流体力学が21世紀へ
細長い惑星探査機が火星の大気に突入する。外殻が剥がれ落ち、内から蝶々のように翼を広げ、プロペラが回転を始める前にも、アクチュエータが機体の安定と誘導に慌ただしく動き出す。母船がマイクロ探査機を放ち、峡谷で水や生命の探索に乗り出す。
実際に火星探査にそれらのすべての技術を使うことは、考えられないが、今の仮説には確かに、21世紀の手始めにさしかかり、いよいよ実用化になる流体力学の進歩が含まれている。ミッション対応の設計、マイクロ流体工学、そしてプラズマ流体制御はその成果の一部に過ぎない。
理学から工学へ
流体工学のもっとも基礎となる道具は、流体の質量と運動量の保存を述べる方程式である。ライト兄弟の時代にはもう導かれていたものだが、恐らくその存在さえ知らなかった彼らにとっては役に立たないものであったろう。なぜなら、
Navier-Stokes式は非線型偏微分方程式で、理想的な条件の下でない限り、一般的な解析解法は通用しない。20世紀の始めには、本学問はまだ基礎物理であった。ライト、オット、サムエルのようなエンジニアたちも経験論に頼って翼やプロペラにかかる力を見積もっていた。今世紀の空気力学の進化は設計の変遷に代表される。
独創的な工学の発展や、より最近のコンピュータは流体力学を理学から工学の分野へと導いた。
NS式は日常的にパソコンで処理され、コンピュータ流体力学(CFD)自身がサブ分野へと発展し、されなるサブ分野も生み出している。真なる“機能は形を決定する”に基づく斬新な設計もコンピュータ上でシミュレーションや改造ができるわけだ。CFD
の成長に伴い、他分野のコンピュータ計算の進歩にもつながる。多領域CFDである。そのプログラムは構造力学のそれと連携し、フラッタや音響疲労などの複雑な現象、そして心臓の血流までも解析可能になる。また、流体方程式はマックスウェルの電磁式と併用し、プラズマ力学や水力高圧磁石発電機力学的なプラズマ流の制御の研究にも利用できる。円柱衝撃波の安定性、ヘリコプター力学、出口に及ぶ渦リングの影響、そして拡散燃焼炎・ 渦の相互作用におけるコンピュータ計算との組み合わせで、時間空間にまで物理学的要素が増えている。現代の機械計算力でもっても、乱流に対応する完全な
NS式はいまだに難題である。その困難はまた“モデル化”という、当初のNS式では解決できずその洗練化をモットーとする新しい領域の誕生をもたらした。多くの研究者が大型の渦巻きのシミュレーションを、乱流の最小モデル化のもとで、研究している。しかしそのはそれでも機械に過大な負担を課していて実用できない。一方、平均レイノルズ数NS法という、乱流を特徴を平均流で表す方法の方が広く受け入れられ、あまりにも定着し他のより発展性のある新しいモデリング法の導入を阻んでさえいる。理学から工学への変移の成功によって、研究対象はもうないという印象を与えられがちだが、実際には、より有用な道具が新現象の発掘研究に使われ、その機械性も計測技術の進歩とともに洗練さを増すことであろう。
Lycopodium
粉からPIVまで流体力学はもとからつかめないものをつかむという試みである。実態の知れない流動物を計ること、可視化することは難しいが、鋭い洞察力によって可能でもある。ダヴィンチは乱流の渦巻きをスケッチし、レイノルズは染料噴射で乱流変移を観察し、ルドウィグはコケの芽を使って流体の安定性を可視化した。21世紀に入り、研究者らはレーザー、コンピュータ、マイクロ機械測をその可視化と計測に利用している。計測は一点法から同時に区域全体に移っている。
70年代のレーザードップラー速度測定法の進展は非篏入的測定法を可能にした。が、それらも流れ場の限られた点においてだった。分子図速度測定法(
PIV)とドップラー包括的速度測定法(DGV)は研究室で生まれ実用され、平面の流れ場での速度測定や流体の量的可視化を誕生させた。確かに、消化困難なほどの莫大のデーター収集で、大量な計算機値と実験値の整理と解析は新分野になりつつある。NASAのように計算機は実験前のDGVにも役に立っている。最近の
Prandtlの流体可視化の最新情報では優れたレーザー影像技術を、MHz周波数影像とRayleigh散乱隔離法(FRS)との併用によって、3Dのマッハ8の境界層の乱流変移の様子を映し出すことができた。空中にCO2が撒かれ、空気をナノメータサイズに結晶化させる。 MHz周波数でモデルの近くの流れを捕らえることができるカメラ付きのレーザー光に照らされる。集められた光は氷の分子から散乱されたドップラー光しか通さないフィルターを通り抜ける。結果的に乱流に移りゆく複雑な3D波の画像を作り上げている。1910
年に圧力分布測定に使われたナノメータ管は2次大戦後、圧力変換器にとってかえられたが、圧力栓は依然残っている。いまでは圧力温度感知機の全体コーティングの技術によってこのような個々の点と点の原理に基づく計測法は、風洞モデル全体にわたって圧力温度同時測定に変わっている。いろいろな生物から
最初の単純に鳥やコウモリをまねて空を翔ける試みが失敗したあと、注意は固定回転ウィングに向けられ、羽ばたく飛行力学の研究はほとんど生物学者に任せっきりだった。しかし、今また新発想を求めて自然が注目され、生物擬似学と呼ばれる新しい分野ができ、絶え間なく前進的な挑戦と失敗によって流体の中で最適な形を追求している。
鮫肌に似せた抵抗減のための
Riblet、鳥の羽のような高揚力装置、羽の小穴の開いた先端のようなWingletなど。それらはほとんどの飛行生物で見つけられ、同じ機能、つまり飛行に最適な機能を果たすために自然界はさまざまな形をとって達成しているといわれている。自然をより徹底的に勉強し、既存機能への理解をさらによくする追求こそ、次なる流体制御の完成につながるわけである。動物の飛行を研究する目的の一つは機体の小型化である。空中ロボや水中ロボの小型化は、コスト、重さ、機能において顕著な利点を示している。このような飛行には、低レイノルズ数と粘性が重要になり、複雑で不安定な渦から揚力をえる羽ばたき飛行が有用になる。機体が小さくなれば、各部分がさらに小さく、表面圧力や分子自由運動が重要になる。低レイノルズ数は高度長距離飛行に適す。
未来の展望
技術の予言はしばしば間違いを犯し、当たり前なものを見逃してしまう。例に、
2075年に月面飛行が普及し、人間は大型コンピュータによって管理される月に入植するという構想があるが、主唱者は短すぎる電話線で頭を悩ますことだろう。同様に、流体力学の将来を占うときに、しばしば劇的な活用や進歩に目を奪われがちで、もっとありふれた、が共通なものを見落としがちである。もちろん、次の十年ではコンピュータはもっと使われ、
CFDは他の分野との連携でより実用に、物理的に現実に近づく。よりすぐれたシミュレーション力は設計者の発想をいっそう開放する。飛行体のまわりの流れに対する制御や予測が進めば、空輸だけでなく、ミッション遂行のための最適化をめざす奇抜な形も期待できよう。流体力学はいまでは、工学の分野であるが、まだ重要な発見や進歩を遂げなければならない。流れの研究は続き、われわれの飛行物体に対する考え方を変えさせる日もやってこよう。マイクロ、ナノレベルの流体学への関心が強く、物体が小さくなれば、運動や推進への注目も高まろう。もしも、今までのように行けば、その技術は
DOD、NASA、各大学によって進展し、私たちの生活や体にまで恵みをもたらすことであろう。