FLYBACK・AIRLAUNCH(新世代システムの確立)
  (エアワールド2007年5月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年5月号」をお買い求めください

 本稿では、新世代システムとしてFLYBACK・AIRLAUNCHに注目し海外動向を紹介しながら新世代宇宙システムの思想・背景・戦略を考えてみたい。

◎既存航空機流用の新世代ランチャー

 まずは、既存航空機を利用した新世代ランチャーだ。過去の誌面で紹介したように、大型輸送機C-17、C-5、An-124、An-225、B-747や小型高速機F-15やMig-31を使用した空中発射ロケットが検討・開発中である。

 C-17輸送機を使用したAirlaunch社のQuickreachロケットは、来年(2008年)か2009年には初打上げ予定されている。このロケットの特徴は大型輸送機C-17の後部扉からロケットを送り出す「パラシュート落下打上げ方式」であることだ。機内にあるロケットをパラシュートで引き出して点火打上げするという何ともユニークなロケットである。この「パラシュート落下打上げ方式」は、An-124-100を用いたPOLYOTロケットも同様の方式を採用している。これら技術がもし確立されれば、空中発射ロケットの新たな打上げ手法技術が確立されると言え、Pegasusとは異なる新技術を確立したと言えるだろう。

 また大型輸送機の貨物室に収納できない場合は、航空機胴体の上部へ搭載する「背負方式」が考えられ、Boeing社とATKサイオコール社で検討しているB-747エアランチシステムや、An-225-100にゼニットロケット派生型搭載がそれにあたる。なぜ、An-225とB-747が背負い式かと言えば、双方とも「スペースシャトル」と「ブラン」という宇宙往還機を搭載した実績があるため、ロケット搭載における設計が比較的容易なのも一因にあると思われる。また「懸架方式」もある。これは大型輸送機の脚部を改造することになるが、T/space社案のB-747を使用した有人宇宙輸送機がそれにあたる。これは上記Airlaunch社Quickreachロケットを大型化・有人化したもので、B-747下部から落下打上げするPegasusと同じ方式だ。しかしT/space案は翼無しでパラシュートを展開した状態で切離し、垂直状態で点火するという異なる方式なのだ。このT/spaceはNASA-COTS(Commercial Orbital Transportation Services:商用軌道輸送サービス)競争で敗れたため、先がないといわれていたが、エアランチ技術を追求するボーイング社を含む数社が買収を検討しているとの情報があり、今後違う形体で発展する可能性があると言える。

 次に小型航空機(いや実質的に戦闘機や高高度偵察機だが)であるF-15やMig-31等の空中発射ロケットは、本格的に開発が進んでいる。最新情報では、ロシア・カザフスタン共同開発中のMig-31を使った「ISHIM」ランチャーシステムに対抗して、アメリカではF-15発射母機の改造に入ったそうだ。F-15は2機種がランチャー用として改造されるそうで、恐らく「背負方式」と「懸架方式」のロケットが搭載されるのであろう。Mig-31に対し、ラインナップまで揃えようとするアメリカのF-15小型衛星打上システムは、同じくF-15で空中発射ロケットを開発しようとするイスラエルRAFAEL社とMig-31勢への対抗策なのかもしれない。ISHIMの初打上げは早ければ今年中に行われる予定であり、一方でグアム・テニアンへの出張打上げ進出するビジネスも検討されているとの情報もあるため、低コスト打上げサービスが今後日本の真下であるアジア地域で展開される可能性がある。


C-17(Airlaunch LLC)

  
   An-124-100(Air Launch System)     AN-225-100(Yuzhnoye SDO)

 これら空中発射ロケットが開発承認されている理由は、「小型衛星時代が到来していること」、「現行ロケットは打上作業に時間がかかる上に天候にも左右されること」、「何時でも任意軌道へ打上げられること」というロケット競争力向上の要素を備えていることであり、市場競争上優位に立てるからである。さらに空中発射ロケットは、打上げ環境が許されれば、出張打上げが可能となるため、東方向や南方向が開けた海域を有している国は発射空域、投棄海域、安全地域確保できるため有利で、エアランチャー推進国として魅力的である背景が存在する。この東方向とは静止軌道や低傾斜角軌道向けであり、南方向とは極軌道向けである。インド洋付近で言えばインドがそれにあたるため、イスラエルの空中発射ロケットはインド洋から打上げ予定と発表されている。発表資料を分析すると、どうやらインドとイスラエルが協力関係を結んでいる模様だ。

