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その男は今日もそこに立っていた…
街はクリスマス一色になっていた。あちこちに色とりどりのツリーが飾られ、至る所でクリスマスソングがかかっていた。人々は皆、家族や恋人に贈るプレゼントを選ぶのに楽しそうだった。そんな中、彼女は1人、冷たい風が吹く中を足早に歩いていた。
「神様って不公平だわ」
彼女はそう思った。2年つきあっていた彼と、月初めに別れたばかりの彼女に、今の世の中の風景は面白いものではなかった。彼女は広場に飾られた一際大きなクリスマスツリーを見上げた。
「今年はプレゼントなしね」
ある日、彼女が再びそのツリーの側を通ると、一人の男がツリーの下に立っていた。背が高く整った顔の、滅多にいない程ハンサムな男だった。人目を引く姿なのに、誰も彼のことを気にしないで通り過ぎていた。彼の瞳は、静かに彼女を見つめていた。
「誰かしら?」
彼女は懸命に誰だか思い出そうとしたが、見覚えのない顔だった。自分を見ていると思ったのは気のせいかもしれない、と彼女は思い、その場を去った。
それからというもの、彼女がそのツリーの側を通るたびに、その男はそこに立っていた。何かをするでもなく、ただじっと彼女を温かい瞳で見つめていた。質のよさそうなロングコートをはおり、マフラーを首に巻き、そして両手をコートのポケットに入れた姿で、行き交う人の流れには目もくれずに、彼女だけを見つめていた。自分を見ているのは気のせいじゃない…彼女は声をかける衝動に駆られた。なぜ自分を見つめているのか?なぜそこに立っているのか?あとからあとから疑問がわいてきた。
そしてクリスマスイブ…その男は今日もそこに立っていた。彼女は決心し、彼の方へ真っ直ぐ歩いて行った。不思議なことに恐怖は感じなかった。その男は彼女が近づいて来てもじっと彼女を見つめ、彼女も彼の視線から目を逸らさなかった。彼女が前に立つと、その男は微かに笑ったように見えた。
「あなたは誰?どうして私を見ているの?」
その男は、形のいい薄い唇を開いた。
「君に声をかけてもらうためだよ」
耳に心地よい声がそう答えた。広場は大勢の人で賑わい、かなりの雑音に包まれているはずなのに、彼女の耳にはその男の声しか聞こえなかった。
「私が声をかけるのを待っていたの?」
不思議そうな顔をして彼女は言った。その男は微笑んだ。
「そう…君にもらってもらうために」
彼女は耳を疑った。今、この男は何て言ったんだろう?もらってもらうために?
「僕は君へのクリスマスプレゼントなんだよ」
彼女の頭の中で、その男の声がぐるぐると回った。彼女の目には、もうその男とクリスマスツリーしか見えなかった。広場にある建物も、そこを通り過ぎる人々も消えうせ、一面の銀世界が広がっていた。
その男は彼女に両手を差し出した。大理石を彫り上げた彫刻のように整った手。彼女を真っ直ぐに見つめる瞳は、不思議な力を持っているかのようであった。彼女は何も考えることができなかった。どうしてこの男がそんなことを言うのか、そんなことはどうでもよくなっていた。
「さあ、手を…」
その男が言うと、彼女は彼の手に自分の手を重ねた。
夕闇に包まれた広場に明かりが灯り、クリスマスツリーの飾りも華やかに光り輝いた。そのツリーの前を多くの人たちが忙しなく歩き過ぎて行った。
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