国際宇宙協調と競争(単独主義は技術・市場・資金で限界へ:米露同盟)  
   (エアワールド2009年10月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2009年10月号」をお買い求めください

 宇宙は「コストをかけることが素晴らしい」という潮流は終わり、コストをかけずに多くの成果を排出することをよしとする潮流となりつつある。その牽引役は、高速航空機を使ったミニチェアランチャーを使って「多頻度・低コスト・即席(短納期)宇宙活動」を狙った欧米の動向であろう。本稿では、先日説明しなかったロシア・ウクライナの動向を加えながら、21世紀前半の国際宇宙技術同盟の国際動向を分析、遅れた日本の現状と問題点を考えてみたい。

◎小型高速航空機活用エアランチ(即席・低コスト・多頻度)

 過去の誌面(2009年8月号)にて紹介したように、高速航空機を民事転用したサブオービタル飛行事業(宇宙パイロット育成、観光事業、高高度地球観測、ナノ衛星打上)が欧米や南アフリカで検討が進んでいる。まずその動向をおさらいすると

・ NF-104事業=スターファイターズ社
・ 英国&南アフリカ共同事業案=DENEL&BAE
・ ラファール空中発射事業案=Dassault&CNES
・ トーネードADV事業案=NATO&BAE
・ グリペン事業案=SAAB&BAE
・ ミラージュ2000事業案=台湾&Dassault&レッドブル
・ F-18事業案=スペイン主導&Boeing参加
・ NF-16B事業案=元大統領親族系ファンドか?
・ NF-4F事業案=Spaceworks&ATG&Aerojet
・ NF-4G事業案=ジョージア工大&トラコー&ATK
・ NF-15B/D事業案=カリフォルニア州ベンチャー企業
・ MigBUS(Mig-25、Mig-31)事業=テキサス州企業

である。NF-104は2009年度中に事業が開始される予定だが、この小型航空機活用のコンセプトは宇宙先進国のみならず、宇宙活動を目指す一部途上国からも注目の目で見られている。まず、インドが自国戦闘機の購入ラインナップに除外されていたフランスのラファール戦闘機を検討リストへ復帰させたそうだ。無論、その理由は衛星打上能力があるからである。また、南米ブラジル、アルゼンチンの戦闘機購入条件に「衛星打上能力がある」という条項がプラスされているというのが、戦闘機メーカーからの情報である。
 これら情報を整理し、先月号のナノ衛星動向の情報も加味すれば、宇宙先進国や宇宙途上国が、小型高速航空機を活用してエアランチシステムを構築し、「即席・低コスト・多頻度」の宇宙システムを構築しようとしているのだろう。また、高速航空機の利用は軍主体ではなく、軍事システムを民間利用(民事転用)して周辺国へ「いらぬ疑い」を持たれないようにするのも重要なポイントのようだ。


フランス空中発射ロケット計画(CNES)

