサイル、トーポリMと同じコンセプトである。また、防衛省とJAXAへ提案している違いは“発射管の有無”程度だ。しかもコストが今まで通り60億円だそうで、これでは国際市場・国際提携どころか、海外から悪い印象を持たれ“悪の使者”呼ばわりされた挙句に、日本が昔歩んだ“不幸の道”を再び歩むことになるだろう。正常な固体ロケットの技術発展を考えられない提案者の猛省を促すと同時に、メーカーも“自滅を招く”危険性に気付くべきだろう。

 
即応型ロケット案(coldwar.org)       新固体ロケット案(masdf)          イランのミサイル打上(CNN)

◎まとめ
 先月号に引き続き、ランチャーの過去・現在・未来の国際動向を示してみた。国際フル規格ランチャーは、需要と供給の関係から5系統(DELTA-IV、ATLAS-V、ARIANE-V、Angara)が適正であり、日本・インド・中国が残り1つの座席を狙って争うことになるだろう。またランチャーのモジュール化が進み、優秀なモジュールをコストミニマムに抑えてバリエーションを揃えるランチャーが国際標準だ。そして大型はマルチマーケット対応、小型は多頻度対応とする戦略が有効だろう。
 ロケット第1段目エンジン競争が勃発している。上述しているように現在は再使用を鑑みた高推力エンジンが開発中だ。対するJAXAのH-2B計画は将来要素がなく、LE-X計画はエンジン性能が低過ぎであり再使用戦略なし、H-X計画は明らかに戦略不足で技術遅延が露見した。今後は小手先ではない、根本的な基礎基幹技術の建て直しが必要だろう。また再使用観測ロケット計画は予算と人員の浪費である。かつてのISASのAbsolute計画のような将来展望を見据えた、真面目な戦略を今後立てられなければ、ISASのレベル低下は避けられないだろう。
 宇宙基本法は施行された。相変わらず既得権益を守ろうとする集団や利権確保の動きは見られるが、変化の波はもう止まらない。そしてハイコスト・ノーリターンとなるランチャー開発はもう許されず、悪しき旧NASDA体制は終焉するだろう。正しき道へ早く踏み出す勇気をもった組織・企業が生き残れる可能性が高いという認識が必要だ。そして堕落した日本宇宙体制を立て直すには、若手の勇気と行動力が必要だろう。10年後、筆者らの記事が「もはや時代遅れの考えだ」と言われるほどの宇宙体制になっていれば、それに越したことはない。停滞から復活へ向けて歩み出しつつある日本の宇宙体制は、読者皆さんの勇気ある行動に託されているのである。


Copyright Hideo.HOSHIJIMA all rights reserved 2008.

Hosted by www.Geocities.ws

1