小型高速航空機による商業宇宙事業化(宇宙商業開国に遅れた日本)  
   (エアワールド20
09年8月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2009年8月号」をお買い求めください

 本稿では小型高速航空機による商業宇宙事業化競争の動向を紹介、宇宙基本法で産業化が叫ばれているにもかかわらず、宇宙商業開国に遅れた日本の現状を分析したい。

◎NF-104が拓く宇宙サブオービタル事業

 過去の誌面でも紹介したが、戦闘機F-104Aにロケットエンジンを搭載したNF-104が1963年12月に最高高度120800フィート(約36.8km)の当時最高記録を打ち立てた。現在ではこの機体を再構築して弾道飛行高度100kmまで対応した、商業宇宙ビジネスが開始されようとしている。華々しく事業化が発表されているバージン・ギャラクティック社やロケットプレーン社よりも事業開始時期が最も早いと見られ、隠れた商業サブオービタルビジネス一番機とも言われている。

 このNF-104サブオービタル事業コンセプトは、弾道飛行を行うことで、「宇宙パイロット育成、微小重力実験サービス、サブオービタル宇宙旅行、環境気象観測、空中発射ロケット事業」というマルチミッションによる収益体制を目指している。

 宇宙パイロット育成とは、高高度を飛行した際に事実上の大気がない宇宙を飛行することから、機体をコントロールできる宇宙パイロットを育成する練習機ビジネスである。かつてライトスタッフ時代(1960年代)に実施していたのを現代に蘇らせるコンセプトだ。

 そして微小重力実験サービスは、航空機を使った微小重力フライトが長時間となるため、従来の放物線飛行実験サービスの高付加価値バージョンとして事業化を検討している。

 次にサブオービタル宇宙旅行事業は高度約100kmまで上昇して地球の大気圏外を出ることで、バージン・ギャラクティック等が計画をしている宇宙旅行事業を実現しようとしている。無論、F-104は複座型(2人乗り)が限度のため、お客さんは1人しか搭乗できない(無人操縦化して2人乗りにすることは可能だが、、、)。よって夫婦で搭乗というのは困難だが、キャノピー(風防)の形状からは壮大な景色は眺められるメリットがある。

 さらに環境気象観測事業も計画されている。気象観測機としてハリケーン観測や大気・宇宙観測など高高度をフライトすることでNOAAやNASA等から観測機器搭載実験ミッションを受注しようとしているそうだ。

 最後は空中発射ロケット事業である。これは過去の誌面で紹介したが、F-104に3段式固体ロケットを搭載し、空中発射することでピコ衛星(5kg以下)の軌道投入事業を計画している。一説では固体観測ロケットを採用するとの情報だ。つまりミニチュアランチャーということで、恐らくCUBESAT打上需要を狙っているのだろう。

 しかし、NF-104という「骨董品」を飛ばして大丈夫なのか?と思う人も多いだろう。何せF-104スターファイターは、アメリカの第2世代ジェット戦闘機として1954年に初飛行した老兵である。アメリカや日本を含む多くの国で採用され、製造基数は派生型も合わせて約2500機も作られた。後継機であるF-4やF-15の登場以降は第一線を退いて博物館入り、研究機、無人標的機として余生を送るのが多くの機体の運命である。

 だがこの機体、意外にもイタリアでは2005年まで現役運用されていた。またドイツでも程度の良い機体が残っている。製造元のロッキードマーチン社を退職した社員らの事業会社(スターファイター社)は、既に民間運用されているF-104に加え、イタリアやドイツから5〜6機分の機体と部品をあつめて程度の良い部品を組合せ、J-79エンジンを再生してF-104を復活させ、これにサブオービタル用に新型ロケットエンジンを搭載させ、事業化の目処をつけたそうだ。ビジネス次第では、機体買数を増やす方向も検討されている(最大90機@部品取り)。

 ちなみにF-104搭載ロケットエンジンはXCORE社、アルマジロ社、ポラリス社の3社で検討されている。XCOREエンジンは実用ベースへ入りつつあり、アルマジロは垂直離着陸機にはペイロード比率の問題があるためエンジンは別で生かすスキームとして検討中、ポラリスはロケットプレーン社の搭載エンジンを開発していた会社であり、どれも魅力あるエンジンである。問題は再使用性、ライフサイクルコスト、メンテナンス性などで、いずれ決まってくるだろう。

