コリン・ピアニスト編2−ブラームス・ラプソディ


男はピアノを見つめていた。誰よりも愛した女が弾いていたピアノ。今でも彼女の細くしなやかな指と、情感豊かな音色、男を見つめる憂いを秘めた瞳を覚えている・・・否、彼女の全てが男の中にまだ残っている。男はピアノのふたを開け、女の温もりを求めるかのように、指先で鍵盤に触れた。冷たく固い感触。窓を叩く雨音が強くなる。薄暗い部屋の中、その雨音だけが響いていた。男は椅子に座ると、その雨音を振り払うかのように弾き出した。女が愛したブラームス。幾度共に弾いたことだろうか。男は心から溢れ出る激情を、深い哀しみを、全ての感情を、指から鍵盤へ伝えた。時にはうねるように激しく、時には恐ろしいほどの静けさの中に情熱を秘め、男の整った指は音楽を紡いでいく。もう男の耳に雨音は入らなかった。最後の低く重たい音が静かに部屋に響く。男の深い色をした瞳から鍵盤へすっと落ちるものがあった。雨は降り続いていた。

『ラプソディ』を試聴しよう!
(Listen to samplesの3番をクリック)


ホームへ

©2003 by どいちぇ すべての画像・文章の著作権はどいちぇにあります。無断転載・記載はご遠慮ください。
Hosted by www.Geocities.ws

1