 そして、太平洋で“東方向や南方向が開けた海域”を有している国や地域と言えばどこが該当するのか読者の皆さんにもよく考えて欲しい。先ほどのグアムもあるが、そう日本もその該当域なのだ。日本はエアランチ国として地球上で地勢的優位なポジションであることを認識してはどうか?しかも空中発射ロケットならば、種子島宇宙センターとは違い、ロケットの下段落下が日本近海ではないため、漁業関係者へ迷惑をかけることがない。つまり365日、自由に打上げられ、宇宙・漁業関係者にとってメリットある話なのだ。実はロシアのAn-124-100を用いたPOLYOTロケットは、日本沖太平洋から打上げるビジネス計画を立てている。

 以上、日本はエアランチや宇宙港大国になれる要素を持ち合わせているのだ。しかし、海外から日本を見れば、JAXA戦略は“不明瞭でその場凌ぎ的な開発”をしているだけと見られ、ロケットレベルも低下しているのは見抜かれ、国際的独自色が見られない日本宇宙体制は「パートナー国として魅力的ではない」と評価され、例え日本へコンタクトしても「たらい回しされるだけ」と思われている。地勢的優位を有しているにもかかわらず、アライアンスを組めない保守的な宇宙体制では今後国際社会では生き残れない。内閣府宇宙戦略本部では、上記を含めてエアランチ誘致大国として検討してもらいたいものだ。誘致すれば手を挙げる国や企業はあるだろう。これこそ「宇宙を外交へ使う戦略」であり、「ナショナルプレズテージ向上」にも繋がる。


B-747(Boeing,T/space)


     F-15(AIAA)             Mig-31(espacial.org)

 当然受け入れだけでなく、日本もエアランチをやってもらいたいものだ。例えばホンダジェットで小型衛星打上げロケットをやる方法もあるかもしれない。ホンダならば固体ロケットを自社で作ってしまいそうな気がしそうだが、固体ロケットメーカーのIHIアエロスペース社も、ホンダジェットをレンタルしたり、ボーイングやエアバス、オービタル・サイエンス社らとアライアンスを組む形で展開すれば、十分国際市場へ出られるだろう。優秀な日本の国産固体ロケット技術を安全保障上問題がない形で独自に展開するビジネス戦略思想がIHIアエロスペース社には要求される。

 そして日本は戦略的に海外との連携も必要だ。行動が遅ければ公海面や発射ポイントを占有されてしまう可能性が高い。日本は海洋基本法や航空法・宇宙法を整備して至急対処すべきであり、次世代・新世代技術としても検討する必要がある。

 今後、コストが高く打上げ作業に時間がかかるロケットは国際市場で敗北するのは間違いない。ロケットはエコノミカルであることが当たり前の時代となり、コスト高のロケットを維持する事は国際的な“恥”と見られるようになってきている。この意味でも空中発射ロケットは、地上発射ロケットと比較して発射台を建設する必要がなく、空港とハンガーを利用できれは打上げられるため、魅力的でもある。

 その意味で見れば、文部科学省宇宙開発委員会は戦略レベルの低下や国際動向を把握が乏しいようだ。GXロケットは大型クラスのはずが中小型ランチャー市場へ投入するため支援すると2007年1月に決定した。海外動向(Small launch Vehicleやエアランチ動向)から見れば、2007年に下した決定としてあまりにも情けない戦略だ。

 既存航空機流用の空中発射ロケットは、単なるエコノミカル・即応型・外交戦略ランチャーだけではない。新世代を見据えたランチャーという側面もあるのだ。

◎新世代ランチャーへのルールとエンジン開発

 新世代のランチャーは、やみ雲な技術開発偏重主義では許されない。Minimum Cost Design(最小コスト設計)という方法論が必要であり、海外ではこの方法論に基づき1つのルールを設定している。それは

・ (可能な限り)シンプルであること

・ 再使用できること

・ 最大限の信頼性や性能を必要としないこと

・ 最先端技術を押し込まないこと(既存技術を流用せよ)


というルールである。打上げ手段において重要なことは、技術開発偏重主義ではなく利用者側の利便性向上を追求することである。


各種エンジンの速度域と推進効率の関係(USAF)


各種エンジンの技術要求と到達時間の関係(ESA)