 また、もともとF-104はNF-104としてフライト実績がある一方、NASA研究機として約20年間運用された実績もある。またパイロット確保も民間アクロチーム「Starfighters」が航空ショーで活躍しており、彼らが請け負うことでパイロットは無事確保できたそうだ。また民間飛行許可や滞空証明等のFAA(米航空局)事業ライセンスは既に取得しており、その延長線で宇宙用フライト許可も取得しやすい利点もある。

 この“実績”と“有りモノ”を組み合わせて開発フェーズを短縮化し、「後出しジャンケンで勝つ」という事業戦略でサブオービタルビジネスに旋風を巻き起こそうとしている。

 現在では、ケネディー宇宙センターのシャトル専用滑走路やヒューストンのジョンソン宇宙センター近くのEllington飛行場というシャトル関連インフラ及び、機体を提供してくれたイタリアで事業化が検討されている。また、超音速発生時の騒音問題を考慮してニューメキシコ州での事業運用も計画されているそうだ。


   F-104アクロチーム「starfighters」(airlines.net)     NF-104サブオービタル事業(NASA)

 以上、「程度の良い部品で機体再生」、「パイロット確保」、「実績による飛行ライセンス取得が早い」、「ロケットエンジンも既存開発品を競争入札」という戦略で早期ビジネスインを進めている。だが、全てが完璧というわけではない。どんなに程度の良い部品を組み合わせてF-104を再生しても、経年劣化の進行が無いわけでもない。このため、空中発射ロケット事業については事業許可が出るかどうかの答えは出ていない。胴体近くでロケット燃焼によるアブレーションで有人機体が強度的に安全なのかの答えがまだ出ていないとのことである。だが、すでにロケット検討は進んでおり、当初は北海道のハイブリッドロケット搭載も候補に挙がったが、技術的成立性と重量の関係から米国企業の進める既存固体モータ流用のロケットで計画が進んでおり、NASA-AMESとM2MI社の開発するナノ衛星を搭載する方向で話が進んでいるそうだ。

 また、事業継続性の問題もある。機体の損傷程度や運用頻度にもよるが、事業期間は10年が限界と見る人もいる。ライトスタッフと同じメモリアルフライト経験はこの機体しかできないため、将来的にはプレミアがつくかもしれないが、事業者側は採算性を考えて事業を進める必要があるのだろう。はたしてサブオービタルビジネスの先駆者として、今後はどうなるのか楽しみである。


事業化コストと運用コスト(General kinetics)                      NF-104(General kinetics)

◎南アフリカでも商業宇宙サービス事業の動向(英国企業参加)

 南アフリカでもNF-104と同様のサブオービタル事業が検討されている。同国は極周回軌道ロケット打上では地理的有利があり、欧米が追跡管制局を建設・設置している事情があるが、この優位性を生かして南アフリカの航空宇宙企業Denel Aerospace Systems(デネル)と英国企業BAEシステムが事業計画を進めている。

 もともとBAEでは、ビクター爆撃機やバルカン爆撃機及びF-4K(ブリティッシュ・ファントム)を用いてエアランチ研究をしていた。この基礎研究を生かし、今では南アフリカで運用されているイングリッシュ・エレクトリック ライトニングF.6戦闘機を使用したサブオービタルとミニチュアランチング事業を進めている。

 このライトニングF.6は1957年に初飛行して1988年に英国空軍を退役したが、エンジン性能が非常に高く、速度も高高度でマッハ2.2以上が出せる上に上昇性能も高い。現在は民間へ払い下げられ、南アフリカの観光航空会社(体験搭乗)「ThunderCity社」が運用している。DenelとBAEはこの機体を使用して、高高度で高速飛行させたり、高高度の高速状態から機体を引き起こして上昇飛行することで、旅客機高度の倍程度まで上昇するサービス及び、ミニチェアランチャーの空中発射事業を計画している。無論、「微小重力実験サービス、環境気象観測事業」への展開も可能である。また、ライトニングF.6の上昇能力は高度18km以上と言われているが、NF-104のようにロケットエンジンを搭載するかは不明である。また、ライトニングF.6の運用寿命後は事業継続のため、何とロシアMig-25Uを入手して運用する計画もあるそうだ。Mig-25はUSEF空中発射ロケット報告書にもあるように高高度飛行性能が非常に高く、空中発射ロケット母機として非常に有望視されている。旧ソ連時代ではMig-25にロケットエンジンを搭載した「混合機」としてソユーズ宇宙飛行士のパイロットトレーナーとして運用していた実績もあるそうだ。恐らくF.6では高度25km程度という「宇宙の手前」までしか飛行できないが、“Mig-25の混合機型”ならば高度100kmのサブオービタル宇宙旅行も可能と考えられる。

