Disaster Space(RESPONSIVE SPACE system)
  (エアワールド2007年6月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年6月号」をお買い求めください

 地球温暖化に対する危機意識は次第に高まりつつある。昨年までは「(地球温暖化が)人間活動によってもたらされている可能性」を否定する動きが比較的強かった。しかし2007年国連が「人為的な温室効果ガスが温暖化の原因である確率は90%を超える」と示し、異常気象・漁獲異常・農作物の産地移動などが見え始め、TVでも地球温暖化問題が次第に取り上げられるようになった。

 集中豪雨や暖冬、急激に発達する低気圧が頻繁に見られるようになり、「何かがおかしい」と感じる人は多いのではないか?この問題を解明すべく各国では様々なセンサーを開発して衛星へ搭載、打上げているが、これらの活動は地球環境の観測だけではなく防災活動にも役立つため、“Disaster Space(災害宇宙) 活動”とも言われている。本稿ではDisaster Spaceと題してして各国の動向に迫りたい。

◎気象衛星はもういらない?

 宇宙からの地球観測は、「天気予報」のために打上げられたのが最初だ。天気予報のその昔は、日没直前の太陽光の明るさや富士山頂上などに降雨観測レーダーを建設したり、気象観測航空機を飛行させて雨雲の動きを監視していた。しかし天候次第によってスーパーマーケットの食品の売れ行きから航空機・船舶の運行、娯楽施設の弁当屋などの売上へ至るまで重大な影響を及ぼすため、天気予報は経済活動にとって重要であるという認識が日本だけでなく各国で広がった。具体的に言えば、日本における気象情報の経済波及効果は、年間で直接的経済効果として、(1)気象情報サービス(約320億円)、(2)気象観測機器(約200億円)、間接的経済効果として、(3)航空・海難事故抑制(各数十億円)、(4)農産物被害抑制(数百億円)、総額1000億円以上の顕在的・潜在的経済波及効果があると算出され、日本経済に大きく貢献しているのである。

 しかし最近、興味深い話を聞いた。「天気予報ができるようになったから気象衛星はもういらない」というのだ。宇宙関係者が聞けばビックリするような話である。天気予報は一般生活から見ればもはや当たり前のもので、「明日の天気」や「週末の天気」を予報するには地球を常時監視するカメラが必要で、“このカメラが気象衛星”であるという認識・理解がないのだ。例えが悪いかもしれないが、「冷蔵庫を使うのに電気が必要で、電気を使うためには発電所が必要であるにもかかわらず、冷蔵庫が使えるようになったので発電所はもういらない」と言っているようなものだ。一般的に電気が使えるようになっても、発電所が老朽化すれば建て替えなければならないし、天災で送電ケーブルが切断されれば修理しなければならない。天気予報をするためのカメラ(気象衛星)も同じで撮影するカメラが老朽化すれば修理するか交換する必要がある。だが発電所と異なる点はカメラを搭載している気象衛星が、地球から36000kmも離れて宇宙環境も苛酷なため、人が修理するのは事実上不可能であることと、発電所と比較しても建て替え(交換)の間隔が短いという特徴がある。このため、各国では5年寿命だった気象衛星寿命をデジタル化・次世代化させて10年寿命にさせ、製造費も下げて経済的にする動向が見られる。最新の静止気象衛星は寿命が倍になったにも係わらず、1機$85mil(102億円)だそうだ。衛星製造費用を含まないH-2Aロケット1発の打上費よりも安い(2月24日のH-2Aロケット打上費は112億円。但し射場設備維持費・修繕費・一部人件費は含まず)。

 天気予報には気象衛星が必要であるにも係わらず理解されていないのは、一般生活へ浸透し過ぎているための悲劇かもしれないが、今後の気象予報を円滑に進めるため、気象データからの予測技術の困難さと気象衛星そのものの理解を広める必要があるだろう。

 
1機$85milと経済的な新型GOES(Boeing)                 ひまわり6号、7号(JMA)

◎気象・環境観測衛星時代の到来

 話は極端過ぎたが、気象衛星は「静止軌道型」と「低軌道周回型」がある。静止軌道ではお馴染みの気象衛星“ひまわり6号(MTSAT-1R)”と“ひまわり7号(MTSAT-2)”が軌道上で運用されている。開発における紆余曲折については過去の誌面で詳述したが(エアワールド2004年10月号〜12月号)、国際動向からみれば、地球温暖化問題や異常気象の発生が頻発していることから気象衛星は性能向上・高度化が進んでいる。詳細は後述するが、日本は気象衛星を安定的に供給する体制が必要だ。

 次に低軌道周回型の気象衛星は、近年は米国POES、欧州METOPなどがある。この周回気象衛星の役目は、静止気象衛星のように地球全体を同時期に監視できないものの、台風やハリケーンなどの局地気象や北極や南極の極域観測などに用いられており、静止気象衛星では出来ない細かな観測をしている。主な仕事としては天気予報に必要な水蒸気や温度、汚染状況などの大気観測、太陽からの紫外線を防ぐオゾン層の観測など様々なセンサーを搭載している。

 さらに近年では、様々な種類の気象衛星が生まれている。いや、気象衛星という枠組みでは言い表せない。恐らく「気象・環境観測衛星」と言い表したほうがいいかもしれない。

 例えば、地球温暖化の原因が人為的であるのか深く検証・科学的に解明するため、温室効果ガスを観測するセンサー、一部の国では水不足になる可能性から水資源調査センサー、台風や爆弾低気圧の発生メカニズムを解明して降雨・被害予測を事前に察知する雲監視センサーなど様々なセンサーが開発されている。これらセンサーを導入した事により、観測結果を地球シミュレーターや研究者へ提供、オゾンホール・エルニーニョやラニーニャ現象・突発的低気圧発生現象・大気水質汚染など、異常気象や地球温暖化問題解明に成果を挙げつつある。

 気象・環境観測データを収集している背景には、異常気象を科学的に解明できなければ、ボヤきに過ぎず説得性は得られない。「宇宙空間は人類の命を救うために使われるべきである」とする考えがアメリカ・欧州で広がりつつある。最近は地球温暖化の影響で竜巻が短期間に大量発生したり、降雨減少や大規模ハリケーンが発生したり、熱波・寒波・暴風などで人命が失われる事態が無視できないレベルになりつつある。また低気圧による異常潮位や海面上昇で国土を失う国が続出することも見込まれている。もし観測データを有していれば、避難や防災措置などを施して被害を最小限にすることもできるため、人的・経済的損失を最小にすることができる。海外では防災衛星システムの開発に保険会社が出資する動きも出てきている。


海面上昇(FoE Japan)                                  竜巻(USATODAY)                                              (北陸電力) 

