国際ミサイル平和宇宙利用転換プログラム(弾道ミサイル・ピース・トランスファー戦略)Ver 2.0

(エアワールド 2005年5月号抜粋)
弾道ミサイルという相手国を破壊する物騒な兵器が世界35カ国へ拡散してしまっている。しかしその一方、その弾道ミサイルを使用して衛星を打上げる事業を している会社がロシア、ウクライナ、米国等には存在する。これは弾道ミサイル本体、技術、人材を怪しい国へ輸出させない事を目的としている側面がある。今 回はちょっと視点を変えて、弾道ミサイルを使った衛星打上げロケットの現状と、日本も平和貢献事業と宇宙産業育成を目的として可能性がないかを検証をした い。

弾道ミサイルの種類と歴史

弾道ミサイル(Ballistic Missile)の種類
・     射程5500km以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)
・     射程3000〜5500kmの中距離弾道ミサイル(IRBM)
・     射程1000〜3000kmの準中距離弾道ミサイル(MRBM)
・     射程1000km以下の短距離弾道ミサイル(SRBM)
・     射程はICBM〜IRBM程度の潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)




冷戦末期である1987年当時ははロシア(旧ソ連)はICBMとSLBM含めて2380基の弾道ミサイルを保有し、アメリカは1640基保有していた。そ れが2001年末にはロシアは1022基、アメリカは983基と減少している。またフランスは48基、英国は58基までSLBMを削減し、中国は20基の ICBMを保有している。統計をすると1987年にあった弾道ミサイルは4040基あったが、2002年末には2131基まで減少しているのが現状だ。

ミサイル拡散の危機

ここからは弾道ミサイル拡散の問題について述べたい。大国間の合意や各国独自の意思により着実にICBMやSLBM削減は進んでいるが、その一方で問題も 発生している。それは弾道ミサイルが解体される工場にて、ミサイルとそれを発射させる発射装置が一部行方不明になっているのだ。ロシアでは経済危機により SLBMが搭載可能な原子力潜水艦(タイフーン級)が維持不能となったため、米国の資金援助により原子炉が解体されており、日本でも外務省が資金援助に よってヴィクターIII級原子力潜水艦を解体するプログラムが進められている。これは放射性物質を自然界へ流出させない事を第一の目的としており、主とし て米国の資金援助は原子炉解体へ回された。しかしその一方、その原潜のミサイル垂直発射装置が一部行方不明となっており、闇取引により一部が海外へ流出し ている可能性が高いのだそうだ。
   
タイフーン級原子力潜水艦(ロシア軍) ヴィクターIII級の解体(外務省)

またウクライナでは、「AS15 Kent」として呼ばれている射程3000km、核弾頭200キロ・トンが搭載可能なミサイルを、闇商人がロシア国防省向けと偽って20基の輸出許可を取 得した。しかし実際はイランと中国へ6基ずつ闇輸出し、残り8基は行方不明となっているそうだ。このように冷戦下にて製造された危ない兵器が人知れず拡散 している事実は把握しておきたいものだ。
 

弾道ミサイルをリサイクル

このように、弾道ミサイルが人知れず拡散している現状を危惧した米国とロシアは弾道ミサイルを廃棄する一方、弾道ミサイルやロケットエンジニアの職を確保 するため、ロシアやウクライナが保有する弾道ミサイルSS-18やSS-19などを使用して商用打上げサービスを行っている。また、法的効果もある。弾道 ミサイル廃棄という定義において、解体してもリサイクル打上げても廃棄と見なされている。以上から弾道ミサイルを改造した商用打上げロケット会社として ユーロコット社、IACコスモトラス社、UNITED
START社やOrbital Science社が存在するのだ。

ユーロコット社

ユーロコット社はドイツEADS(旧ダイムラー・クライスラー・エアロスペース社)が51%、ロシアのクルニチェフが49%出資して設立された打上げ企業 である。2000年から商業試験打上げを実施し、近年まで5回の打上げに成功し、成功率は100%である。このRockotが打上げ可能な重量は最大で 1.8トン、軌道投入高度は200km〜2000km、傾斜角は50度〜108度、射場はロシアのプレセツスクかカザフスタンのバイコヌールである。

 

