中国有人宇宙船「神舟6号」打ち上げ成功

中国有人宇宙船「神舟6号」打ち上げ成功 (2005/10/12)

 中国の有人宇宙船で2回目の有人宇宙飛行である「神舟6号」が2005年10月12日(水)現地時間午前9時(日本時間同日10時)に内モンゴル自治区西部の酒泉衛星発射センター打上げられた。打上げロケットは長征2Fである。宇宙飛行士も前回の1人に対し今回は2人だった。宇宙飛行士は「費俊竜」、「聶海勝」の両氏である。無事の帰還を祈りたい。


搭乗前の宇宙飛行士
(軍人の後ろに見えるのはトヨタのマイクロバス)(出典:CNSPHOTO)
   
打上げ(CNSPHOTO)

「神舟」は露中共同製作
 筆者の知り合いからの情報によれば、今回の打上管制室にはロシア人技術者がかなり詰めており、打上げ作業のアドバイスを中国へ行っている。これは、「神舟」がロシア・ソユーズのライセンス品だからである。中国ではFSWという回収型カプセルの実験衛星を多数打上げているが、パラシュートが開かず落下した例や農村・住居へ落下した例がいくつかあるため、信頼性のある有人宇宙船を自国で製作する能力を、中国はまだ十分に有していなかった。このような一因もあるため、ロシア・ソユーズ技術の導入を図る方針で「神舟」を開発したのであった。




      神舟             ソユーズ

 
農村地帯に落下したFSW            湿地に落下したFSW

これは、ロシアにとっても中国は重要な貿易相手国(特に兵器関係)であり、ロシア(旧ソ連)のソユーズという“信頼性のある、枯れた技術“を中国へ売却する事は、ロシアの技術的優位性を損なう危険性は低いと判断されたからであると思われる。
 これを証明するかのように、ソユーズ技術を用いてロシアでは近年ロシア版シャトル“クリッパー”が開発中である。

 
ロシア版シャトル「クリッパー」

 このクリッパーはカプセルのように見えるが、胴体揚力で飛行するため“飛翔体”なのである。よってクリッパーはソユーズや神舟のように“体にかかる負荷”が軽減されるとのことで、将来的的には一般人も搭乗できるような設計がなされている。(体にかかる重力(G)は約2G〜3Gほど。ソユーズは4G以上)
したがって、今まで“使い捨て帰還カプセル”方式をしていたロシアが、米国のスペースシャトルと同じように“再使用型”を思考しはじめている。また、クリッパーという再使用型は現行の(ソユーズや神舟のような)使い捨て宇宙船と違い、コストダウンに繋がる可能性も高い。よって中国へ“枯れた技術であるソユーズ”売却は問題なく、逆に雇用も確保できるためロシア側ではWelcomeであったと推察される。
 したがって「神舟」は信頼性を重視するため枯れた技術で製作されている。これをどう評価すべきだろうか?筆者は有人宇宙飛行をするための手っ取り早い手段と、信頼性を重視する点において最適で、理に適っていると考えている。しかし、その事実を自国民へ隠してナショナリズムを煽ることは、問題であると考えている。だが一方で政策的事情もあるようだ。中国では北京オリンピックや上海万博の一方で貧富の差の拡大や、無理な土地収用による農民一揆などの問題を抱えており、共産党政権を維持させ求心力を得るには必要な政策であると同時にアジアにおけるプレステージを狙う上でも必要で、総合的観点から「国費を投じるに値する」という政治的判断がなされたと考えられる。

◎今後の有人宇宙活動の予測
 技術的観点で言えば、神舟はロケットから宇宙船まで“使い捨て”のため、再使用までは至っていない。米国は最近、シャトルの穴埋めをする往還機は使い捨て型を方針として掲げているが、これは次期往還機開発までの過渡的なものであり「建て直し」の最中である。またロシアでは先程も言ったように再使用型クリッパーを模索している。
 したがって、中国も当然ながら現行のソユーズ模造品(神舟)から再使用型へ行く可能性はあるだろうが、ロシアの技術導入を実施した背景から当面はこの技術を磨く方向で行くと考えられる。しかし近年の航空宇宙学会への中国人参加は活発で、海外へ情報収集に走っている傾向を見ると、今後の動向はさらに見守る必要があるだろう。
 そして今回打上げられた神舟6号の実態は不明である。公的発表からの推測ではミニ宇宙ステーションであると思われる。このミニ宇宙ステーションを増設すれば中国版宇宙ステーションが出来るため、アジア諸国の宇宙飛行士を育成したりすることも可能となる。よってこれらの観点からも今後の動向を見守る必要があるだろう。