◎Mig-31Eh取得を巡って新たな動き

 利用される小型高速航空機は“第一線を退いた機体”、もしくは“余剰活用機を使用”していることにあるだろう。だが、6月に開催されたパリ航空ショーでは、新造機で宇宙サブオービタルビジネスをしようとする動向が騒がれていた。それはMig-31Ehだ。
 Mig-31シリーズはMig-25の後継機として開発され、実用上昇限界高度が20.6km以上と言われ、速度もマッハ2.83(3000km/h)出る。元々、SR-71などの高高度・高速偵察機を迎撃する目的で設計された機体のため、到達高度・速度が優れている。この最新型Mig-31Eをシリア向けに製造したMig-31Ehが中東諸国のバランスの関係で輸出できない環境となり、製造保管された8機分のMig-31Ehの買い手を巡ってロシアが頭を悩ませているのだ。
 そこに民間企業が手を挙げた。上記サブオービタルビジネスを目指す企業らが、本機体利用を巡って駆け引きをしており、元大統領親族系ファンドが2機の買取を打診しているとの情報が入ってきている。戦闘機を輸出するという観点から見れば、ロシア政府と米国政府の間で何らかの合意がない限り実施が困難であることを鑑みれば、米露の新たな宇宙連合の可能性も垣間見える。無論、この機体を米国へ輸出して運航させるにはアメリカ航空局(FAA)の許可が得なければならないことから、Mig-31Ehにアメリカ仕様(米国製射出座席の換装、兵器システム取外し)をプラスした、民事転換用の新型Mig-31が飛行サービスを開始する可能性も出てきている。
 また、過去に紹介した空中発射ロケットISHIMが復活する動向が現れた。機体はMig-31をベースに検討し、母機担当はロシア、ロケット担当はウクライナ、衛星はアメリカで作業分担する方向で検討されている。衛星はGeneral Dynamics社のSA-100衛星バスをベースとして150kg級の衛星を供給、フランスの「Rafale戦闘機を使った空中発射ロケット」に対抗するコンセプトのようだ。この打上サービスはアメリカでも実施可能な体制を検討しているとのことだ。
 さらには別サイドのチームがMig-31Ehをベースに空中発射ロケットの検討が進んでおり、打上方式はABSL形式で、打上時は早期警戒機AWACSを飛ばしてGPS/GLONASS測位衛星の電波で機体と衛星を誘導するコンセプトが検討、衛星はOrbital Sciences社がオーブコムクラス(50kg級)を供給することで検討されている。

 
Mig-31E型(Airlines.net)               空中発射ロケット「ISHIM」(Kazcosmos)

 ここまで動きが早い理由は、ナノ衛星の開発動向だ。先月号で紹介したように、1ミッション90機のナノ衛星(数kg)の打上計画が示すように、年間150〜300機の打上需要が見込まれているからだ。だが日本ではJAXAが国際競争から逃げて鎖国化する姿勢が強いことと、国際情報収集不足のため、ナノ衛星の潜在性・利用価値・経済性の深耕が進んでいないため、衛星もロケットも構築戦略の体制が出来上がっていない。空中発射ロケットを経済産業省が将来性を見込んで要素開発へ着手したことは評価すべきことだが、それでもギリギリ世界水準に留まっているのに過ぎず、変化のスピードは思った以上に早い。


Mig-31ABSL(Universiti Sains Malaysia)               Mig-31ALA(STSC 2008)

◎ロシア・ウクライナ・米国連合の動き(機体確保)

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150t搭載可能なAn-124(kievukraine)         40t搭載可能なIL-76(Airlines.net)

◎空中発射(国際標準化競争)技術の宇宙同盟(サザンクロス)

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Raptor-2とSpace Clipperが協力してサザンクロスへ(Orbital、STSC 2008)


C-17やC-5でも運用可能なサザンクロス(Boeing)

◎空中発射(国際標準化競争)技術の宇宙同盟(POLYOT)

 固体連合の発想が生まれれば、当然ながら液体連合の発想も生まれる。それがPOLYOTかもしれない。POLYOTはロシアのAir Launch System 社がAn-124に大型液体ロケットを搭載し、空中発射するコンセプトだ。ロケット開発にはロシアのKuznetsov R&D center、Khimautomatiki Design Bureau、Motorostroitelが参加している。打上能力は200km低軌道へ3.85t、静止トランスファー軌道(GTO)へ1.65t投入可能としている。
POLYOTの特徴は、ロケットエンジンがNK-33(AJ-26)ベースとしたもの(NK-43M)を利用している所で、当該エンジンはアメリカのTAURUS-IIで採用、ロシアのSOYUZ-3でも利用計画があり、量産が見込めるエンジンだ。
 このためAn-124を米露間で共有し、POLYOTはCISが担当、ロケット放出装置は米露共同開発で行くそうだ。ちなみにロケット放出装置はAirlaunch LLCで使われた方式をベースにロケットを貨物室から短時間で放出するために“自力回転力をもった滑車”を搭載して強制的にロケットを機外へ放出させる装置が有力で、他にも圧力容器を搭載してロケットを打ち出す方式も検討されている。
 このコンセプト研究止まりであったPOLYOTに対し、アメリカのOrbital Sciences社がサザンクロスと同様に協力関係を結ぶ方向で検討が進められているそうだ。背景には、CIS側にあるNK-33製造基盤が維持できること、コンセプト研究止まりのフェーズが、アメリカ資本が入ることで実現できるメリットがあること。またアメリカ側のOrbital Sciences社側も、現在製造中のTAURUS-IIをモジュール共有した上にPOLYOT−TAURUS-II連合でラインナップすることで、固体モジュールランチャーATHENAシリーズ(ATK)へ対抗できる体制ができること。また、NK-33はアメリカのAerojet社がAJ-26の名前で販売しているが、技術特許障壁が米CIS間で問題発生しないよう共用するという、両陣営の利益体制が出来た。



