|
コトコトとスープの温まる音がする。今日はコリンの誕生日。彼女は腕を振るって彼の為に料理を作っていた。時計を見るともう6時。7時にはコリンが来るはずだった。急がなくっちゃと彼女は台所を忙しく動き回っていた。
リン、と呼び鈴が鳴った。インターホンを取ると、耳に心地よいコリンの声が聞こえた。
「僕だよ」
「今開けるわ」
暫くして玄関をノックする音が聞こえた。彼女がドアを開けると、そこにコリンが立っていた。シンプルなジャケットとシャツを着ているだけだったが、彼女にはまるで雑誌から抜け出てきたモデルのように見えた。
「お誕生日おめでとう、コリン」
「ありがとう」
コリンは彼女の頬に軽く口づけをした。さりげない香水の香りが彼女の鼻をくすぐった。
「いいにおいがするね。何を作ったの?」
「自慢料理よ。冷めない内に食べましょう」
彼女はコリンを案内した。
目の前にいるコリンを彼女は見つめていた。フォークをナイフを使う動作すら綺麗に見える。たまに目が合うとコリンはにっこりと微笑んでくれた。コリンはよく冗談を言い彼女を笑わせた。伏目がちに話すコリンの薄い瞼、笑うと頬にできるえくぼ、形のいい唇とすっとした鼻立ち。コリンの整った顔に彼女は吸い寄せられ、料理の味もわからないほどだった。
デザートも食べ終わり、2人はワイングラスを傾けながら談笑した。コリンは彼女の料理の腕を褒め、またいつか作ってくれるように頼んだ。彼女は棚から小さな包みを持ってきた。
「何?」
「開けてみて」
コリンはその長い指で、意外と不器用に包み紙を開けた。そこには飾り気はないが質のいいシルバーのシガレットケースがあった。添えられていたカードには、彼女の字で「Happy Birthday」と書かれていた。
「ありがとう」
コリンは最高の笑顔で彼女を見つめた。
となりの部屋から11時を告げる時計の音が聞こえた。コリンと過ごすことのあまりの楽しさに、彼女には時間がとても早く過ぎ去ってしまったように思えた。
「そろそろ帰らなくっちゃ」
コリンが残念そうに言った。コリンがすっと立ち上がると、彼女も彼を見送るために立ち上がった。玄関の所でコリンは立ち止まり、彼女に優しく微笑んだ。
「今日はどうもありがとう。最高の誕生日だったよ」
コリンは指先で彼女の頬に触れ、彼女の顎の線をなぞった。そして彼女の額に軽く口づけをすると、扉を開け階段を降りて行った。
うしろ姿のコリンを見ているうち、彼女は心臓が高鳴るのを感じていた。
「帰らないで」
無意識に彼女はそう呟いていた。コリンは振り向き、彼女を見つめた。彼女は俯いたままもう一度言った。
「帰らないで、私を独りにしないで」
コリンは階段を上り、彼女の目の前に立った。そうして優しく彼女の髪を撫でると、顎に手をかけコリンの方を向かせた。
「それじゃあ、僕のとっても欲しいプレゼントをくれるかい?」
彼女は微笑んで頷いた。コリンは彼女の肩を抱くと、後ろ手に扉を閉めた。
|