 もともと南アフリカはイギリスと資源関係で繋がりが深い一方、ロシアとも宇宙協力を進めており、測位衛星はロシアGLONASSを標準使用すると発表されているほどで政治的繋がりは深い。さらに南アフリカはロケット開発しようと過去計画したが、核開発の疑いから外交的圧力がかかりロケット開発を中止、その技術はイスラエルへ流れてシャビットロケットへと受け継がれた経緯があり、宇宙活動に興味を抱いている。南アフリカは国営系企業デネルと観光飛行会社が英国&ロシア企業という先進国を引き込むことで“疑いを払拭”して商業宇宙事業へ進出しようと考えているのかもしれない。

  
ThunderCity社保有のライトニングF.6(ThunderCity)

◎ヨーロッパでもミニチェア・ランチング実用化競争

 米国や南アフリカのサブオービタル事業コンセプトは、過去の量産基盤システムを有効活用して早期にビジネスインするというやり方である。この動きに欧州も反応した。

 CNESが空中発射ロケット打上事業をダッソー社のラファール戦闘機で検討している情報は過去に紹介した。最新の即応型宇宙会議ではついにその打上コストまでもが公表されたそうだ。その価格は国際ベンチマークロケットのFALCON-1よりも安いとのことだ。無論、打上能力はFALCON-1より低いがフランスとアメリカが小型商業ランチャー競争で一歩リードという感がある。

 また、その他の国も空中発射ロケット(ミニチュアランチャー)を含むサブオービタル事業の動きが慌しくなっている。その出資企業には、F-1やエアレースで有名なレッドブルも名を連ねている。では現在までに判明している動向を紹介したい。

 プレーヤーは主にフランス、イギリス、スウェーデン、スペインの航空宇宙企業が動いている。

 その1つはトーネードADVを使用したサブオービタル機である。ご存知のようにトーネードは対地攻撃型(IDS)と防空型(ADV)があり、ADV型は高高度飛行用に最適化されている。このトーネードADVを使用したサブオービタルシステムが出来ないか、NATOの技術研究チームが検討している。

その背景には、EU経済委員会などで「欧州として小型打上手段を有すべき」との議論が進んでからだそうだ。NATOではアメリカの即応型衛星TACSATを採用する動向があるが、それよりも下のサイズのナノ衛星、ピコ衛星を打上げる手段としてイギリスのトーネードADV余剰機を活用して実用化できないかの検討を進めているそうだ。さらに将来的にはユーロファイター・タイフーンへ引き継がせることで、欧州各国とのシステム共有や、戦闘機セールスの「付加価値商品」として売込みを図りたい思惑があるとのことである。

 スウェーデンである。スウェーデンはSAAB社が独自で戦闘機開発を行っており、このグリペンとグリペンNG(次世代型)を使ってサブオービタル事業化を検討している。これはBAEの基盤技術を採用して実施するとのことであるが、これ以上の詳細情報はまだ入っていない。

 そしてダッソー社のミラージュ2000をフランスが検討している。フランスではラファール戦闘機によるランチャー化検討が進んでいるが、これはCNESとダッソーの間で進んでいる計画であり、ミラージュはフランス空軍が中心となって進めているようだ。その背景には台湾が関係しているとの情報がある。台湾ではミラージュ2000を導入したが、ナノ衛星ランチャーが欲しいとのニーズがあり、台湾とフランス空軍の間で衛星打上事業が出来ないか検討が進められている。また軍事専用ランチャーとしてシステム開発すると軍事的緊張を招く背景もあるため、むしろ宇宙産業育成として民間宇宙会社を作り、民間宇宙ビジネスとしてサービス展開する方向で検討が進んでおり、ここにレッドブルが関与しているとの情報もある。