◎新世代ランチャーの各国コンセプト動向

 打上げ手段の新世代化を狙う背景には、H-2AやM-Vのような完全使い捨てのロケットを止め、ロケットを再使用化させない限り、コストが下がらないという論理があるからだ。ロケット技術者の故フォンブラウン氏もアポロ計画のことを「豪華客船クイーンエリザベスII号を建造するようなもので、3人の乗客をニューヨークーロンドン間で往復させた後に沈没させるが如しの計画だ」と言ったほどだ。現状の打上げ手段は、「非常に、とても高価である」、「もしロケットを2度以上使用できれば、ペーロード打上げコストが削減される」、「再使用による低コスト化は航空機が証明している」、「もし十分にコストが下がれば、航空輸送のように商業化が可能となる」という理論的解釈がある。これに基づき、飛行機のように再使用できるロケットを目指す方向が良いとされた。だが使い捨てロケットに対して再使用できるロケットは技術的要素がさらに追加される。それは「大気圏突入・降下するため、重量が増加する」、「ランディング域を目標に飛翔するため、ハード・ソフト的に複雑さが増す」、「ランディングと減速の熱環境により重量が増加する」、「冗長性とメンテナンス性が加わるため、重量が増加して複雑性も増す」である。簡単に言えば「地上へ帰ってくるため、重量が増してシステム自身が複雑になる」ということだ。

 このロケット再使用化を早期にチャレンジしたのがNASAの「スペースシャトル」と言えるだろう。しかしスペースシャトルは予算上納得を得るために仕様変更・大型化した上に技術的問題を抱えたため、運行した結果

・ 160時間ターンアラウンド(修復作業、再打上げ準備作業)はずが2000時間もかかってしまった

・ 1%の改修はずが10%〜15%も改修しなければならなかった


という当初思惑とは外れたため、運行費用が増加、“運行によって減価償却が図るコストモデル”を実現できなかった。しかも2回の大事故を起こし、宇宙飛行士が死亡してしまったことが、「再使用ロケットは危険」というイメージに拍車がかかっている。

 シャトルは様々な思惑があったが、使い捨てロケットから再使用ロケットへ行こうとする論理を具現化すべくチャレンジしたことは高く評価すべきであり、そこから学んだ知見を新世代で生かすべきだと考えている。現在では新たな技術やアイデアによって、ロケットの再使用化をすすめるコンセプト研究が進められている。

 では、海外ではどのようなロケット再使用化が研究されているのか?ロシア、アメリカ、欧州の例を見てみよう。

◎ロシア

 ロシアはあまり情報を開示していないが、新世代のランチャー研究は行われている。それは、地上打上げ型ロケットのフライバックシステムだ。ベースとなるロケットはソユーズでもプロトンでもない。将来計画されているクルニチェフ社製造のアンガラと、エネルギア社製造のエネルギア-2である。

 エネルギア-2のコンセプトは「1段目・補助液体ブースター・アッパーステージ」からなり、1段目と液体補助ブースターとが飛行回収されるコンセプトであり、液体補助ブースターは切離し後にパラシュートが開いて落下・減速し、その後グライダー飛行して着陸・回収するコンセプトだ。そして1段目もアッパーステージを放出した後はパラシュートが開いて“ロケットプレーンキスラー社のK-1コンセプト”のようにパラシュートとエアバッククッションを開いてソフト着陸するコンセプトだ。

 次にクルニチェフ社のアンガラだ。アンガラは2010年に初フライトが予定されており、1段目はDELTA-IVやAtlas-Vのように共通化を目指している。アンガラの1段目はURM(ユニバーサル・ロケット・モジュール)と呼ばれる液体酸素・ケロシンを燃料とする第一段目を、必要に応じて3基、4基、5基とクラスター化し、2段目やアッパーステージは実績を挙げているBreeze-MやBreeze-KMを使用するコンセプトを発表している。つまり、打ち上げ能力を上げるのであれば、モジュール化された1段目(URM)をクラスター化して対応し、ニーズに応じて上段で調整というコンセプトのようだ。これは理に適った考えだろう。URMやDELTA-IV・ATLAS-Vの1段目を見れば、日本はその逆コンセプトを目指しているようだ。H-2AとH-2Bを比較すれば第一段の“エンジン”や“直径”は共通化していないが“2段目は共通化”させている。これは非常に興味深い。当然ながらJAXA宇宙基幹システム本部はそれが“正しい”と思って技術開発をしているのだろう。中立的に評価をするならば、ニーズ的・能力的・コンセプト的・コスト的にどっちが優位なのか比較・公表すべきだろう。筆者はH-2Bをナンセンス・コンセプトだと考えている。