 これら背景から気象・環境観測衛星時代がやってきているのだ。こうした意識が広がる中、衛星破壊を行った中国の行動は非難されるべきであり、国連決議の段階で中国に味方する国は1国もいなかったのが宇宙破壊活動に対する反対意識の現れだと言えるだろう。今回の衛星破壊実験で筆者が問題視しているのは、気象・環境観測衛星へとって重要で、今後も利用価値の高い極軌道で行われたことだ。この軌道で宇宙ゴミが拡散したことは軌道利用側から見れば非常にイタイ。

だが、これからの時代は米ソ冷戦時代の枠組みで判断しては“時代外れ”になる。例えば、インドの気象センサーはロシア製であり、中国の気象衛星は中露共同開発であるがアメリカのNOAAでもロシア製センサーを採用、衛星へ搭載している背景がある。米ソ冷戦時代はもう終わり、自国の優位性を確保し、孤立しないようにアライアンスを組む時代となっている典型例だろう。一方、観測センサー技術はその国が持つエレクトロ二クス技術基盤そのもののため、技術がない国はアライアンスの対象とならず淘汰されていく時代になる。例えばフランスやアメリカが共同で衛星群「A-train」を構築、気象・環境観測衛星時代へ対応したり、アルゼンチン・ニュージーランド・オーストラリア・南アフリカという南極に近い国々が地球環境観測にて同盟を結ぶ動きがある。

  これからの宇宙利用時代は「宇宙からの情報を分析・共有して経済的・社会的同盟を組む時代」がやってくることを我々は認識すべきだろう。特定の国のみを意識した宇宙戦略を立て、軍事宇宙活動を中心に叫ぶようではいずれ孤立する可能性が高い。賢く巧みな戦略思想を持たなければ、いずれ世界から日本が相手にされなくなるからだ。残念ながらすでにその予兆は起きつつあるが、最近の国際動向を見れば、「宇宙は新たな国家間のアライアンスを生み出すツール」でもあることを認識すべきだろう。海外では実際に何が起きているのか?まずはその事例から紹介しよう。

◎米仏共同の「A-train」

 アメリカとフランスの宇宙機関NASAとCNESは気象・環境観測衛星で連合している。それはA-train衛星群だ。これは将来計画を含めて「大気微量成分観測衛星:Aura」、「雲・エアロゾル観測衛星:PARASOL、CALIPSO」、「雲観測レーダー衛星:CLOUDSAT」、「水質観測衛星:AQUA」、「CO2観測衛星:OCO」の6衛星で構成されている。同じ軌道を飛行しており、将来計画のOCOを除いても8分間の間に5機の衛星が同じ観測領域上空を通過する、まさに列車のような観測衛星群だ。各衛星は単独で個々のミッションを遂行しながら、同じ軌道を飛行しているため、同域を皆で観測すれば、比較もできるため詳細な現象解明に繋がる。同じ衛星へ大量にセンサーを搭載して飛行すれば、同域を同時観測できるが、大型になりコストが増大、肝心なセンサーの開発が遅れれば全体の進捗へ悪影響を及ぼし、衛星機能の心臓部であるバス機器が故障すれば全ての観測機器が宇宙の藻屑となる。

 その典型例がADEOS-I、ADEOS-II、ENVISATだろう。ADEOS-IやADEOS-IIはPARASOL衛星の紹介で詳述するが、ヨーロッパ宇宙機関ESAが打ち上げたENVISATは当初の予定より打ち上げが10年も遅れている。観測データを利用したい人から見れば大変迷惑な話である。この事実から超大型衛星路線を見直し、センサー開発の進捗に応じて衛星を適時打ち上げ、衛星群を構築する構想が良しとされた。今後は、単機能衛星化するとまでは言わないが、センサーの開発状況に応じて衛星を打ち上げ、A-Trainのように列車へ連結するような感覚で気象・環境観測衛星が打ち上げられるようになるだろう。このほうが経済的で冗長性もあり、リスク管理的に見ても妥当だ。今後は「小型(低コスト)・高機動(RESPONSIVE)システム」が主流となる。では、個々の衛星を紹介したい。

・ Aura

 Auraは大気汚染発生のメカニズムや拡散の監視、およびオゾン層を観測するため、アメリカ、オランダ、イギリス、フィンランドがセンサーを開発、NASAが取り纏めてAura衛星へ搭載、打ち上げた大気微量成分観測衛星だ。重量が約3000kgと大型であるものの、4つのセンサーを搭載している。これらセンサーを使うと気圧や温度以外にもオゾン、水、メタン、一酸化二窒素、二酸化窒素、硝酸、五酸化二窒素、メタン、一酸化炭素、塩化水素などがどのぐらい大気成分に含まれているか観測できる。NASAでは5月と10月に観測結果を発表している。それによれば、宇宙からの紫外線をカットするためのオゾン層が春から夏にかけて薄くなり、オゾンホールとなって消滅してしまう現象を解明している。Auraの観測結果では、「オゾンホールは化学物質・雲の形成・風・日光・温度との一連の複雑な相互作用の結果で発生する」ことを解明した。しかしオゾンホール発生メカニズムはまだまだ未解明なようだ。これらセンサーによる観測データの蓄積が将来、紫外線発生予測やオゾン層変化予測及び、オゾンホール拡大を食い止めるための方法論が見つかるかもしれない。またオーストラリアやニュージーランドなどの南極付近の国々では、一般生活や健康被害、食糧減産防止などの対抗策が見つかる可能性がある。衛星が直接何かできるわけではないが、「知ること」による潜在的効果は計り知れないのだ。


Aura観測想像図(NASA)                                           観測結果の一例(NASA)

  あくまで観測の1例だが、Auraは他にも大気中に含まれる微細物質を検出できるセンサーを搭載しているため、大気汚染物質の観測も可能だ。大気中の微細物質は、日光を遮ったり、化学反応を起こして温室効果や放射冷却効果を発生させるため、地球の急激な気候変動を把握するためのヒントになると考えられている。Auraの観測データは全世界の大気化学研究者へとって重要なデータ供給源なのだ。以上、Auraはアメリカ、オランダ、イギリス、フィンランドという地球環境問題に興味を有している国々で構成、打ち上げられて地球温暖化阻止のデータ集めをしている。

・ PARASOL

 フランスは地表反射光観測センサー(POLDER)を開発した。このセンサーは地球表面にある、エアロゾル(浮遊粉塵)、雲、海で反射される太陽光の反射光を観測するセンサーで、空気中に漂うエアロゾル(浮遊粉塵)の循環を調べたり、日光が地表に当たった反射光による作用を調べたり、温室効果ガスが着実に増加している状況からその変化や傾向を調べるセンサーである。

 
     PARASOL(CNES)              国際的信用失墜をもたらしたADEOSとADEOS-II(JAXA)