 最後にスペインである。スペインではF-18運用国同士でミニチュアランチャーを共有できないか検討を進めている。スペインは2007年に空中発射ロケット計画を国際会議で発表しており、ボーイング社と共同で開発計画を検討してきた。しかし固体ロケット技術がないため、米国や欧州企業と協力関係を模索してきたそうだ。その交渉の切り札としてスペースポート(宇宙港)がある。スペインは大西洋に一部面しており大西洋上にはカナリア諸島もあり、極軌道打上に適している一方、観光地としても有名であり、サブオービタル宇宙旅行の宇宙港として誘致にも力を入れているとの事である。この背景からボーイングと協力してF-18の保有国であるアメリカ、スペイン、オーストラリア、カナダ、スイス、フィンランド、クウェート、マレーシアでミニチェア・ランチャーを共有できないか検討しているそうだ。スペイン宇宙機関INTAの発想も面白いが、ボーイングもFA-18E型の販売競争においてメリットがあると判断しているのかもしれない。

  
トーネード ADV(RAF)                 ユーロファイター(RAF)

◎ヨーロッパはダッソー社とBAE社が基盤技術会社として先導

 これら戦闘機を民事転用して事業化すすめ、小型ではあるが衛星打上能力を持たせようとする動向は水面下で着実に進んでいる。またこのミニチェア・ランチャー競争の基盤技術は、フランスのダッソー社とイギリスのBAE社が空中発射ロケットの基礎研究を長年積み上げていたものをベースとしている。

 イギリスはBAEが空中発射ロケットの検討を20年以上も前から研究してきたが、イギリス政府自身がロケット開発を放棄したことでお蔵入りとなった背景をもつ。フランスもアリアンロケットに代表されるように、大型万歳志向が強かったため、注目されなかった。しかし近年、技術発展や経済性追及により軽薄短小宇宙時代が国際競争上重要と認識され、しかも戦闘機の国際販売競争においてナノ衛星(10〜20kg)打上手段(ミニチェア・ランチャー)の能力を有しない戦闘機は国際競争で脱落するという認識がある。ある欧州と米国の戦闘機メーカーの話を総合すると、ある南米2国と一部アジア国で、戦闘機購入の条件に衛星打上能力(空中発射ロケット機能)を要求してきているそうだ。このため、戦闘機のシステム開発で有名なダッソーとBAEは、研究してきた空中発射ロケットの実用化と、サブオービタル事業を旧式機でビジネスインさせて、市場の反応を見定めようと民間ベースで事業会社設立に動き始めているのである。無論、宇宙産業育成の意味もあり、戦闘機パイロットの再就職先として兵器システムを外した機体を民間事業ベースで展開させるべく、「技術、人、モノ、金」の組み合わせを注意深く検討しているそうだ。

◎アメリカではさらにNF-16B、NF-4F、NF-15B活用案が動く

 米国NF-104サービスが今年中に開始されるという中、NF-104運用が長期的に展開できないというのは、読者の皆さんも分かるだろう。先駆者として市場を拓くインパクトが大き反面、長期的にサブオービタル飛行サービスを展開するには後継機の検討を進めなければならない。このため、複座型F-16B、F-4F、F-4G、F-15B/Dを後継機としてビジネス展開を仕掛ける動向が米国本土では進んでいる。

・NF-16B(テキサス州ダラスで起業)

 NF-16BはF-16Bをベースとすてサブオービタル機開発の動向で、ロッキードマーチン社出身の社員らで構成、テキサス州ダラスに会社がある。出資元は元大統領の親族ファンド、もしくは台湾が出資しているのでは?との情報だが、出資元はナゾである。だが、資金的なものは用意されており、すでに複座型F-16Bの民間払下げを国防総省へ働きかけを開始しているそうだ。

 NF-16Bの事業は主に空中発射ロケット事業と高高度飛行事業を検討しており、高度100kmへ上昇するためにロケットエンジンを搭載するのは、採算性の問題から実施するかはまだ決断していないそうだ。

 もし、高度100kmのサブオービタル宇宙旅行事業をする場合は、NF-16Dが有望視されている。このNF-16Dは本誌(2007年12月号等)で紹介したが、本機はアメリカ空軍テスト操縦士学校で運用されており、垂直尾翼の付根部付近にエンジン搭載が可能である。この改造設計図はロッキード社にもあるため、サブオービタル機改造によるFAA認証も高いハードルではないそうだ。問題は採算性であり、ロケットエンジンの運用コスト及び100km飛行時には機密性の問題から「宇宙服の装着」及びNF-104のように、高高度飛行時に「ガスジェットによる姿勢制御機能」の追加が必要だろう。