     POLYOT(Air Launch System)      TAURUS-II(Orbital)  SOYUZ-3(Russia spaceweb)

 さらには将来見込めるSOYUZ-3を巡ってロシアと欧州間で進められているSOYUZへ対して一定の発言権を持てるアメリカ側のメリットもある。このように、技術優位同盟の発想で宇宙技術同盟が水面下で進んでいるのだ。

◎空中発射の先を狙うアメリカとロシアの思惑(フライバックとTSTO)

 Mig-31空中発射連合が存在する一方、固体「サザンクロス」、液体「POLYOT」によるモジュール交換による空中発射システム連合の意図は何か?この答えは空中発射ロケットの先にある、フライバックブースター(HLV:Hybrid Launch Vehicle)と2段式宇宙輸送機(TSTO:Two Stage to Orbit)のビジョン達成である。
 過去の誌面で説明したが、空中発射ロケットの基盤技術は再使用型ロケットの道を拓く。アメリカとCISでは、この実現へ向けて互いの要素技術を持ち寄り、

・ 地上打上⇒エアランチ⇒フライバック・TSTO

という流れを作り、技術的に成立できるものを段階的に積み上げた後に最終的な再使用ロケット(コストダウン)を達成しようと戦略を立てている。そのためには、要素技術を持つ国同士で手を組み

・ Mig-31空中発射連合(早期事業参入と基盤技術開発)
・ NK-33系エンジンLVSによるユニットモジュールランチャー(TAURUS-II、POLYOT、SOYUZ-III)
・ RD-180系(ATLAS-V)から新型RD-240エンジン開発を進め、Angara・POLYOT・SOYUZ-IVへの移植も想定(将来はバイカルも想定)
・ POLYOTにATLAS-V上段セントールを移植する戦略
・ Zenit-3SLとOLYMPUS(ARES-1?)のモジュールを組み合わせ、エネルギアも加わりフライバックブースター・TSTOを探る戦略(詳細検討中)

というDARPAファルコン計画で生まれたFALCON-1ロケットのように、複数のプロジェクトを並行的に走らせて達成する戦略を描いているそうだ。以上を整理すると、

・ 大中小の空中発射(POLYOT、サザンクロス、Mig-31ABSL等)
・ エンジン開発(RD-240)
・ ユニットモジュールの移植・逆移植(POLYOT、Angara、SOYUZなど)

を実施して、

・ 未来の再使用ロケットの当たりをつける(フライバック・TSTO)

という実用化&基盤技術開発&将来展開戦略を立てている。得に新型エンジンRD-240はP&Wロケットダイン社が既に図面ベースで書き上げており、将来の再使用時代を見据えた設計要素が付加されているそうだ。
さらに注目すべきことは、ロシア(CIS)から冷戦終了時に輸入した液体酸素/ケロシン技術がP&Wロケットダイン社(米)を通じて、ロシアへ逆移植されるということだろう。
 ソ連邦崩壊によりCIS諸国には「敗北感」がある。しかし、放出した技術がコンセプトと共に「パワーアップして戻ってくる(逆移植)」というスキームは、ロシア(CIA)の宇宙大国として尊厳を取り戻せることになる。ここが米&CIS連合のミソかもしれない。
 現在のところ、ロシア(CIS)には国際競争へ復帰できる宇宙技術はあるが、経済不況で資金不足事情がある。ここにアメリカが「互いの技術を持ち寄って早期にランチャーを開発しましょう。資金もある」ということで手を組み、宇宙先進国2強で時代の先端を行ううとする、「かつての時代には考えられなかった」(協同)戦略が展開されている。

◎大型ロケットの淘汰が狙いか?

