街角スローガンから見た中国人民の常識

 「 みだりに痰を吐かないで下さい 」 「 公共の場では静粛に 」  北京オリンピックを前に中国政府は中国人の公共マナーを良くするために、さまざまなスローガンをつくり、キャンペーンを行なった。 当局が世界に恥じない「 国際人 」 を目指したのだろうが、13億人もの常識を改めるにはしばらぐ時間がかかるようだ。 実際、いまも中国全土には夥しい数のスローガンが掲げられている。 「 子供を育てず、豚を育てよう 」 「 脱税すると、来世は尼さんになる 」 ……。 中国人の摩詞不思議な常識を如実に映し出す街頭標語を眺めてみよう。

だから中国の犯罪率は低い?!

 中国に旅行すると、どこの街角でも、黄色い文字でスローガンが書かれた赤い横断幕を見かける。 「 飲酒運転飲ませたあなたも 共犯者 」 など日本の交通標語と同じと思ったら大間違い。
 中国のスローガンは、人民の生活文化に密着し、かつ表現がダイレクトである。 日本のように歯にものが挟まったような言い方ではなく、ダメなものはダメ! とはっきり言い切る。

 「 威嚇射撃2発後、逃亡する者はその場で射殺します 」 ( 左 )。  これは中国の街を歩くとどこにでも掲げられているスローガンで、脅しではなく、合法的な逮捕手順だ。
 中国の都会は極めて治安がいい。 北京や上海などに住んでいる日本人は「 むしろ日本より安全な気がする 」 と口を揃えるほど。 中国で犯罪率が低い理由は、スローガンが表わしているように、警察が庶民の犯罪に対して極めて厳しい対処をしていることにある。
 特に、強盗などの凶悪犯に対しては厳しく、中国のほとんどの地域で、威嚇射撃を2回発砲後、それでも逃亡する場合は射殺してかまわないことになっている。 実際、街中で警官を目にすると、ほとんどの中国人は悪いことをしていなくても緊張した面持ちになる。

 犯罪といえば、麻薬。 中国は麻薬に関しても取り締まりが非常に厳しい。 なにしろ、50g以上のヘロイン、コカインを所持しているだけで、即死刑確定。 外国人も例外ではない。 麻薬に対してこれだけ厳しいのに、なぜか中国には麻薬常用者が山のようにいる。 政府発表で全国で約79万人。 実際には3000万人を超えているのではないかともいわれている。
 そこで、現われたスローガンは「 地上でのアヘン栽培は衛星から撮影しています 」 。
 もちろん嘘ではない。 中国は2007年11月、地球観測衛星遥感3号の打ち上げに成功。 主な目的は土地利用情報の収集。 アヘン栽培をしているかどうかも、衛星からばっちりわかるというわけだ。

革命的、そして残酷なるスローガン

 次は中国人民のマナー状況がよくわかるスローガン。
 
 「 歩行者は車に道路を譲れ 」  なんと歩行者保護を最優先とする日本では考えられないスローガンだが、中国の交通マナーがひどいという話は有名だ。 横断歩道は危険がいっぱい。 なにしろ交差点の横断歩道の信号が青で渡り始めても、四方八方から車がやってくる( おおげさじゃなく )。 大きな道路は原則として横断禁止。 交通監視員に見つかると、厳しく怒鳴られ、最悪の場合罰金か、数時間の交通整理ボランティアを務めなければならなくなる。
 中国の交通コンセプトは「 強いものが優先 」 という、これ以上なくわかりやすい。 一番弱い歩行者は、車に気をつけ、バイクに気をつけ、自転車に気をつけなければならない。 それがいやだったら、お金を稼いで自分も車に乗れる身分にならなければならないのだ。

 さて、北京オリンピックも無事に終了したが、国を挙げて大々的なキャンペーンを行なった公衆マナーはいかがか。 「 公共衛生を百年守ろう。 ゴミをまき散らすと子ができなくなり、孫の代に家が絶える 」
 これが本当なら、中国人はとうに死に絶えているはず……。 ゴミのポイ捨ては中国最後の乗り越えなければならない問題。 繁華街にはあちこちにゴミ箱はあるのにポイ捨てが横行して、清掃員が拾ってゴミ箱に捨てている状態。 でも、ポイ捨てすると、なぜ家系が途絶えるのか、その理由はどの中国人も知らない……。

 かつての、ただの空間に便器がいくつも並んでいるだけで仕切りもない「 ニーハオトイレ 」 の姿は、いまや見かけなくなった。 ホテルやデパート、駅のトイレは日本とまったく同じようなつくり、衛生状態になっている。 だが、そこに掲げられたスローガンは勇ましい。
 「 トイレで大便をした後は、壁の上の宣伝書に注意。 同志たちよ、流せ! 」 。 これは中国語では「 トイレの水を流すぞ。 オーツ! 」 という語感があり、革命的な響きがある。 せっかくの水洗トイレでも使用後に水を流さない問題は相当深刻らしい。

 中国で世界中の人が知っている最高に有名な政策といえば「 一人っ子政策 」 。 中国の、特に農村地域に行くと、ぞっとするようなスローガンが溢れている。
 「 一人っ子半政策。 男の子を産んだらもう産まない、女の子を産んだら4年は産まない 」
 女の子が生まれた夫婦は、もう一人子供を産むことができるが、4年間の間隔をあけなければならない。 ここまで子作りに国家が介入するのは、歴史上類がないのではないだろうか。


 そして、一人っ子政策。 “残酷スローガン”の極めつけ。
 「 堕ろせるものは堕ろす、流せるものは流す、そうすれば産まれない! 」
 言葉を失うほどの怖ろしいスローガンである。 さすがに中国国内でも問題になって、最近ではこのような残酷スローガンは撤去されつつあるという。

 中国のスローガンは、その社会実態を如実に表現している。 漢字を理解できる日本人だからこそ見える中国の現実。 「 百聞は一見にしかず 」 。 中国を旅するときは面倒がらず、横断幕の漢字を見つめてみよう。 そこからまた、中国理解が深まるはずだ。

牧野武文著
『街角スローガンから見た中国人民の常識』
( インフォレスト刊 )
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