 話は戻るが、同事業は単発機というデメリット克服策として、燃料タンク装着でいくそうだ。F-16はF-15と同型エンジンF-100を使用しているが、F-16は単発機である一方、燃料搭載量の関係からアフターバーナー使用時に燃料不足が見込まれる。このため、コンフォーマル燃料タンク及び400ガロン増糟を搭載するとのことだ。

 そしてCUBESAT衛星打上用ロケットは、中射程空対空ミサイルAIM-120とAIM-7の固体モータを有効活用するとのことだ。最終的なロケット打上コストは量産ベースで2000万円程度かそれ以下にしたいとのことである。

 本サービスはテキサス州のスペースポートを拠点として事業展開が計画されているとのことだが、後述するMig-25宇宙観光ビジネスへ運行委託する話し合いが持たれているという情報もあり、詳細情報が入り次第またお伝えしたい。


NF-16D設計思想をNF-16Bへ改造する動向も検討中(NASA)

・ NF-4F(ドイツが機体提供)

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ホロマン基地のドイツ空軍F-4F(Airlines.net)

・ NF-4G(NF-104後継機を狙う)

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・NF-15B/D(カリフォルニア州でも動き)

 また、F-15による空中発射事業を計画する企業が現れた。モハベ砂漠のモハベ・スペースポートに会社があり、あのバージン・ギャラクティック社の機体製造元であるスケールド・コンポジット社のライバル企業が仕掛けているそうだ。

 機体はF-15の複座型であるF-15BとF-15Dを15〜30機払下げして欲しいと米国防総省へ依頼しているとの事である。また機体取得には至っていないが、カリフォルニア州議員からも要請をかけているとのことで、今後の展開によってはF-15によるサブオービタル民間宇宙事業が展開されるかもしれない。またロケットは、衛星破壊ミサイルASATの固体モータを平和転用して多段式とし、軌道投入するコンセンプトが検討されている。

また、F-15機体運用は、コスト削減の観点から民間空中給油機の利用は行わず、コンフォーマル燃料タンクを増設することで実施するそうだ、そしてパイロットは飛行テスト会社へ委託するとのことだが、テスト飛行会社の名前は明らかになっていない。

 一方でF-15という現役運用されている戦闘機を民間へ払い下げることに対し、問題視する動きもあるそうだ。現在のところ、民間宇宙ビジネスを育てるために「地域振興」として対応するかどうかの政治的駆け引きが続けられているとのことである。


複座型F-15B/D(USAF)

◎米国で“スペースMIG”が500万ドルの資本で設立(MigBUS事業復活)

 2009年1月、アメリカのテキサス州ヒューストンでMig-25とMig-31を運用する会社が設立された。出資金は500万ドル(約5億円)である。ロシア戦闘機を引き入れて、米国安全基準を満たすため、緊急脱出用の射出座席を米国製に取り替えて運航許可を得てから、(ロシアで展開している)高高度体験飛行に加え、衛星打上、カプセル搭載観光(MIGBUS)、メキシコ湾上空での地球観測ミッション(ハリケーン観測か?)を計画しているとのことだ。

 Mig-25やMig-31を使った高高度飛行観光はもともとEADSが企画、地中海でMig-25戦闘機に透明カプセルを搭載し、欧州各地から地中海リゾート地まで飛行するMigBUS計画があった。機体採用の背景には、Mig-25とMig-31はもともと高高度で領空侵入してくる敵性航空機を迎撃するために開発された経緯があり、エンジンがパワフルである一方で耐熱仕様の機体であり重量もある。重たい機体を高出力エンジンでバリバリ上昇するきたいなため、観光事業として魅力的な機体である。しかしEADSは資金面や飛行許可等及び安全基準の問題が欧州内であり、計画が頓挫していたが、アメリカで資本投入がなされて復活したそうだ。

 参加企業はF-14トムキャットで空中発射ロケット開発を計画していたパンエアロ社(本誌2006年4月号参照)がチームに合流し、加えてノースロップグラマン社の社員(旧TRW社の社員)も参加して米露合同企業でビジネス展開するとのことだ。

