ゼーブルガー湖 イサンク伯爵のはなし

 今日、ゼーブルガー湖には、かつてイサンク伯爵のお城がありました。イサンク伯は、宗教心もなく、無法な行いばかりしていたので、この地方では鼻つまみものでした。

 ある闇夜におこったことです。イサンク伯は、リンダウ修道院の財産をいただきにあがろうとしました。修道院にしのびこむと、祭壇の前に一人の若く美しい修道女がお祈りをしているところでした。イサンクは修道女の美しさにすっかり参ってしまい、自分のものにしたいと思いました。彼女を捕まえ、外に連れ出し、馬に乗せ、自分の城にさらって行ってしまいました。憐れな修道女は叫び声をあげましたが、他のシスターたちは厚い修道院の壁の中側でもうぐっすり眠ってしまっていたので、誰にもその悲しい声は届きませんでした。そして、その晩のうちにイサンクは嫌がる修道女を無理矢理自分のものにしました。

 翌日、悲劇が起こりました。なんと、その若い修道女は、イサンクの妹だとわかったのです。イサンクは子供の頃にしか妹と暮らしていませんでした。長い間、全く顔を見ることもなく生活していたので、妹だと気づかなかったのです。

 さすがに、その罪深き自分の行いに、イサンク心は痛みました。とても反省し、まず、妹を修道院に帰してやり、その修道院の祭壇を新しくしました。さらに、修道院では自分の罪をあがなうために多くのミサを主催しました。しかし、人はそんなに簡単に変われるものではありません。しばらくすると、イサンクはまた昔のような生活に戻ってしまいました。

 そんなある夜の酒宴の後のことです。イサンクは眠くなり、ベットで横になっていました。すると、お城の料理人が入ってきて、白銀の長い生き物を見せました。珍しいものが手に入ったのですが、どうしたらよいでしょうか、と料理人は、イサンクに尋ねました。イサンクは生き物がヘビなのかウナギなのかわからなかったのですが、明日の昼に料理するよう命じました。その際、料理人には、絶対に生き物を試食してはいけないとも命じました。

 朝になり、昼が来て、例の長い生き物の料理をイサンクは食べていました。食事がすもうとした時、イサンクは以前犯した罪のことを急に思い出しました。自分の重い罪を思うと、胸が痛みました。居たたまれなくなり、城の庭に出て、あえいでいました。すると、ちょうどそこに、修道院から使者が来ました。使者によると1時間前にイサンクの妹は亡くなったとのことでした。妹は死ぬ間際にこう言ったそうです。
「兄が犯した罪をとうとうあがなうことはできませんでした。私の最期の望みは、兄の魂を救うことです」

 イサンクは極めて深くショックをうけ、城へ帰って行きました。その時です。イサンクのまわりで奇妙な声が聞こえてきました。あたかもまわりの全ての植物、動物の声が人の言葉のように聞こえてくるようでした。イサンクは、あの奇妙な長い生き物を食べたので、こんな不思議な力を得たのです。動物の言葉がわかるようになったのです!

 どこからか声が聞こえてきました。どうやら、ニワトリが話しかけているようです。
「城に裏切り者がいるぞ。イサンク伯爵!」

 さらに、メンドリが叫ぶには、
「急げ、急げ、イサンク伯爵!日が沈む前に、お前の城の何もかもが崩れ落ちるぞ!そして、みんな地の底に沈んでしまう。だから、急げ、急げ!」

 そう言われ、イサンクの頭は混乱し、何をしていいやらわからず、城の中庭の石の上に座り、ほおづえをつき、ボーッとしていました。

 すると、またニワトリが来て、言いました。
「さあ、逃げなさい、急いで!ひとりで逃げるのです」
「今まで長いこと忠実に使えてくれた城の人々を見捨てて、ひとりでいけやしない!」
イサンクは答えました。

 しかし、ニワトリは狂ったように羽をバタバタさせ、イサンクを急き立てました。
「急げ、急げ!でもひとりで行け!」

 イサンクは急いで、一番よい馬の準備をし、ニワトリのいうまま、城から出ることにしました。すると、料理人が来て、馬をとめ、一緒に連れて行ってくれと懇願するではありませんか。

 イサンクはおかしなことだと思いました。料理人がどうして、トリの言葉がわかったのでしょう。イサンクは料理人に聞きました。
「ニワトリは今しがた、なんて言ってたんだ?」

 料理人は、イサンクが禁止したにもかかわらず、長い生き物を試食したのでした。それで、動物の言葉がわかったのです。料理人は、不安と混乱した状況で、吃りながら言いました。
「もし、命が惜しくば、ここからすぐに立ち去れ!ただし、ひとりで行け、とトリが言っていました」

 「この悪い奴め!」
伯爵は料理人をどなりました。
「お前はわしの命令に違反したな。死をもってあがなってもらおう」

 同時にトリは言いました。
「急げ、急げ!太陽が沈んでしまう」

 最早一刻の猶予もありません。もう邪魔されたくはなかったので、伯爵は料理人を刀で刺し、城を出ました。お城の跳ね橋を越えてからは、驚くべき速さで馬をひたすら前に走らせました。どれくらい走ったでしょうか。ギーボルデハウゼンのそばの丘で、イサンクは死ぬほど疲れて、倒れました。

 そこで伯爵は振り返り、遠くに建つ城を見て、全ては悪い夢に過ぎなかったのだろうかと思いましたが、突然、轟音とともに城が崩れる音を聞きました。地面が沈み、そこに大きな湖ができました。そこが今のゼーブルガー湖と言われています。

 このおそろしい経験の後、イサンクは、今までの罪深き生活を改め、贖罪の道に入りました。深い谷間を下り、ギーボルデンハウゼンの修道院で修道士として暮らし、イサンクは城が沈んだ後に残った財産全てをこの修道院に寄付しました。
 

Hosted by www.Geocities.ws

1