 このセンサーをCNESは旧NASDAのADEOS衛星やADEOS-2衛星へ搭載して観測した。しかし、ご存知のようにADEOSやADEOS-IIは打ち上げてから1年も経たずに衛星筐体機器が故障、廃棄されている。この2度の大失敗は旧NASDAやJAXAの国際的信用失墜を招いた。旧NASDA(JAXA)が2度もセンサーを観測不能に陥らせた事実からCNESは地球観測衛星システム戦略を見直し、実質的にJAXAへ見切りをつけ、センサーを小型衛星筐体“MYRIADE“へ搭載、PARASOL衛星(150kg)としてAriane-5ロケットのピギーバックで打ち上げている。さらにNASAとフランスがA-Trainで会合をもった際、NASAが日本のチームを入れるかどうか議論した際、フランスが「あそこ(旧NASDA)は入れないほうがいい」と反対したそうだ。悲しい話ではあるが、フランスの旧NASDA(JAXA)に対する評価はこうなのだ。我々はADEOSやADEOS-IIを「“成果”を称えてお茶を濁す」のではなく、深く反省しなければならない。そうしなければ、日本の衛星が今後、他国から“搭乗拒否”されるかもしれないからだ。

・CLOUDSAT

 次にCLOUDSATだ。この衛星は2006年4月にCALIPSOと一緒にDELTA-IIにて打ち上げられ、A-Trainに加わっている。CloudsatはCloud Profiling Radar (CPR)と呼ばれるレーダーを搭載、地上にある気象レーダーよりも1000倍も感度の良いレーダーを搭載している。センサー供給はアメリカとカナダで、この観測装置は衛星から大気圏へレーダーを照射し、雲の構造・量・降水量を測るレーダーである。過去の衛星は「そこに雲がある、厚さと水蒸気量と温度はこれぐらい」程度しか分からなかったがCLOUDSATは、雲の内部にレーダー照射を当てて雲の粒子、雨・氷を判別出来るようになった。つまり雲の中で大雨が発生するメカニズム解明ができるようになり、雲をタテ割りにして内部構造の詳細を知ることができるようになったのだ。

 しかもレーダー衛星は重量がかかるとされていたが、それはもう過去の話であり、搭載電子機器の次世代化でCLOUDSATは700kgと軽量化されている。海外技術者から日本のALOS(だいち)搭載の合成開口レーダーは、「(目的が違えども)技術水準で言えば、もはや時代遅れ」と言われたが、確かにそう思える。やはりJAXA衛星は在来技術の在庫放出・輸入品で構成しており、真の意味で実用衛星開発をしているのかと疑問が浮かぶ。

 
    700kgと軽量なCLOUDSAT(BALL)                       観測データ(NASA) 

・ CALIPSO

 この衛星は先のCLOUDSAT通過15秒後を飛行する衛星で、センサー開発はアメリカとフランスが行っている。搭載しているセンサーはライダーと言われ、レーダーと似た観測手法である。CALIPSOのライダーは衛星から赤外線や可視光と呼ばれる光を地球の大気圏へパルス照射(Transmitter Laserで照射)して、跳ね返ってくる光を観測カメラ(Receiving Telescope)で撮影する観測手法だ。これにより大気中のエアロゾル(浮遊粉塵:チリ)を詳細に観測、雲や大気中にある“火山噴火・ダスト・砂塵嵐・人間の産業活動から発生する粉塵”等の微細粒子を見分ける事ができる。これが何に使えるのか?と言えば、大気汚染から発生する雨の量だ。実のころ、清潔な大気中で生成された雲は、エアロゾル(チリ)が少ないため雨が発生しやすいと言われている。逆に汚れた大気はより容易に多くの雲が発生すると言われ、こうした雲は明るく透けて見えるそうだ。つまり雲が発生していたからと言って、必ずしも雨雲が発生するわけでない。CALIPSOは大気中のチリを観測、CLOUDSATで雲量のデータと比較して大気中のチリ量の情報から降雨現象の解明をしているのだ。将来、人間活動による気候変動影響を解明する手がかりとなる。

 CALIPSO衛星製造はアメリカではなくフランスが担当し、MYRIADE衛星筐体(150kg級)よりも大型のPROTEUS衛星筐体(500kg級)を使用、アメリカやフランスが製造した観測装置を組み込んでいる。

 さらにCLOUDSATとCALIPSOは、特定の季節に強い風が吹くというモンスーン現象解明のため、インドネシアと共同で気象観測機も投じて観測を行っている。発表資料によれば、大まかな観測はMTSAT(ひまわり6号)でデータを取り、モンスーン発生と雲の発生の相互作用を詳細に観測するため、A-TrainのCLOUDSATとCALIPSO で観測、さらにアメリカとロシアの気象観測機WB57、Proteus、M55を利用して大気中の高高度からデータ取得を2006年1月と2月に実施している。降雨発生の現象解明へ力を入れている動きだろう。


  CALIPSO(NASA/CNES)                                       ライダーの観測概念(NASA/CNES)  

・ AQUA

 次に水質観測衛星AQUAである。この衛星は名前のように“水”がテーマに掲げられ、水の惑星とも言える地球の洋上・陸地・大気の水循環を観測する目的で打ち上げられた。

 このAQUAの観測機器はアメリカ、ブラジル、日本が提供している。A-trainで日本が参加している唯一の観測機器である。日本のセンサーは高性能マイクロ波放射計(ASMR)が搭載されている。このセンサーは6つのマイクロレーダー波を照射して海面水温・土壌水分・雪氷圏の観測が可能だ。同様のセンサーはADEOSやADEOS-IIで搭載していたが、上記で述べたように双方とも打ち上げて1年も経たずに衛星筐体側が故障したため、観測不能になっている。一方、AQUA搭載のASMRは衛星製造がアメリカでもあり、打上から5年が経過しても順調だ。設計寿命の3年超えているため、十分機能したと言える。ただ反省すべきことがあるとすれば、センサー自身は良かったが、衛星へ組み込む際の電気的インターフェースに問題を抱え、大幅に手直ししている。国際共同を進める場合、ハード的・ソフト的なインターフェースは重要であり、十分検討した上で進める必要がある。

 AQUAは他にもブラジルが提供、製造メーカはイギリスの水蒸気量観測センサー「マイクロ波水蒸気サウンダ」やアメリカが開発した「雲及び地球放射エネルギー観測装置(CERES)」、「高性能マイクロ波サウンダを2基(AMSU)」、「中分解能撮像分光放射計(MODIS)」、「大気赤外サウンダ(AIRS)」も搭載され、観測センサーを多く搭載している関係から重量は3123kgとなっている。リスク分散の観点から、今後はこのような大型衛星は減る傾向だ。

 このAQUAは、中国大陸から朝鮮半島を横切り日本列島へ流れる観測情報も発表している。黄砂との指摘が挙がっているが、自然物質なのか人間の産業活動によるよるものかは不明だ。恐らく粉塵・チリを判別できるCALIPSOならば解析可能ではないか?