 現在では複座機MIG-25Uによるマイクロ衛星打上ランチャー(50〜70kg)の開発を優先化しており、これが達成された後に、スペース・コースターであるMigBUSを復活させるとの事だ。ちなみに衛星製造はノースロップグラマンである。

 さらにその先もある、過去の誌面でノースロップグラマン社がフライバックブースター(HLV)の研究をしていた事実を紹介したが、その基礎研究を応用して8〜6人乗りの分離式往還機を開発計画も練られている。これはMig-25やMig-31に往還機を搭載し、上空で分離・空中発射してサブオービタル宇宙旅行を実施するコンセプトだそうで、恐らくMigbusの次段階として検討しているのだろう。これら知見には、アポロ宇宙船開発で緊急脱出装置を開発していたTRW社出身の社員が関与しているとのことである。

 また、Mig-25Rという偵察機を平和転用し、メキシコ湾や大西洋で発生するハリケーンを高高度飛行監視するコンセプトも計画、NOAAへ売り込みをかけているとの情報も入ってきている。さらにこれあMigを使った衛星打上、MIGBUS飛行、往還機打上を見学できるようMD-80による観光飛行も計画している。空中発射は地上からは見えないため、低価格で見るサービスとして計画しているそうだ。飛行サービスはテキサス州ヒューストンを離陸し、メキシコ湾で行うとの事である。


MIGBUS事業復活(EADS)            MD-80観光フライトも(Airlines.net)

 以上、多彩なビジネスコンセプトで米露合弁企業が誕生している。本サービスは2010年より段階的に開始され、Mig-25Uを3機、Mig-25Rを2機、Mig-31を5機、ロシアから計10機の余剰機を提供してもらうとの事だ。気になる価格は

・ ミグ旅行フライトは350万円(高度25km+)

・ 衛星打上価格目標は20万ドル(将来は10万ドル)


である。ミグ戦闘機をロシアから提供してもらう背景から見れば、アメリカとロシアが低価格の宇宙関連ビジネスで手を組んでいるのかもしれない。少なくとも、ロシア政府が戦闘機を簡単に米国企業へ提供するのは考え難く、何らかしらの政治的話し合いが持たれているのだろう。

 また、高度100kmのサブオービタル宇宙旅行事業は採算性の問題を鑑みて、まだ“検討中”とのことである。ミグ旅行フライトは戦闘機を飛行させるだけなので、燃料代から見ても原価は150万〜200万円だろう。これにロケットエンジンを搭載して「混合機化」し、サブオービタル宇宙旅行化するには、それなりの決断が必要になると見られる。



◎サブオービタルの商業化を進める宇宙先進国(20万ドルランチャー時代)

 以上纏めると、NF-104を皮切りに“バージン・ギャラクティック社などのサブオービタル宇宙旅行事業”が開始される前に、高速航空機(戦闘機等)を利用した商業宇宙事業が開始される可能性が濃厚となっている。この高速航空機の主な事業は

・ 高高度飛行による宇宙と地球の境目を見る近宇宙旅行(200-400万円)

・ 高高度&高速飛行からズームアップ飛行して無重力体験(200-400万円)

・ ミニチェア・ランチャー事業(目標20万ドル以下)

・ 環境気象観測(高高度気象観測機)

・ 微小重力実験(数百万円)

・ 民間宇宙パイロット育成


という、所謂サブオービタル事業である。また、NF-104のように高速機にロケットエンジンを搭載した「混合機」を製作することで高度100kmまで飛行する

・ サブオービタル宇宙旅行(1000万円程度)

・ サブオービタル宇宙旅行パイロット育成


も機体によっては事業化が進められている。この宇宙パイロットは米ソ冷戦時代にアメリカがNF-104で実施、ソ連でもMig-21に小型ロケットを搭載して高度数十キロへ上昇&帰還する有人宇宙船パイロット育成に使われていた。主な育成ポイントは、大気が限りなく薄い高高度での機体制御技術である。高高度でフライトした機体は動翼制御・エンジンによる飛行制御が非常に困難なため、キリモミ状態で制御不能とならないよう機体を制御する飛行技術を育成する必要がある。これは宇宙空間における宇宙船の制御技術育成や、有翼機を制御するシミュレーションのために必要との認識下、育成が行われてきた。