 アンガラは徹底した1段目共通化を狙い、幅広い打上げレンジを確保しようとしている。そしてその共通化が達成でき次第、モジュール化された1段目(URM)を再使用化するため、エネルギア-2とは違い、URMに“翼と航空機エンジン”を搭載してフライバックさせる戦略も発表している。将来、ロケット再使用化の世界動向次第で対応できる戦略を発表しているのだ。これらロードマップ的開発コンセプトは注目すべきだろう。

(追加情報:飛行回収の動画が公表されています。http://homepage3.nifty.com/junji-ota/BUbun.htm


ロシア-エネルギア-2の完全再使用化案(Energia)


ロシア-クルニチェフのロケット完全再使用化案(クルニチェフ)

◎ヨーロッパ

 ヨーロッパでも、新世代へ対応した宇宙システム開発は続けられている。ヨーロッパでは、アリアン5、ソユーズ、VEGAのラインナップ体制を構築しているが、その後の将来計画も着々と進められている。その1つとしてESAは2004年4月より、FLPP(Future Launcher Preparatory Programme:将来ロケット予備プログラム)計画を発表、2020年頃に登場する新世代ランチャーへ向けて、それに関連する研究開発を実施する目標を掲げている。おもな計画としては、ロケットの再使用化を視野にいれたランチャーシステムの研究、(希少材料使用の低減も狙った)アッパーステージエンジンシ、高性能で低価格の第一段エンジン等の研究開発、往還機研究を行うとしている。その前段階としてアリアン5は、第一段エンジンのバルカンエンジンの再使用化(長期燃焼化)研究を開始し、アリアンやVEGA用のアッパーステージ用エンジンの「VINCI」を開発している。固体ロケットVEGA最終段液体の国産化(VEGA初代最終段はウクライナ製)も進められているのだ。第2段階として、上記FLPPにて新たな研究開発が進められるだろう。


将来ロケット予備プログラム:FLPP(ESA)

 現行のアリアン5は、有人宇宙計画“エルメス”で開発されたエンジンを使用している。しかし有人ロケット用エンジンのはずが計画頓挫し、衛星ランチャーとして使用せざるを得なくなったという“苦い経験”がアリアン5にはある。FLPPはこの苦い経験を乗り越えようとするコンセプトにも見える。ロケットは大型化偏重主義では行かないぞというスタンスも見られる。しかし日本(JAXA)を見ると“H-2Bはエルメスの二の足を踏む”危険性があることに、宇宙開発委員会もJAXAも全く気付いていないようだ。

「ドイツ宇宙機関DLRのSART」

(エアワールド2007年5月号をお買い求めください)


欧州ロケット一部再使用化ロードマップ案(DLR)

 EADSでは、FLPP計画に基づき、TSTO(Two Stage to Orbit:二段式宇宙往還機)と呼ばれる完全再使用ロケットを提案している。

「EADS社のTSTO案」

 EADSが提案するTSTO案は、2006年6月に発表され、1段目がフライバックブースター、2段目が有翼往還機というコンセプトだ。このEADS-TSTOは垂直打上げされ、上空で上段を切離す発想だ。1段目はグライダー飛翔し地上に着陸、2段目は要求される軌道へ投入された後、貨物室に収納された衛星やペイロードを放出、スペースシャトルのように飛行・帰還するコンセプトだ。しかしこのEADS-TSTOは、仕様が非公開である一方、フライバックブースターの加速分量及びエンジン仕様も公表されていない。恐らく、さらなるコンセプト研究が進められていると思われ、アリアン5の後継機を目指したEADS社の研究は着々と行われているのは確かだ。

 
EADS-TSTO案(EADS)

「フランス宇宙機関CNESのTSTO案」

 次にフランスCNESが2004年と2006年3月に発表したTSTOコンセプトだ。2004年時点ではEVEREST(EVOLVED EUROPEAN REUSABLE SPACE TRANSPORT:進化した欧州再使用型宇宙輸送)システムと命名されている。これは、過去紹介したSpaceworks社 ARESコンセプトにかなり似ている。違うと言えば、2段目以降も再使用化されていることだ。最新の発表によれば、フライバックブースターの翼はアスペクト比の関係からデルタ翼へ設計変更され、過去は2段目の方が大型だったが1段目の方が大型化されている。最新のCNES-TSTO案はブースターとオービターとペイロード部と分かれ、