 
AQUA(NASA)                 大気観測例(NASA)

・ OCO

 A-Trainの最後は、OCOだ。これは2008年打ち上げ予定であり、温室効果ガス削減の対象として最も重要視されている二酸化炭素(CO2)を監視する衛星だ。センサー開発はNASA-JPL、衛星筐体提供はオービタルサイエンス社が担当している。衛星の最終組立てはJPLで実施されるそうだ。このOCOは従来と比較して民生品(COTS)を多用して製造されており、その関係から設計寿命は2年と短いものの、重量が530kgとSMALLクラスで製造されている。CO2観測衛星は、2007年3月に欧州が2020年までに全体の二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を、1990年比で20%削減することで原則合意したが、この衛星はどこの国がどれぐらい二酸化炭素を排出しているか分かるため、各国が二酸化炭素排出削減を履行しているかどうか検証できるだろう。

 実はこの二酸化炭素観測衛星は日本も製造している。それはGOSATだ。JAXA宇宙利用推進本部がOCOと同様、2008年に打ち上げるべく開発をしている。センサーは環境省が予算化しJAXAが委託を請けて開発しているが、開発能力が乏しいようで、残念ながらセンサー主要部品は輸入品だそうだ。さらに重量もOCOと比較しても3倍もある。ESAのセンサーも搭載しているが、それでもOCOと比較して3倍も重量があるのは在来技術の延長線上で製造しているためであろう。海外ではセンサーの小型・軽量・低コスト化が行われており、センサー技術競争が勃発している。GOSATは大型ロケットを使用せねばならず、ミッションコストがOCOと比較して悪くなる可能性が高い。GOSATはH-2Aで打ち上げ予定であるが、OCOが固体+最終段液体のTAURUSロケットであることから、ミッションコストを比較すれば、GOSATが長寿命であっても効率が悪いだろう。OCOとGOSATが共に2008年打ち上げ予定であることから、同時期に打ち上げる衛星として日本の技術水準低下が露呈し、国際的評価が低くなる可能性があることをここに加えておきたい。


画像出典:Orbital Science、JAXA

抜本的に地球観測衛星システムを見直すアメリカ

 以上、A-trainはアメリカとフランスが製造し、「センサー技術を持ち寄りで構成」して地球環境問題に取り組んでいる。また公開資料から分析すれば、アメリカは地球観測衛星システムを抜本的に見直している。アメリカではPOESとDMSPという別々の周回型気象衛星システムを統合し、2010年以降からNPOESSに一本化する方針や、NPOESSの低コスト派生型のNPOESS-Liteや欧州METOPとの協調観測、A-Train等の特殊衛星との組み合わせが計画されている。そしてセンサーの新世代化、地表観測衛星についてもLANDSATシリーズの廃止も含めて抜本的に気象・環境観測衛星体制を見直している。また優秀なセンサーはNPOESSへ搭載するという方針で、ロシアのセンサーも搭載されるそうだ。

 そしてNASAでは、衛星観測データに加え、気象観測機等の実測データ及びスーパーコンピューターによる解析という「衛星・航空機・モデル化(解析)」という3本柱で現象解明へ取り組み、ハリケーンや竜巻などの自然災害へ対する予測精度向上、異常気象解明、地球温暖化解明などを行い、防災・食糧生産・漁業など宇宙船地球号と人類を延命させる方向性を考えているそうだ。このため、国防気象衛星であったDMSPや商務省系NOAAが運用するPOES体制を“これからの地球環境時代に対応”させるため、NPOESSへ統合し、アメリカ国防総省、商務省、NASAの共同で開発が行われている。つまり過去のしがらみを排除し、効率的な地球観測衛星システムを構築しようとしている。

 この抜本的改革の背景には、“急激な温暖化”が無視できないレベルで進行し、過去の地球ではあり得なかった異常気象が発生、この現象を解明して対策を講じなければ「いずれ人類が自然災害によって激減する可能性」に危機感を抱いているそうだ。被害がもたらされれば、経済活動をする以前に人類が生きていくための食糧が不足する事態が予測されており、食糧をめぐって「愚かな争い」をしてしまう国が現れる時代も想定される。


  気象・環境観測衛星群(レイセオン)   衛星とセンサーの統合(レイセオン)

 このため、軍事・民事で切り分けていた国防省とNASAの保有している別々の衛星を統一化、「宇宙は軍民両用が実態で、データは使う側に依存する」という概念を持った上で、いずれやってくる地球と人類の危機に対応しようとしている。そしてセンサーを開発できる優秀な国とは組む発想でフランスやロシアなどの国々と国際協調で実施している。


NASAの気象・環境観測体制(NASA)

 また、A-trainはまだまだ実験段階であるとの事で、NASAとCNESの間ではA-trainを延長してB-train、C-trainと別の軌道面を利用した“列車構想”を検討しているそうだ。しかもこの“列車構想”の延長計画、実は日本で開催されたUSEF SYMPOSIUMで来日したアメリカ人とフランス人がシンポジウム開催後の会合で発案されたそうだ。このような戦略構想が日本で話し合われていたにもかかわらず、日本が殆どコミットしていないのは悲しい話である。

 今後はADEOSやADEOS-IIで失われた国際的信用を取り戻す戦略プランが必要であろう。詳細は後述するが、GOSATの実情を見ればJAXAは相変わらず国威発揚時代の遺物の宇宙システムを変更するつもりはないようで、宇宙同盟時代に対応した行動が乏しい。

◎気象・環境観測衛星時代への対応

 今後の我々の住む地球が温暖化により考えられない被害をもたらす事が予測される。ツバル共和国では海面上昇により国土が失われつつあり、近年では、通常あり得ないと言われていたブラジル沖でも強い低気圧(サイクロン)が発生、被害をもたらしている。また大気汚染も核汚染や化学汚染より深刻で、CO2に限らず大気汚染をフランスやアメリカが詳細に観測、雨雲発生とリンクさせていることからも気象・環境観測時代が到来していることを意味している。

 この現象を科学的に解明し、「不都合な真実」を直視して状況を分析、有効な対策を講じなければ「宇宙船地球号」は近い将来沈没してしまうだろう。宇宙開発を「夢」や「フロンティア開発」として捉える動きは相変わらず止まらないが、近年の地球の歴史を