 しかし問題もある。それはコストだ。もし戦闘機にロケットエンジンを搭載してフライトすれば、ロケットエンジンは主にフライト1回で交換する必要があり、全運用コストが上昇してしまう。このため、宇宙パイロット育成は、高速ビジネスジェット機(現在はガルフストリーム)へと転換され、経費のかからない機体へと切り替わった過去がある。

 だがその歴史の中で消えたNF-104はまた復活しようとしている。その背景には、当時にはなかった

・ 宇宙旅行を含むサブオービタル(弾道飛行)ビジネスが生まれている

・ 宇宙パイロット育成のニーズが民間側でもある


があり、採算性が見込まれたためだ。このため、NF-104のコストターゲットはバージン・ギャラクティック社の2000万円に対し、半値の1000万円を目指している。一方、他のライトニングF.6、トーネードADV、Mig-25、Mig-31、NF-16、NF-4F、NF-4G、NF-15B/Dは、ロケットエンジンを搭載する「混合型」はリスクがまだ高いため、事業開始時はロケットエンジンの搭載はなく

・ 300〜400万円の高高度飛行体験

・ 目標2000万円のミニチェア・ランチャー(5〜10kg衛星打上)

・ マイクロ衛星ランチャー(数十kg)


という、採算の見込める市場で「まずはサービスを開始」するそうだ。さらに採算性を上げるために“高高度環境気象観測機”で観測ミッションを政府から請け負うビジネスコンセプトもある。恐らく、バージン・ギャラクティック社が米国NOAAから気象観測事業の発注を請けたことから、高速機を“民事転用”して“機能を搾った”ことで“低価格化&採算性を確保”するというビジネスモデルを狙う判断があったのだろう。

◎既存高速機でビジネスイン、ランチャーも既存で限定利用

  高速航空機(戦闘機)は政府保有のものであり、しかも軍事兵器に使えるので民事転用はさせない、という思考はもはや時代遅れとなりそうだ。重要なのは「悪の道」に使えないように兵装を外したり、第3者へ機体が渡らないように機体管理・整備をコントロールすることにある。政府側のメリットは、抱えた軍事システムの民事転用により“減価償却”を進めたり、有事には機体を再召集して改造し直して現役復帰させたり、運用・メンテナンスなど“インフラ維持に民間が多少負担”してくれる一方、職員の再就職先につながるメリットがある。また、軍事開発の民事転用の好例として扱われるため、今後政府財務側から開発費を獲得できるメリットもあるようだ。つまり、民間事業ニーズと官側のメリットが噛み合うようになり、ビジネスインできる環境となってきている。

 そしてランチャーだ。これはナノ・マイクロ衛星クラス(1kg〜10kgまで)までの限定ロケットとするならば、観測ロケット・空対空ミサイルに使われている固体モータや巡航ミサイルのエンジンという既存品を組み上げて3段式などのロケット化し、ミニチェア・ランチャーとして実用化するのが最も近いと見ているようだ。ゼロから開発すればコストも開発期間も長くなる。しかもコスト競争で勝つならば、既存流用で機能を絞り早期に実現するコンセプトが商業宇宙競争では必須とも言える。このため、ミニチェア・ランチャーを開発するAEROJETとATKは空対空ミサイルAIM-7スパローやAIM-120アムラームの量産固体モータと性能の良い観測ロケット技術を組み合わせて機能限定のミニチェア・ランチャーを開発しているそうだ。関係者によれば、量産ベースであれば最初は50万ドル(5000万円位)でスタートするが、将来的には20万ドルまでコストダウンが見込まれ、理想である10万ドル(1000万円)ランチャー実現も夢ではないとしている。つまり打上能力限定・マーケット絞込みすることで衝撃価格を目指し、製造数が圧倒的に多いCUBESAT打上需要をめざしている。このような発想転換ランチャーは、日本の学生も米国で論文発表したことで、会場で賞賛されたとのことである。

◎新型エンジン開発の動きも

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高速推進系の噴射速度(Cranfield University)


Air Turbo Rocket(ATR)の仕組み(CFDRC)       Air Turbo Rocket(ATR)の性能(CFDRC)


◎商業宇宙開国に遅れた日本(宇宙基本計画に具体策なし)