Rockot(出典:ユーロコット社)
http://www.eurockot.com/

ISCコスモトラス社

ISCコスモトラス社はロシアとウクライナの20企業が出資して設立したドニエプルロケットの商業打上げ会社である。このドニエプルは2段式液体型 ICBMのSS-18に第3段をプラスしたロケットである。SS-18はロシアとカザフスタンへ配備されている地下サイロから発射されるICBMであり、 過去において150回の試射を行っている。1986年にはサイロから発射された直後に爆発し、また同年の打上げでも第1段と第2段の分離時に爆発事故を起 している。その後、1990年代に入りこのSS-18が民間へ転用されて商用衛星打上げロケット・ドニエプルとして登場した経緯がある。現在のところドニ エプルロケットは1999年4月21日初打上げに成功し、合計4回全ての打上げに成功している。また2005年10月頃には日本の光通信衛星OICETS と工学衛星INDEXを搭載して打上げられる予定だ。

ドニエプルロケット打上げ(出典:ISCコスモトラス社HP)
http://www.kosmotras.ru/


UNITED START社

弾道ミサイルを転用したドニエプルやロコットの他にロシアICBMの3段式固体型SS-20とSS-25に第4段をプラスしたSTARTというロケットが ある。このロケットはアメリカのAssured
Space Access社とロシアのZAO Puskovie Uslugi社が出資・設立したUnited
Start社が提供している。ICBMの衛星用打上げロケットの改造はロシア政府の全額出資により行われている。このSTARTは約500kgまでの衛星 を低軌道へ打上げる能力がある。
http://www.unitedstart.com/start/
 

Orbital Science社

 弾道ミサイルを使用したリサイクルロケットを製造しているのは何もロシアやウクライナだけではない。アメリカ製弾道ミサイルもロケット打上げ用としてリ サイクルされている。それはOrbital
Science社が販売しているTaurusとMinotaur(ミノタウロス)ロケットだ。Orbital
Science社は空中発射型ロケット「ペガサス」や小型衛星を開発している企業であり、そこに旧マーチンマリエッタ社員(現在のロッキードマーチン社) の一部がOrbital
Science社へ移籍しているのだ。マーチンマリエッタ社は過去において弾道ミサイル「ピースキーパー」や「ミニットマンミサイルの搭載機器」を製造し た実績があり、そのエンジニアがリサイクルロケット(Taurus、Minotaur)の実現へ向けて貢献をしている。

Orbital Science社の例(出典:Orbital Science、USAF)
http://www.orbital.com/SpaceLaunch/


打上げ価格

 価格はどのくらいなのだろうか?ある海外の軍関係者の話によれば、打上げ業者向けに払い下げされている弾道ミサイルの価格は実質1ルーブルだそうだ。例 えばドニエプルロケットのベースとなるSS-20やSS-25は1ルーブル(約4円)で取引がなされており、タダ同然で入手した弾道ミサイルをIACコス モトラス社やユーロコット社などが打上げ支援や手数料、上段装置改造費用をプラスして販売している。その価格は海外WEBサイト情報によれば約10億 〜13億円程度だそうだ。ではなぜタダ同然で払い下げているのかと言えば、ミサイルはヒドラジンなどの劇物を扱っているため、解体した場合は高額な費用が かかってしまう。しかしミサイルをロケットとして打上げれば解体せずに打上げ(宇宙などへ投棄)で済むため、国際法上の拘束は無く実質免責扱いとなるの だ。またテロリストや闇商人へ渡らぬよう打上げ事業者は選定され、厳重な管理責任を課されているのが現状である。
 

弾道ミサイル・ピース・トランスファーへの可能性

さて、この低価格のリサイクルロケットは衛星側からすれば魅力的なロケットだ。しかし日本では弾道ミサイルは無く、リサイクルロケットを国産製作する事は できない。しかしミサイル拡散を食い止めることを目的として日本の宇宙技術を国際貢献させることはできないだろうか?つまり、平和貢献事業として「海外の 弾道ミサイルをリサイクル」してしまうという概念はどうだろうか?

打上げ射場については、南太平洋環礁ではどうだろうか?日本国内で打上げる事は「日本が弾道ミサイルを保有している」というあらぬ疑いを招くので、発射場 は米国、日本、オーストラリア等という国際共同射場プランはどうだろうか?(しかしH-2AやM-Vロケットなどと競合してはならない。本来の目的は弾道 ミサイルを平和裏に処分させる事が目的だからである)

