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憧れの音大に、彼女は入ることができた。この音大にした理由はただ1つ…偉大なチェリスト、コリンの下で勉強したかったからだ。今日は初の個人レッスン。彼女は心臓がどきどきしているのを必死に押さえ、コリンの待つ部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
深くて艶のある声が聞こえた。彼女がドアを開けると、コリンがグランドピアノに軽く寄りかかって立っていた…その立ち姿はまるで映画のワンシーンのように美しかった。彼女は一瞬我を忘れて見とれていたが、はっと気付くと、自分の名前を告げた。
「よろしく、表向きはファース教授だけど、レッスンの時はコリンって呼んでくれると嬉しいな」
そう言うとコリンは彼女に右手を差し出し、握手をした。
「じゃあ、硬い挨拶は抜きにして、とりあえず弾いてみてくれるかな」
彼女は軽く深呼吸すると、バッハの無伴奏を弾き始めた。コリンは、美しい指先を整った口元に軽く当て、鋭いがそれでいて柔らかい眼差しで彼女が弾くのを見つめていた。彼女が弾き終わると、コリンは微笑んだ。
「よく練習しているね」
そして彼女のそばへ歩み寄った。
「もちろん、直すべきところは沢山あるけど、それを勉強しにここに来たのだから、問題ないよ。僕がその手助けをこれから何年かかけてするから」
彼女はこれから先、何年かコリンと共にチェロを弾けるという事実に、喜びを感じた。
「まずは…そうだな、ボウイングのことにしようか」
そう言ってコリンは、レッスン室の壁沿いに掛かっているカーテンを引いた。カーテンの裏は鏡張りであった。
「ちょっと鏡を向いて、自分の姿を見ながら弾いてもらえるかな?」
彼女は、鏡の中の自分が弾いている姿を見るのも恥ずかしかったが、それ以上に横に立っているコリンを鏡の中に見るほうが緊張した。何小節か弾いたところでコリンがそれを遮った。
「君のボウイングは、少しぎこちないね、わかるかな?弦楽器は楽器本体と弓と、2つのパーツだけど、それで1つの楽器なんだ。もっとチェロと一体になったボウイングができるといいね」
そう言うとコリンは、彼女の左肩に軽く彼の左手を乗せ、右肩越しに前かがみになった。そして弓を持つ彼女の右手に、自分の右手を重ねた。彼女は、自分の右頬のすぐ横にコリンの存在を感じた。そして自分の右手を包む彼の大きく、それでいて繊細な手の感触に、心臓がどきどきして顔が赤くなった。コリンは彼女の手ごと、弓を動かした。弦に吸い付くような、滑らかなボウイング。同じ楽器とは思えない豊かな音がした。
「わかるかな?」
彼女の目とコリンの目が、鏡の中で合った。彼女は軽く頷いた。
「たまに鏡を見て、自分の弾いている姿をチェックしてみるといいよ。綺麗な動きで弾けていれば、音もいいはずだから」
そして鏡の中のコリンはにっこりと微笑んだ。
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