・ ブースター:直径7m、全長48m、燃料重量379t、5基エンジン、推力147-164トン、ISP391-435sec、切離し時の速度マッハ6

・ オービター:直径5.6m、全長36.4m、燃料重量169t、2基エンジン、推力135-169トン、ISP:360-448sec

・ エンジン:ブースターやオービター共に液体酸素/液体水素エンジン


を目指している。LE-7Aの推力が約110トン、LE-5Bが約14トンであり、アリアン5のValcaine-2エンジンが約135トンあるので、CNES-TSTO案で使うエンジンは全く技術定義を無視したものではないことが伺える。そしてブースターからオービター分離後は、オービターが加速・上昇して要求された軌道まで上昇、ペイロード部を放出する。おそらくペイロード部は様々なアッパーステージが搭載され、低軌道から静止軌道まで様々なニーズに応じて軌道投入できる仕様にしているのだろう。切離し後のブースターは航空機エンジンを作動させて飛行・着陸・回収させ、オービターも放出後は着陸地天候に応じて減速・大気圏へ突入し、着陸回収するコンセプトだ。


仏CNES-TSTO案(CNES)

 このCNES-TSTOのブースターは“SPACEWORKS社ARES案”や“アンガラで採用予定のバイカル・フライバックブースター”と同様、航空機用エンジンが搭載されている。垂直打上から加速し、第一段目でマッハ5〜6まで加速させて上段を切離し(空中発射)した後は減速、ブースターが“航空機エンジン搭載の無人機”と化して滑走路へ着陸させるのだ。

「フランスは超音速機ベースの衛星ランチャーも」

 フランスは、超音速機ベースの宇宙輸送機開発も開発している。それはSTAR-Hと呼ばれるもので、第一段目はロケットエンジンを搭載するわけではなく、ラムジェットエンジンを搭載、速度マッハ6まで加速した後に、上空で上段(宇宙船)を切離すTSTO(二段式宇宙輸送機)コンセプトだ。将来的にはSTAR-H搭載のラムジェットエンジンを、速度がマッハ6以上出せるスクラムジェットエンジンへと変更するビジョンを掲げている。

 しかしラムジェットやスクラムジェットは、まだまだ研究段階であり材料の選定や実試験を重ねる必要があり、実用化の目処はたっていない。これら研究開発はフランスに限らずアメリカでも積極的に続けており、固体ロケット先端に試験機を装着して実験したり、引退した超音速機と廃棄ミサイルを使用して実験したり、当面は研究が継続されるだろう。


    STAR-H(CNES)                  超音速機技術試験計画(ONERA)


   超音速機技術試験シーケンス(ONERA)         ボーンイング社超音速機技術試験計画(Boeing)

◎アメリカ

 最後にアメリカだ。アメリカでも様々なロケット再使用化へ向けたコンセプト研究が進められている。Spaceworks社-ARESやNASA-ARESは過去紹介したため、今回は入れないが、その他のコンセプトを見てみよう。

「DELTA-IV Heavy及びAtlas-V HeavyによるCRV」

 まず、コンセプトは古いがDELTA-IV HeavyやAtlas-V Heavyを用いた宇宙往還機打上げ案がある。これは、既存ロケットで手堅く国際宇宙ステーション(ISS)へCRV(Crew Rotation Vehicle:人員輸送機)を打ち上げるコンセプトで、ロケットは全段使い捨てである。このCRV案はスペースシャトルの代替機として立案されたが敗れている。この案は「手堅く有人宇宙輸送システムを確立する案」として優れていると言えよう。しかし、NASA-ARES-1より高コストになる可能性が見込まれたため、実現には至っていない。


DELTA-IV HeavyやAtlas-V HeavyによるCRV打上案(Boeing,OSC,LM)