「18世紀が富の争奪戦争(殖民地争奪時代の幕開け)」
「19世紀が産業資本主義の時代」
「20世紀がエネルギー戦争(同盟:ブロック経済)時代」

だとしたら、

「21世紀は環境と生存競争の時代」

になるかもしれない。現状の地球環境や温暖化問題から筆者らはそう考えている。

 もし現状のエネルギー戦争時代が継続されれば、石油だけではなく水・鉱物資源を巡って「愚かな行為」をする国が現れるかもしれない。そう捉えるのならば、「21世紀は宇宙が産業として台頭する世紀」として捉え、人類が生き残るために能力を注ぐ必要があると考えている。月・火星探査計画で各国が盛り上がっているが「宇宙探査も必要だが、地球を何とかする方が先だ」と一歩下がって見ようとする“視点”のある国と無い国がある。アメリカやフランスはしっかりと気象・環境観測時代へ対応した方向性を示している。

 また気象・環境観測情報は、「自国が地球を汚していない」、「ここが汚染地域なので、解決策を講じよう」、「隣国からの汚染物質飛来があるならば、是正させよう」という人類を延命させるツールとして宇宙外交交渉もできる。また食糧生産状況(衛星で発育情報がわかる)もアライアンス国間で共有し、食糧不足を補ったり、不足している国へ援助したりして「愚かな行為」をしないよう、事前に対策を講じる事ができる。さらには地球温暖化による“産地移動”が見込まれるため、コーヒー・オレンジ・麦・コメ・バナナを栽培する企業も手の内を見せないため、衛星を密かに保有しようとする動きがある。詳細は述べられないが、コメの産地が北上する例や、南国でしか取れないバナナやコーヒーの産地移動に対応するためだろう。

 もしその視野をもって、市場競争力のある即応性・小型・低コストで観測体制の構築が可能というTACSATやLOW-COSTランチャー(エアランチやDARPA-FALCONロケット)をアメリカが“即応型宇宙政策”で実行していたら、「軍事だから関係ない」という考えが如何に間違っていたかが分かる。

◎TACSATの多国間アライアンス案

 最近ではTACSATのアライアンス案が検討されている。TACSATシリーズはインターネットデータ通信衛星、高解像度光学衛星、ハイパースペクトラムセンサー搭載衛星、移動体通信衛星である。本衛星は組み立ては「ユニット&モジュール」方式を採用、搭載機器はプラグ&プレイで自動認識する仕組みであり、製造期間は2日を目指している。このため気象・環境観測センサーを組み込めば、使用できるのも事実であろう。

 このTACSAT開発国のアメリカがSPACENEWS誌で興味深い発表をした。ただし“提案段階”であるが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国(19カ国)同士が共有する案を提示している。NATO所属国が1機づつTACSATを購入・打ち上げて情報を共有化すれば、低い投資で高頻度の衛星システムをNATO加盟国が使用・共有できるというコンセプトだ。

 “提案段階”ではあるが、衛星開発能力を持たない国がNATO加盟国だからという理由で高解像度衛星と移動体通信機能が手に入るのは魅力的であろう。TACSATの1機あたりのミッションコストが30億円以下(衛星20億円程度、打上費が約6億円、運用費年間1.5億円程度)だからだ。ちなみに日本は情報収集衛星構築に年間600億円をかけている。

 TACSAT戦略は、宇宙を外交に利用するという「新たなアライアンス戦略」とも言えないだろうか?WINDOWSのように皆が使えるコンセプトを示し、安く入手したい国・アライアンスを組むべき国へ魅力的提案を見せられる“影響力”をもったコンセプトである。

 しかしTACSATは突然生まれたわけではなく、Mightysat-1とMightysat-2という試験衛星を打上げて小型高機能衛星の素地を掴み、「ユニット&モジュール交換型」、「プラグ&プレイ方式」の設計案を固めて打上げたそうだ。将来のためにコツコツ技術を積上げて花開かせる戦略を実践したのがTACSATである。

   
Mightysat-1(AFRL)                   Mightysat-2(AFRL) 

 今後は安くて使いやすいモノを段階的に作るコンセプトとロードマップを国内の衛星メーカーが持たなければ、いずれTACSATのような競争力ある衛星が商業市場化したり、フランスが日本と同等クラスの宇宙予算で巧みに振舞う戦略で差をつけられれば、いずれ官需依存体制さえも維持説得性を失い、日本の宇宙メーカーは時代の流れと共に衰退、消え去る運命となってしまう。既存のJAXA(旧NASDA)体制ではそうなるのは時間の問題だ。

◎DMC (Disaster Monitoring Constellation)

 その他の国際アライアンスで言えば、DMC (Disaster Monitoring Constellation:災害監視衛星群)がある。これは、イギリス、中国、アルジェリア、トルコ、ナイジェリアの衛星アライアンスである。これら衛星はイギリスのメーカーSSTL(Surrey Satellite Technology Ltd)を中心に開発したAlSAT-1(アルジェリア)、BILSAT-1(トルコ)、NigeriaSat-1(ナイジェリア)、UK-DMC(イギリス)、Beijing-1(中国)の5基が互いに独自で衛星を運用しながら、災害発生時等の緊急事態には情報を相互供給する体制を構築している。

 これは「A-Train」のように同軌道面へ投入されているわけではなく、各機個別の軌道へ投入されている。また最新の気象センサーも搭載しているわけではなく、パンクロカメラ及び、一部の衛星でマルチスペクトラル光学センサーを搭載している。解像度は4m〜32mと決して高くないものの、独自で光学衛星を保有しながら災害監視時にデータを共有できる仕組みとなっているのだ。いざという時の協力に加え、同等クラスの衛星であれば各国間のデータ交換の不公平が生じにくく、自分の衛星が特定の地域の撮像に2日かかるところを、アライアンス国へ頼めば数時間で撮像してくるという代理撮影というメリットもある。提案者はSSTLであっただろうが、DMCは「宇宙は新たな国家間のアライアンスを生み出すツール」の典型的と見るべきであり、宇宙を外交にも使う1つの発想として捉えておこう。


DMC(SSTL)

◎注目すべきは日本と同じ予算を有するフランスの戦略

 ではフランスを少し詳しく見てみよう。フランスは日本と同等クラスの宇宙予算で宇宙大国としての戦略的な立ち振る舞いをしており、アライアンス路線堅持で独自の有人宇宙活動を封印、“無人・サイエンス(科学)重視”という政策を実質的に示している。これはなぜか?一般的に見れば「宇宙科学の分野が地球観測衛星やフランス軍事宇宙活動に何の役にも立たないのではないか?」と思うだろう。しかし実のところ、気象・環境観測衛星であるA-Trainなどのセンサー技術は天文観測技術や宇宙サイエンス研究技術が基本なのだ。例えば赤外線天文衛星であれば、その技術はヒートアイランド現象や山火事検知などの熱源観測衛星として使える。軍事用ならばミサイル発射探知技術の基礎技術にも使えてしまう。またA-Trainのエアロゾル(粉塵:チリ)を観測する技術も、宇宙空間物理学もしくは超高層大気物理学の世界を熟知している研究者が必須であり、それは宇宙科学研究者なのだ。彼らを蔑ろにすれば、センサー基盤技術そのものが失われる。