 ここからは憶測の領域となるが、上記の事実を見据えると、今回の米露連合戦略は経済不況で身動きの取れない欧州やアジアのランチャーを淘汰させる戦略かもしれない。
 現在の大型ランチャーは供給過多だ。Sealaunch(Zenit-3SL)は打上失敗と価格競争に晒されて事実上倒産した。しかしこの海上プラットフォームを使って韓国がKSLVを打上げる提案や、ATKがドニエプルを引き込んで打上する提案及びZenitに小型衛星を複数基搭載して打上する提案などが挙がっている。いずれにせよ、再活用ビジネスと言える。
 またAriane-Vも新型アリアン計画の報道がついに流れた。その名もAriane-Y。その報道内容によれば、Ariane-Vは静止衛星を2機同時打上可能な能力があるが、静止衛星という1機百億円以上の衛星を2機同時打上げするというビジネスコンセプトは、「同時打上げする顧客が見つかるまで打上げできない」という事情があり、不景気も重なってユーザーから不満が出ていた。衛星が出来たにもかかわらず、打上を待たされるからだ。このためAriane-Yでは何と従来型より「小型化」するそうだ。まず、2機同時打上を廃止し、1機打上体制とする。また、小型高性能宇宙技術が発展すれば、静止衛星大型化の成長速度が弱まるため、打上能力もモジュール構成でバリエーションを出してくるかもしれない。フェアリング直径は大型ランチャーの標準である5m以上だろう。欧州は商業打上ナンバーワンを守るため、世代交代を進めようとしていると同時に、SPACEX社のFALCON-9のモジュールランチャーコンセプトが影響を与えているのは間違いないだろう。

 
海上打上シーランチ(Sea Launch)      発射設備と指令船(Future-Sciences)

 一方、中国の長征ロケットは大型ロケットを目指すべく、液体酸素/液体水素エンジンロケット開発をしている。インドも大型ランチャーGSLV向上を計画している。
 今後はロケット競争が激化するだろう。その時代に、コストと性能を満足できるロケットを世に出さねば生き残ることはできない。この観点から米露連合は、互いに組むことでロケットのソフトウェアや基盤技術を組み合せられる協同戦線を構築し、欧州、インド、中国のロケットを技術的・コスト的・発展性を遅世代にさせて脱落させる戦略を描いているのかもしれない。無論、H-2、H-2A、H-2B、GXという日本の遅世代ランチャーも淘汰の最前線に位置していると言えるだろう。空中発射・モジュールバリエーションなどでコスト競争とラインナップで勝負できるコンセプトをJAXAは全く描いておらず、国際戦略もなく、技術ライセンス供与もので、コストがかかるロケットH-2Bを開発しているからだ。

◎さらには国際射場エアポート展開も(背景には宇宙外交か?)

 今後は、国威ランチャー(H-2B、H-X、GX)でロケット開発する時代ではない。国際マーケット競争でコスト競争力があり、安くて早い打上ロケットが勝者となる。事実、SpsaceX社のFALCON-1ロケットはまだ2回成功なのに受注数が多い。また米露エアランチ連合はただ単に相互モジュール型エアランチャーをしているだけではないようだ。そう、射場の国際展開も検討されている
 まず商業ランチャーをやるならば、コスト低減をするために、射場レスにして固定資産維持に費用をかけない思想を持ち、航空機も空中発射利用以外でも運用できる機体を用いるというのが有力な答えと言える。また、空中発射は公海上で打上げることから自由に打上地点を選択できるが、分離されたロケットを人口密集地域へ落下させてはならないため、必然と打上可能な海域(空域)が決まってくる。このためCISとアメリカでは、全世界の空港へ空中発射システムをサービス展開し、周辺国を巻き込んで新たな宇宙同盟(宇宙外交)体制を構築しようとしている。具体的には