「 エアランチの発射母機の新造大型化及び上段再使用案」

 最初に述べた“既存航空機を利用した空中発射ロケットシステム”の後継機案として、ロケットを大型化し、発射母機を大型化する案も発表されている。上空から亜音速で再使用型液体ロケットを打上げる構想案がある。恐らく、空中発射ロケットで背負式打上げ技術の実用化目処がついた後の将来計画としての位置付けだろう。この機体を見ると全翼機のようだ。またエンジンも左右合わせて6基が搭載されている。搭載エンジンが高出力で燃費の良い「B-787等で採用予定のGEnxエンジン」を搭載すれば、かなりのペイロード(上段)重量を確保できるだろう。また全翼機もNASAが融合翼機体BWB (Blended Wing Body)の研究をBoeing社ファントムワークスらとしている。これら研究成果をベースに母機を開発する事は可能かもしれない。

 母機は航空機ベースなため当然長時間運用が可能だろう。ロケット打上げ時以外は輸送機・消防機・気象観測機として別途利用できれば運用は商業ベースで可能かもしれない。

 一方、母機に搭載されている上段は“単段式”か“二段式”の翼型宇宙往還機が搭載されている。これは、フランス・ロシア・Spaceworks社ARESようなフライバックブースターと比較して速度・高度的に第一段目の仕事として劣ることは明らかだが、軌道へのペイロード投入比率及びミッションコスト的にどちらが優位なのか詳細に検討しない限り、優劣の判断は出来ないと考えている。

 また、高度100kmの弾道宇宙旅行を目指した「Xプライズカップ」で優勝したスケールドコンポジット社は、中型旅客機(B-757クラス)の空中発射母機を新規製造する構想を示している。そして大型母機から宇宙船を空中発射する構想を発表していることから、これら開発動向如何次第でエアランチ母機大型化が進む可能性があるだろう。なぜならケールドコンポジット社はペガサス空中発射ロケット開発に参加した過去を持ち、開発元のオービタル・サイエンス社は大型旅客機製造企業であるボーイング社と共同でF-15戦闘機を改造した空中発射ロケットシステムを開発中だからだ。スケールド・オービタル・ボーイング社らが新世代の打上げ手段を狙って将来アライアンスを組んでも不思議ではない。B-747ジャンボ機で有人宇宙船を打上げる計画をしたT/space社の動向を組合せれば、発射母機の新造大型化及び上段再使用案が何らかの形で具現化してくる可能性はあるかもしれない。


エアランチ母機新造大型化&上段再使用型(MARYLAND大学)

「フライバックブースター&上段使捨案(Hybrid Launch Vehicle:HLV)」

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各社HLVコンセプト案(NG、OSC、AIAA)


「TSTOフライバックブースター案」

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オービタル・サイエンス案  ロッキードマーチン社案   ボーイング社案
(画像出典:MARYLAND大学)

「SSTO(単段式宇宙往還機)」

 最後にSSTO案だ。SSTOは単段式宇宙往還機といわれ、その名の通り“切離し装置なし”で軌道まで到達するコンセプトだ。切離し無しで再使用できれば最も効率が良いという考えがあり、1990年代にはDC-XやDC-XAが試作、飛行試験が実施された。このDC-XはDelta Clipper -Experimentalの略であり、DC-Xは8回、DC-XAも4回試験を重ねた。しかしDC-XAは1996年4回目の実験の際、着陸時に展開型脚部の1本が伸展せず倒れて爆発してしまったため、計画は中止された。この際に搭載されていたエンジンはDELTA-IVやATLAS-Vで使用されているRL-10シリーズであるRL-l0A5が5基搭載されている。この結果などから1996年にNASAは胴体揚力でも飛行可能なX-33を提案した。これは、低軌道投入ギリギリまで上昇・加速して上段を放出するコンセプトだった。しかし、重量過多となり、エンジン再使用の問題も発生したようで2001年3月に中止されている。つまりSSTOは「エンジンや構造など越えなくてはならない技術的ハードルが高く、製造するにはまだ早すぎる」という判断があるようだ。確かに現行ロケットが多段式なのは、効率良く宇宙空間へ行くために下段を切離して“身軽”になる手法がとられている。これを現状のエンジンで切離し無しの単段式にしたら、“身重”のまま飛行することになるため効率が悪い。恐らく、現状のロケットよりも軌道投入ペイロード比率が悪くなり、コスト勝負できないものが出来上がるかもしれない。このハードルを越えるには徹底した軽量化とエンジンの飛躍的性能向上をしなければならない。これら考察から“現在の技術水準ではできない”という判断があったのだろう。SSTO実現には高出力・高性能・軽量なエンジンなどの飛躍した技術が必要で、実現にはまだまだ時間がかかるのではないだろうか?そうした知見を得る意味でDC-XAとX-33は我々に良い教訓を与えたと考えている。