 これはアメリカの衛星がもっと象徴的だ。我々へすばらしい天体情報を提供してくれるハッブル望遠鏡、この衛星筐体はアメリカの偵察衛星KH-11と同じモノが使われているそうだ。撮影対象が天体か地表かで違いがあるため、内部の電子機器は別物だが筐体は同じものが利用されている。

 ハッブルは脱線話ではあるが、フランスはセンサー技術を磨くため、“無人・サイエンス(科学)重視”という政策を置いている。ロケットや衛星を作れる能力があっても、「センサー開発能力」がなければ、これからの情報競争時代を生き抜くことは出来ないからだ。もし世界をリードするセンサー技術を持っていれば、他国から「我々の衛星へ載せないか?」と誘いが来る。逆にセンサー開発能力がなければ、輸入品で対処しなけばならず、相手にされず、国際的評価もされずにその国の宇宙技術は低く評価される。フランスは国際的地位を確立するため、他国より一歩リードするためセンサー技術を磨く戦略を持っていると考えている。そうでなければ“無人・サイエンス(科学)重視”戦略の正当性がつかない。「世界の宇宙予算全体の半分以上を有するアメリカと肩を並べるには何をすべきか?」という基本がしっかりしている。このためフランスが地球観測センサーで高い技術を持つイスラエルとVENµS衛星で提携を結んでいるのも納得がいく。

◎筐体としての大・中・小衛星の標準機確立競争が勃発

 今後は、センサーを実証・育成すべく、衛星の標準機確立競争も勃発するだろう。その一歩先を行くのがフランスかもしれない。1990年代後半にフランスは150kgクラスのMYRIADE小型衛星筐体と、500kgクラスのPROTEUS中型衛星筐体を開発、用意して宇宙科学ミッションから気象・環境観測ミッション、軍事通信傍受ミッションを開発、打上げている。MYRIADEは過去の誌面(2007年3月号)で示したように、数々のセンサーミッションを創出している。

 対するアメリカは、TACSAT戦略やBall AerospaceのBCP-5000衛星筐体シリーズで高解像度地球観測衛星やレーダー衛星を開発する方針を掲げ、他方で静止気象衛星の世代交替や周回衛星であるNPOESSの開発も進めている。このトレンドを分析するとどうやら大・中・小衛星の標準機があるようだ。以下を見て欲しい

 これは、周回型軌道と静止軌道の衛星筐体重量動向だ。今後は用途に合わせて様々な気象・環境観測衛星が出てくるだろう。まず、静止衛星であるが現在は軽量化が進められており、最新のBoeing社GOES-N静止気象衛星は寿命10年で3200kg(軌道投入後は2250kg)である。その後継型は2012年に初打上げが予定されており、「衛星寿命は20年」、「解像度50倍アップ」、「観測頻度5分」、「ハイパースペクトラルセンサー搭載」という驚異的な能力をNOAAが要求しているが、ハードルが非常に高いため、現存の技術でやれば6500kgになると予測されている。これではコストもリスクも高くなるため、軽量化及びセンサー技術の次世代化、宇宙部品新世代化を進めているそうだ。今後、技術開発動向次第で静止気象衛星は6500kgから4000kgとなり、最終的には上記性能で2000kgを目指しているそうだ。逆に2000kg以下にはならないだろうとも言われている。

 聞くところによれば衛星は現在、アナログ化→デジタル化への移行期に差し掛かっている。その典型例はMTSA-1RとMTSAT-2だろう。MTSAT-1Rのセンサーはレイセオン、MTSAT-2のセンサーはITTインダストリー社製であるが、レイセオンのセンサーはデジタル・アナログ式、ITTのセンサーはアナログ式である。実のところ、後に作られたMTSAT-2(三菱電機製:4650kg)の方がMTSAT-1R(SS/L社製:2900kg)よりもセンサー性能が悪く質量も重い。デジタル化されつつあるものと、アナログ式(旧式)で作られたものの差で乾燥重量が500kgも違う。またアナログ式は5年程度しかもたないが、ミラー走査方式のようなアナログ式をやめ、デジタル式にすればセンサーが10年〜15年寿命が達成できる。コストダウン・性能向上・軽量化へ向けてデジタル式へ移行しているのだ。今後の静止軌道における気象・環境観測衛星は、デジタル式へ移行し、技術進捗次第で大・中・小へと新世代化へ向けて変貌を遂げていくであろう。

 次に周回軌道だ。こちらも衛星システムの軽量化を進めており、「アナログ式→アナログ・デジタル式→デジタル式」へと移行している。また、センサーも小型・軽量化・低コスト化が求められている。例えば、POES・DMSP後継機のNPOESS開発において搭載センサーが開発途上であるため、NPOESSの全体重量が確定していない状況がそれを物語っているのではないだろうか。このため、センサーの開発進捗や衛星のデジタル化などの新世代化進捗によって重量が確定してくるだろう。また、センサーも突然宇宙空間へ打上げるのではなく、試作品を観測ロケットで打上げて機能確認をしながら、150kgクラスのフランスMYRIADEバス筐体のようなもので宇宙実証し、“用途”に応じて独自か国際協調を前提に“ミッションごとのロードマップ”を立てて500kgクラスや1000kg以上の大型衛星へ展開していくようだ。

 今後は、筐体として大・中・小衛星の標準機確立競争が勃発するだろう。フランスのMIRIADE筐体やイギリスSSTLの筐体は小型のトップランナーになる可能性がある。中型はPROTEUS筐体やTACSAT筐体が考えられ、大型はNPOESSやMETOPがトップランナー(スプリンター)になる可能性が高いと考えている。


MYRIADE筐体(150kg)                  PROTEUS筐体(500kg)                              POES(1000kg以上)
画像出典:CNES、NOAA

◎国際的地位を回復する発想が必要

 だが日本は、環境・気象衛星時代への対応ができていない。JAXAはADEOSとADEOS-IIの2度の大失敗を真の意味で教訓にしていない。ADEOSがもし成功していたならば、NPOESSとMETOPという大型気象・環境観測衛星の地位を狙えたかもしれない。しかしJAXA(旧NASDA)が計画している全球降水観測計画「GPM」や二酸化炭素監視衛星「GOSAT」は国際的な支持や同義付けが十分なされずに計画されている。国際的に交渉し日本の地位向上を目指してもJAXAを管轄する文部科学省が「国際的な交渉は外務省で、うちは技術開発担当だから」と言って国際交渉が実質何も行われていない。この結果、独りよがりで衛星を作り、“国際的に影響力のある衛星”を作れていない。センサーもほんの一部だけ国産化しているが、多くは外国メーカーへ委託製造&輸入して打上げている。世界第2位の宇宙予算を有してこの有り様だ。