太平洋射場(空中):グアム・インドネシア・オーストラリア・アラスカ・クワラジャン・日本(参加するなら)
大西洋射場(空中):アルゼンチン・英国・カナダ・米国(フォークランド・アセンション島・カナリア諸島・バミューダなど)
インド洋射場(空中): インド・英国・南アフリカ (マゼラン島・セイロン島・デイゴガルシア・インド本土空港)

を展開し、場合によっては小型空中発射技術の提供も相手国に行い、相手国の保有する機体(戦闘機)で衛星打上ができる体制も考えているそうだ。これは、自国の戦闘機開発メーカーが海外採用されるための布石とも言え、衛星打上能力を持たせた上で相手国へ供給し、(ミサイル化しないよう制御しながら)今後の経済競争相手となる中国などへ対抗しようとするアメリカとロシア(CIS)の思惑があるのではないかと推察している。
 そうなると、仏・英主導の小型高速機による空中発射市場以外は米露で独占という構図となる。アメリカと旧ソ連邦の宇宙開発競争で培った技術と優位性は譲らないという意志を感じられる一方、宇宙だけに目を配るのではなく、戦闘機販売体制及び他国の追随を許さない体制に加えて、多国間競争において経済原理を追及するための絶妙な戦略を描いているとも見える。


インドネシア(BIAK島)へ進出するロシア(Airportmap)     BIAK島3500m級滑走路/国連指定空港 (Google Maps)

市場至上主義が台頭する時代(一番乗りを目指すなら国際協同)

 このような国際協同という既存技術の組合せで早期投入という発想は、市場で一番乗りを目指す「市場至上主義」が背景にある。「根性・忍耐という美談」でロケット開発をしても、市場競争で勝てなければ意味がない。どこかの国のロケットのように輸入技術を「純国産」と称して「血と汗と涙の物語」を繕っても、国際市場で魅力を出せていない。結果としてだれも見向きしない製品になってしまい、商品になれないのである。利用者が支持し、魅力を感じた新商品を目指して、アメリカとロシアは「相手に手の内を見せても良いレベルの既存技術」を出し合い、高速航空機型エアランチと大型輸送機型エアランチ(空中投下)は「国際協同でトップランナー」を行こうとする発想はすばらしい。
 しかしこれは宇宙に限ったことではない。国際協同の形態で生まれたのは航空機製造会社のエアバスがよい例だろう。旅客機市場を圧倒的に支配していたボーイング社へ対抗するため、ヨーロッパ諸国は自国の優位技術を出し合い、エアバスに結集して市場参入し、結果として現在では2強時代を築いた。
 国際市場競争で生き残るには、宇宙は国威ではなく“手の内”を明かしても良い国同士で技術を持ち寄り、競合他社を圧倒する戦略を立てて開発をさせる賢い宇宙外交戦略が今後の新生宇宙体制(非JAXA体制)には必要だろう。

◎「国際協同」と「国際競争」の違いを理解すべし

 その一方で「(手の内を明かす)国際協同」ではなく、「(手の内を明かさない)独走・独自路線(国際競争)」も必要である。アメリカにおける今回の国際協同体制は、宇宙外交による自国の優位戦略を見せつけた格好だ。技術的に成立するかは今後次第だが、だからと言って何もかも国際協同であるわけではない。
 良く分析すると、将来の先端宇宙輸送機で打上費コストダウンに繋がるフライバックブースターやTSTO及び、空気吸入式エンジン(ハイパーエンジン)は、独自・独創体制で研究開発が進められている。何もかも国際協同や一国依存主義に陥れば、飲み込まれる可能性があり、基幹技術を押さえてから組むべき相手を見極めて手を結ぶ体制を構築している。
 この思想は日本も参考にすべきだろう。海外からは「日本は協同と競争の見極めができない国。だから金で呼ばれてしまう」と厳しい意見をいう分析者もいる。悔しいが事実であろう。「すべての技術は出してはならない」という“ある種の極右的発想”ではなく、手の内を明かせる技術・今は明かせない技術・将来的に必要な技術を整理して日本はバランスの優れた宇宙外交政策を今後立てなければならない。

