湾岸戦争と日本の拠出金



湾岸戦争で日本政府は、イラクのクウェート侵攻から4週間後の8月29日になって、 多国籍軍への10億ドルの資金の提供を決定しました。

しかし、アメリカ議会では日本側の回答が遅れたことと貢献がこれでは不十分だとい う批判が相次ぎ、9月12日、「在日米軍の駐留費を全額、日本が負担しない場合、米軍 は日本からは段階的に撤退することを要求する。」という決議案を下院が提出しま す。その要求(脅し)に対して日本政府はあわてて、2日後の9月14日、多国籍軍への 拠出金を更に増やし、合計40億ドルを支援する決定をします。

翌年91年1月17日、多国籍軍は、イラクへの開戦を決行しました。アメリカは日本に再 び追加支援を要請し、91年1月24日には、日本は多国籍軍に対し90億ドルの拠出を決 定します。*1)参照

「砂漠の楯」「砂漠の嵐」作戦の米国防費の総額は約610億ドルと言われていますが、そのうち 各国からの支援金は、合計で539億5200万ドル。湾岸戦争の戦費の88、4%は各国からの支援で賄われているのです。 中でも、直接に多国籍軍に守られたサウジアラビアとクウェートを除けば、日本が支払った金額は第一位です。

90億ドルの支援を行う際、当時、幹事長だった小沢一郎氏は「米国から要求される前 に日本独自に方針を打ち出す必要がある。財政支援は最低で100億ドル。戦争がどうな るか、わからないし、頭金みたいなものだ。(91年1月21日)」と言い放ったそうで す。

これら、日本からの湾岸戦争への拠出金は赤字国債や酒税、タバコ税、消費税、石油 税などの増税という形で、その多くが消費者が必要とする物価から、賄われていま す。*2)参照

さらに90億ドルの支援金を集めている間に円安が進行し、アメリカ側から、90億ドル を(支払いの時点の)円建てで支払うようにという追加要請があり、のちに5億ドル が、追加支援金として日本政府から支払われています。こうして、総計135億ドルを日 本政府は湾岸戦争の為に支払いました。

   日本政府から多国籍軍への支援額は日本と湾岸協力会議(GCC)とで設立した『湾岸 平和基金』という財団を通じて湾岸地域の平和復興の名目で支払われました。が、実 際 は湾岸地域の復興資金として活用されたのではなく、アメリカ政府にそのほとんど が渡っていきます。*3)参照

また、日本政府は戦争資金を拠出しただけでなく、ペルシャ湾岸 に掃海艇を派遣し自衛隊を派兵する為に政令の改正まで行おうとしました。
掃海艇の派遣は、自衛隊法の改正という形を取らず、解釈の問題でこの時は派兵しま した。しかし、この時の経験が、その後のアフガンで活動する米軍へのインド洋での 海上補給支援の為、作られた特別立法「テロ対策特別措置法」や「有事立法」の論議 に、更には2003年の2月4日、川口外相の対イラク攻撃への「多国籍軍への自衛隊参加 を提言」という発言につながっていくのです。


ところで、アメリカ政府の報告書では日本からの戦費は100億ドルとなっています。 あとの35億ドルはどこへいったのでしょうか。*4)

*1)
湾岸戦争に90億ドル追加支援を決定 自衛隊機派遣で政令改正も/政府・自民
http://www.yomiuri.co.jp/yomidas/konojune/91/91n6a.htm

〈1〉多国籍軍に対する追加財政支援については、総額九十億ドル(約一兆千八百億円)を湾岸協力会議(G CC)を通じて拠出することとし、財源は、国民に負担を求める。

 追加財政支援の額は、すでに決定、あるいは実施中の多国籍軍、周辺国向け各二十億ドルを大きく上回るほ か、実質的には戦費分担であり、また、人道的見地からの支援とはいえ、自衛隊機を紛争地域に派遣するのは初 のケースとなり、二十五日再開の国会でも激しい論議を呼ぶものとみられる。
(読売新聞91/01/24 東京夕刊 一面 07段)

*2)
追加支援の90億ドル補正予算が成立 財源は増税と赤字国債
http://www.yomiuri.co.jp/yomidas/konojune/91/91n6c.htm

 同補正予算は、追加財政支援額から経費節減による財源ねん出分を差し引いた1兆1334億円の歳出 規模。関連財源法は90億ドルの財源確保のため、法人税、石油税を4月1日から一年間臨時的に増税するとと もに、そのつなぎ資金として9689億円の特例国債(赤字国債)を発行するという内容。
(読売新聞91/03/07 東京朝刊 一面 05段)

*3)
クルド難民支援等といって出した5億ドルは全額アメリカへ
[市民平和訴訟の会・東京]
http://archive.jca.apc.org/peace-st/syorui/uso.html

外務省の佐藤行雄北米局長は19日の参院決算委員会で、日本政府が1991年7月に閣議決定した湾岸平和 基金への約五億ドルの追加拠出について、全額(円建てで696億5千万円)が米国に支払われたことを明 らかにした。

90億ドルのゆくえ
米国1兆0790億円
英国390億円
サウジアラビア192.8億円
エジプト147.2億円
シリア76.3億円
フランス65億円
パキスタン30.7億円
セネガル7.1億円
バングラデシュ6.6億円
モロッコ6.5億円
クウェート6.3億円
ニジェール5.8億円
 この5億ドルは、湾岸戦争の際に日本が多国籍軍に支出した90億ドルが円安で目減りしたとして、米国が 「補てん」求めたのにこたえて支出したもの。当時、政府は、クルド難民支援やペルシャ湾環境汚染対策など 「戦争の新たな状況に対する活動資金」と位置づけ、あくまで「補てん」ではないと説明したが、今回、その説 明に一層、疑問がでてきたことは否めない。
 森暢子氏(社会)の質問に答えた。
 佐藤氏は90億ドルの最終的な支払いについても、同基金運営委からの聞取りの結果、ほぼ判明したと述べ た。
 その内訳は、次の通り。
(1993.4.20.「朝日新聞」から)

*4)
使ったお金より多く集めてふところへ
http://www2.big.or.jp/~yabuki/doc01-8/ka011015.htm

 日本、ドイツ、サウジアラビア、クウェートから集めたカネを合計すると、アメリカが実際に消費した金額を5割上回った。 当時、ドイツのゲンシャー外相はこれを発見し、まだ戦争も終わらぬうちにワシントンに乗り込み、ホワイトハウスと国務省 に対して数字の説明を求めて、追加支払いを拒否した経緯がある由だ。これはアメリカの主要紙すべてが伝えたが、 「日本の新聞は全く触れなかった」。逆に、「カネだけで血を流さない日本に、議会をはじめとしたアメリカの不満、 さらには怒りが増大する」といった報道ぶりであったことは、周知の通りだ。

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