◎宇宙ビジネスの波及
 中国は日本ではまだ実績が無い、商業打上げを実施した経緯がある。それは衛星携帯電話「イリジウム」や欧州の商用通信放送衛星である。したがって、今回の有人宇宙飛行は信頼性の観点から利用者へ与えるインパクトが強く、安い労働賃金と中国軍部のバックアップによる低価格ロケットが商業打上げ市場へ投入されるため、今後の商業衛星と打上げ市場に中国が食い込んでくる可能性は非常に高い。事実、欧州でも「10年〜15年後には中国が欧州で衛星とロケット売り歩くようになり、欧州にとっては脅威となる」というレポートも出始めている。実は欧州でも中国への付き合いに積極的な国とそうでない国とが存在しているのも事実である。しかしこのような将来的緊張を予見しながらも中国と欧州の接近関係は今後とも続き、場合によっては中国版宇宙ステーションへ欧州宇宙飛行士が搭乗する可能性も考えられる。よって今後の欧州と中国の関係も興味深く見守る必要性があるだろう。
 
◎軍事的脅威の可能性
 一般にはあまり知られていないが、最初の有人飛行である「神舟5号」は、華々しい有人宇宙飛行の傍らで、軍事偵察モジュールが打上げられている。この軍事偵察モジュールにはELINT(スパイ機能)が搭載していると言われ、信号傍受機能や赤外線カメラが搭載されている。そして軌道投入も高度200 km x 350 kmで傾斜角は42.4°と公表されていることから、この傾斜角を見ると、北海道近辺の緯度のため、日本がスッポリ入る軌道と見る事もできる。したがって、日本に対する諜報活動として見ても不思議ではない。また、台湾監視においても十分な軌道のため、有人宇宙活動を隠れ蓑とした偵察ミッションと評価してもいいだろう。

   
神舟ELINTモジュール(www.astronautix.com)

では、これらの偵察情報はどうやって地上へ送信しているのか?実のところ中国は世界中に最大で6隻の衛星追跡監視艦「遠望」(Yuanwang)を配備しており、これらが通信を行っている(ついでに追跡監視艦の管轄は中国海軍である)。またロシア宇宙庁の協力でロシア通信網も使えるようになっているのだ。


衛星追跡監視艦「遠望」(Yuanwang)

◎まとめ
今回の神舟6号の打上げは、まだまだ通過点である。今後の日本は彼らのあらゆるシナリオを想定し、どう対応するか検討する時がきているだろう。「中国がやったから日本もやるべきだ」という宇宙業界から安易で感情的な有人宇宙開発論が出ているが、そうではなく日本も人口減少による国力の衰退と国費を投じる能力の限界を理解した上で、今後の戦略を練る必要があるだろう。しかし昨年の「神舟5号」以降、JAXAは何ら有効手段を実施出来ていない点は問題である。これだけのインパクトを受けながら発表されたJAXAビジョンは、海外からは惨澹たる評判であった。にもかかわらず、1年経っても何ら改革が実施されないのは組織・制度上の問題が露呈している事を意味しているのではないだろうか?

 今度取るべき日本の宇宙活動は「国益」と「国民・国際貢献」という観点で考えるべきだと筆者は考えている。また、中国は宇宙活動を平和目的としているが、軍が管理し、運用している“実態”と軍事用のモジュールを打上げているため、欧州や日本の宇宙機関の仕組みから見ればその説得性は非常に低い。よって、彼らの活動を監視し、警報を発する事もアジア・オセアニア諸国の安定的発展のために日本がすべき役目ではないだろうか?最近の中国軍部の活動は明らかに異常で威圧的でもある。
このような観点をベースに今後もエアワールドにて様々な宇宙活動の提案をしていくつもりである。

関連情報サイト:
中華人民共和国 有人宇宙飛行計画(神舟の技術的詳細情報)
 http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams06/ch_1.html

中国の有人宇宙飛行の夢が間もなく実現(中国人記者のレポート)
 http://www.pekinshuho.com/2002-19/fm19-1.htm

キリバスにある中国の人工衛星追跡基地(太平洋進出へむけて活動中のようです)
 http://www.yashinomi.to/pacific/tsushin07.html

急速に発展する中国の宇宙開発(中国の宇宙開発体系をまとめてます)
 http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt040j/0407_03_feature_articles/200407_fa03/200407_fa03.html


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