 以上、高速航空機を民事転用したサブオービタル事業が開始されようとしている。民間投資によるバージン・ギャラクティック社のサブオービタル宇宙旅行事業の注目が集まっているが、その影で彼らより安い宇宙サービスを展開しようと、航空宇宙メーカーの技術者は知恵・技術・コンセプト戦略を立てて活動している背景が見えてきている。

 一方、日本はこれら動向から見て遅れた体制であるのは否定できない。宇宙基本法により宇宙業界の産業化を謳う体制を目指したはずの日本は、何故か宇宙基本計画に具体的な商業宇宙産業の育成策は無いに等しい一方、JAXA主導の有人宇宙計画、太陽宇宙発電、実施意義が高いとはいえない月面二足歩行ロボット、開発と称して実は旧式技術を輸入して開発しようとする早期警戒衛星と、産業化とはかけ離れた高コストの計画が羅列されている。

 欧州と米国及び南アフリカは水面下で低コストの商業宇宙サービスを展開すべく、高速航空機の民事転用による商業宇宙産業の育成など、既存概念にとらわれない発想とコンセプト戦略で長期的に技術と育て、利用できる環境整備を整えている。

 日本は国産の高速航空機は事実上ない。海外からシステム導入していることから、これら商業宇宙システムを低コストで展開するには、宇宙外交や企業間を通じて海外と組むことで、商業サブオービタルビジネスの土壌に踏み止まる必要がある。ある日本宇宙企業がすでにバージン・ギャラクティック社と提携しようと話し合いが進んでいるが、サブオービタル宇宙旅行事業では他者よりも搭乗人数が多いことから差別化は図れる一方、その他のミニチェア・ランチャー市場、宇宙パイロット市場、サブオービタル実験・観測市場等から見て、競合する高速航空機サービスと比較して何処に優位性があるのか熟慮する必要があるかもしれない。

 また日本は宇宙法的整備も進んでいない。もし、海外の高速航空機によるサブオービタル宇宙事業が日本国内でサービス展開される場合、高速機乗り入れに対する法的環境も整っていない。例えば、民間サブオービタル会社が日本で日本製の衛星やミニチェア・ランチャーを打上げる場合による商業打上法、宇宙港の整備など、産業宇宙競争を高めるための法的整備の具体策もない。つまり日本はサブオービタル宇宙旅行機を開発もしくは運用することで、ミニチェア・ランチャー商業市場へ対して参入できる体制が作られていないのだ。 本来ならば、国際動向に対して対応できる戦略が宇宙基本計画の中には明記されるべきだが、低コスト市場を目指す情報が宇宙開発戦略本部へは情報がインプットされていないようだ。戦略本部の職員に独自の調査能力がないため、結局のところ宇宙基本計画は公共宇宙計画の提案を羅列した、穴だらけの計画となっているのが実態のようだ。

◎まとめ

 アメリカ・欧州などは、高速航空機を民事転用した商業宇宙サービスの育成をしている。NF-104サブオービタル宇宙旅行事業を皮切りに、サブオービタルビジネスが始まろうとしている。高速航空機は主にロケットエンジンを搭載する「混合型」とそうでない機体で運用されようとしている。各社は「サブオービタル旅行・サービス(高度別で300万円〜1000万円)」、「宇宙パイロット育成事業」、「高高度&高速飛行による旅行・サービス」、「10〜20万ドルランチャー事業」など、採算性を見込んで様々なサービスを企画・立案している。

 一方、日本ではサブオービタルビジネスを目指す民間企業が出始めているが、商業宇宙開国に遅れた上に法的整備も進んでいない。宇宙基本計画も商業宇宙産業を育成する具体策がない。

 今後は、商業宇宙産業を育成するために推進機開発をどう展開するか、日本にある高速航空機を民事転用する場合、関係官庁との折衝をどう進めるのか、輸入元の米国政府とどう取り決めを行うのかという、民間企業だけでは出来ないこと、一省庁だけではできないことなど、独自に情報収集し、国内を取り纏めて海外政府と折衝して体制を作ることが内閣府の宇宙司令塔に要求される本来の能力である。JAXA提案やメーカーの売込みだけを採用するのではない、真の国家宇宙戦略を立てる能力が必要なのだ。見せ掛けではない、奥の深い真面目な宇宙基本計画の再考をして欲しいものである。


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