アメリカとロシアにおける「協同と競争」

◎現状の日本を分析すると

 では、日本の問題に迫りたい。現在開発中の液体ロケットと次期固体ロケットは明らかに国際マーケットで競争力が弱い。搭載標準化、国際価格、技術的派生力が劣るため、商業化してもダンピングしない限り受注は困難だろう。液体エンジンはこのまま開発しても、エンジン基盤ソフトが米国から旧式ソフトウェアを導入していること、推力重量比が作れば作るほど低下していること、タービンの回転数を上げる加工技術開発論が叫ばれているが、そもそも総合的な未来戦略が描けていないため再考が必要であろう。
 今の日本は民間も含めて札束外交で技術を買って来た上に“素地の悪いものを掴まされる”というデス・スパイラルに嵌っていると言えるかもしれない。
 また、世界における日本の国際的地位も変化している。日本が先進国として参加しているG8(主要国首脳会議)は、国際影響力が変化したことで、インドや中国などを入れた新興5か国が加わらなければ、国際秩序を決められない情勢となってきている。そして最近はG20主導となりつつある。今後は国際影響力が低くなりつつある日本は参加さえ危うくなる可能性だって有り得る。
国民から徴収した税金(金力)を使って“欧米や新興国と同列”なる国際影響力を行使するには、気象・地球観測という「宇宙からの目」が必ず必要だ。この「目」がなければ「自ら検証する能力」を失い、外交や経済活動において説得性と競争力を失うのは明白である。(補足:日本はいまだに「気象衛星ひまわり」の気象センサー国産化を達成していない)
 故に日本は、「宇宙を見る目」を担うセンサーと、それを搭載する衛星プラットフォーム、さらには衛星を宇宙へ運ぶ打上手段を“経済的”に構築運用する必要がある。しかも、商業宇宙が台頭するこの世の中、自動車産業のように技術も価格も優れた宇宙システムを作る条件も加わってくる。この要求を達成するためには、宇宙システムを小型化して経済性を高め、衛星もロケットも小型化するのが最も良い方策である。つまりこれからの時代は「小型でなければならない」のだ。また、国際情勢の変化も認識する必要がある。

◎シャアリング・パートナー時代に入る

 米露(CIS)連合が宇宙システムを共同開発している背景には、国際マーケットで勝つために取った方策であるのは間違いない。単独マーケットでは市場が成立しないという観点から「仕事・技術・市場」を互いにシェアして“製造数を増やして仕事量を確保”し、“得意技術を持ち寄ってシステム技術を早期に構築”し、“ビジネスインして世界市場を取る”というシェアリング・パートナー時代に入っている認識が必要だ。無論、上記で示したように「持ち寄り型の国際協同路線」と「次世代を先取りして相手に見せない国際競争(独自開発)型」が必要なのは、言うまでも無い。

 したがって、日本も「手の内を明かしてよい技術」、「開発したのに競争力がない技術」、「コスト競争力が極端に乏しい技術」などを選別し、「国際協働・国際競争」の戦略を考えながら、今以上に基幹技術をどこにするのか決定する必要がある。

 では、手の内を明かして相手と組んでよい技術は何か?と考えれば、固体ロケット技術だろう。宇宙先進国同士で技術をシェアし、国際マーケット商品を作ればよい。次世代研究として固体技術の低毒化、低融点化研究を独自で進めてハイブリッド固体技術も将来要素としてさらなる将来の道が開けるかもしれない。固体は「国際協同と国際競争戦略」が成り立つのは明白だ。