このように日本が率先して行えば、日本の国連常任理事国入りを後押しさせるツールとして考えることも可能だ。現在進められている核廃絶の形態は、
・     強大な軍事力を持つアメリカ
・     外交交渉が積極的な欧州
・     核兵器解体としてのロシア
・     核生産管理をしているIAEA(国際原子力機関)
という構図が見えるが、核運搬手段(弾道ミサイル)の廃棄処理体制はまだ不十分である。それを弾道ミサイルを保有しない日本が積極的に担当し、「核査察と 打上げ廃棄」をセットでしてしまおうというアイデアも悪くない。また協力した国に対してはODAを継続させたり、日本の小型衛星開発へ参加させたり、宇宙 科学ミッション(火星探査や月探査などの平和的な宇宙プロジェクト)へも参加させたりと、「日本と手を組んだほうが、ODAが継続されるし宇宙先進国の仲 間入りもできていいかもしれない」と思わせて弾道ミサイルを平和裏に処理させる方法論は考えられないだろうか?

つまり筆者の提案しているのは、リビヤ・シリア・イラン・パキスタン・サウジアラビア・北朝鮮等という核兵器保有の疑いがある国へ対し、核開発を放棄させ て後戻りさせないために、外交ツールとして宇宙を有効利用しようというアイデアなのだ。

実はこの案件が出来るかどうか、海外のある機関へ打診してみた。その結果「興味がある」との返答を貰っている。つまりやり方次第によって実現可能という事 なのだ。日本の宇宙開発が率先して弾道ミサイルを平和利用促進する事が出来れば、海外の宇宙開発国へ対してかなりのインパクトを与える事が出来る。俗に言 う「1周遅れのトップランナー」を狙える要素を持っていると考えられないだろうか?
 

打上げニーズと戦略

次は打上げるニーズだ。拡散している弾道ミサイルを平和利用促進させるには打上げるニーズも必要だ。そしてマーケットもH-2AやM-Vロケット等とは 違ったものにすることも重要である。現在日本国内ではJAXA以外の衛星が多く開発されているのが現状だ。HASTIC(北海道宇宙科学技術創成セン ター)が開発している北海道衛星、多くの大学(東京大、東工大、日大等)が開発中の超小型衛星CubeSAT、千葉工業大学の鯨観測衛星2号、東大阪の 「まいど衛星」、九州大学QUEST-1や最近では高校生も衛星を作る動きまである。さらに上層大気観測や宇宙線の観測(理学的なミッション)は数多くの ニーズがあるとのことだ。

また、海外ではアジア・オセアニアにおいて打上げ手段を持たない多くの国々(オーストラリア、韓国、台湾、シンガポール、タイなど)が衛星を開発してい る。これらの国々を「弾道ミサイルのリサイクル打上げ」として利用させてはどうか?また、宇宙教育という観点で「リサイクルロケット」という平和貢献を全 面的に打ち出し、ユニセフ、NHK、BBCなどと協力できれば国際教育事業として子供達の教育貢献が出来る可能性がある。そして利用を促進させるために日 本の衛星メーカーが短期間で衛星を製作できる「設計寿命が数ヶ月程度の低コストの地球観測衛星キット等」を製作、ODAで提供して宇宙利用普及へ努めれば 日本のプレステージを高める事もできる。

 

まとめ

 ミサイルや核拡散を阻止するため、弾道ミサイル保有国(米国、ロシア)がミサイルをリサイクルしている現状を述べた。そして日本が平和貢献事業として弾 道ミサイルをピース・トランスファーさせる「国際ミサイル平和利用プログラム」も考察してみた。「核査察とミサイル廃棄」というリサイクルロケットや国際 共同開発等によって海外と多種多様のアライアンスを組む事は戦略上決して悪い事ではない。現に近年では欧州がロシアと積極的な航空宇宙分野の提携・交流を 進めており、米国も一部の企業がウクライナやロシアなどと組んでいる。その一方日本ではH-2Aの失敗ばかりに目を奪われた影響もあり、ポスト宇宙ステー ションを見据えたアライアンスが出遅れているのが現状だ。

宇宙市場拡大と常任理事国入りへのツールという日本のプレステージ拡大のためには弾道ミサイル処理を通じた海外とのスターアライアンスならぬピース・ス ペース・アライアンスが今後重要な要素となってくるかもしれない。従って宇宙開発を単なる技術開発と考えず、核兵器廃絶へ向けての「外交手段」として宇宙 を考えるのも悪くはない。今後の独立行政法人としてのJAXAは上記のように「世界をあっと驚かせる戦略」ができるものだと信じている。

Copyright Hideo.HOSHIJIMA all rights reserved 2005.
 
Hosted by www.Geocities.ws

1