DC-XA                                   X-33                                               SSTO_winged(VTOHL)
 (画像出典:MARYLAND大学)

◎ロードマップ&コンセプトを掲げた上で開発を行うアメリカ

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アメリカの段階的再使用化コンセプト(AIAA)                   TSTOへ向けて必要な技術(USAF)


   NASA液体エンジン開発ロードマップト(NASA)       空気吸入式エンジンはミサイル兵器利用から宇宙用へ(NASA)

◎“コンセプト”と“ロードマップ”と“国際アライアンス”を同時に描く必要性

 こうした膨大な宇宙予算を抱えるアメリカが新世代ランチャーを模索する一方、ロシアも頭脳的なコンセプトをいち早く発表して研究を続けている。これら宇宙大国が先進的研究をしていることは時代のリーダーシップを取る上で必要だが、一方で宇宙予算が日本と同等クラスのフランスが“EVEREST計画”や“亜音速や超音速機ベースのエアランチャー計画”を発表している戦略に注目すべきだろう。フランスは1国としてできる予算的・技術的範疇を理解しながら海外動向を徹底的に分析してロシアやアメリカと組んだり、周辺国を取り入れたりと立ち回りの上手い国家であることに注目すべきだ。

(関連記事:http://www.spacedaily.com/reports/Russia_And_Europe_Join_Forces_In_Space_999.html

 例えば月・火星探査におけるロケットも「アメリカの管理しているRD-180エンジン」と「フランスのアリアン5ロケットのVulcain-2エンジン」を組み合わせた超大型ランチャーを米仏共同で研究し、ロシアとはSOYUZの7倍の打上げ能力をもつ超大型ロケットを共同研究する方針を2007年1月に発表している。さらにCNESはロシアと再使用機に関する共同研究にも同意している。しかも聞くところの情報では、日本企業もチームの中に下請けとして組み込まれているそうだ。つまり、フランスはJAXAと組むのではなく、日本企業を一本釣りして自陣営に組み込んでいる。また地球観測衛星でもNASAとCNESで衛星群「A-Train」を構築して「組むべきところと組む」発想をもっている。

 それには周辺国の動向が背景にある。ドイツがロシアと違った形で組んだり、イタリアがフランスとVEGAでアライアンスを組みながら、固体ロケットSTART-1を商業打上げする戦略でロシアと組んでいるからだ。ドイツやイタリアよりもフランスの方が総合技術力で勝るが、ドイツ・イタリアのロシア接近による追い上げでフランスが危機感を抱いているかもしれない。これら危機感と宇宙先進国として生きるためにフランスは“確実なコンセプトとロードマップ”及び“国際アライアンス戦略”を描いているのではないか?

 アメリカよりも圧倒的に少ない予算にも関わらず、時代について行こうと努力している。フランスの動向が最も日本が手本にすべき戦略だと考えられないだろうか?

◎フライバックブースター仕様は3国共通コンセプト

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◎日本の戦略コンセプトは15年前のまま

 これら技術を確立するためには、どこまで技術を伸ばせば達成できるのか?が当面の課題だろう。課題をクリアするために、アメリカ・ロシア・フランスが近年“アッパーステージ開発”や“再使用エンジン開発”という次世代化を進め、一方で“無人航空機開発”に力を注いでいる背景が1つの解法だと考えている。なぜなら新世代ランチャーの基盤技術に直結するからだ。フライバックブースターを見れば、投棄していた時代から回収・再使用するためには「分離後に飛行・着陸させる無人航空機技術や空中発射ロケット技術」が、使いまわしをするためは「エンジンや材料を次世代化した再使用技術(=長時間燃焼エンジンの開発)」が必要になる。またロケット上段のアッパーステージは再使用時代へ向けてタンク容量を増加させて制御する技術を獲得する目的に加えて宇宙利用時代に対応できるため、開発している背景があるのではないか?