 一方で液体ロケット技術は莫大な国家予算を投じているが、H-2Bが打上成功出来ても、基幹技術が国際競争で明らかに敗北していること、射場レス時代に莫大な費用をかけて種子島射場を更新しようとしていることから見ても、「国際協同と国際競争戦略」が成り立たない可能性が非常に高い。その例がH-2BによるHTVの有人化バージョンだろう。開発コストが安いと主張しても、国際マーケットは供給過多な上に民間も参入しており、国際マーケットでの魅力・コスト勝負力・オリジナリティーが弱い。日本基幹的技術とするのは、費用・技術・戦略性の観点から最適とは言えず、今後は維持すること事体が困難になるだろう。


◎日本は基幹的技術を育成して勝負できる体制を

 これからのマーケット需要・国内技術・予算から見れば、大型での生き残りはロケットも衛星も困難であろう。むしろ、日本はナノ・PICO宇宙技術を育成して、低軌道150kg以下の商業衛星競争に備えながら、総重量2トンの以下の宇宙システム(低軌道無人サービス、静止衛星)を目指して産業育成したほうが、宇宙産業が生き残れる可能性が十分高い。
 これはかつての自動車産業と同じである。日本は国家予算でクラウン(H-2B、GX)を開発していたが、国際競争を見据えて「このままでは国家予算を費やしてもダメだ!!」という決断がなされ、「小型で出直すべし」として1000cc以下の小型軽自動車(FALCON-1、固体空中発射ロケットか?)を徹底的に開発し、最終的には「カローラ・サニーという小型自動車」で見事に復活、いまや1000cc〜2500ccという大衆車はハイブリッドも含めて高い国際競争力を得ることが出来た。このような、将来戦略を見据えて、今出来る国際協同戦略(固体連合?)を立てて踏み止まりながら、将来の芽を植える(ナノ・ピコ衛星、センサー基盤、小型高出力低コスト液体エンジン、フライバック研究等)国際競争戦略も立てなければならない。


初代カローラとサニー(トヨタ博物館)

 つまり野球で言えば、ホームランバッターを育成するのではなく、ヒットを多く打ち、足も速くて相手投手を牽制できる、いわゆる「スーパー・サブ(イチロー)」のような発想で国際的な宇宙地位を目指すのが良いかもしれない。有人開発で国力を消耗するよりも、予算をかけない「国際協同・国際競争」戦略を展開してランチャー独自&連携開発、小型衛星標準バスシリーズ(ダウンサイジング)・ユニバーサル化(機能拡充)を図り、少子高齢化と新興国台頭により日本の国力低下を見据えた賢い宇宙戦略が必要である。

◎まとめ
 小型高速航空機を民事転用した「即席・低コスト・多頻度」のエアランチシステム開発が盛んになってきたが、新造Mig-31Ehが中東国の政治バランスの問題から輸出できない問題が発生、米露の民間企業がこれを購入し、民間サブオービタル事業化する情報が飛び込んできた。また、米国&CISでは大型空中発射ロケットであるサザンクロスとPOLYOTでプロジェクトが進行、互いの技術を持ち寄る国際協同プロジェクトも始動、さらには国際射場(空港)展開を進めて、商業マーケットでの優位性を構築する動向が見られる。宇宙による市場至上主義が台頭してきている。
 今後、商業ランチャーをやるならば、射場レスにして固定資産維持に費用をかけない思想も必要である。また、「国際協同と国際競争戦略」の違いを理解し、「国際協同」は商業市場を見据えたシェアリング・パートナー構築戦略が日本には必要だろう。そして「国際競争」では将来の国力を見据えて小型宇宙の育成を進めるのが得策と同時に、財源を浪費して競争力も乏しい宇宙プロジェクトは幕引きを図る必要がある。有人宇宙よりも国力を考えた宇宙政策を立案して欲しいものだ。
 宇宙バブル時代は崩壊した。国際金融危機も加わって国家予算を浪費して競争力の乏しい宇宙システム開発は、さらに許されなくなった。既存スキームが変わった今、新たなる潮流に乗る者、スキーム変化自身を理解できない者、基盤技術がなく脱落する者がいずれはっきりしてくるだろう。そろそろ真面目な宇宙政策を期待したいものである。


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