中国の血
ピエール・アスキ著 / 山本知子訳
 中国当局に売血をすすめられ、エイズに感染した農民が治療も受けられず次々に死んでいく大惨事を描く、北南フェスティバル・メディア賞受賞作品。「 どうせおまえたちはみんな死ぬんだ 」万博、オリンピック、宇宙開発に沸く発展の陰で貧困と病苦にあえぎながら無視され、蔑まれる農民の声、顔、名前を刻み、中国共産党政権の棄民政策を告発する。




 何よりも、「 エイズ村 」という言葉に強い衝撃を受けた。「 河南省におけるエイズの存在とその規模の大きさを知ったのは、忘れがたい三度の旅を通してだった 」と始まる第一章からして、「 エイズ村にて 」というタイトルが付いている。
 河南省は中国東部、黄河の南側に位置することからその名が付いた。黄河文明の発祥地として知られ、気候は厳しく、夏暑く、冬寒い。人口は中国で一番多く、一億人近い。しかし、この人口を支える産業は、小麦やタバコ、綿花の栽培を中心とする農業ぐらいで、農民は貧しさに苦しんできた。
 「 数十人の住民に質問したところ、誰もが、売血の経験と当局の無関心さを生々しく語ってくれた 」「 この貧しい農村地帯での収入を少しでも補うために必要不可欠だった十年前の売血の悲劇‥‥‥ 」「 国内のテレビ番組によって、農民たちは自分たちがどんな病気に侵されているのかがようやくわかった。どのようにして病気にかかったのか、また誰がこの不治の病の感染に関する責任があるのかにも気づいたのだ。だが、どんな治療も援助も彼らの手には届いていない。村人たちはそのことに怒り、恨みを抱いていた 」
 著者はフランスの日刊紙「 リベラシオン 」の北京特派員だ。エイズ村に入り、河南省政府の警戒をかいくぐり、身の危険を冒しながらも、農民の一人ひとりから話を聞いていく。だからこそ、そのルポルタージュの迫力に引き込まれるし、その姿勢に頭が下がる。

底知れぬ人命軽視と隠蔽の体質

 河南省でのエイズ禍はいかにして起きたか。著者は2000年11月、政府機関にいたと思われる人物が偽名でインターネット上に掲載したルポ「 血のかさぶたをはがす 」を取り上げる。
 「 1993年初頭、河南省の衛生庁長が各保健関連部門の職員を招集し、次のように語りながら、血液収集センターの配置を命じた。『 河南省の90%が農民だ。彼らが年に一度か二度の売血をし、その血液を回収してバイオテクノロジー企業に売る。それだけで数億円( 1元は14円 )という収益が得られ、農民が貧困から抜け出せる。中国にはエイズは存在しない。だから、血液を欲しがる外国人にきれいな血液を売ることができる 』」。
 しかし、衛生面の欠如、売血者から売血者への感染、役人の私腹を肥やすための闇の血液収集センター、さらなる貧困‥‥‥の結果、数十万人がエイズで死の宣告を受ける。日本の薬害エイズの比どころではない。B型、C型の肝炎も蔓延させた。
 著者は分析を加えながら「 河南省政府は、1994年にはすでに売血者によるHIV( エイズウイルス )感染の存在を知らされていたにもかかわらず、2003年まで何も手を打とうとはしなかった 」と追及する。
 取材で知ったが、中国の隠蔽体質は、新型肺炎の「 SARS 」でも、死刑囚をドナー( 臓器提供者 )にして臓器を取り出して移植する「 死刑囚ドナー 」でも、その構図はまったく同じだ
 本書は事実をうそで覆い隠そうとする中国の体質そのものをエイズ禍を通しでみごとに暴き出している。



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