 またTRMM(熱帯降雨観測衛星)は利用者側の気象学者が重要であると認識しているにも係わらず、運用側のJAXAは理解していないため、利用者側と運用者側が噛み合わずに運用危機にも見舞われた。予算付けの優先順位が歪んでいる。

 「宇宙予算が少ないから」は理由にならない。宇宙予算が同等クラスのフランスを見れば、日本はやり方が悪いと言える。だがそれを改革しようとする意思は文部科学省にもJAXA(旧NASDA)にも殆ど見られない。既存の延長線で相変わらず“在来技術の延長”、“センサーは輸入品”、“H-2Aで打上げるために大型衛星にする”という方針で、膨大な宇宙予算を消費しつづけている。典型的なのは防災衛星だ。この衛星にはALOSの光学センサー派生型が搭載されている。ALOSは実運用した結果、国際的にも解像度が悪いため、タダ同然で販売しているにもかかわらず画像購入はほんの少ししかない。民間で打上げた衛星のほうが使えるのだ。だがALOS筐体技術で“防災のための次期地球観測衛星”と称して世界から賞賛されない衛星システムがまた作られようとしている。このまま打上げれば世界から笑いものにされてしまう。今後は国際的地位を回復する発想・戦略が必要だ。

◎日本独自・国際共同ミッションの必要性

 人類を延命させるために気象・環境観測衛星を打上げるという、アメリカやフランスと目標が同じならば、JAXA(旧NASDA)と文部科学省が主導する衛星体制では国際競争で脱落する可能性が非常に高いため、別の次元でやり直す必要がある。国際的な地位を構築するためには、POESやMETOPの国際的地位は“2度の大失敗”から狙えないため、彼らのテストベッド機の立場として衛星筐体を用意、宇宙実証実験ができる地位・体制を目指しては?しかしGOSATやALOS衛星筐体では大型・高価過ぎて話にならない。下表に示すように、「小型(低コスト)・高機動(RESPONSIVE)システム時代」に逆行している。このまま打上げれば、世界から嘲笑されるのは明らかだ。しかし、ゼロから開発したいが時間的制約でできないため、USERSかSERVISか惑星探査機の筐体が最適と考えられる。USERSは回収型カプセルを搭載した経緯があるが、これは「カプセルを外しても衛星として重量バランスを保てる」という意味があり、様々なセンサーを搭載できる素地を有している。またSERVIS筐体は偵察衛星のような高度なミッションには向かないが、センサーミッション実証機としての素地は情報収集衛星が証明している。情報収集衛星という高度なミッションにおいても“大規模な不具合は起こしていない”ようなので、素地はいいだろう。またUSERSもSERVISもデルタ、アトラス、H-2Aへ搭載が可能でSERVISはロコットが使用された。SERVIS-2もロコットが使用される予定だ。将来的にコストが合えば、次期固体ロケット使用も考えられる。コスト高のロケットを無理に使うのでははく、「ROCKET BUY INTERNATIONAL」でやればよい。

 USERSやSERVISは、 POESやMETOPのように絶対に壊れてはならないという“重要度の高いミッションには向かない”が、“本番へ搭載されるセンサーのテストベッド機”として見れば使える筐体だ。小型衛星としてはやや大きめであるが、それでもJAXA計画よりは小型・コンパクト・低コストで構築可能だ。この筐体を国際仕様化させるため、センサーを組み込みしやすいように「プラグイン・プラグアウト」装置を組み込み、センサーの接続方式を確立、日本のセンサー文化も構築する戦略で国際協調に対応できる体制にすればいいだろう。要するにアメリカがTACSATへ行く前にMightySATで試験を重ねたように、新世代へ対応する素地を掴むためにUSERS・SERVIS・惑星探査機の筐体を使えということだ。ヨーロッパでは月探査機SMART-1を活用した気象・環境観測衛星が検討されている。宇宙探査機は一品工芸品と言われているが、過酷な宇宙環境を航行するため、極周回軌道衛星へ使える素地を有しており、宇宙探査&地球周回というDual USE(両用)が可能と考えられているそうだ。ゼロから作るより、時間的・コスト的に適っている。この背景もあり、ESAでは地球探査“Earth Exploration”という言葉も利用されている。

 今後は日本が“センサーの試験屋さん”を担当して、アメリカやフランスともう一度国際舞台へ出られるように戦略を立て直し、その一方で国産センサーが開発できる“宇宙サイエンス研究者”を組織してやり直す体制が内閣府宇宙戦略本部へ期待するところだ。既存のJAXA地球観測ミッション計画体制では予算もかかり、旧世代コンセプトのため、国際的地位回復も期待できない。下手をすれば、フランスやアメリカから「システムが低レベルで協力拒否」されるか「作るのはこちらでやるから、資金だけ出してくれ」と言われ、置いてきぼりにされる可能性が高い。


画像出典:JAXA、SSTL、USAF、CNES、USEF、IAI、DLR

 USERSとSERVIS筐体は経済産業省管轄下のUSEF(財団法人 無人宇宙実験システム研究開発機構)が開発した。開発にはISASの衛星エンジニアが関与している。その際三菱電機エンジニアは「(旧NASDA衛星よりも)こんなに衛星って安くできるんだ」と感心したそうだ。

◎宇宙防災機構の創設

 JAXAのような高価(ブルジョワ)で旧コンセプト延長型の衛星システムではなく、エコノミカルな防災衛星や気象・環境観測衛星を打上げるため、国土交通省(気象庁)が主導して宇宙防災機構を作り、USEFがUSERSやSERVIS筐体で極軌道周回型衛星の実証機を出したほうがいいだろう。そして内閣府宇宙戦略本部が主導して国際交渉を活発化させ、10年で40機〜50機を打上げるならば現行宇宙予算で十分可能だ。打上げ手段もコストが合えば国産も使うというスタンスで「ROCKET BUY INTERNATIONAL」でやればよい。これはメーカーにとっても量産・シリーズ化の道ができる。JAXA計画では予算と人件費がかかり過ぎるため、シリーズ化は困難だ。ロケットも衛星も安くする発想が著しく欠如している。