 つまり、海外では将来を見据えて優先順位をつけて効率的な開発を行っているのだ。しかし日本は、1992年に発表したコンセプトがそのまんま続けられている。現在での悪循環の例がH-2B、及び垂直離着陸機のRVTだろう。


1992年に発表された日本のロケット戦略案(AIAA)


SSTO(RVT)まで行くには、すべきことがまだまだ山積 (JAXA)

 H-2Bならばマルチノズル化を実施する前に、DETA-IVやATLAS-Vのように固体ブースターの助力なしにリフトオフでき、希少材料低減や部品数を減らした高出力エンジン“ポストLE-7A”を開発した後にフライバックブースター用へマルチノズル化する手法が妥当であるにも関わらず、性能の悪いLE-7Aでマルチノズル化しようとしている。仮に実現したとしても、いずれフランスやアメリカのValcaine-2やRS-68がマルチノズル化した時点で、H-2B用のマルチノズルエンジンは性能的・価格的・部品点数的・希少材料率的にも敗北するのは明らかだ。段階を踏まず、長期戦略を考えずにその場凌ぎでH-2B計画を容認・実行している典型例だろう。

 RVTもそうだ。なぜ各国が国家予算で垂直離着陸機開発を止めているのか見れば「実現にはエンジンの飛躍的能力向上が不可欠で有翼機と比較してペイロード投入比率が悪い」と判断し「その前にすべきことがある」と考えているからだ。また弾道飛行であっても、空中発射型のロケット実用化目処が高い確率で見込まれているため、運用コスト的・コンセプト的に敗北してしまうのも明らかで、税金を投じて開発する優先順位は低いだろう。

 本来ならば、JAXA諮問機関である文部科学省宇宙開発委員会が海外動向を独自に調査して日本の宇宙戦略が長期的に正しいのか審査しているはずだ。しかし、過去の誌面で述べたようにH-2Bのマルチノズル化がナンセンスである実態と、大型化偏重主義が国際的主流でない実態を見抜けない宇宙開発委員会がそこにある。ロケット開発の国際動向を見れば、長期的な視野で「空中発射ロケット技術」、「無人機による自律飛行回収技術」、「再使用エンジン開発」、「(TSTOへ繋がる)フライバックブースターのコンセプト研究」が必要で、フランスのように「超大型ロケット開発は国際アライアンス」、「再使用技術を学ぶため海外と組む」戦略思想など、日本が国際環境で生き残るための戦略を立てる必要があるにも関わらず、15年前のコンセプトをズルズル引きずり、結果として日本は宇宙先進国から脱落してしまった。ロシア・アメリカ・フランス・ドイツ・イタリア・イギリスが新世代へ向けてアライアンスを組んでいる国際動向から見れば、日本は“置き去り”にされた格好だ。これは危機的状況にあるといえる。このままJAXA戦略や宇宙開発委員会の体制を続ければ、日本が宇宙後進国へ完全に脱落してしまうのは時間の問題であるのは読者の皆さんにはもう分かるだろう。宇宙利用時代へ向けて、戦略的な活動ができるで体制を作る事が内閣府宇宙戦略本部へ期待するところだ。

◎まとめ

 将来輸送機としてTSTO(二段式宇宙往還機)・SSTO(単段式宇宙往還機)・超音速機ベースなど様々な将来コンセプトが検討されているが、SSTOは現技術では飛躍し過ぎで困難であり、超音速機ベースもエンジン研究にかなりの時間がかかるため研究継続が必要で大型ランチャー用としては使えない判断があると思われる。

 またTSTOもそれ以前に「フライバックブースターから使い捨てロケットを打上げる」HLVやエアランチ母機新造大型化のコンセプトが先に来るかも知れない。アメリカ・ロシア・フランスは新世代へむけてすでにアライアンスを組んでいる。

 だが日本は15年前に掲げた旧コンセプトを未だに抜け出せていない。これ以上遅れないためにも至急、旧概念を抜けて研究着手する必要がある。まずは空中発射ロケットから着手してみるのが妥当だろう。これがあれば、衛星ランチャーに加え、ロケット再使用化動向から見ても、無人機研究・超音速機研究・分離実験・弾道飛行実験等が出来るため基盤技術に結びつく。しかも東方向や南方向が開けた海域を有している日本は戦略的に有利で、開発推進・実験場提供国として宇宙外交上、魅力的でもある。日本が国際的に復活するために好条件を有していることを把握すべきだ。

 そしてLE-7やGX採用予定エンジンで再使用化や打上システムのコンセプト研究を“独自”及び“国際アライアンス”で進める必要があるだろう。

 今後は失われた10年を取り戻す戦略が必要だが幸いにも日本は地勢的優位を有している。これを生かしつつ、あとは知性を有する戦略研究体制をミニマムコストで構築できるか?であろう。


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