 宇宙防災機構では、気象・環境観測時代へ対応するため、国民・人類貢献宇宙システムとしてUSERSやSERVIS及び科学衛星ベースでA-Trainならぬ「J-Train」を構築、国際協調をしながら将来のナショナル・プレステージ・スペースを目指してはどうか?そして衛星観測データと気象観測機器を組み合わせ、スーパーコンピューターによるシミュレーター解析という「衛星・観測機器・モデル化(解析)」をして、最近当たらない天気予報の原因究明と予測能力向上を目指すべきだろう。通信・放送衛星以外で国民生活へ最も貢献している気象衛星(気象庁)を根本から立て直す戦略が急務である。

 また戦略的にアジア・オセアニアにおけるナショナル・プレステージ強化も必要なため、静止気象衛星で定点観測をしながら、極軌道衛星や準天頂衛星軌道とモルニア軌道を“巧み”に組み合わせれば、特定の気象現象(台風徹底監視など)に応じた観測情報を日本に限らず太平洋諸国・諸島へ配信する事も可能だ。コストと軌道の最適化をすれば可能であり、軌道専門家はぜひとも計算してみて欲しい。

 宇宙防災機構は、将来のナショナル・プレステージ・スペースとして内閣府宇宙戦略本部が適切に予算を配分し、センサー開発は宇宙サイエンス中心で行い、小型・高機動衛星システムを開発させる体制作りを期待したい。

◎次期気象衛星はどうすればよいか?

 気象衛星「ひまわり6号。7号」は、2基ともほぼ順調に気象データを日本・アジア・オセアニア諸国へ配信している。天気予報や台風接近の監視に役立っていおり、日本のナショナル・プレステージ維持の観点からも後継機開発は必ずしなければならない。これは国民生活と国益の観点で最優先事項とも言える。しかし現実は厳しい。気象センサーが国産化されていない。しかし国産化すれば必要な時期までに間に合わない。またアメリカから輸入しようにも、貿易輸出管理法で供給はされないそうだ。三菱電機が製造したMTSAT-2に搭載した気象センサーが日本へ輸出できる最後のセンサーのようだ。他の気象センサーは高度のため、日本への輸出許可は出ない可能性が高い。

 この状況を抜けるには、日米共同開発しかないだろう。日本が準国産で行くならば、衛星筐体をアメリカへ提供し、センサーを組み込んでもらった上で戻してもらい、H-2Aで打上げるしか方法がないと考えている。

 だが甘えていてはダメだ。技術が無ければ金を積んでも売ってくれない。今までアメリカが気象センサーを売ってくれていたのは、センサー開発に日本人が参加して日米クロスライセンスにしてくれていたからだ。しかしクロスライセンスの期限は過ぎようとしている。よって短期的には国際共同で乗り切り、新世代としては内閣府宇宙戦略本部が主導して気象センサーを国産開発させるロードマップを作り、準天頂衛星軌道とモルニア軌道を組み合わせながら気象観測体制を揺るぎのない体制にする必要がある。


MTSAT-1R(SS/L)                            USERS(USEF)                SERVIS(USEF)

◎センサー開発が出来ない組織は失格

 今後は日本のナショナル・プレステージ向上・衛星需要創出のためにセンサーを開発できる組織作りが望まれる。センサー=ミッション機器がなけば、衛星や探査機等の製造需要が生まれないからだ。これでは衛星メーカーも育たない。日本が「国際的に影響力あるミッション」創出が乏しい背景には、これが原因かもしれない。今後はセンサー開発が出来る組織設立が急務なのだ。しかし問題がある。宇宙予算を多く消費している旧NASDAでは、センサー開発能力が非常に乏しい。ALOSのセンサーは海外委託製造、ADEOSやADEOS-IIの搭載センサーは国際共同もあるが、JAXAが開発しているのではなく、海外委託もしくは環境省管轄の研究開発組織が開発している。GOSATも上記で述べた通りだ。合成開口レーダーもすでに低電力、軽量なSARLUPEが登場したことにより、日本の優位性は失われている。「日本は膨大な宇宙予算を消費している割には成果がよく見えない」とフランスに指摘されたように、JAXA(旧NASDA)の費用対効果は非常に悪い。

 一方、宇宙科学ミッションを実施している宇宙科学研究本部(ISAS)は、旧NASDA予算の10分の1で固体ロケットや科学衛星を開発、作る側と利用者側が一体となって打上げてきた。しかも搭載センサーは独自開発だ。X線天文衛星、赤外線天文衛星、太陽観測衛星のセンサーは宇宙科学研究本部の理学研究者や国立天文台の研究者が独自開発してり対等な国際協力でもやってきた。つまり「A-Train」と同水準なのだ。このため、ISASは国際的な賞を受賞している。しかもISASは宇宙センサー技術に必要な宇宙空間物理学(超高層大気物理学や太陽地球系物理学)を熟知している。気象・環境観測センサー開発に必要な基礎技術を持ち合わせている。ISASの成果や技術は日本が再浮上するには貴重な存在だと考えている。高い国産センサー開発能力が日本の宇宙技術の生命線と考えるならば、現在のJAXA(旧NASDA)体制からISASを分離し、J-JPLとして内閣府宇宙戦略本部の少数精鋭・最先端研究機関として位置付け、センサー開発からロボティクス技術までしがらみのない自由な研究体制を官学共同で構築したほうが、これからの時代に対応できる。逆にこのままJAXA体制を続ければ「外国旧式パーツの見本市市場」へと成り下がる危険性が高くなるだろう。

  
太陽観測衛星望遠鏡(国立天文台)                  軟X線望遠鏡(ISAS)

◎まとめ

 地球温暖化により、異常気象・海面上昇・食物の産地移動が見られ、「21世紀は環境と生存競争の時代」となるだろう。このため、人類を延命させる視点が要求される。この時代へ対応するため、「気象衛星の時代」から「気象・環境観測衛星の時代」がやってきている。アメリカやフランスはA-Trainなどでアライアンスを組み、センサー開発国と手を組みながら衛星群を構築、目的に応じて衛星を揃えながら地球環境問題へ真正面から取り組んでいる。また衛星が高度化しているため、デジタル化を進めて衛星システムの新世代化を図っている。

 今後は国際協調を意識した「世界的に信用される衛星」や「国際的に影響力あるミッション」の創出が必要だ。よって多くのセンサーが輸入品で高コストのJAXA地球観測衛星計画では国際的な地位失墜が見込まれるため、宇宙防災機構を創設し、利用者を巻き込んで別の次元でやり直す必要がある。国民の税金を有効に使う発想に立てば、「コスト・パフォーマンス・社会貢献」を追求するため、USERS・SERVIS・宇宙探査機の筐体で「プラグイン・プラグアウト」接続方式を確立、国産センサー構築体制や国際協調へ対応できる戦略で「衛星・観測機器・モデル化(スパコン解析)」という3本柱体制にするほうが、今後の衛星による国際同盟時代に対応できると考えている。次回も別の視点で宇宙の新世代動向を探りたい。  


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